レビュー
スキャンが3割速くなった「ScanSnap iX1600」。統合ソフトも見違えるほど進化
2021年1月28日 09:50
PFUから、ドキュメントスキャナ「ScanSnap」のフラッグシップモデルの新製品「ScanSnap iX1600」が登場した。
外観は従来モデルの「iX1500」と(一部の配色を除き)同一だが、読み取り速度の向上が図られている。メーカーから機材を借用したので、バージョン2.0へと進化した統合ソフト「ScanSnap Home」の使い勝手と合わせ、従来モデルとの比較を中心にレビューする。
外観は従来モデルと同じだが、読み取り速度が約3割アップ
本製品の外観は、従来のiX1500とほぼ同一。上部のフタを開いて原稿をセットし、読み取った原稿が前方のトレーに排出される構造もそのままだ。最大50枚というセット枚数や、Wi-Fi/USBという2とおりの接続方法をサポートする点も変わっていない。
また4.3型のタッチパネルを搭載し、読み取り設定を直接切り替えられるギミックも変わらず搭載している。このタッチパネルは従来のiX1500で初搭載されたもので、もう1つ前のモデル(iX500)以前にない、大きな特徴となっている。
さて、ハードウェア関連で実質唯一の相違点となるのが、読み取り速度の向上だ。従来モデルでは毎分30枚、つまり2秒に1枚のペースだったのが、今回のモデルでは毎分40枚へと進化している(解像度600dpi以下の場合。1,200dpiでは毎分8枚→10枚)。約3割速くなったといえば、かなりの高速化であることがわかるだろう。
試しに約100枚の両面カラー原稿をセットし、デフォルトの読み取り設定でUSB接続でスキャンを行なったところ、従来モデルでは完了までに1分37秒かかったのに対し、本製品では1分13秒で完了した。約1.33倍ということで、ほぼ公称値通りの高速化が図られていることがわかる。
実際の読み取りの様子は以下の動画をご覧いただきたい。読み取り枚数は10枚と少なめだが、それでも完了までの時間は、数秒もの差がついている。
この読み取り速度の向上は、大量の原稿をスキャンする用途では力を発揮する。最近は、紙の本を裁断してデータ化する「自炊」のニーズこそ少なくなったものの、ビジネスシーンでは大量の原稿をまとめてスキャンする機会は依然少なくないだけに、作業時間短縮につながる高速化に魅力を感じる人はいるだろう。
事前に気になっていたのは、高速化によって原稿が詰まりやすくなったり、画質に悪影響が出るなどの弊害がないかどうかだが、今回iX1600/iX1500で同じ原稿を数百枚読み取って比較した限り、とくに問題は見受けられなかった。駆動音は多少大きくなっているが、本製品を毎日使っているヘビーユーザーでもなければ、まず気づかないであろうレベルだ。
約2年で見違えるように進化した統合ソフト「ScanSnap Home」
さてScanSnapには従来から「ScanSnap Home」という、スキャンの設定と実行、および読み取ったファイルの管理を行なう総合ソフトが用意されている。今回新たに「2.0」へと進化しているので、こちらもチェックしておこう。
もともと「ScanSnap Home」は、以前の「ScanSnap Manager」「ScanSnap Organizer」に代わる統合ソフトとして、従来の「iX1500」と同時に登場したが、当初は使い勝手が洗練されておらず、またレスポンスもいまいちだった。具体的な問題点についてはScanSnap iX1500のレビューにあるが、筆者はあまりの使いにくさに、ScanSnapの利用頻度そのものが低下してしまっていたほどだ。
それから約2年、さまざまな改良が施された「2.0」がリリースされたとのことで、今回改めて試用してみた。初回リリースから現在に至るまでのおもな改良点は同社ページの履歴にあるが、要点を抜粋すると以下のとおりとなる。
・スキャン中のサムネイル画像が表示可能に
・ScanSnap HomeとScanSnap Managerの同時インストールが可能に
・クイックメニューの追加
・タッチパネルで読み取り設定を変更した場合、スキャン後にプロファイルの設定内容に戻るよう改善
・エクスプローラーでファイル削除した場合に、ScanSnap Homeで管理しているコンテンツも削除されるよう改善
・スキャンデータをScanSnap Homeに残さず指定先に保存できるオプションの追加
・コンテンツのインポート、エクスポート機能の追加
実際に使って大きな進化が感じられるのは、プロファイルまわりの機能だ。たとえば本体タッチパネルには、これまでは接続先の全パソコンのプロファイルが横一列にずらりと表示されており、目的のプロファイルを選ぶだけで一苦労だった。
しかし今回の「2.0」では、接続中パソコンのプロファイルだけを表示できるようになった。複数パソコンから利用している場合、家庭内もしくはオフィスで共有している場合は、絞り込んだほうがすっきりしてよいだろう。
またプロファイルの内容をタッチパネル側で一時的に変更したとき、スキャン終了後にきちんと元の内容に書き替わるようになった。これにより、たとえば一時的に「カラー」を「グレー」に変更しただけのはずが、延々とグレーモードでスキャンされ続け、気づいた時には取り返しがつかなくなっていた、というトラブルが起こらないようになっている。
プロファイルのインポート/エクスポートができるようになったのも大きな進化だ。以前のソフトウェア「ScanSnap Manager」の頃から、インポート/エクスポート機能は搭載されていなかったため、パソコンを乗り換えた場合、プロファイルをいちから再入力しなくてはいけなかった。
インポート/エクスポートに対応したことで、移行も簡単になった。パソコンがクラッシュした場合などの備えにもなるので、プロファイルの内容がある程度固まった段階で、外部のドライブにエクスポートしておくとよい。欲を言うならば、クラウドに自動保存するギミックも今後はほしいところだ。
なお同じパソコンに2台以上のScanSnapを接続した場合、プロファイルは共用できず、新たに作り直す必要がある。相変わらずの面倒さを感じる仕様だが、このインポート/エクスポート機能があるおかげで、少なくともいちから作り直す手間は避けられる。そうした意味でも重宝する機能だ。
全体的に融通が利く設計に。スキャン時のプレビュー表示も復活
そのほかの細かい進化も見ていこう。
読み取ったファイルをScanSnap Homeで管理するか、それともファイル保存だけかを選べるようになったのも大きな進化だ。従来は否応なしにScanSnap Homeに取り込まれて管理の対象になっていたため、エクスプローラーでファイルを別の場所に移動させたとき、実体のないファイル情報だけがScanSnap Home上に残ってしまっていた。
今回の機能改善により、ScanSnap Homeはスキャン機能だけを使い、読み取ったファイルの管理は別途エクスプローラーなどで行なえるようになった。筆者のようにファイルをNASに一括保存して複数のパソコンから参照し、編集はAcrobatなどのツールで行なっている場合、この仕様はありがたい。
ちなみにScanSnap Homeで管理する場合も、エクスプローラーでファイルを移動させた場合、それらがScanSnap Homeの管理情報に反映されるようになった。これならば、筆者のようにエクスプローラーでの管理がメインでも、さしあたってのスキャンデータの管理をScanSnap Homeに任せられる。
スキャンした書類上の文字列を読み取って自動的にファイル名をつける機能も進化している。以前までは、自動抽出したファイル名の先頭に日付を入れる場合、「書類内にある日付+書類先頭にある文字列」という組み合わせしか指定できなかったため、日付、とくに西暦の抽出が不正確だった場合に、ファイル名でのソートが役に立たなかった。
しかし新たに「スキャンした日付+書類先頭にある文字列」という組み合わせも可能になったため、スキャンした順にきちんとソートしつつ、その後ろに並ぶ文字列から、内容もある程度推測できるようになった。プレビューと併せれば、ファイルを開かなくとも目的のファイルをほぼ探し当てられるので、非常に有用な機能だ。
ただし上記の設定にしていた場合も、結果的になんの文字列も抽出されず、単なる連番がつけられて終わることも多い。不正確でも強引に取り込んでくれたほうが何らかの対処をしやすいので、ここは軌道修正をしてほしいところだ。
ScanSnap Homeの初回リリース時にはなぜか対応していなかった、スキャン中のプレビュー表示も復活している。以前の「ScanSnap Manager」と比べて明らかに退化している部分だったが、これでほぼ同じ使い勝手に戻ったことになる。
もっとも本製品は読み取り速度が向上したせいで、リアルタイムでのプレビュー表示がかなり際どいタイミングになっている。ローカルではなくNASを保存先に指定しているなど、スキャン以外の処理に時間がかかる場合は、プレビューが追いつかないこともしばしばだ。プレビューをリアルタイムで目視したければ、保存先としてローカルドライブを指定することをお勧めする。
以上のように、使いにくかった点は劇的に改善されており、初回リリース時点のScanSnap Homeによい印象を持っていなかったユーザーから見ても、これならばアリだと感じられるレベルに仕上がっている。かつてのScanSnap Managerを使い続けているユーザーも、乗り換える価値はあるだろう。
ただしあらゆる機能が1つのソフトにまとまっている弊害で、目的の画面をどこから呼び出せるのかがわかりづらい問題はそのままだ。たとえばプロファイルを編集したいとして、頭の中でイメージだけは記憶しているプロファイル変更画面を開くために、ScanSnap Homeのホーム画面からどのようにたどればそこに到達するのか、一発で探し当てるのは難しい。
「使い込んで覚えればいいじゃないか」という考え方もあるだろうが、このあたり、あらゆるユーザーが毎日のようにScanSnapを使うわけではないので、しばらく使っておらず画面遷移を忘れても「たぶんここをクリックすれば行けるはず」で探し当てられるナビゲーションがほしい。次への課題があるとすればここではないかと思う。
なおここで紹介したScanSnap Homeの各機能は、今回のiX1600だけでなく、ここ10年ほどの間に発売された過去のモデルでも利用できる。すでにダウンロード可能になっているので、従来モデルのユーザーも試してみてほしい。
ソフトと合わせて高い完成度。弟分「iX1400」にも注目
以上のように、ハードウェアとしての進化はごくわずかだが、連携ソフトであるScanSnap Homeが進化したことで、見違えるように使いやすくなっている。今回の試用期間中に5千枚近いスキャンを行なったが、きちんとプロファイルさえ作っておけば、あとは本体側でそれらを切り替えながら、あらゆる種類の原稿をスキャンでき、使い勝手にも無理がない。
個人的には、ファイル管理にScanSnap Homeを使わない選択肢ができたのはありがたい。筆者はファイルをNASに保存している関係上、ローカルの管理ソフトを使うという考え方がないのだが(以前のScanSnap Organizerも使っていなかったほどだ)、こうしたさまざまな使い方が許容されることは、言い換えれば多くのユーザにフィットするポテンシャルがある証明でもあり、そうした意味で多くの人に薦めやすい。
最後に今回の「iX1600」、過去モデルからの買い替えが必要か否かだが、従来モデルであるiX1500については、何十枚もの原稿をまとめてセットする機会が多いユーザーは、買い替えるメリットは大きい。3割もの速度アップは相当な効率化につながるからだ。逆に数枚以下でしか原稿をセットしないユーザーは、スルーでも問題ないように思う。
iX1500よりも前、つまりiX500やS1500からの移行については、読み取り速度以外にもさまざまな恩恵があるため文句なくおすすめできるが、ここでもう1つ候補に上がるのが、本製品と同時に発表された、弟分にあたるモデル「iX1400」だ。
この「iX1400」は、iX1600からタッチパネルを省き、かつ接続方法をUSBに一本化したモデルで、価格も1万円安く設定されている(税抜38,000円)。Wi-Fiをサポートしていないことを除けば、従来のiX500の実質的な後継と言えるので、個人ではややオーバースペックな面もある本製品はパスし、こちらを選ぶ選択肢もあるだろう。
いずれにせよ、管理ソフトであるScanSnap HomeはiX1600/1500/1400のほかに、iX500、iX100、さらにはS1300i、S1100、SV600もサポートしているので(残念ながらS1500/S1500Mは非対応)、これらのモデルを所有しているならばまずはScanSnap Homeをアップデートし、それらを試した上で、買い替えを検討することをおすすめしたい。