レビュー
楽しくいじれる4万円の10GbE対応NASキット「TerraMaster F2-422」
2021年1月30日 09:55
TerraMasterの「422」シリーズは、CPUにApollo Lake世代のCeleron J3455を採用した10Gigabit Ethernet(10GbE)対応のNASキットだ。今回代理店のCyberMediaの協力により、2ベイの「F2-422」をお借りできたので、簡単に試用レポートをお届けしたい。Amazonでの価格は39,980円となっている。
シンプルで静音、かつ高性能なNASキット
先述のとおり、F2-422は10GbE対応でありながら、4万円を切る低価格のNASキットだ。10GbEのアダプタはある程度低価格化したものの、ハイエンドを除いてルーターやパソコンでの搭載は少ない。一方で、一般的なGbE対応2ベイNASキットが1万円台後半から入手できることを考慮すると、本機は高いには高い。
ただ、10GbE対応に加え、後述のスペックを考慮すると、むしろ安い部類である。そのためマニュアルは簡素なもので、ユーザーはセットアップしながらオンラインマニュアルを参照することになる。このあたりは初心者向きではない。付属品も、本体のほかに、ドライブを留めるためのネジ、10GbE対応のLANケーブル、ACアダプタ、HDD識別ラベルのみとかなりシンプルだ。
筐体は、アルミ製フレームを、前後のプラスチック製パネルで挟むシンプルな構造。底面に吸気口が多数設けられていて、背面の8cmファン1基で排気するという合理的な仕組みだ。
HDD/SSDを固定するトレイはプラスチック製で、装着するさいはいったんドライブを押し込んでからレバーを下げる必要があるなど、素材と構造にコストダウンの跡が見られるが、そこまで頻繁に抜き差しするものではないし、外装は高級感があるので問題はないだろう。
実態はCeleron J3455搭載のx86パソコン
普段使いではやる必要がないが、背面のネジ4本を外せば、マザーボードといった内部にアクセスできる。そこから見えてきた本機の実態は、普通のx86パソコンであるということだ。
CPUにはApollo LakeベースのCeleron J3455(4コア、1.5~2.3GHz)を採用。メモリは標準で4GBだが、DDR3Lメモリスロットを備えていて、さらに4GB増設可能。USB 3.0ポートを2基備えているほか、Gigabit Ethernetを2基(1基はRTL8153B、1基はRTL8111H)、10Gigabit Ethernet(Aquantia ACQ107)を1基装備。マザーボード上にはHDMIがあるが、背面パネルのカバーで塞がれている。
つまり、F2-422は2つのホットスワップベイと、3基の有線LANを備えたことが特徴のx86パソコンで、TOSという独自OSが動作することでNASとして振る舞っている“だけ”の製品なのだ。標準のOSが気に入らないのであれば、WindowsでもLinuxでもなんでも入れて動作させられるのである。
マザーボード上にHDMIがあるにも関わらず、背面であえて塞がっているのは、TOS自体がディスプレイ出力に対応しておらず、TerraMasterとしてはその用途をサポートできないためだろう。保証外になることを理解した上で、このポートのカバーを外し、ユーザーが好きなOSを入れてパソコンとして使うことはアリなのだ。
よって、F2-422はユーザーがいじれる楽しさを残した製品だと言えるだろう。ちなみに「422」シリーズは基板が共通であり、4ベイの「F4-422」も「F5-422」も同様に運用できるはずだ。
自身でHDDを用意してNASを組み立てるキットの先駆けと言えば、玄人志向の「玄箱」(2004年)や、挑戦者の「白箱」あたりだろうが、その頃のNASキットを彷彿とさせる楽しさが本機にはある。
セットアップは容易。SMBサーバーは手動でオン
専用OSのセットアップは簡単だ。まずはTerraMasterの公式サイトから専用アプリ「TNAS PC」をダウンロード。本機をネットワーク(LAN)につないだあと、TNAS PCでネットワーク検索するとF2-422が見つかるので、そこから本機にWebブラウザ経由でアクセスし、ウィザード形式でセットアップを進めればよい。
基本的な流れは、専用「TOS」をダウンロードしてインストールした後、ボリュームのセットアップを行なう。それが終わればWebブラウザから本機にアクセスできるというシンプルなもの。ウィザードの一部で日本語訳がおかしいところもあるのだが、セットアップ後のUIの日本語訳はそれなりで、実用で困ることはなかった。
本機をセットアップしてみたところ、デフォルトではSMB/CIFSファイルサービス(Windows向け)が無効になっていて、AFP(macOS向け)、FTP、NFSが有効になっていた。これでは一般的なWindowsパソコンでは使いにくいので、SMB/CIFSをオンにしたうえで、セキュリティ性の低いFTPはオフにしておくとよいだろう。
また、デフォルトではTelnet/SSHによる接続も有効になっていた。このあたりは玄人向けの印象が強いのだが、セキュリティ性を考慮するとオフにしておいたほうが無難だとは思う。
TOSではサードパーティのアプリもいくつか用意している。本機はx86ベースのため自由度が高く、VirtualBoxなども動作し、その上で仮想マシンを立てて別のOSを走らせるといったことも可能。このあたりもパワーユーザーには魅力的な機能ではないだろうか。
10GbEの速度は圧倒的……ゲームをNASにインストールして実行もアリ!?
本機の性能をテストするため、本機にSSD(Colorful SL300)を1基搭載し、10GbEポートとテスト環境(Core i9-10900K、Supermicro C9Z490-PGWの10GbEポート)を直結。CrystalDiskMarkを実施してみた。
【表】テスト環境 | |
---|---|
CPU | Core i9-10900K |
メモリ | DDR4-3200 32GB |
ビデオカード | GeForce RTX 3090 |
マザーボード | Supermicro C9Z490-PGW |
GbE | Intel I219-V |
10GbE | Aquantia AQC107 |
OS | Windows 10 20H2 |
ご覧のとおり、10GbE接続時だとQ8T1のシーケンシャルリードで659.23MB/s、Q1T1のシーケンシャルリードで428.79MB/sという成績を残した。製品情報では最大651MB/sとされているので、ほぼスペックどおりといったところ。SSDを2基搭載してストライピングボリュームを作成すれば、さらなる向上も目指せそうだが、この状態でも十分快適だろう。
【2月8日追記】TOS 4.2.09で書き込み性能が改善されました。
ここまで高速だと、ネットワークドライブにドライブレターを割り当て、アプリケーションをインストールして運用するといった“荒業”も可能だ。試しにF2-422上にSteamライブラリを作り、FPSゲーム「DOOM」をインストールし実行してみたが、ローカルとほぼ遜色ない起動時間であった。
これならば、家庭内でSteamのゲームライブラリをF2-422にまとめて保存し、各クライアントはNASをマウントしてゲームをプレイするといったことも現実的だ。ゲーミングパソコン本体を買い替えたり、買い増ししたさいも、ゲームの再インストールをすることなく、Steamのライブラリにマウントするだけでいい。もちろん、買い替え/買い増し先が10GbEを備えていれば、の話ではあるのだが。
10GbEがない筆者宅のルーター(TP-Link AX11000)に接続した場合、Wi-Fi 6経由で1階→2階をまたいでも、60MB/s前後の性能を発揮した。NAS上にあるビデオの再生や写真の閲覧などは、まったく支障のないレベルであった。
ただ、こちらでもSteamライブラリのマウントもDOOMのプレイも可能であったが、さすがに10GbEと比べると起動が遅くかなり待たされた。このあたりは、より多くのルーターにおける10GbE対応と、Wi-Fiのさらなる高速化に期待したい。裏を返せば、筆者にとって「10GbE環境だとゲームをNASにインストールして普通にプレイできる事実」の衝撃は、かなり大きかった。
NASの有用性を再認識
このところクラウドサービスの躍進で、NASキットはすっかり存在感が薄れてしまった感はある。OSやデバイスが当初よりネイティブで対応しているクラウドサービスは、手間を掛けずにデータを保存でき、使い勝手も良いからだ。
しかし近年、多くのクラウドサービスで当初“容量無制限”をおおっぴらに謳っていたものの、結局は容量サブスクリプションモデルへと移行。結局、真面目にサービスを使おうと思っていたユーザーは、翻弄されるだけに過ぎなかった。それだったらいっそNASに戻るのも悪くない。本製品はDDNSやTNAS.online経由でリモートアクセスも可能なので、自宅の外からでも利用できる。もちろん設定や利用はクラウドサービスほど簡単ではないが、NASの黎明期の頃に比べればだいぶ楽だ。
また、自宅内のネットワークを刷新し、全面的に10GbEに移行するのであれば、それによって生まれるNASの新たな使い方も見いだせる。その先行投資として10GbE対応の本製品を購入するのは悪くない選択肢だと思う。