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一ヶ谷兼乃の

NOMAD II SportsはMP3のベストバイだが、ポータブルCDも捨てがたい


■ウォークマンからMPManへ

 音楽を戸外で楽しむというのは、20年前のSONY「ウォークマン」で始まったといってもいいだろう。初代ウォークマンは'79年7月に発売され、昨年20周年を迎えた。当時、この初代ウォークマンを触った時には、それほど便利だとは感じなかったが、それから数年後、いつのまにか外出時にはウォークマンタイプのカセットプレーヤーを必ず携帯するようになっていた。

 現在、パソコン関係のメディアの読者で、音楽を楽しむ携帯グッズといえば、MP3プレーヤーを連想する人が多いだろう。その携帯型のMP3プレーヤーで最初に登場したのが、Seahan Information Systemsの「MPMan」で、それからもう数年が過ぎている。筆者自身も、この初代のMPManを手に入れ、しばらくの間愛用していた。MP3という新しいフォーマット(メディア)の珍しさと、手荒く扱っても音飛びがない環境など、非常に魅力的なデバイスだった。

 初代MPManはいま振り返ってみると、携帯型プレーヤーとして特に優れているというわけではなかった。しかし、素直な音質や安定動作は、現行機種と比べても引けを取らないと評価している。実際、その後も数機種の携帯型MP3プレーヤーを購入したり、雑誌の評価などで最新モデルを触っても、筆者は初代MPManを愛用し続けてきた。

 その後、Seahan Information Systemsは、いくつか新製品を発表し、現在の最新機種「MP-F30」では、音質も向上、液晶ディスプレイには日本語表示までができるように進化している。MP3ファイルに含まれる曲名や、アーディスト名を、デフォルトで日本語表示できるのは、現在でもMP-F30ぐらいではないだろうか。

 Seahan Information Systemsは韓国のメーカーであるが、もっとも日本市場を意識している携帯MP3プレーヤーメーカーであるといってもいいだろう。



■「NOMAD II Sports」はベストバイ!

【NOMAD II Sports】

 その初代MPManを使っていて気になったのが、データの転送方法。現在でも、多くの携帯型MP3プレーヤーが、Windowsマシンのパラレルポートに接続し、MP3データを転送する。このことは、パラレルポートが占有されてしまうことのほか、転送速度が遅いというデメリットがある。そのため、次に携帯型MP3プレーヤーを購入するときには、USBでデータ転送を行なう機種を選択しようと考えていた。

 そして、昨年の秋頃からUSB対応の機種が登場してきたのだが、音質が筆者の好みとは違うために、購入するにはいたらなかった。ちなみに、筆者はこの時点でも初代MPManを愛用していた。その後、ソニーからも、2機種のメモリタイプの携帯型プレーヤーが登場したものの、付属ソフトの操作性や安定動作、音質といった点で購入を見送った。実はこの時に、ある製品の登場が気になっていたことも、購入を見送った理由の1つにはあった。その製品が、Creative Labs「NOMAD II」であった。NOMAD IIには、昨年のCOMDEX/Fall '99で実際に触れており、国内で市販されることを心待ちにしていたのだ。

 国内では結局、NOMAD IIは「NOMAD II Sports」(64MBモデル:38,800円 / 32MBモデル:26,800円)という製品名で、2月中旬に出荷が開始された。念のため、USB接続であることを確認した後、すぐに「NOMAD II Sports」を購入した。なお、詳細なスペックはクリエイティブメディアの製品ページを参照していただきたい。

 まず、パッケージを開いて驚いたのが、付属のヘッドホンである。耳の中に挿しこむインナーイヤータイプではなく、耳を押さえるタイプのヘッドホンが添付されている。最近多く見られる、バンドが後頭部に位置するネックバンド形式のものだ。音質も、これまでのMP3プレーヤーに添付されているものと比較すると、極めて良好なものである。

 今まで、携帯型MP3プレーヤーを、高音質で楽しむためには、付属のヘッドホンを使わないことが、いわば常識となっていた。しかし、このヘッドホンは最高品質とまではいわないが、これまでにどのプレーヤーに添付されていたものとも、比較にならないほどの品質である。

 次に、ヘッドホン以外で、この製品のメリットと感じたところを簡単に紹介しよう。まず、電源が単3電池であること。電池が切れたときに、駅の売店やコンビニエンスストアで、すぐ補充できる手軽さはありがたい。そして、ニッケル水素タイプのバッテリも利用することができる。

 データは本体に内蔵するスマートメディアに保存される。もちろん交換可能で、付属するメディアも64MB(32MBモデルもラインナップされている)と十分な容量のものが添付されている。また、クリップタイプのリモコンが、標準で付属しているところも評価できる。本体前面の液晶画面は大型で、日本語表示はできないが、色々な情報をわかりやすく表示することができる。

 肝心の音質も、素晴らしくいい。携帯型MP3プレーヤーは、再生音がノイズっぽかったり、高音や低音が不自然に強調される傾向があった。もちろん、このような音質が気にならない、好みだという人もいるだろうが、筆者にとっては最も気になる点である。その意味で、既存のMP3プレーヤーには音楽を楽しむには耐えがたい音しか再生できない機種が非常に多く、MP3の存在自体の評価を下げているのではないかと、残念に感じていたほどだ。実際に、これまで国内で手に入るほとんどのMP3プレーヤーを使ったことがあるが、この「NOMAD II Sports」は、現存するMP3プレーヤーの中は、トップクラスの音質を実現していると言ってよい。

 付属のソフトウェアも、なかなか使いやすい。固定ビットレートだけでなく、可変ビットレートでもMP3データを作成できるといったように、細かな設定ができるため、別途MP3関係のアプリケーションを購入する必要もないだろう。まだ、確認はしていないが、可変ビットレートのデータを作成できるということは、NOMAD II自体も可変ビットレートのMP3データに対応しているものと推測できる。

 また、個人的にはあまり使うことはないが、ADPCM(32kbps)で最高4時間もの音声録音ができるのも、大きな魅力ではないだろうか。

 さらに、本体のファームウェアの書き換えができ、今後Windows Media Audioなどの複数のオーディオコーデックに対応したファームウェアが提供されることになっているため、あまりコーデックに関しての製品寿命を意識せずに購入できる点もありがたい。

 ただし、極めて厳しい評価をすれば、電池やスマートメディアを格納する部分のカバーが開きやすく、何かの際に外れてしそうな点が気になるところ。しかし、気になったのは唯一この点だけだ。前モデル「NOMAD」の金属製ボディが、「NOMAD II Sports」で樹脂製にはなったが、質感などは低下してはいない。もちろん、液晶に日本語表示できないといった点もあるが、他のほとんどのMP3プレーヤーでも対応していない現時点では、マイナス点とは言えないだろう。

 このように「NOMAD II Sports」は、携帯型MP3プレーヤーとしては現時点で筆者に購買意欲を起こさせた唯一の製品であり、ベストバイとお勧めできる。

NOMAD IIの正面。真中の操作ボタンの下に見える小さな穴がマイク 右側面には再生時のイコライジング選択、録音、消去、ボリュームのスイッチが設けられている 左側面にはUSBポートと、誤操作防止のロックスイッチがある

本体裏の電池ケース。ここからスマートメディアも挿入する NOMAD IIの液晶画面。バックライト付きで見やすく、情報量も多い


■でも、CDウォークマンに一日の長か?

 と、NOMAD II Sportsを絶賛してきたが、実際に最近愛用しているポータブル音楽プレーヤーは、NOMAD II Sportsではない。もちろん、MP3データを聴くときには、NOMAD II Sportsを使っているのだが、筆者が聴くのは音楽CDソフトがほとんどである。据え置きタイプのMDデッキは持っているが、MDはほとんど利用する機会はない。

 音楽とはその日の気分によって、聴きたいものが変化するものだ。出かける支度をしていて、急にあの曲が聴きたいと思うこともしばしばである。往々にして、そういった場合には、曲をMP3に変換する時間はもちろんのこと、MP3データをMP3プレーヤーに転送する時間も残されていないことが多い。そうなると、手元にある音楽CDソフトをそのまま再生できるCDプレーヤーの出番である。

 ちなみに、昨年ウォークマンが20周年を迎えたと同時に、ソニーのディスクマン(CDウォークマン)シリーズも15周年を迎えている。最初に市販された携帯型CDプレーヤーがディスクマンだったかは、寡聞にして知らないが、少なくともディスクマンは15年の歴史を刻み、常に進化してきた。そして、筆者が愛用している携帯型CDプレーヤーは、ほかでもないCDウォークマン誕生15周年モデル「D-E01」である。

 このD-E01を始め、携帯型CDプレーヤーの最新機種は、値段も比較的安く、驚くほど振動にも強くなり、長時間再生を実現している。D-E01を例にとると、バッグに入れ、歩きながら音楽を楽しむといった使い方が多い環境でも、音飛びしたことは一度もない。たまに小走りすることもあるが、それでも音飛びは皆無である。また、内蔵電池と外付けの単3電池2本で連続62時間の再生ができる。このD-E01は、携帯型CDプレーヤーの中では特に高級なモデルであるが、それでも実売3万円前後である。このモデル以外であれば、高級モデルでも2万円強で購入できる。携帯型MP3プレーヤーの価格帯と、ほぼ同じだといえる。このモデルを選択したのは、15周年モデルということもあったが、薄くても堅牢なケースで、スロットインを実現しているほか、CD-TEXT対応で文字情報がリモコンに表示できるといったところが気に入ったからである。

 当然のことながら、音楽ソースとしては、不可逆圧縮のかかったMP3データよりも、音楽CDソフトのほうが高音質である。またプレーヤーとしての完成度も15年もの時間によって十分高められており、結果的にどのようなMP3プレーヤーよりも、高品質な音を操作性よく再生してくれる。

 これまで、筆者がMP3プレーヤーを使ってきた理由の多くは、再生時間と音飛びが無いということであった。これらの問題点が、最新の携帯型CDプレーヤーでは見事なまでに解消された。そのため、現在では、あえてMP3プレーヤーを選択する理由がなくなり、音楽CDを聴くときにはD-E01、MP3データを鑑賞するにはNOMAD II Sportsを利用するようになった。これまで、CD対MP3の比率は1対9程度であったが、現在では8対2とCDプレーヤーを利用する機会が圧倒的に増えてきている。



■ヘッドホンはできるだけ良質なものを使いたい

 この利用比率を見ればわかるとおり、個人的にはCDプレーヤーが気にいっている。「MP3プレーヤーは、どの機種がいいいですか?」と仕事柄よく質問を受けることがあるが、そのときには決まって「NOMAD II Sports」か、日本語表示が必要な人には「MPMan MP-F30」を紹介している。そして、それと同時に、必ず「携帯型CDプレーヤーも優れているんだ」ということを付け加えることにしている。

【ソニー MDR-E888】 【STAX SR-001 MK2】
 さらに、携帯型MP3プレーヤーを購入したら「付属のヘッドホンは使わないほうがいい」と必ず念を押している。最低でも2~3千円の予算を別途確保して、ヘッドホンを購入することを勧めている。もちろんそれよりも、予算を取れるのであれば、より高価なモデルを選択するのもいいだろう。ただ、NOMAD II Sportsに付属のヘッドホンに限っては例外で、数千円程度のヘッドホンよりも高音質だと判断している。

 モバイル環境で音楽を楽しむことを主眼におくと、耳を覆うような比較的大型なヘッドホンは避けたいものだ。筆者が愛用してるのは、ソニーの「MDR-E888シリーズ」(8,000円)とSTAXの「SR-001 MK2」(25,000円程度)だ。どちらも、価格的にはお手軽とはいえないが、小型ではありながら、戸外でも出来る限りの高音質で音楽を楽しみたいという方にはお勧めできる。

 これから携帯型MP3プレーヤーの購入を考えているのであれば、ちょっと範囲を広げて携帯型CDプレーヤーも検討してみてはいかがだろうか。また現在、携帯型MP3プレーヤーを付属のヘッドホンを使っているのであれば、とりあえずヘッドホンだけでもグレードアップすることをお勧めしたい。

□「NOMAD II Sports」(クリエイティブ・メディア)の製品情報
http://www.creaf.co.jp/nomadworld/product/nomad2/
□「D-E01」(ソニー)の製品情報
http://www.sony.co.jp/sd/ProductsPark/Models/Current/D-E01_J_1/index.html
□「MDR-E888LP」(ソニー)の製品情報
http://www.sony.co.jp/sd/ProductsPark/Models/Current/MDR-E888LP_J_1/index.html
□「SR-001 MK2」(STAX)の製品情報
http://www.stax.co.jp/001.html
□関連記事
【1月21日】クリエイティブ、リモコンが付属したポータブルMP3プレーヤー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000121/creaf.htm

[Text by 一ヶ谷兼乃]

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