山田祥平のRe:config.sys

モバイルノートの処理性能向上とPD電源対応、その先にあるもの

 いったん到達した高みからは降りられない。モバイルノートとはいえ高性能の味を知ってしまったらもう遅い処理には戻れない。ただ、クアッドコアプロセッサ搭載ノートが当たり前になるなかで電源の確保は重要なテーマだ。モバイルノートの電源事情はこれからどうなっていくのだろう。

モバイルノートのクアッドコア化が当たり前に

 パナソニックがレッツノートの王道的存在であるSZシリーズを刷新、「SVシリーズ」として再定義した。12.1型画面を持ち、光学ドライブ内蔵対応のクラムシェルノートとしてSZとSVの筐体はパッと見の印象はほとんど変わらないが、その中味は大きな進化を遂げている。Intelの第8世代コアの要求する熱設計を受け止めるためにさまざまな工夫が為されている。

 レッツノートにかぎったことではないが、これほどの処理性能がモバイルノートに必要なのかどうかというのは愚問なのだろう。働き方改革が叫ばれるなかで、いつでもどこでも仕事をすることが求められていたりもする。オフィスのデスクでは高性能PC、出先や会議室ではモバイルPCといった使い分けはもう古いスタイルで、1台のPCにオールマイティが求められるようになりつつある。

 Intelのモバイルプロセッサには低電圧版(Uプロセッサ)と超低電圧版(Yプロセッサ)がある。かつて、Yプロセッサがバッテリ駆動時間の長さや筐体の軽薄短小化に貢献できることでもてはやされた時期もあったが、その筐体にUプロセッサを入れることがトレンドとなり、いつのまにかそれが当たり前になった。

 今、起こっているのも同じようなことで、これまでのデュアルコア対応筐体相当にクアッドコアを入れてしまうのがトレンドだ。このままいくと、もしかしたらモバイルシーンの最前線からYプロセッサは退いてしまうかもしれない。

 スペック上の消費電力は増えるがバッテリ駆動時間に大きな影響はない。たとえばSVシリーズはカタログスペックを見ると、Sサイズのバッテリで12.5時間、Lサイズのバッテリなら19.5時間駆動できるとされている。話半分としても一般的なモバイル用途には十分な駆動時間だ。処理性能の高いプロセッサはさぼるのもうまい。高い負荷をかけ続けなければバッテリ駆動時間も確保できる。

PD対応を遂げた新レッツノート

 SVシリーズはパナソニックとして最初のUSB Power Delivery(PD)対応機でもある。TI製のPDコントローラを実装しているという。冒頭の写真はそのマザーボードだ。まんなかにコントローラチップが確認できる。クワッドコアプロセッサ搭載のため大幅に冷却能力も高める必要があったという。

 電源仕様としては新開発の85W ACアダプタを同梱し、従来どおりのDCプラグを使って通常運用する。その一方で、筐体にはType-Cポートを装備する。USB 3.1(Gen1/2)、USB PD、Thunderbolt 3、DisplayPort Alternate Modeと対応規格にぬかりはない。

 このうちPDについては、レッツノートの稼働中にPD充電する場合は27W以上のPDアダプタが必要となるそうだ。27W未満のアダプタでは充電はできない。また、プロセッサがフル稼働し、周辺回路がめいっぱい電力を消費しているような場合には、給電が間に合わずバッテリが減ってしまう可能性もあるというが、そこまでフル稼働ということはほとんどないらしい。ちなみに電源がオフであれば15Wアダプタでも充電ができる。7.5Wのアダプタでも満充電にはならないが充電そのものは可能だという。ものすごく良心的な設計だ。

 一方、レッツノートが給電側の場合はどうか。たとえば、PD対応デバイスを充電しようとした場合だ。このとき、レッツノートが給電するのは5V/3Aまでだ。つまり15W。それでもPDのパワールールとしてこれを充電される側のデバイスに通知する。この電力ではほかのPCの充電は無理だし、スマートフォンの急速充電も心もとない。仮に同梱のACアダプタで85Wを供給していても、PDの給電ソースとしてはこの仕様となる。

PDアダプタ小型軽量化への期待

 それでも65W対応のPDアダプタさえ携行すれば、それだけで身の回りのデバイスすべてをいつでも充電できるというのはうれしい。DellやHP、Lenovoなど一部のメーカー製PCには45W PDでも充電ができるものもあるが、パナソニックと富士通は電力の冗長性を優先し、減ったものを補充するというより、少しでもバッテリが減らないようにするポリシーでPD対応を考えているようだ。

 つまり、ノートPCに電力を供給するという行為には2つの側面がある。

 1つはちょっとした合間にコンセントを見つけて短時間にできるだけ急速に充電するという側面。もう1つは継続的に電力を供給してバッテリが消費されないようにするという側面だ。

 スマートフォンも同様だが、モバイルシーンにおいては前者の要求が高い。それができれば午前中の仕事が終わってランチの時間や夕方近くの小休止中などに電力の補充ができ、結果として丸1日安心してバッテリ駆動によるフル稼働を期待できるからだ。

 人間はあと10時間使えるとわかっていても半分近くになったゲージには不安を感じてしまうものなのだ。震災のときのことを思い出すと、今、なにが起こってもいいように、PCやスマートフォンができるかぎり満充電に近い状態であってほしいという気持ちもある。

 ただ、65Wアダプタは大きく重い。そしてまだ種類も少ない。たとえばGOPPAの「Energear」シリーズの65W USB PD認証 Type-C ACアダプタは180gもある。軽量コンパクトさではダントツのFINsix「Dart」は85gと圧倒的だが、肝心のPD対応専用Type-Cケーブルがまだ供給されていない。

 スマートフォンのPD対応も少しずつ進んでいるが、こちらは軽量コンパクトな30Wアダプタがあれば十分に急速充電ができる。先日のCESではVogDUOのブースで最薄とされる30W充電器SPC001のPD対応版「SPC003」がもうすぐ準備できると聞いた。日本総代理店の日本マース社のサイトにはすでに写真や仕様が掲載されている。これは楽しみだ。

 でも、クアッドコアPCとスマートフォンを共通のACアダプタでまかなうためには大に小を兼ねさせなければならない。Yプロセッサなら30Wでも大丈夫そうなのにというのはもう通用しない。時代はクワッドコアの高速処理を選んだからだ。だからこそ高出力軽量コンパクトなPDアダプタがほしい。1つのアダプタと1本のケーブルであらゆるものをまかないたい。

 スマートフォンがPC的になればなるほど、モバイルPCに求められる処理性能は高くなる。モバイルシーンの電源確保はまだまだ課題が多い。