山田祥平のRe:config.sys

インターネットと国境と

 インターネットに国境はないはず、というのは幻想のようだ。エンドユーザーが楽しめるコンテンツの配信基準は国ごとに少しずつ違ったりもするからだ。法令などを考慮した結果でもある。だが、その国判別の基準がやっかいだ。

壮大なワリカンがもたらすインターネット社会

 インターネットは壮大なワリカンというのはいつもいうことだが、そのために、ぼくらがインターネットに接続するためには、どこかしらの誰かを経由することになる。そこまでのコストを負担すれば世界に広がるインターネットの大海に出て行ける。

 具体的には一般のエンドユーザーの場合、その接続相手として月次料金などを支払うことで接続を引き受けてくれるインターネット接続プロバイダー(ISP)を利用することになる。プロバイダーは、その契約者に対して世界で一意となるIPアドレスを割り当て貸与し、契約者はそのIPアドレスを使って世界中のインターネットサイトにアクセスする。これは、スマートフォンでインターネットを利用する場合も同様で、この場合、携帯電話事業者がプロバイダーとして機能する。

 誰がどのIPアドレスを使って何をしたかはプロバイダーが把握しているし、利用されたサイト側もどのIPアドレスからの通信であるかを把握できる。これらの情報は個人情報として守秘されているが、犯罪などが行なわれた場合にはプロバイダーに対してIPアドレスの素性の開示を要求することで、ある程度はそのIPアドレスを使っていた状況がわかるので、犯人特定に役立てることができたりするわけだ。

国判定とIPアドエス

 昨今、SNSなどで話題になっているのが、特定のコンテンツを配信するサイトにアクセスしたところ、そのIPアドレスが海外のものであるという判定を受け、コンテンツの配信を受けることができないという現象だ。日本国内のIPアドレスではないから、コンテンツの閲覧はできないという表示が出て、日本国内にいるのに日本向けのコンテンツを閲覧できないという。

 今、IFA取材のあと、ちょっとした夏休みをいただいて、ドイツ周辺に周遊しているのだが、先日申し込んだオリンピックの追加販売の抽選結果落選のメールを受け取り、ちっとも当たらないとぼやきながら公式サイトにアクセスして状況を確認しようとしたところ、国外からのアクセスが検知され、

「現在、組織委員会では、日本以外の国にお住まいの方へのチケット販売は行なっておりません。
日本以外の国にお住まいの方は、各国NOC公認の公式チケット販売事業者(ATR)もしくはサブディトリビューターからチケットをお買い求めください。
日本人の方でも海外に在住されている方は、以下のリストからお住まいの国・地域の事業者をご確認いただき、各社にお問い合わせください」

というメッセージが表示された。国外からのアクセスなので、当然といえば当然だが、日本で登録したIDでログインし、自分が申し込んだチケットを確認するために「マイチケット」を見ようとしてもこのメッセージだ。きっと、単純にIPアドレスを調べ、それを自前のデータベースと照らし合わせ、日本国内のものではない場合に、このページにリダイレクトされるようになっているのだろう。

 仕方がないので、SoftEther VPN プロジェクトを使って日本国内にいることにしたが、そういうことができるスキルを持つユーザーばかりではないはずだ。とにかくエンドユーザー軽視になっているように思う。

IPアドレスは国籍が変わるのが前提

 そもそも特定のIPアドレスが、どの国のものなのかは、未来永劫一定であるわけではない。とくに、枯渇が懸念されているIPv4アドレスの所有については、かなり頻繁に移籍が行なわれている。今日、アメリカのIPアドレスだったものを、明日は日本のプロバイダーが使うことはよくある話のようだ。

 インターネットプロバイダー大手のIIJのサイトに掲載されているコンテンツ「てくろぐ: インターネット・トリビア IPアドレスと位置情報」では、IPアドレスを国判定に使う事業者への注意喚起が行なわれている。

 同社広報部の堂前清隆氏も最近のツイートでこのあたりの話題を取り上げ、「そもそもIPアドレスには位置や国を識別する情報はなく、いくつかの会社が経験則で独自のデータベースを作っているだけです。誤判定は避けられません」、「「IPアドレスと位置(国)情報のデータベース」を作っているのはISPとは異なる会社です。良識あるデータベース会社はIPアドレスの利用者が替わったことに気付くとデータベースを更新しますが、会社によっては更新を怠ったり変更に気付かないなどの理由で誤った情報が長期間放置される場合があります」といった情報を提供されている。

 堂前氏は、こうしたことをわかった上で、あえて国別判定をするのなら、臨機応変にエンドユーザーをサポートし、誤判定がある前提でコンテンツ事業者が対応する必要があると結論づけている。

グローバルとは何なのか

 グローバル化した世の中ではあるが、その世の中は不思議なことばかりだ。そして、インターネットは地理的な位置関係をも、これまでの常識とは異なる概念でくるみなおした。

 海外サイトで買い物をしようとすると、海外で発行されたクレジットカードは使えないというメッセージに直面して断念することはしょっちゅうだ。海外で入手した携帯電話事業者のSIMにチャージができなかったりするわけだ。PayPalを使ったり、チャージ業者を使ったりといった抜け道をさがさなければ積んでしまう。成田空港の成田エクスプレスの自動販売機で海外のクレジットカードを受け付けないという注意書きを見たこともある。Amazonのプライムビデオだって、多くのコンテンツは日本国外では観ることができない。こういう状況に直面すると、グローバル化とは一体何なんなのだろうと思う。