山田祥平のRe:config.sys

世界は1つ、クリップボードも1つ

 複数のデバイスをまたいでデータをやりとりする方法はたくさんある。自分で自分にメールするといった方法は古くから行なわれてきたノウハウだ。今回は、Windowsがようやく手にしたクリップボード履歴と同期について考えてみる。

クリップボード履歴と同期で作業を効率化

 半年に一度の周期で提供されているWindows 10の機能更新が近づいてきた。先行バージョンであるInsider Buildは、すでにバージョン1903となっている。このままなにごとも起こらなければもうすぐ更新がはじまるはずだ。

 半年前の機能更新であるバージョン1809では、いまさらという感もないではないが、ようやくクリップボードの履歴と、その他デバイスとの同期がサポートされた。サードパーティ製のツールなどで、すでに利用していたユーザーも少なくないと思うが、そうした創意工夫が許されない環境もある。だからこそ、こういう機能は標準でサポートされているにこしたことはない。

 設定アプリでシステムのクリップボード項目を開くと、

  • クリップボードの履歴
  • 他デバイスとの同期

という項目を個別にオン/オフすることができる。また、後者についえは自動同期か、手動同期かを選択可能だ。

 使い方は簡単。まず、クリップボードへのコピーについてはこれまでの方法と変わらない。Ctrl + Cのショートカットや、各種アプリのツールバーのコピーボタンでコピーしたいオブジェクトをコピーする。

 通常、クリップボードからの貼り付けは、直近にコピーしたテキストや画像などのオブジェクトが貼り付く。Ctrl + Vについては以前と同様だが、新しいショートカットとして、Windows + Vが追加された。

 このショートカットで管理ウィンドウが開き、過去にコピーしたオブジェクトの一覧から必要なものを選択して貼り付けることができるようになったのだ。

 通常のコピーや貼り付けは、そのオブジェクトがテキストや画像はもちろん、PowerPointのスライド単位や、あるいはファイルそのものでもよかったし、ローカルで確認できる履歴には保持されるのだが、ネットワーク越しに使える履歴はテキストや画像にかぎられるようだ。

 テキストと画像が混じったWebページ内のオブジェクトなどの場合は、テキストだけが貼り付く。だからこそ、従来のCtrl + VとWindows + Vを使い分ける必要がある。

どんなアプリでも使える

 この機能の実装は、選択された履歴データの1つを強引に現在のクリップボードに置いた上で、Ctrl + Vを送信するといった、けっこう野蛮な方法で実現されているようだ。だが、Ctrl + Vでクリップボードからの貼り付けができるアプリであれば、貼り付け先を問わないというメリットもある。

 最初、そのことに気がつかないで、どうしても秀丸エディタ上で使えないことに悩んでいた。おそるおそる秀丸エディタの開発元である有限会社サイトー企画に問い合わせたところ、すぐに返事が戻ってきて、そのことを教えてもらえた。

 原因は、ぼくが自分の環境として、Ctrl + Vに別の機能を割り当てていたことだった。具体的には削除内容復元を割り当てていた。Ctrl + Vへの割り当てを「なし」、または「貼り付け」に設定することで、見事に秀丸エディタ内でクリップボード履歴が使えるようになった。

 秀丸は初期のバージョンからのユーザーで、Windows 3.0のころから使いはじめてすでに30年近くになるが、本当にそのサポートの手厚さと、止まらない進化には頭が下がる思いだ。いったいこのエディタでどれだけのテキストを書いただろうかと思うと気が遠くなる……。

 それはともかく、これで悩んでいたのはぼくだけだと思うが、めでたくこれで、秀丸エディタでもWindows 10標準のクリップボード履歴と同期が使えるようになった。削除内容復元のキーアサインは、頻繁に使うものだったので、まだしょっちゅう間違うのだが、それをどうするかはあとで考えることにする。

まだまだ望まれる進化

 履歴はともかく、同期については心配するユーザーもいるだろう。仕組みとしてはクリップボードの内容をMicrosoftアカウントに基づいたクラウドスペースに放り込むわけだから、機密内容などを含む文言をコピーしてしまうとまずいと考えるかもしれない。

 そのリスクを回避するために、同期はするが自動同期はオフにしておくという選択肢がある。オフにしておくことで、Windows + Vで履歴を呼び出し、個別に同期するかどうかを指定できる。

 ちょっとめんどうだが、用心には用心を重ねた方がいいというのも大人の判断だ。理想的には、ローカルネットワークに閉じたクリップボードサービスを個々のPCで稼働させ、PC同士で同期通信をするようなことができればいいのだが、環境負荷の問題もある。そのあたりを含めて検討してほしいものだ。

 課題はまだある。現状では、Windows 10同士でしかこの機能が利用できないのだ。設定画面にある「クリップボード項目を電話に同期するためのアプリを取得する」のコマンドリンクを開くと、電話番号の入力を求められ、Android 向け SwiftKey(Beta)を入手するためのGoogle PlayへのリンクがSMSで送信される。

 インストールは簡単にできるのだが、IMEとして設定しなければならないことも不便だし、しかも、同期の機能がまだ正常に働いていないので実際には使えない。Android端末内に閉じたクリップボード履歴のみの実装にとどまっている。ここは1つ、早期の改善を願いたいものだ。

入れる自由がないなら最初から入れておいて

 MicrosoftにはMicrosoft Garageと呼ばれるプロジェクトがある。社員が個々にさまざまなソフトウェア、ハードウェアのプロジェクトを作れるところだ。

 その1つに、Microsoft Garage Mouse without Bordersというユーティリティがある。コミュニティもあってファンも多い。

 このユーティリティを同じネットワーク内にある複数のPCで稼働させておけば、1台のマウスとキーボードを複数台のPCで共有すると同時に、クリップボードの共有もできるようになる。

 個人的にもこのユーティリティを以前から便利に使っているが、複数台のPCを並べてまるで1台のように使うことができて重宝している。どうせなら、こういう機能を丸ごとWindowsに入れてほしいとも思う。

 創意工夫でユーティリティなどを追加してPCを操ることが、なかなか難しい時代になってきている、最初から入っている機能であれば堂々と使えるというわけでもないだろうが、多少はハードルが下がるのではないだろうか。それを願っている潜在的なユーザーも決して少なくはいはずだ。