レビュー

PFUのドキュメントスキャナ「ScanSnap iX1500」を試す(前編)

~タッチパネル搭載、UIを一新したフラグシップモデル

PFU「ScanSnap iX1500」。PFUダイレクト価格は税込51,840円

 PFUの「ScanSnap iX1500」は、ドキュメントスキャナ市場で圧倒的な支持を集める「ScanSnap」シリーズの最新モデルだ。従来の「ScanSnap iX500」の後継に相当し、本体のインターフェイスをタッチパネルに集約したほか、PC側のユーティリティを一新したフラグシップモデルという位置づけの製品だ。

 従来モデルに相当する「ScanSnap iX500」の発売が2012年11月だったので、今回の「ScanSnap iX1500」は、約6年ぶりのモデルチェンジということになる。その前は約3年9カ月ぶりだったので、じつに2倍近い期間をかけて登場したことになる。

 もっともこの約6年間で、ドキュメントスキャナを取り巻く環境は大きく変化した。6年前といえば、このクラスのドキュメントスキャナの用途の1つに、本を裁断してデータ化する、いわゆる「自炊」があり、iX500はそれに適した製品として大きく注目を集めた経緯がある。

 しかしそれから6年、電子書籍市場が大幅に拡大し、タイトルが拡充したことで、ユーザーが手持ちの本を自らデータ化する必然性は(ゼロになったとは言わないが)かつてに比べると大きく減少した。自炊用途を大々的にアピールしていたわけではないとはいえ、こうした周辺環境の変化が、新製品である今回のiX1500にどのような影響をおよぼしているかは気になるところだ。

 今回は前後編に分けて、本製品のレビューをお届けする。前編では外観周りの紹介からセットアップ、実際のスキャンまでを、新ソフト「ScanSnap Home」を用いて行なうところまでを見ていきたい。なお、以下では断りがないかぎり、ソフトウェアはすべてWindows版を用いている。

ホワイトを基調にデザインを一新。排紙トレイの構造なども変更に

 まず外観からチェックしていこう。筐体のサイズ感は従来と変わらないが、色がホワイトになったことでずいぶんと違った印象を受ける。従来のiX500は筐体色がブラック、なおかつソリッドなデザインで、ホームユースではかなりの圧迫感があった。なぜよりによってブラックを採用したのか、当時は首をひねるところがあったのも事実だ。

 これに対して今回のモデルは筐体はもちろん、ケーブルやアダプタ類まですべてホワイトという徹底ぶりで、リビングなどにも調和しやすい。本体上部の給紙カバーを開けるとグレーのパネルが姿を表して印象がガラリと変わるのだが、それでもiX500のような圧迫感はない。ただ、やや地味な、事務用品的なルックスに見えるのも事実で、好みは分かれるかもしれない。

給紙カバー、排紙トレイ類をすべてたたんだ状態
同、横から見た状態。背面に原稿をセットして手前に排出する構造は従来と同様
トレイ類を展開した状態。奥行きは約494mmとかなりある
従来モデルのiX500(右)との比較。本製品は直線的なiX500と異なり、曲面が多いデザインであることがわかる
トレイ類を展開した状態。内部のCPUやローラー類は同じとのことだが、ルックスはかなり違っている
横から見た状態。iX500(手前)で特徴的だった上部のトンガリがなくなったことで、背が低くなっている
展開状態。サイズ的にはほとんど違いがないことがわかる

 背面に原稿をセットし、スキャンして手前に排出するという基本的な構造は従来と同様だが、大きく変わったのは、スタッカー(排紙トレイ)が折りたたみ式ではなく、手前に引き出すタイプになったことが挙げられる。

 これは他社のドキュメントスキャナや、ScanSnapでも3世代前のモデルにもみられる方式で、iX500でまれにあった、ヒンジの部分に原稿が引っかかるトラブルの解消が期待される。もっともこの方式は、伸縮のたびにプラスチックが擦れ合って摩耗し、長期間使っているとがたつきが発生することも考えられるので、耐久性についての評価は保留としたい。

排紙トレイ。引っ張って手前に引き出す。プリンタの排紙トレイなどでおなじみの方式で、わずかにカールしているのが特徴
ヒンジで折りたたんでいたiX500(左)とは構造が大きく変更されていることがわかる

 個人的に最初戸惑ったのが、原稿を支える背面のエクステンションが、ほんの4cm程度しか引っ張り出せないことだ。iX500が実測7.5cmも伸ばせたのとは対照的で、当初はなにかロックがかかっていて伸ばせなくなっているのではと疑い、メーカーサイトの写真と実物を見比べてしまったほどだ。

 じつは本製品は、原稿台の面積がiX500に比べて広くなっているため、エクステンションが短くても、挿入口を起点としたエクステンション端までの長さはほとんど違いはなく、A4サイズであればエクステンションは不要とのこと。ほとんどの場合、エクステンションを引っ張り出さずにスキャンすることになりそうだ。

給紙カバーのエクステンション。実測4cm程度と短く、従来のiX500の半分ほどだ

 用紙ガイド、および紙詰まりなどのメンテナンスのために本体前部を開ける機構も、iX500から大きな変化は見られない。また内部のブレーキローラーなどの機構についても、メーカーに確認したところ、iX500とまったく同等とのことだったので、重送防止まわりの挙動についても、違いはないものと考えられる。

 このほか、同社独自のGIプロセッサもiX500と同じとのことで、かつてのS1500からiX500へとモデルチェンジしたときのような、ダイナミックな変化はないようである。

 その一方、読み取り速度は従来の25枚・50面/分から30枚・60面/分へと、わずかながら向上している。他社でもカタログスペック上はこの値を実現している製品はあるが、読み取り開始までの時間や保存にかかる時間がとてつもなくかかる場合も少なくないだけに、実測でも同等のスピードが出る本製品で、さらに高速化したというのは要注目だ。

 そして本製品の最大の特徴となるのが、本体正面中央に配置された、4.3型という巨大なタッチパネルだ。読み取り情報の選択やステータス表示に加えて、従来は物理ボタンだった「Scan」ボタンまで、すべてここに集約されている。これについてはのちほど詳しく紹介する。

用紙ガイドまわりは、オプションの「名刺・レシートガイド」が取りつけられることを除けば、構造はとくに変わらない
レバーを引いて手前に開ける構造も従来と同様だ
ローラー部は、オプション品(FI-CX50R)が共通であることからして、iX500とまったく同じ構造のようだ
背面。従来あったWi-Fiをオン・オフするレバーと、WPSボタンは省略されている
本製品最大の目玉となるのは本体正面のタッチパネルだ。従来は物理ボタンだったScanボタンもここに統合されている
タッチパネルは4.3型とスマートフォン並の大きさ。iPhone SE(4型)よりも大きい

 なお本製品は、かつてDVD-ROMで供給されていたソフトウェアはオンラインからのダウンロードに改められたほか、キャリアシートなしでA3サイズを2つ折りで読み取れるようになったことでキャリアシートも別売となり、結果として同梱品が劇的に簡素化されている。唯一新しく加わった「名刺・レシートガイド」については、次回の後編で詳しく見ていく。

本体以外の同梱品はこれだけ。USBケーブル、ACアダプタ、電源ケーブルに加えて、上段の「名刺・レシートガイド」が新たに同梱されている
ACアダプタは、従来のiX500/SV600共通のモデル(下)に比べてひとまわり大きくなっている

セットアップは本体タッチパネルとユーティリティの併用

 ではセットアップから、実際にスキャンを行なうところまでを見ていこう。本製品は有線接続(USB)もしくはWi-Fiでの無線接続のどちらかを選択でき、後者はアクセスポイント経由での接続とアドホック接続のどちらを選択する。今回は、比較に用いるiX500も含め、アクセスポイント経由でのWi-Fi接続にてテストを行なっている。

 セットアップは、前半はスキャナ本体のタッチパネル上で、後半はPC上で行なうという2段がまえだ。まず最初に接続方法としてWi-Fiを選ぶと、ネットワークが自動検出されるので、パスワードを入力する。その後、利用デバイスとしてPCを選択していた場合は、PCにソフトウェア「ScanSnap Home」をインストールするように促されるので、Webサイトからダウンロードし、インストールを実行する。

 これらは文章で説明するとやや長く煩雑に感じられるかもしれないが、とくに気をてらったフローではなく、表示もわかりやすいので、従来モデルのユーザーでも、また新規ユーザーであっても戸惑うことはないだろう。今回はまっさらなPCにインストールを行なったが、見知らぬ付属ソフトが自動インストールされることもなく、好印象だ。

電源ケーブルを接続し、本体の給紙カバーを開く。電源は自動的にオンになる
給紙カバーを開くと電源がオンになり手前のタッチパネルにセットアップ手順が表示される
A4を超える長尺原稿であればエクステンションも伸ばしておく
排紙トレイを手前に引っ張り出して展開する
ScanSnapロゴが表示されたのち、言語を選ぶ画面が表示されるので日本語を選択
起動モードを選択する。従来と同じ挙動を選ぶ場合は「ノーマル」を選択
使用するデバイスを選ぶ。あとからでも変更できるので、今回はひとまず「コンピュータ」を選ぶ
接続方法を選ぶ。今回はWi-Fi(アクセスポイント接続)を選択。このあとWi-Fiを手動もしくはWPSなどで設定する
サイトにアクセスしてソフトウェアをダウンロードするよう促される。次以降はPCでの設定画面
まずは「ScanSnap Home」をインストールする。インストール可能な台数など従来と異なる条件があるのでざっと目を通しておこう
手順にしたがってセットアップを実行する。機種選択の画面では「iX1500」を選択
ネットワークがスキャンされ、製品が見つかったら選択して「次へ」をクリック
セットアップ完了。この時点でスキャナが操作可能になっている
スキャナに戻ると操作パネルが表示されている。上部で読み取り設定を選んだのち「Scan」ボタンを押すとスキャンが開始される

 セットアップが完了したら、スキャンが可能な状態になっているので、まずは適当な原稿をセットしてスキャンを試してみよう。原稿台に原稿を裏向きにセットした上で、本体のタッチパネルで設定を選び「Scan」ボタンをタップすることでスキャンが実行される。

 なおタッチパネルに表示される「Scan」ボタンは、ScanSnapロゴの「Scan」部分と同じデザインなのだが、ボタンのわりに立体感もなく、一見すると装飾や広告バナーのように見えるので、最初見たときにボタンであることがわからず、どこを押せばよいのか戸惑ってしまった。なにかの情報が通知されるエリアだと誤解する人もいるかもしれない。

 スキャンが終わると、「ScanSnap Home」に、読み取ったファイルの情報がサムネイルつきで表示される。そのまま終了してもかまわないし、引き続きビューアを起動してページの回転や削除などの編集作業を行なうことも可能だ。なおスキャナ本体に電源ボタンがなく、給紙カバーを閉じると自動的に電源がオフになるのは、従来のScanSnapと同じ仕様だ。

「Scan」ボタンをタップすると読み取りが開始される
読み取りが完了すると「ScanSnap Home」のホーム画面に、読み取ったファイルの情報がサムネイルつきで表示される。従来の「ScanSnap Organizer」に近い印象だ
ビューアを起動したところ。この画面でページの挿入や削除、回転や傾き補正、トリミングなどが行なえる
【動画】スキャン中の様子(読み取り設定は上記とは若干異なる)。読み取り速度は30枚・60面/分
【動画】こちらは従来モデル(iX500)でのスキャンの様子。読み取り速度は毎分25枚・50面とわずかに遅いが、露骨にわかるほどの差はない

 ちなみに動作音については、iX500との違いをほとんど感じない。筆者の手元にあるiX500は数年間使い込んだモデルで、機械部品の摩耗などで動作音が新品とは異なる可能性があるため断言はできないが、少なくともiX500に比べて明らかに騒々しいとか、逆に圧倒的に静かということはない。筐体のデザインが変わったことで響き方が若干変わった程度の違いだ。

スキャナ本体のディスプレイに表示される内容と、PC側に表示される画面は基本的に同期している。どちらの「Scan」ボタンを押してもスキャンが開始される
タッチパネルの方式はカタログにも明記されていないが、試しに軍手をつけた状態でタッチしても反応したので、作業現場など手袋をつけた状態でも操作は可能だ。物理ボタンの利点もしっかり補っている

一新されたソフト「ScanSnap Home」は使い勝手も良好

 さて、本製品は「ScanSnap Home」という新しいユーティリティが搭載され、従来のScanSnap Managerなどのソフトウェアは、すべてこちらに統合されるかたちになっている。

 従来のソフトは、役割ごとにバラバラに動いていたほか、後から機能追加に伴って加わったソフトもあって非常にとっつきにくい印象だったが、今回はこのScanSnap Homeに集約されたことで、ずいぶんとスッキリした。実際に使っていても、このなかで完結させられるという安心感がある。

 なお従来の環境で読み取ったPDFなどのデータやフォルダは移行できるが、ScanSnap Managerの読み取り設定(プロファイル)は移行できず、新たに作成する必要がある。今回のScanSnap Homeには以前のScanSnap Managerの時点でなかった設定項目もあるためこのような措置にならざるを得なかったようだが、大量の読み取り設定がある場合は移行にかなり手間取ることが予想される。ここは少々残念なポイントだ。

【お詫びと訂正】データ移行について一部誤りがありましたので、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正させていただきます。

「ScanSnap Home」のスキャン設定の画面(ホーム画面とは異なる)。右上のアイコン2つを使って、読み取り設定(プロファイル)の追加・変更が行なえる
これはプリセットされている「おまかせスキャン」を開いたところ。既存の読み取り設定を変更するにはこの画面から行なう
こちらはプロファイルの新規追加画面。左側にプロファイルの例が登録されているので、近いものを選んでそれをベースに編集する
詳細設定の画面。「タイトル」では、従来はなかったタイトル自動認識の設定が追加されている
「ファイル形式」。ここは従来と同じく、PDFもしくはJPEGの二択となる。「オプション」をクリックするとPDF/A-1b準拠を選んだりPDFにパスワードを付与する設定が行なえる
「スキャン」。従来とほぼ同じだが「向き」の選択肢が増えているなどの違いがある。「オプション」をクリックすると裏写り軽減や傾き自動補正などの設定が行なえる
「ファイルサイズ」。ここも従来とほぼ同じ。従来あったスライダーで調整できるインターフェイスはなくなった
フィードのオプションからは、通常スキャン/継続スキャンの選択や、原稿サイズの指定、重なりの検出方法の指定のほか、新しく追加された縦筋軽減オプションが設定できる
これらの設定を終え、プロファイル名をつけて「追加」をクリックすると新しいプロファイルとして登録される
スキャン画面にも新しいプロファイルとして追加され、スキャナ本体側で選択した上で実行できるようになった

 なお、ざっと使ってみたあと、筆者が設定を変更した箇所がいくつかあるので紹介しておく。1つは保存先のフォルダで、デフォルトではCドライブのユーザーフォルダのかなり深い階層(C:¥Users¥ユーザー名¥AppData¥Roaming¥PFU¥ScanSnap Home¥ScanSnap Home)が指定されているのだが、これを通常のドキュメントフォルダに変更した。

 理由は、階層が深すぎてエクスプローラー上から探しにくいことに加えて、この設定だとWindows標準のバックアップの対象にならないからだ。ドキュメントフォルダであれば、Windows 10の自動バックアップの対象に含まれるので、ある意味で安全だ。この設定は環境設定画面から変更できる。

保存先のフォルダは環境設定で一括変更できる。ちなみにプロファイルごとに保存先フォルダを指定することも可能だ

 もう1つは、読み取りタイトルの設定だ。今回のScanSnap Homeは、「ScanSnap Cloud」で採用された、原稿内の日付や文字列から、タイトルを自動生成する機能を搭載している。タイトルを手動で書き換えなくとも内容をある程度把握できる便利な機能なのだが、すべてこのフォーマットで統一されてしまうと、エクスプローラー上での日付順の並び替えが不自由になる。

 そのため、自動生成されるタイトルの手前に、スキャンをした日付が挿入されるように変更した。これによって、過去にScanSnapで読み取ったPDFと同じフォルダに保存しても、スキャン日によるソートが容易になる。

「常にスキャン日付を使用します」にチェックを入れて、自動生成されるタイトルの手前にスキャン日が入るように変更した。「時・分・秒を含めます」にもチェックを入れておく
ちなみにこちらは従来の「ScanSnap Manager」の画面。今回の「ScanSnap Home」はいわば上位互換ということになる

タッチパネルを使った本体側での操作は合理的

 以上、ひととおり使えるようになるところまでを紹介した。ざっと使ったかぎりでは、ユーティリティが一新されているため、まったく新しい製品を使っているように感じられるが、スキャナとしての使い勝手は、従来のiX500とそれほど違ったようには感じない。

 ただ本体側で読み取り設定を選べるのは非常に便利かつ合理的で、1度使ってしまうと、PC側で読み取り設定を選んでからスキャナ側でScanボタンを押していたこれまでの操作が、非常にわずらわしく感じられるようになる。「ScanSnap Home」自体は従来のiX500やiX100、SV600などにも対応するが(ちなみに2世代前のS1500は非対応だ)、タッチパネルが使えるのは本製品だけであり、それこそが本製品の価値ということになる。

 なおタッチパネルの応答速度は高速で、スマートフォン並みと言っていいスピードだ。一般的に、タッチインターフェイスを備えたハードウェアは、どれだけ機能や性能が優秀であっても、タッチパネルの反応が悪いというだけで評価がガタ落ちになることもしばしばだが、今回の製品は充分すぎるほどレスポンスはよく、不満はまったく感じない。この点については心配しなくてよさそうだ。

本体タッチパネルの下段左側に並ぶ3つのアイコンをタップすることで、上段で選択した読み取り設定の内容を一時的に変更できる
画質設定を変更するには3つ並んだアイコンのいちばん下をタップする。ちなみに今回から画質の表記が「ファイン」、「スーパーファイン」などの文言だけになり、具体的なdpiが記載されなくなっている
フィード設定では通常スキャン、継続スキャンのほかに「手差しスキャン」が追加されているのも新しい。これについては次回の後編で詳しく紹介する
そのほか、本体側でWi-Fiまわりの設定変更やメンテナンスを行なうことも可能だ

 以上、外観周りの紹介からセットアップ、実際のスキャンまでを、新ソフト「ScanSnap Home」を用いて行なうところまでをお届けした。次回の後編では、新機能である手差しスキャンなど従来モデルとの差異の部分のチェック、またオプションの名刺レシートガイドを使ったスキャンなどを(少し時間をかけて試用した上で)お届けする。