山田祥平のRe:config.sys
マウスにまさるマウス
2019年9月27日 06:00
ロジクールのハイエンドマウス MX Masterが刷新され、MX Master 3として発売された。2015年にMX Master、2017年にMX Master 2が登場、そして、今回は3代目の登場となる。とにもかくにも、PCと真正面から取り組むためには必須と言っていいデバイスだけにマウス選びは難しい。
ハイエンドマウスのアイデンティティ
マウスほど好みの分かれるデバイスはない。人それぞれで手の大きさも違えば、それぞれの手のひらでどのようにつかむかも嗜好があるからだ。また、ゲームにはゲーマーが好むマウスのトレンドがある。いずれにしても使う時間は長い。PCの使い方にもよるが、対話のためのデバイスとしてキーボードとマウスを比べたとき、キーボードを叩いている時間とマウスをつかんでいる時間、どちらが長いかというと、もしかしたらマウス操作の時間のほうが長いかもしれない。
値段が100均で買えるような安いものから高いものまでマウスは多様だが、ハイエンドマウスはその造りがまったく違っていて随所に贅沢感がある。
そんなハイエンドマウスの頂点に君臨していると言っていいのが、ロジクールのMX Masterシリーズだ。SmartShift機構で、ホイールのクリック有無が自動で切り替わるロジクールのハイエンドマウスは、2006年のMX Revolution以降、ずっと愛用しているが、代を重ねても、期待を裏切らない品位を保っている。
もちろん、今回のMaster 3も例外ではない。パッケージから出して、そっと手のひらをかぶせたときの違和感がまったくないのは本当にすごいことだ。まるで、ずっと以前から同じものを使っているかのような錯覚に陥る。まるで自分の手のひらのために再設計してくれたかのような印象。随所は少しずつ変わってきてはいるのだが、その変わったことを暗黙のうちに納得させてしまう説得力があるのだ。
MX Master 3になってのデザイン的なもっとも大きな変更点は、左側面の戻る進むボタンが重箱のような上下の積み重ねから、前後の直列並びになったことだ。この点は13年前のMX Revolutionへの先祖返りだと言える。個人的には、この上下積み重ねのボタンレイアウトにはどうしても馴染めず、MX Masterを使いはじめて以降、代が変わっても、ずっと両方のボタンに「戻る」を割り当ててきた。
おそらくそういうユーザーの声が少なくなかったのだろう。MX Master 3ではユーザーの声を反映したとして直線上に配置し直された。直線上の配置は、伝統に近いものだったが、それをMX Masterは打ち破った。だが、4年間の歳月を経てもとに戻したということだ。本当に些細なことのように思えるかもしれないが、これは、ロジクールにとってきわめて難しい判断だっただろう。この4年間に上下配置に慣れ親しんだユーザーも少なからずいるだろうからだ。
使い勝手に関するほかの大きな変更点は、もう1つのホイールとも言えるサムホイールだ。これが以前よりずいぶん大きくなり操作しやすくなっている。マウスはホイールによってスクロールのような連続的な変化をする対象を扱えるようになったが、近年はスマートフォン画面でのピンチアウト/インのようなデジタルでありながら、アナログ的な結果を生む操作が重視されているということか。
デフォルトでは水平スクロールに割り当てられているが、主要アプリ用のプロファイルが用意され、アプリごとに機能を切り替えることができる。たとえばChromeやEdgeならタブの切り替え、Wordであれば表示倍率の変更といった具合だ。これまではキーボードとスクロールホイールの併用でやってきたようなことがマウスだけでできるようにする。ただ、これらの操作に慣れてしまうと、ほかのマウスを使えなくなるので困ることになりそうだ。
細部にわたる見直しが奏功
先代のMX Master2Sと今回のMX Masterでは、マウス全体のフォルムがそう大きく変わったわけではない。だが、手のひらをかぶせてみると、手のひらにあたる部分の膨らみがわずかだが低くなり、左右両ボタンの幅も小さくなった結果、本体の横幅もコンパクトになった。
手で覆ったときに、MX Master 2sでは感じた「大きなマウス」という感覚が排除されているのだ。見かけの上ではそんなに変わらないように見えて、フォルムについての再考が厳密に行なわれたことが感じられる。重量も、初代から順次、数gずつ軽くなってきた。個人的には充電用の端子がType-Cになったこともうれしい。
また、本体を裏返すと、底面にはマウスパッドの上での滑りを確保するためのラバーが貼りつけられているのだが、面積が小さくなっている。材質の変化があったのかどうかはわからないが、滑りの点で不満を感じることはない。とにもかくにも、細部にわたって外観の再検討が行なわれ、同社のハイエンドマウスを再発明したという印象が強く伝わってくる。
目新しい機能追加は新製品として必要だが、こうした地味で気がつきにくい部分での改良は、長期にわたってハイエンドマウスを使い続けるユーザーの信頼感を確実に高いものにしてくれる。そして変わってはいるのに変わっていないという錯覚、ずっと前からこうだったという安心感をかもしだしてくれるのだ。これは定番的なハイエンド製品にはとても重要な要素だと考えていい。大きく変わりすぎてもいけないし、変わらないことでは製品の進化はなく、立ち止まってしまうから難しい。
マウス1つでPCの使い勝手が変わる
そんなわけで、ちっとも変わっていないように見えて、大きな刷新が企てられているMX Master 3。磁気制御によるホイール機構の刷新により、クリック感ありでホイールを回転させたときのガラガラという音もなく静音化をはたしている。左右ボタンの押下げ時の音は、「コチッ」だったものが「カチッ」へと、わずかに甲高くなっているのは、本体内の剛性の変化によるものだろう。これはMX Master 3が意識的なダイエットをはたした結果と考えたい。
マウスなんてなんでも同じと考えているとしたら、その考えは改めたほうがいい。もちろん、消耗品としてのマウスに1万円を超える投資をすることには抵抗があるかもしれない。だが、一度使ってみれば、それだけの価値を実感として感じるはずだ。それに、ハイエンドマウスの仕上げは極上で、相当ヘビーに使ったとしても、数年使ったくらいではへこたれない。数千円のマウスを毎年買い替えるより、むしろランニングコストは安くなるかもしれない。
これからは働き方改革が進む。在宅で会社のPCを使う機会も増えそうだ。あるいは、副業でPCを使うケースもあるかもしれない。ゲーミング用のハイエンドマウスやモバイルマウスは魅力的な製品がいろいろと見つかるが、ビジネスの現場で使ってみたいと思えるマウスでめぼしいものを見つけるのはなかなか難しい。
そんなタイミングで出てきたMX Master 3、ぜひ、一度、試してみてほしい。こうして、どんなにいいと美辞麗句を並べても、説得力はない。とにかく量販店頭などで手のひらをかぶせて握り心地を確認してほしい。