山田祥平のRe:config.sys
バッテリ内蔵の便利と不便
2020年1月18日 11:00
電子デバイスには電力が不可欠だ。多くの場合はバッテリで電力を供給する。バッテリは消耗品で、たいていデバイス本体よりも先に寿命を迎える。そして、まだまだ使えそうなデバイスが本体ごと捨てられる。本当にこのままでいいのだろうか。
消耗品内蔵の罪
ここのところ、立て続けに身の回りのデバイスのバッテリが腹を膨らませてしまい気分がへこんでいる。直近ではスマートフォンが2台だ。
せまい居宅ではあるが、各部屋にスマートフォンが置いてあって、どこでも手に取って使えるようにしてある。外に持ち出して使うわけではないので、つねに電源を供給している。ずっと充電しっぱなしというのはバッテリに優しくない使い方だとはわかっているが、そこは充電される側でうまく制御していると信じていた。
でも、デバイス内部のバッテリが膨張し、筐体カバーを押し開くのだ。こうなってしまったデバイスはちょっと怖くて継続利用はできない。メーカーに問い合わせても、保証期間を過ぎている場合は有償修理になってしまう。
スマートフォンだけではない。ノートPCも同様だ。スマートフォンよりは少ないが、過去に2度バッテリ膨張を経験している。PCも電源アダプタを装着したままで待機させてあるし、それなりに頻繁に持ち出すPCはOSの稼働状態で液晶を閉じてスタンバイしている。
こうしておかないと、いざ、持ち出そうとしたとき、起動直後にアップデートがはじまるなどで、めんどうくさくて仕方がないからだ。そんな使い方をするほうが悪いと言われそうだが、現役で使っているデバイス10台程度はとにかくそんな環境だ。
一般家庭で使われているPCなどもそうじゃないだろうか。リビングなどに置きっぱなしでも電源アダプタはつなぎっぱなしで、5年近く充電を継続しながらずっと使っているPCはめずらしくないだろう。
おそらくバッテリ膨張などの不具合はなかったとしても、よほどのことがないかぎり寿命を迎えている。購入直後は数時間はバッテリ駆動できたはずなのに、5年ともなると数十分、場合によっては数分でシャットダウンしてしまうかもしれない。もちろん、バッテリ残量表示補正ユーティリティなどで正常に戻る可能性もあるが、経年劣化は避けられない。
バッテリを新しいものに交換すればいいのはわかっている。だが、消耗品であるにもかかわらず、バッテリはデバイス内に封じ込められ、エンドユーザーが自分で交換できない。腕に覚えがあるユーザーばかりではないので、パーツとしてのバッテリを調達し、自分で筐体を開腹して交換するというのは誰でもできることではない。
それにバッテリはそれなりに高価なパーツだ。また、その交換の技術料も安くはない。だから寿命を迎えていることがわかっていても、膨張するなどで危険を感じないかぎりは、そのまま使い続けているんじゃないだろうか。
つい先日、Windows 7がサポート終了を迎えたが、2009年の発売以来10年、2012年にはWindows 8が登場しているので、一般ユーザーが量販店頭などで購入したWindows 7 PCがいま現役で使われているとしたら、ほぼ10年選手だ。ノートPCだとすれば当然バッテリはどうしようもない状態になっている可能性が高い。
バッテリなし運用の可能性
普通、電化製品はコンセントからプラグを抜いて電力の供給をやめると使えなくなる。それで終わりだということを誰もが理解して電化製品を使っている。冷蔵庫だってエアコンだって掃除機だって洗濯機だってそうだ。
PCも普及の初期は、シャットダウン処理を行なわずに、いきなりプラグを抜いて電源を絶つことで不調になったり、未保存のデータを失う事故がかなりあったようだ。いまは、各デバイスにバッテリが内蔵されていることが多く、電源アダプタによる電源供給がいきなり絶たれても問題になることは少ない。
仮にバッテリがへたっていて数分しか持たないとしても、最後の力を振り絞ってシャットダウン処理が行なわれて事なきを得るはずだ。だからいちがいにバッテリ内蔵を否定するつもりはない。かなりの悲劇を未然に防げているだろう。それに電源を確保できないシーンで使うモバイル機器にバッテリは欠かせない。モビリティはバッテリビリティだと言ってもいい。
ただ、個人的にはそろそろバッテリを内蔵しないノートPCが出てきてもいいんじゃないかと思っている。
電源をどうやって供給するのか。いまならType-CでUSB Power Delivery(PD)による電源供給が現実的だ。PD対応ACアダプタは汎用品が増えてきているので、自分の使っているPCが求める電力仕様にあったものを選んで使うことができる。「このデバイスのアダプタはどれだっけ?」と悩むこともない。ケーブルの長さもよりどりみどりだ。窒化ガリウム(GaN)などの半導体を使ったコンパクトな製品も多く見かけるようになり、エンドユーザーが好みのものを選べる
あるいは、その電源を、それこそデバイス本体内に内蔵してしまっていてもいい。本体にはシンプルなメガネプラグを装備し、自分で使いやすい長さのメガネACケーブルを調達して使えばいい。コスト的にはこちらの方法のほうが有利かもしれない。ディスプレイの背中に装着できるNUCがPD給電できるなんていうのもシンプルでいい。
最近のOSは強い。ほめられたことではないが、いきなり予期せぬ電源断があっても、なんとかつじつまをあわせてくれ、次回の起動で支障が起こることはほぼない。ハイブリッドスリープなんて機能もある。
データについても自動保存やクラウド保存の仕組みで、悲惨なことになるケースはまれになった。それにユーザー自身もPCの世界に慣れ親しみ、きちんとシャットダウンするようになってきている。
バッテリを内蔵しないデバイスなら、その分重量的にも有利になる。家から持ち出されることがないデバイスでも、気軽に部屋から部屋を移動したり、本体を持ち上げて画面を家族に見せたりするときには軽さが正義だったりするわけだ。
いまは5,000円も出せば大容量のモバイルバッテリが手に入る。50Wh(15,000mAh)くらいの容量でPD 45W出力など、多くのモバイルPCが内蔵しているバッテリと似たような容量だ。この内蔵がなくなればその分本体重量は軽くなる。どうしてもバッテリ駆動が必要な場合はこうしたモバイルバッテリを使えばいい。バッテリでバッテリを充電して使うというようなややこしくて無駄なことがない分駆動時間も伸びるはずだ。
将来を夢みながらもいまできること
取り外しができるバッテリユニットは、デバイス本体の薄軽化が進むにつれて主流ではなくなってしまった。スマートフォンではまず見かけないし、PCではかろうじてレッツノートシリーズが最後の砦だと言える。レッツノートはバッテリを簡単に交換できるがゆえに(高価すぎるが……)、本体の陳腐化は最小限に抑えられるためリセールバリューも高いという副次効果もある。
今後、テクノロジの進化に伴い、デバイスそのものの陳腐化と少なくとも同じくらいには実用的に使い続けられるバッテリが登場する可能性はある。だが、それまでは、PCやスマートフォンのみならず、マウスや完全ワイヤレスイヤフォンなどお気に入りのデバイスを、バッテリの劣化によって、まだまだ使い続けたいのに処分せざるを得ないようなことを受け入れなければならない。どうしようもないことはわかっているが、どうにもやるせない。