山田祥平のRe:config.sys

似て非なるアナログとデジタル

 世のなかの多くの情報がデジタル化したが、今なお多くのアナログが残っている。アナログルネッサンスといったトレンドもある。コンピュータはデジタルデータしか扱えず、コンピュータで扱うためのアナログデータのデジタル化はその劣化コピーに過ぎない。だからこそ、アナログでしかできないことを意識しておくことも必要だ。

捨てられない長期保存のフィルム

 暮れの大掃除で多くのモノを断捨離した。そんななかで、ずっと冷蔵庫の一画を占有していた写真フィルムを処分しようと取り出した。一般的な35mmフィルム(135)、中判(120)のカラーネガフィルム、カラーリバーサルフィルム、モノクロフィルムが全部で36本あった。

 コダクロームなんていうレアなフィルムも2本出てきた。ほとんどすべてが15年前の2005年あたりに有効期限を迎えている。ただ、冷凍、冷蔵保管したフィルムは何十年たってもほぼ問題はないと、当時、富士フイルムに問い合わせたときに聞いていたので、そのまま保管してきた。

 もうフィルムでカラー写真を撮ることはないだろうと思い、とりあえず、カラーネガとカラーリバーサルは処分してしまうことにした。そして残った10本の35mmと11本の中判モノクロフィルム、そしてコダクロームをどうしようかと考えあぐねているうちに年が明けてしまった。

 ただ、コダクローム以外、残っているフィルムは現状で入手に困らない。コダックの400TXや100TMAX、富士フイルムのACROSといったポピュラーなものばかりだ。しかも、ACROSSは、昨年(2019年)、富士フィルムが新製品! を開発して発売している(アクロスIIへのリンク)。

 だから、せっかく保存してきたフィルムだが、全部処分しても、気が向いて撮りたくなったらまた買えばいい。しかし、パッケージについている240円とか360円といった値札を見ると捨てるのが惜しくなる。今、購入すると、3~4倍の値段がするからだ。

 コダクロームは生産再開の噂もあるが、少なくとも現時点で入手不可能だし、現像処理についても10年前に終了してしまっている。
 こうした諸事情を考えると、せっかく何十年も保管してきたフィルムだが、全部処分してしまっても困らないことは困らないのだ。でも捨てきれない。われながらケチだと思う。

モノクロネガが好きな理由

 モノクロネガに愛着があるのは、その撮影と現像のプロセスにオカルト的な面があるからだ。

 自然界に置かれた被写体があるとして、光がその被写体に当たって反射し、レンズを通してフィルム面が感光、フィルムに塗られた乳剤中に含まれるハロゲン化銀が銀になって潜像を形成する。その露光済みフィルムを現像液で処理すると、潜像を構成している銀の粒子が黒化する。現像液はアルカリ性なので、酸性の停止液で現像を停止させると、ネガができあがる。

 つまり、そこに大事な人がいるとして、その人に向けてシャッターを切れば、その人に当たった光のエネルギーが反射してフィルムを露光する。目の前に見えているその人の存在そのものがフィルム面に封じ込められるようなイメージがある。オカルト的というのはそういう意味でのことだ。

 デジタルカメラでの撮影も似たようなものかもしれないが、イメージセンサーが光の有無と階調、色を瞬時にスキャンしてデータ化するというのはコピー的な印象がある。なんだか存在感が劣化してしまうような気がするのだ。

 手元にある数十年前に撮影したカラーリバーサルフィルム、カラーネガフィルムをチェックすると、その多くは退色が進んでいる。現像直後に感じた鮮やかさはもうない。だが、モノクロフィルムは違う。まるで昨日撮った写真のように鮮明だ。

 ネガは白黒が反転しているので、通常の鑑賞には向いていない。それをプリントして楽しむのだが、フィルムをスキャンしてプリントするのではオカルト感は台無しだ。ここは1つ印画紙に露光して現像するという撮影時と同じプロセスで仕上げたい。

 このあたりはできあがった写真をディスプレイで楽しむのとはまったく違った楽しみだ。とはいえ、フィルム代、その現像代、まともなプリント代まで入れればものすごいコストがかかる。アナログルネッサンスを楽しむのはなかなかたいへんだ。

 ただ、モノクロ現像は自家処理が比較的容易だ。その気になれば低コストで楽しめる。ところが、現像に使った薬品の廃液処理がめんどうで手間がかかる。なかなかそちらに踏み切れない。そこまでやるなら暗室レンタルサービスを使ったほうが、完全なアナログを楽しむにはいいかもしれない。

ちょっとだけデジタル

 そんなことをつらつらと考えているときに、「NEGAVIEW PRO」というアプリの存在を知った。2019年の暮れに出たiOS版に続き、年が明けてAndroid版がリリースされたのでさっそく入手して使ってみた。

 このアプリを使えば、スマートフォンのカメラが捉えたネガ画像をポジ画像に反転することができる。つまり、現像済みのネガフィルムをこのアプリを通して見れば、普通に楽しめるのだ。ネガはカラーでもモノクロでもいい。

 リバーサルフィルムで写真を撮っていた当時は、現像から上がってきた写真をライトボックスにのせて、ルーペを使ってのぞき込み、仕上がりを楽しんでいた。NEGAVIEW PROでの写真の楽しみ方はそれと似ている。

 そう思って、昔使っていたライトボックスを発掘して灯してみたのだが、蛍光管が変色しているわ、暗くなっているわでどうしようもない。それでもモノクロネガを鑑賞するならがまんできないほどではない。ライトボックスがなければ、スマートフォンやタブレット、PCの液晶ディスプレイで白を全画面表示すればいい。「ライトボックス」というそのものズバリのアプリもあるので、それを使えば簡単だ。

アナログルネッサンスを満喫するにはカネがかかる

 アナログルネッサンスは、デジタルをわざわざ劣化コピーしてアナログ化して楽しむスタイルだ。たとえばデジタルミュージックを、カセットテープやアナログレコードにして再生することで、それまでとは違った音色を創り上げる。

 それはそれで楽しいし、新鮮かもしれないけれど、どこか間抜けな印象をまぬがれない。それでもデジタルネイティブな若い世代が、そんな楽しみを見つけていることに、ちょっとしたうれしさを覚える。コストもバカにならないだろうに……。

 というわけで、これまた昔のフィルム一眼レフカメラを掘り起こしてきた。何台か残っているが、一部は加水現象でグリップがベタベタしたりしている。フィルムカメラはレンズとフィルムで画質が決まる。カメラそのものの優劣は関係ないし、古いカメラでもまったく問題はない。春になったら何十年かぶりにフィルムを詰めて写真でも撮りにでかけることにしよう。サクラはモノクロで撮っても美しいことはわかっている。