【ADSL導入記】:開通まで待たされても、つながれば快適!
ADSLという言葉を聞いて、ピンとくる人がどれだけいるだろうか? アナログ回線の銅線を使って、数Mbpsの高速データ通信を可能にする技術を総称して「xDSL(Digital Subscriber Line)」というが、「ASDL(Asymmetric Digital Subscriber Line)」はこのxDSLの1種類だ。ADSLのAつまりAsymmetricは、ユーザー宅のADSLモデムからNTT局内のASDL機器へ向かう「上り」のデータ転送速度と、その逆のNTT局からユーザー宅への「下り」のデータ転送速度が異なるということを意味している。 具体的には上りよりも下りの速度が速く、上りで最大1Mbps、下りで最大8Mbps程度のデータ転送速度が実現できる。また、既存の電話回線を利用するために初期費用が安く、音声の通話を行ないながら、同時にADSLを使ったデータ通信が可能な点もメリットだ。 このように高速で安価にデータ通信ができるADSLは、そのメリットばかりが強調されるが、デメリットもないわけではない。その1つが、どのようなコンディションでも安定してデータ通信ができるわけではないことだ。放送電波やエレベータなどの施設機器からのノイズ、配線の近くに通っているISDN回線からのノイズが与える影響により、正しく通信ができなくなってしまう。もちろん、エラー訂正や様々なノイズ対策により、まったく通信ができなくなる可能性は低いものの、通信速度が低くなることは、十分考えられる。 昨年から国内でも一部の地域で、ADSLを使ったインターネット接続サービスの受付けが行なわれ、サービス自体も開始された。国内でのADSLサービスは、アナログ回線を利用して高速データ通信を行なう点はどこのサービスも同じであるが、提供されるサービスやプロトコルが多少異なっている。 筆者宅では、既にOCNアクセスラインを使ったインターネット常時接続サービス「DIONスタンダード」を受けている。このサービスは最大128kbpsでの通信が可能で、基本的にはベストエフォートであるが、現状では曜日や時間帯に関係なくほぼフルスペックの128kbpsで通信できている。実際に、自分のドメイン名を取得して、DNSサーバーやWebサーバー、メールサーバーなどを設けており、インターネット接続するサーバーの実験など、いろいろな面で役にたっている。 しかし、128kbpsという通信速度も慣れてしまえば当たり前になってしまう。インターネット上のホームページを見たり、オンラインソフトをダウンロードするには、通信速度が物足りなく感じつつあった。やっぱりここはADSLか? 今回は筆者がADSL導入するにあたって、検討した内容とその顛末を紹介しよう。
□参考
国内で最初に、ADSLを使ったインターネット接続サービスの開始がアナウンスされたのは、'99年の冬。そして、サービスが最初に開始されそうだったのが「東京めたりっく通信」だった。しかし、色々と調査した時に、東京めたりっくのサービスで提供されるIPアドレスが、一般的なプロバイダが提供しているグローバルIPアドレスではなく、プライベートIPアドレスであるということがわかった。グローバルIPアドレスでなければ、うまく通信ができないアプリケーションも存在するため、申し込みを躊躇してしまった。 新宿南口にオープンした東京めたりっく通信の新宿デモステーションで、担当者に様々な質問をしても不安は解消できず、利用を断念することにした。 次に検討したのが、NTT-MEの「WAKWAK ADSL接続サービス」だ。このサービスは、ノイズの影響を比較的受けにくい「ユニバーサルADSL」で、ITU-Tがまとめた「G.Lite」という仕様となっている。フルスペックのADSLでは、上りが最大640kbps、下りが最大8Mbpsの通信速度が可能であるのに対して、ユニバーサルADSLの場合には上りが最大512kbps、下りが最大1.5Mbpsに制限される。 WAKWAK ADSL接続サービスの、インフラはNTT東日本の「ADSL接続サービス」を利用する。このNTT東日本のADSL接続サービスには、G.Lite annex Cが採用され、NTT収容局からユーザー宅までの上りが最大224kbps、下りが最大512kbpsとなる。G.Liteではないが、NTTが以前行なっていたxDSLフィールド実験ホームページを参照すると、上りが最大224kbps、下りが最大512kbpsという通信速度は、十分に現実的な値であるといえるだろう。 ADSLに詳しい方であれば、G.Liteでは、音声とADSL信号とを分離するための機器である「スプリッタ」が不要であることを御存知だろう。しかし、NTT東日本のADSL接続サービスのページを見ると、不要なはずのスプリッタが接続されることになっている。後日、質問してみたところ、「電話器のフックの上げ下げなどによる回線の状況の変化に左右されず、より安定したデータ通信を行なうためにスプリッタを入れている」ということだ。
一般的なインターネットの使い方であれば、下りの速度がある程度速ければ、快適にインターネットを利用することができるはずである。実際に開通してみないとわからないが、下りの最大512kbpsが実現すれば、今まで以上に快適な通信環境が実現できる。それに常時接続でありながら通信費やプロバイダのサービス込みで月々7,000円という費用も非常に魅力的に感じた。独自ドメイン名を利用したサーバーの実験環境が必要なければ、月々3万円強の費用がかかるDIONスタンダードから、乗りかえることができるのではないだろうかなどと、期待はふくらむ。
また、G.Liteを採用していることで、なんとなくフルスペックのADSLよりも安定しているような印象を受けたほか、割り当てられるIPアドレスがグローバルIPアドレスなのも気に入って、早速NTT-MEの仮申し込みページから申し込んだ。
□xDSLフィールド実験ホームページ
そして2000年になり、メールに書いてあったサービス開始予定の1月中旬になっても、NTT-MEからまったく連絡がない。工事の日程が気になったため「実際にサービスはいつになるのか?」、「提供されるサービスは?」などの疑問点を、メールでNTT-MEのユーザーサポート宛てに送った。すると数日後に、返事メールが届き、「半月ほどサービス開始時期が遅れているので、本格的な開始は2月になる」ことと、「比較的早い申し込みだったので、2月中には開通できる見通しである」ことなどのほか、サービスや技術的な質問への返答が記載されていた。 そして数日後、今度は郵便で「ADSLサービス事前調査アンケート」が送られてきた。残念ながら、このアンケートの内容ははっきり憶えていないが、事前に適合性の調査を行なうかどうか、事前の調査を行なえばサービスに適した回線であるかどうかがわかるものの、調査自体に費用が発生するといった内容であった。費用がかかるものの、事前調査があったほうが良いような気がしたので、事前調査を行なうという内容で返送した。 それからさらに時間が経過し1月末になると、NTT-MEからNTT東日本向けのADSL接続サービス第一種サービスの申し込み用紙が送られてきた。これにも、事前の適合性の調査を2月上旬、工事の希望日を2月中旬と記述して返送した。この時点では、「サービス開始のスケジュールは遅れているものの、ここまで具体的な書類などのやり取りが行なわれるのであれば、2月中旬か下旬にはサービスが開始されるはず」と期待していた。 しかし、2月中旬になっても、NTT-MEからは事前調査の日程やサービス開始の時期なども、まったく連絡がない。これはメールではらちがあかないと思い、NTT-MEのサポートに電話してみるが、まったく繋がらない。話中ではなく、電話に出てくれないのだ。仕方がないので、NTT東日本の問い合わせ窓口に電話をかけたところ、問題無く繋がった。そこで事情を説明して、事前調査がどのようになっているのかなどを調べてもらうようにたのんだ。 すると、数時間後にはNTT東日本から電話が入り、何も進んでいないということがわかった。さすがに、この状況には呆れてしまったが、それでもなんとか少しでも早く工事が完了するように、相談してみたところ、事前調査を行なわなければ、1週間は早くなるということだった。事前調査を行なえば、サービスを開始するときに行なわれる初期工事の費用を無駄にすることはないが、その調査自体にも費用がかかる。結局、事前調査の意味があまり無いと判断して、いきなり工事を行なうということで、再度スケジュール調整を依頼。最終的には、NTT東日本の問い合わせ窓口の担当者から、工事をするにはNTT-MEからのドメイン名の割り当てや、IPアドレスの割り当てが必要となるので、NTT-ME側に確認してから、後日確実に連絡をいただけることになった。 数日後、再度NTT東日本からスケジュールの連絡が入り、3月の初旬に工事が行なわれることが決まり、NTT-MEからドメイン名の申請や、IPアドレスの申請などの用紙が送られてきた。筆者自身は、DIONスタンダードのサービスを受けるときに、これらの書類の経験があったために、特に問題なく記述し、速やかに返送した。 しかし、これらの書類には、とても簡単な記述例しかなく、ある程度の知識がないと、この用紙が何のために必要で、どう記述すればいいのかわからない。一般のユーザーが、この書類の意味を理解して記述することは容易ではない。 また、これらの書類を記述するための対応を行なうNTT-ME側の労力も並大抵なものではないと想像できる。ユーザー、NTT-ME双方のためにも、もっとわかりやすい記入例やパンフレットを用意する必要があるだろう。
工事前日になると、工事の担当者から連絡が入り、時間帯の調整や回線状態などの打ち合わせを行なった。翌日、実際に工事に来てくれた担当者は、以前にOCNアクセスラインを工事してくれた方だったので、すぐに筆者宅の状況を把握し作業にかかってくれた。 筆者宅ではアナログ回線、ISDN回線、OCNアクセスラインを1回線づつ引き込んでおり、アナログ回線とISDN回線がペアになり同一カッドになっている。しかし、このままの状態ではISDN回線からADSLでのデータ通信に障害となるノイズが懸念される。そのため、工事はOCNアクセスラインとISDN回線を同一カッドに配線を変更し、アナログ回線と分離することから始めた。 それと同時に、筆者の住んでいる建物のMDFで、ADSLでのデータ通信が可能になるかどうかのチェックを行ない、そのテストをクリアしてから筆者宅内のアナログ回線にスプリッタを接続して、再度テストを行なった。このテストでは、ADSL回線用のテスターのような機器を用いて、様々なデータを採取していた。 ここまでの作業が済むと、ADSLモデムを回線に接続し、IPアドレスをはじめとした各種情報をADSLモデムに設定する。この作業はADSLモデムとWindows 98がインストールされたノートPCをシリアルケーブルで結び、ハイパーターミナルで行なわれた。 設定が終わると、コマンドプロンプトで指定のIPアドレスにPINGを打ったり、IEでチェック用のページにアクセスして、通信速度などを確認。工事担当者が到着してから工事完了まで順調に作業が進められ、約2時間で完了した。結局、仮申し込みをしてから2カ月半かかって、ようやくWAKWAK ADSL接続サービスが開通したことになる。 工事担当者からADSL環境を引き渡されると、早速ノートPCにPCカードのNICを装着し、ADSLモデムと接続して、PCの設定を行なった。まずは、主要な検索ページを表示させ、正常に通信が行なわれることを確認した。単にページを表示させてみただけでも、いつもより高速に表示されることが実感できる。
次にオンラインソフトのサイトから、いくつかファイルをダウンロードしてみたが、NTT収容局までの回線の太さにも影響されるが、最高で500kbpsを超えるスピードでダウンロードでき、スペック通りの速度が確認できた。512kbpsという通信速度には目を見張るものがあり、極めて快適である。
現在、筆者宅でOCNアクセスライン経由でインターネットに接続している様々なサーバーを、なんとかADSL経由に移行できないか、真剣に検討している。まだまだ実験中であるが、このコストパフォーマンスが極めて高い回線を、もっと活用していく予定にしている。しかし、唯一気になるのが、このADSL接続サービス自体が試験的なもので、来年も継続されるかはわからないところだ。 なお、NTT-MEのWAKWAK ADSL接続サービスを申し込んでから開通するまでの期間は改善されており、現在では約1カ月程度となっていることを確認している。
□NTT-MEのホームページ
[Text by 一ヶ谷兼乃] |
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