山田祥平のRe:config.sys

ちょっと待った、スマホはまだ終わっちゃいない

 すでに踊り場状態にあるとされるスマートフォン。長方形の四角い板に込められた想いは、秒進分歩どころか、またたくまに進化を遂げ、もうやることはなにもないかのように見える。でも、本当のところはどうか。どうやらそうでもなさそうだ。

そうだよ、これが欲しかった

 ファーウェイがドイツ・ミュンヘンでMate 30/Mate 30 Proの発表イベントを開催した。Rethink PossibilitiesをテーマにCBG CEOのリチャード・ユー氏が登壇し、新プロセッサKirin 990搭載の同社フラグシップスマートフォンをお披露目するイベントだ。

 同プロセッサと同機については前週のIFAでの基調講演でチラ見せがあった。その時点では5GとAIに大きくフォーカスされ、5Gの高速大容量通信によって、オンデバイスAIとクラウドAIによるハイブリッドな世界が、AIの世界観を大きな変革を与えるようなメッセージを発信していた。

 だが、今週のファーウェイは、これからのスマートフォンにできるであろうことを、ジグソーパズルのようにハードウェアを丁寧に展開し、余っているピースを1つ1つ当てはめて観客の期待を煽る。

 ファーウェイは、Push the Boundary Possibilityという言い方をしていたが、限界に近づいたスマートフォンの世界観、可能性を、さらなる高みに持ち上げるために、まだまだやることはあるし、そうでなければならないということを強く訴求する。そして、ミュンヘンのメッセに集まった2,000人ほどの観客は、そのたびに、そうだったんだ、こうなっていればいいと思っていたのだと手を打つ。その繰り返しでショーが続く。

平たい板にこめた想い

 ただの平たい板に、どれだけの想いを込められるか。ユー氏はそこから話をはじめた。握りやすいコンフォータブルデザインフォルムは、Horizon Displayによって没入感をたっぷりと演出する。じつに、エッジディスプレイは88度までと限界に近づいている。ノッチの長さも26.6mmと短い。

 おもしろいのはサイドタッチインタラクションだ。サイド部分のタッチでボリュームの上げ下げをするなど、両脇のエッジ部分を使って機能をコントロールすることができるという。たとえば、好きな位置をタップしてカメラのシャッターを切るといったこともできる。どうにもスマートフォンは写真が撮りにくいと思っている旧人類にとってもうれしい機能だ。

 Kirin 990によって5GモデムをSoCに統合した。消費電力の抑制にも貢献する。アンテナデザインも圧巻で、各種無線のために21のアンテナを実装、そのうち14本が5G用だという。それによって、8つの5Gバンドに対応する。世界中どこでも5Gを堪能できるという点では頼もしい。

 思えばスマートフォンは、これまでに、われわれ市井に生きる人々に対して、いったいいくつの新しいまなざしを与えてくれただろうか。今世紀のすばらしい発明だ。

 電話の原点である遠くにいる人と話をするという体験を持ち歩けるようにしたのが携帯電話だが、さらにそれに加えて、目の前の光景を切り取るのみならず、より遠くの光景を引き寄せたり、真っ暗闇のなかの光を引きずり出すことができるようになった。あるいは人間を超えるほどの広い視野で光景をとらえられるようになった。カメラの怠惰がスマートフォンの進化を誘ったとも言える。

 今のスマートフォンはカメラにばかり注力しているが、そのこと自体を否定するつもりはないが、同じ位置で高みに上がる、らせん階段のようにカメラ機能を突き詰める方向性しか見出せなかった、あるいは見い出そうとしていないようにも見える。その結果、ついにはカメラ専用機の役割をスマートフォンが奪い取ってしまった。

 でも、ぼくらがほしいのは「スマート」にふさわしいなにかであり、もちろんカメラもその1つではあるが、よくわからないけれども、別のなにかだったのだということをユー氏は思い出させようとする。

最後のピースはなんだ

 身振り手振りによるスマートジェスチャーや顔の方向で表示の向きを変えるAIオートローテートなど、顔認識と昔ながらの自動回転表示機能の組み合わせも新しい提案だ。

 また、通知がメッセージの内容とともに表示されているときに、後ろから他人がのぞき込むと、新規1件と再表示するAIプライベートビューも、技術的には難しいことでもなんでもないが、わかりやすいし、そうだよ、これだよと納得もできる。

 Mate 30/Mate 30 Proの完成度は高い。だが、それでもなお伸び代が感じられるという点ではすごみさえ感じる。

 懸念があるとすれば、やはり、Googleの各種サービスの問題だ。イベント終了後に実機をさわって体験できるタッチ&トライのコーナーに置かれていた端末は、OSバージョンこそ、Android 10だったが、Googleの各種アプリはインストールされていなかった。いわゆるGoogleモバイルサービスが不在だったのだ。

 発表会の最後でユー氏は、エコシステムとして規模感の高まりつつあるHUAWEIモバイルサービス(HMS)を紹介、アプリ開発者などに1B USドル(約1,000億円相当)の用意があることを表明した。言ってみれば、AmazonがKindleストアでアプリを売るようなかたちでポピュラーな人気アプリを調達することを考えているようだ。

 この先、米国の方針による今の状況がどうなるかはわからない。発表されたMateが市場に出てくるころには、状況が変わっている可能性もある。だが、たとえ状況が変わらなかったとしても、打撃を最小限に抑えるための手は打っておくということか。

 ファーウェイがGoogleモバイルサービスを使えない、あるいは、使わないことで、打撃を受けるのはGoolgleでもあり、人気アプリ、サービスの開発側でもある。ファーウェイスマートフォンのユーザーがGoogleサービスを使わないというのは決して無視できる数ではない。誰もトクをしないこの状況はいつまで続くのか。純粋に、ハードウェアとして完成度の高い端末が、その能力を最大限に発揮できないというのは悲しい話だ。

 ハードウェアの能力はソフトウェアによって支えられている。どちらが欠けても完成はしない。Rethink Posibilitiesは、ファーウェイの世界に向けた強烈な支援要求のメッセージということができるかもしれない。