山田祥平のRe:config.sys
見えるものがそのまま撮れる
~ニコンの新ミラーレスZ
2018年8月24日 06:00
日本のカメラメーカーは、1950年代、ライカがM3で究めたレンジファインダーの頂点を追いかけることをあきらめた。そして一眼レフの可能性を信じて突き進み、カメラと言えば一眼レフという世界を手に入れた。あれから半世紀以上が経過した今、いったい何が起ころうとしているのか。
新マウントで拓く境地
ニコンが新製品グローバル発表会を開催、フルサイズミラーレスカメラ2機種と、そのための交換レンズ3本を発表した。その名も「Z」。「Z7」と「Z6」が新しいカメラの名前で、レンズは「S Line」として新しくブランディング、そして、マウントは「Zマウント」と銘々された。
ニコンは1917年の創業以来、光の可能性を追いかけ続けてきた。そして、1948年にニコンI型が、ニコンの名前を初めてつけた記念すべきモデルとして発売され、一眼レフカメラとしては、1959年のニコンFを最初の一眼レフとしてリリース、80万台を超える台数を売り、そのブランドを揺るぎないものにした。また、デジタル化は1999年のD1が最初だ。そして、ニコンは今日、新たな歴史を作る。
ここまでの間、ニコンは、カメラと交換レンズをつなぐ「マウント」の互換性を頑なに守り続けてきた。電気的にはともかく、物理的には確実に装着できる。最新の交換レンズをそれこそFに装着しても、AFや絞り連動は使えないが、ボディで露出を設定して自分でピントをあわせてレリーズすれば写真は撮れる。
ところがニコンは、今回の新製品で、新しいZマウントをデビューさせた。マーケティング的には従来のFマウントと今回のZマウントをクルマの両輪のようにして併存させていくといってはいるが、その本音としては、今後、登場するであろう技術の結晶としてのニッコールレンズをさらなる高みに押し上げるには、新マウントが必要という判断をしたのだろう。開発リソースも限られているのだから、両方に惜しみなく技術を注ぐというのは難しいに違いない。
そんなわけで、ニコンがいうところの次の100年に向けて新マウント搭載の新ミラーレスカメラZが登場した。が、これはカメラというよりマウントの発表会だといった方がいい。カメラメーカーがマウントを変えるというのはそういうことだ。
新しさと古さ
Zシリーズはそれなりに野心的なカメラだ。つまらない話かもしれないが、ボディにはUSB Type-C端子が装備され、USB 3.1(Gen1)でデータ転送ができ、USB給電でのバッテリ充電もできるという。ただ、片側Type-A、片側Type-Cのケーブルでも充電ができるということは、おそらくPDではなく、Type-C Currentによる充電なのだろう。カメラの電源がオンのときには充電できないが、オフのときにはモバイルバッテリでも充電ができる可能性が高い。また、Wi-Fiはついに5GHz対応を果たしている。保守を感じるニコンにしては野心的だ。
Zシリーズは、新たな価値を提供するとニコンはいう。大口径のZマウントにより、光学性能の驚異的な向上を果たしたレンズが実現でき、周辺までの圧倒的な解像力とF値0.95などの明るいレンズを提供、FTZマウントアダプタによる互換性も確保、これまで積み上げたきたFマウントの資産を活かせる。
もちろん、未来の映像表現の進化への対応もしっかり想定されている。2Kから4K、8Kへと動画表現が変化していくなかで、これからの映像はよりリアルで実在感をともなったものになることを考慮し、その将来の変化を見据えて、ボディとレンズ間の高速大容量通信に対応しているともいう。これまた帯域幅は非公開で、その広帯域を使い、レンズとボディの間でどのような情報をやりとりするのかは想像するしかないのだが、とにかく将来のために、今は無駄に感じられても数車線の情報ハイウェイを作っておくというのは大事なことだ。
そんなわけで、今回のニコンの新ミラーレスカメラZ。これはカメラの発表と言うよりもZマウントシステムという新時代の高速大容量通信システムの発表なのだといえる。
7という型番
Z7、Z6というネーミングも象徴的だ。違いは画素数と常用最大ISO感度で、Z7は4575万画素ISO25600。Z6は2450万画素ISO51200となっている。Z6はまだ開発中で、発表会後のタッチ&トライで手に取って試撮でき、画像ファイルを持ち帰れたのはZ7だけだった。メディアはXQDだ。
ニコンは2004年に発売したF6を最後に銀塩をやめ、それ以降、フラグシップ機のフィルムカメラは発売されていない。一方、デジタルフラグシップはD5が現行だが、次に出るD6が最後になりそうだと想像することもできる。だからこそ、Z7が象徴的なのだ。
ニコンはこれからの戦略として、とくにD850の売れ方が好調なことから、将来の新しいデジタルシステムを両輪でやっていくとしている。だが、今回のZシリーズで、ミラーレスカメラの市場シェアナンバーワンをめざすという。
ミラーレスというと気になるのが電子ビューファインダー(EVF)だが、369万画素のOLEDで、ファインダー倍率は0.8倍だ。この値はD850の約0.75倍、D5の0.72倍、F6の0.74倍より大きい。もちろん視野率は約100%だ。
同時発表のレンズは3本だが、同時にマウントアダプタFTZが発売される。これがすごい。Ai改造レンズ、Ai Nikkor以降のすべてのレンズに対応し、VR非搭載のレンズをつけたときにはZのカメラ内蔵VRが使われ、VR搭載のレンズなら相互に補い3軸のVRとなる。古いニコンのレンズをAFで使えるということだ。
ただし、Zマウントが手ブレ補正をすべてボディ側に頼るのかといえばそうではなく、望遠レンズなどではレンズ側の補正とボディ側の補正が互いに連携するという。そういうときのための広帯域接続ということらしい。ただ、望遠レンズを除き、とりあえず、ZマウントレンズにVR対応という考え方はない模様で、ニコンは今後、FとZの両方に取り組み続けるというけれど、もう、Fマウントの新たなVR対応単焦点レンズなどは出ないと考えた方がよいのかなとも思う。
ニコンのミラーレスはこれが初めてではない。ただ、今までのニコンミラーレスは1インチセンサーで、今後の新製品の開発もないという。つまり、ミラーレスはZマウントのフルサイズセンサーに集中したいということで、さらに当面は、フルサイズより大きなセンサーへの対応は考えていないようだ。
もちろん、ニコンは高付加価値に集中するだけではなく、それだけではだめだと考えているそうだ。もう少し手の届きやすい製品として、たとえば、Z2桁や3桁の製品なども考えているらしい。
光学ファインダーをきちんと自分の目で見たいユーザーは確実にいる。ニコンはそう考える。少なくとも、ぼく自身はそう思って一眼レフにこだわってきた。ZシリーズのEVFは、ちょっと色温度が高いように感じるが、それはカメラが感じた色がそのまま表示されているだけだ。そしてそのまま映る。光学ファインダーでいい感じに見えていても、それは目の錯覚にすぎない可能性もあるし、カメラが勘違いしている可能性もある。少なくともEVFではカメラの勘違いをあらかじめ知ることができる。
スマホから写真に入ってくるユーザーはミラーレスに抵抗がない。ファインダーは必ずしも光学式である必要がないと考えている。だから、ミラーレスカメラはどちらかというと若い層の客にメリットを訴求しやすいとニコンは考えているようだ。
素人的はFマウントのミラーレスにしなかった理由もきいてみたのだが、結果として新マウントが最善だったとお茶を濁された。ちなみにレンズ交換式カメラの市場は2013年がピークで、2017年は50%まで縮小しているという。つまり市場は縮小している。ところが、国内フルサイズセンサー搭載カメラの市場は再活性化し、2016年には落ち込んでいたが2017年に増えているという。
写真にはまると4人に3人がフルサイズを使用するようになり、うち4割が2年以内にフルサイズへ移行しているという調査結果もあるようだ。
正解は1つだけではない。クルマの両輪のように2つの正解を追求するというニコン。高校野球やオリンピック競技の静止画がミラーレスカメラで撮影されるようになるまでには、解決すべき課題はたくさんあるが、それも時間の問題なのだろう。それが半世紀以上が過ぎたということの証だ。