レビュー
PFUのドキュメントスキャナ「ScanSnap iX1500」を試す(前編)
~タッチパネル搭載、UIを一新したフラグシップモデル
2018年10月6日 11:00
PFUの「ScanSnap iX1500」は、ドキュメントスキャナ市場で圧倒的な支持を集める「ScanSnap」シリーズの最新モデルだ。従来の「ScanSnap iX500」の後継に相当し、本体のインターフェイスをタッチパネルに集約したほか、PC側のユーティリティを一新したフラグシップモデルという位置づけの製品だ。
従来モデルに相当する「ScanSnap iX500」の発売が2012年11月だったので、今回の「ScanSnap iX1500」は、約6年ぶりのモデルチェンジということになる。その前は約3年9カ月ぶりだったので、じつに2倍近い期間をかけて登場したことになる。
もっともこの約6年間で、ドキュメントスキャナを取り巻く環境は大きく変化した。6年前といえば、このクラスのドキュメントスキャナの用途の1つに、本を裁断してデータ化する、いわゆる「自炊」があり、iX500はそれに適した製品として大きく注目を集めた経緯がある。
しかしそれから6年、電子書籍市場が大幅に拡大し、タイトルが拡充したことで、ユーザーが手持ちの本を自らデータ化する必然性は(ゼロになったとは言わないが)かつてに比べると大きく減少した。自炊用途を大々的にアピールしていたわけではないとはいえ、こうした周辺環境の変化が、新製品である今回のiX1500にどのような影響をおよぼしているかは気になるところだ。
今回は前後編に分けて、本製品のレビューをお届けする。前編では外観周りの紹介からセットアップ、実際のスキャンまでを、新ソフト「ScanSnap Home」を用いて行なうところまでを見ていきたい。なお、以下では断りがないかぎり、ソフトウェアはすべてWindows版を用いている。
ホワイトを基調にデザインを一新。排紙トレイの構造なども変更に
まず外観からチェックしていこう。筐体のサイズ感は従来と変わらないが、色がホワイトになったことでずいぶんと違った印象を受ける。従来のiX500は筐体色がブラック、なおかつソリッドなデザインで、ホームユースではかなりの圧迫感があった。なぜよりによってブラックを採用したのか、当時は首をひねるところがあったのも事実だ。
これに対して今回のモデルは筐体はもちろん、ケーブルやアダプタ類まですべてホワイトという徹底ぶりで、リビングなどにも調和しやすい。本体上部の給紙カバーを開けるとグレーのパネルが姿を表して印象がガラリと変わるのだが、それでもiX500のような圧迫感はない。ただ、やや地味な、事務用品的なルックスに見えるのも事実で、好みは分かれるかもしれない。
背面に原稿をセットし、スキャンして手前に排出するという基本的な構造は従来と同様だが、大きく変わったのは、スタッカー(排紙トレイ)が折りたたみ式ではなく、手前に引き出すタイプになったことが挙げられる。
これは他社のドキュメントスキャナや、ScanSnapでも3世代前のモデルにもみられる方式で、iX500でまれにあった、ヒンジの部分に原稿が引っかかるトラブルの解消が期待される。もっともこの方式は、伸縮のたびにプラスチックが擦れ合って摩耗し、長期間使っているとがたつきが発生することも考えられるので、耐久性についての評価は保留としたい。
個人的に最初戸惑ったのが、原稿を支える背面のエクステンションが、ほんの4cm程度しか引っ張り出せないことだ。iX500が実測7.5cmも伸ばせたのとは対照的で、当初はなにかロックがかかっていて伸ばせなくなっているのではと疑い、メーカーサイトの写真と実物を見比べてしまったほどだ。
じつは本製品は、原稿台の面積がiX500に比べて広くなっているため、エクステンションが短くても、挿入口を起点としたエクステンション端までの長さはほとんど違いはなく、A4サイズであればエクステンションは不要とのこと。ほとんどの場合、エクステンションを引っ張り出さずにスキャンすることになりそうだ。
用紙ガイド、および紙詰まりなどのメンテナンスのために本体前部を開ける機構も、iX500から大きな変化は見られない。また内部のブレーキローラーなどの機構についても、メーカーに確認したところ、iX500とまったく同等とのことだったので、重送防止まわりの挙動についても、違いはないものと考えられる。
このほか、同社独自のGIプロセッサもiX500と同じとのことで、かつてのS1500からiX500へとモデルチェンジしたときのような、ダイナミックな変化はないようである。
その一方、読み取り速度は従来の25枚・50面/分から30枚・60面/分へと、わずかながら向上している。他社でもカタログスペック上はこの値を実現している製品はあるが、読み取り開始までの時間や保存にかかる時間がとてつもなくかかる場合も少なくないだけに、実測でも同等のスピードが出る本製品で、さらに高速化したというのは要注目だ。
そして本製品の最大の特徴となるのが、本体正面中央に配置された、4.3型という巨大なタッチパネルだ。読み取り情報の選択やステータス表示に加えて、従来は物理ボタンだった「Scan」ボタンまで、すべてここに集約されている。これについてはのちほど詳しく紹介する。
なお本製品は、かつてDVD-ROMで供給されていたソフトウェアはオンラインからのダウンロードに改められたほか、キャリアシートなしでA3サイズを2つ折りで読み取れるようになったことでキャリアシートも別売となり、結果として同梱品が劇的に簡素化されている。唯一新しく加わった「名刺・レシートガイド」については、次回の後編で詳しく見ていく。
セットアップは本体タッチパネルとユーティリティの併用
ではセットアップから、実際にスキャンを行なうところまでを見ていこう。本製品は有線接続(USB)もしくはWi-Fiでの無線接続のどちらかを選択でき、後者はアクセスポイント経由での接続とアドホック接続のどちらを選択する。今回は、比較に用いるiX500も含め、アクセスポイント経由でのWi-Fi接続にてテストを行なっている。
セットアップは、前半はスキャナ本体のタッチパネル上で、後半はPC上で行なうという2段がまえだ。まず最初に接続方法としてWi-Fiを選ぶと、ネットワークが自動検出されるので、パスワードを入力する。その後、利用デバイスとしてPCを選択していた場合は、PCにソフトウェア「ScanSnap Home」をインストールするように促されるので、Webサイトからダウンロードし、インストールを実行する。
これらは文章で説明するとやや長く煩雑に感じられるかもしれないが、とくに気をてらったフローではなく、表示もわかりやすいので、従来モデルのユーザーでも、また新規ユーザーであっても戸惑うことはないだろう。今回はまっさらなPCにインストールを行なったが、見知らぬ付属ソフトが自動インストールされることもなく、好印象だ。
セットアップが完了したら、スキャンが可能な状態になっているので、まずは適当な原稿をセットしてスキャンを試してみよう。原稿台に原稿を裏向きにセットした上で、本体のタッチパネルで設定を選び「Scan」ボタンをタップすることでスキャンが実行される。
なおタッチパネルに表示される「Scan」ボタンは、ScanSnapロゴの「Scan」部分と同じデザインなのだが、ボタンのわりに立体感もなく、一見すると装飾や広告バナーのように見えるので、最初見たときにボタンであることがわからず、どこを押せばよいのか戸惑ってしまった。なにかの情報が通知されるエリアだと誤解する人もいるかもしれない。
スキャンが終わると、「ScanSnap Home」に、読み取ったファイルの情報がサムネイルつきで表示される。そのまま終了してもかまわないし、引き続きビューアを起動してページの回転や削除などの編集作業を行なうことも可能だ。なおスキャナ本体に電源ボタンがなく、給紙カバーを閉じると自動的に電源がオフになるのは、従来のScanSnapと同じ仕様だ。
ちなみに動作音については、iX500との違いをほとんど感じない。筆者の手元にあるiX500は数年間使い込んだモデルで、機械部品の摩耗などで動作音が新品とは異なる可能性があるため断言はできないが、少なくともiX500に比べて明らかに騒々しいとか、逆に圧倒的に静かということはない。筐体のデザインが変わったことで響き方が若干変わった程度の違いだ。
一新されたソフト「ScanSnap Home」は使い勝手も良好
さて、本製品は「ScanSnap Home」という新しいユーティリティが搭載され、従来のScanSnap Managerなどのソフトウェアは、すべてこちらに統合されるかたちになっている。
従来のソフトは、役割ごとにバラバラに動いていたほか、後から機能追加に伴って加わったソフトもあって非常にとっつきにくい印象だったが、今回はこのScanSnap Homeに集約されたことで、ずいぶんとスッキリした。実際に使っていても、このなかで完結させられるという安心感がある。
なお従来の環境で読み取ったPDFなどのデータやフォルダは移行できるが、ScanSnap Managerの読み取り設定(プロファイル)は移行できず、新たに作成する必要がある。今回のScanSnap Homeには以前のScanSnap Managerの時点でなかった設定項目もあるためこのような措置にならざるを得なかったようだが、大量の読み取り設定がある場合は移行にかなり手間取ることが予想される。ここは少々残念なポイントだ。
【お詫びと訂正】データ移行について一部誤りがありましたので、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正させていただきます。
なお、ざっと使ってみたあと、筆者が設定を変更した箇所がいくつかあるので紹介しておく。1つは保存先のフォルダで、デフォルトではCドライブのユーザーフォルダのかなり深い階層(C:¥Users¥ユーザー名¥AppData¥Roaming¥PFU¥ScanSnap Home¥ScanSnap Home)が指定されているのだが、これを通常のドキュメントフォルダに変更した。
理由は、階層が深すぎてエクスプローラー上から探しにくいことに加えて、この設定だとWindows標準のバックアップの対象にならないからだ。ドキュメントフォルダであれば、Windows 10の自動バックアップの対象に含まれるので、ある意味で安全だ。この設定は環境設定画面から変更できる。
もう1つは、読み取りタイトルの設定だ。今回のScanSnap Homeは、「ScanSnap Cloud」で採用された、原稿内の日付や文字列から、タイトルを自動生成する機能を搭載している。タイトルを手動で書き換えなくとも内容をある程度把握できる便利な機能なのだが、すべてこのフォーマットで統一されてしまうと、エクスプローラー上での日付順の並び替えが不自由になる。
そのため、自動生成されるタイトルの手前に、スキャンをした日付が挿入されるように変更した。これによって、過去にScanSnapで読み取ったPDFと同じフォルダに保存しても、スキャン日によるソートが容易になる。
タッチパネルを使った本体側での操作は合理的
以上、ひととおり使えるようになるところまでを紹介した。ざっと使ったかぎりでは、ユーティリティが一新されているため、まったく新しい製品を使っているように感じられるが、スキャナとしての使い勝手は、従来のiX500とそれほど違ったようには感じない。
ただ本体側で読み取り設定を選べるのは非常に便利かつ合理的で、1度使ってしまうと、PC側で読み取り設定を選んでからスキャナ側でScanボタンを押していたこれまでの操作が、非常にわずらわしく感じられるようになる。「ScanSnap Home」自体は従来のiX500やiX100、SV600などにも対応するが(ちなみに2世代前のS1500は非対応だ)、タッチパネルが使えるのは本製品だけであり、それこそが本製品の価値ということになる。
なおタッチパネルの応答速度は高速で、スマートフォン並みと言っていいスピードだ。一般的に、タッチインターフェイスを備えたハードウェアは、どれだけ機能や性能が優秀であっても、タッチパネルの反応が悪いというだけで評価がガタ落ちになることもしばしばだが、今回の製品は充分すぎるほどレスポンスはよく、不満はまったく感じない。この点については心配しなくてよさそうだ。
以上、外観周りの紹介からセットアップ、実際のスキャンまでを、新ソフト「ScanSnap Home」を用いて行なうところまでをお届けした。次回の後編では、新機能である手差しスキャンなど従来モデルとの差異の部分のチェック、またオプションの名刺レシートガイドを使ったスキャンなどを(少し時間をかけて試用した上で)お届けする。