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無料のAMDストレージ高速化技術「StoreMI」でHDD/SSDが速くなるか検証

StoreMI

 第2世代Ryzenとともに登場したAMD X470 チップセットでは、ストレージ高速化技術である「AMD StoreMI」が無料で利用できる。今回はAMD StoreMIの利用方法と、その効果のほどを検証したテストレポートをお届けする。

階層型ストレージ高速化技術を提供する「AMD StoreMI」

 AMDのStoreMIは、Ryzenを搭載するAMD 300/400 シリーズチップセット搭載PC向けに有償で提供されている「Enmotus FuzeDrive for AMD Ryzen」の派生バージョンで、階層型ストレージ高速化技術を提供するソフトウェアだ。

 StoreMIでは、高速なSSDを「Fast Tier」、低速なHDDやSSDを「Slow Tier」として選択し、2台のドライブを統合した仮想ドライブを作成することで性能を最適化する。作成した仮想ドライブには2GBのメインメモリをキャッシュとして追加することもできる。

 単純に言えば「SSDを使ってHDDを高速化する」というもので、これはIntel Optane MemoryやIntel Smart Response Technology(ISRT)に近いイメージだ。しかし、ISRTがSSDをHDDのキャッシュとして利用するのに対し、StoreMIは2つのドライブを結合して高速化するという違いがある。

 記事執筆時点でStoreMIが利用できるのはAMD X470 チップセット搭載マザーボードのみ。対応OSはWindows 10で、Fast Tierとして有効に利用できる記憶容量は256GBとなっている。

【表1】AMD StoreMIとFuzeDrive for AMD Ryzenのおもな機能
AMD StoreMIFuzeDrive BasicFuzeDrive Plus
対応チップセットX470X470/X370/B350/A320/X399
Fast Tier 最大容量256 GB128 GB1 TB
DRAMキャッシュ容量2 GB4 GB
対応OSWindows 10
価格無料19.99 ドル59.99 ドル

 StoreMIは、OS起動用のブートドライブや倉庫用のデータドライブへの適用が可能で、すでに使用中のドライブのデータを保持したまま、Fast Tier用SSDを追加しての高速化や、Slow Tierを追加して記憶容量の拡張を行なえる。

 ただし、OSインストール済みのSSDにHDDを追加して容量を拡張する場合、OSがUEFIモードでインストールされていないと、仮想ドライブの最大容量は2TBまでに制限される。

StoreMIの仮想ドライブ作成手順

 StoreMIの仮想ドライブ作成手順を確認していこう。

 StoreMIで仮想ドライブを作成する過程で操作を誤ると、ストレージのデータを消してしまうリスクがあるので注意してほしい。

 また、仮想ドライブ化したデバイスを完全に元の状態に戻すにはディスクの初期化が必要となるので、実際に利用する場合は作成手順と解除方法を事前に理解しておきたい。

 まずは、AMDのWebサイトからStoreMIのインストーラをダウンロードして実行する。セットアップウィザードにしたがってStoreMIと、StoreMIの動作に必要なJava Runtimeをインストールする。

StoreMIのインストーラ。AMDのWebサイトから入手できる
セットアップタイプの選択では「Express」を選択しておけば問題ない
StoreMIの動作にはJava 1.7以上が必要。ここで「はい」を選ぶとJava Runtimeのインストーラが起動する
Java Runtimeのセットアップを進めてインストールを完了させる
StoreMIのセットアップウィザードに戻ると、インストールしたStoreMIについての情報が表示されている
StoreMIとJava Runtimeのインストール後、PCを再起動すればStoreMIのインストールは完了

 StoreMIを起動すると、ハードウェア構成のスキャンが行なわれた後、仮想ドライブ(TierDrive)の作成画面が表示される。

 PCに接続されたストレージデバイスが仮想ドライブの作成条件を満たしていれば、「Create Bootable StoreMI」、「Create Non-Bootable StoreMI」、「New Non-Bootable StoreMI」の3項目が選択可能となっている。

StoreMIのメイン画面。

 OS起動用のブートドライブでStoreMIを利用する場合は「Create Bootable StoreMI」、データドライブをStoreMIで高速化する場合は「Create Non-Bootable StoreMI」を利用する。

 手順は使用するドライブなどにより若干異なるが、基本的にはFast TierとSlow Tierを選択して、仮想ドライブを作成するだけの簡単なものだ。

 データドライブの作成ではCreate Optionを選択することで、仮想ドライブの属性(Drive Type)やDRAMキャッシュの有無を設定可能だが、これはあとからいつでも変更できる。

Create Non-Bootable StoreMIのドライブ選択画面。Fast TierとSlow Tierをそれぞれ1台ずつ選択し、Createを押すと仮想ドライブの作成が開始される
Create Optionでは、Drive TypeやDRAMキャッシュの設定が可能。Drive Typeは仮想ドライブをOSにSSDとHDDのどちらで認識させるかの選択で、これによって最適化の方法が変化する

 第3の仮想ドライブ作成方法である「New Non-Bootable StoreMI」は、「Create Non-Bootable StoreMI」と同じようにデータドライブでStoreMIを利用するものだが、この手順は未使用ドライブの利用を前提としており、作成の過程でドライブのパーティションが削除される。

 一応、パーティション削除前に英文で警告が表示されるが、選択を誤ればドライブに保存しているデータをすべて失う危険がある。くれぐれも使用中のデータドライブを選択しないよう注意したい。

New Non-Bootable StoreMIのドライブ選択画面。GUIは「Create Non-Bootable StoreMI」と同じなので誤認しやすいので注意したい
CreateやCreate Optionを押した時点でパーティションの存在するドライブを選択していると、パーティションの削除する旨の警告が表示される。ここでOKを押した時点でドライブのパーティションは削除されてしまう

 作成した仮想ドライブの記憶容量はFast TierとSlow Tierの容量を合算したものとなる。作成手順次第で仮想ドライブの記憶容量がSlow Tierの容量のままになっている場合があるが、Windowsの「ディスクの管理」から「ボリュームの拡張」を実行することで記憶容量を拡張できる。

 また、仮想ドライブ作成後にStoreMIを起動すると、メイン画面で「Change Settings」が選択可能となっている。ここで作成した仮想ドライブを選択して「Modify」をクリックすると、Drive TypeやDRAMキャッシュの設定変更が行なえる。

作成された仮想ドライブは、選択した構成によっては全容量が利用可能になっていない場合がある。この場合、Windowsのディスクの管理からボリュームの拡張を実行してパーティションを拡大しよう
仮想ドライブ作成後のStoreMIのメイン画面。仮想ドライブの設定変更はChange Settingsから行なう
仮想ドライブを選択してからModifyを実行すると、作成時のCreate Optionとほぼ同じ設定が可能

StoreMIで作成した仮想ドライブの解除と削除

 StoreMIで作成した仮想ドライブを解除する場合は、StoreMIのメイン画面から「Remove StoreMI」を実行する。解除対象となる仮想ドライブを確認してRemoveを実行すれば解除作業が開始される。

 Remove StoreMIによるStoreMIの解除作業とは、仮想ドライブのデータをすべてSlow Tierへ移動した上で、Fast Tierを初期化して仮想ドライブから分離するというもの。このため、仮想ドライブに保存されているデータがSlow Tierの容量より大きい場合は解除できない。

Remove StoreMIを実行すると、解除対象の仮想ドライブが表示され、Removeを押すと解除作業がスタートする。
仮想ドライブに保存されているデータ容量がSlow Tierの容量を上回っている場合、解除作業は実行できない。

 解除に成功すると、Fast Tierに利用していたSSDはクリーンな状態となり、Slow Tierはシングルドライブモードの仮想ドライブとなる。

 この状態では、シングルドライブモードとなったSlow Tierに新しいFast Tierを追加することは可能だが、まったく新しい仮想ドライブを作成することはできない。

解除作業が完了するとFast TierだったSSDはブランク状態で解放されるが、Slow Tierはシングルドライブモードの仮想ドライブとなる。
仮想ブートドライブをRemoveした状態。Slow Tierが仮想ブートドライブとして残っているため、仮想データドライブ作成項目はグレーアウトしている。

 StoreMIで作成した仮想ドライブ完全に削除する場合は、Change Settingsから削除対象の仮想ドライブを選択してDeleteを実行する。ただし、これを実行すると仮想ドライブのデータがすべて削除されるため、事前にバックアップしておく必要がある。

 また、実行中のOSがインストールされている仮想ドライブのDeleteはできないので、まずはOS移行ツールで別の単体ドライブにOSを移し、移動したドライブでOSを起動してDeleteを実行する必要がある。

Change SettingsでDeleteを実行すれば仮想ドライブを完全に削除できる。
実行中のOSがインストールされている仮想ドライブに対してはDeleteを実行できない。

テスト機材

 それでは、StoreMIの効果の検証に移りたい。

 今回の検証では、ASUSのX470チップセット搭載マザーボード「PRIME X470-PRO」に「Ryzen 7 2700」を搭載したテスト環境を使って、StoreMIで作成したデータドライブの性能を検証する。

TDP 65Wの8コア16スレッドCPU「Ryzen 7 2700」
ASUSのX470チップセット搭載マザーボード「PRIME X470-PRO」

 StoreMIで仮想ドライブを作成するためのストレージデバイスには、Fast Tier用に「Intel SSD 760p」と「Samsung SSD 860 EVO」。Slow Tier用に「SanDisk Ultra 3D SSD」、「WD Blue WD20EZRZ」を用意した。

 各デバイスのおもなスペックは以下のとおり。

【表2】StoreMIテスト用ストレージデバイス
Intel SSD 760pSamsung SSD 860 EVOSanDisk Ultra 3D SSDWD Blue WD20EZRZ
記憶容量256 GB250 GB1 TB2 TB
フォームファクターM.2 (22×80mm/M Key)M.2 (22×80mm/B+M Key)2.5インチ(7mm厚)3.5インチ
インターフェースPCI Express 3.0 x46Gbps SATA
プロトコルNVMeAHCI
回転数-5,400 rpm
内部転送速度-147 MB/s
シーケンシャル・リード3,210 MB/s550 MB/s560 MB/s-
シーケンシャル・ライト1,315 MB/s520 MB/s530 MB/s-
ランダム・リード205,000 IOPS98,000 IOPS95,000 IOPS-
ランダム・ライト265,000 IOPS90,000 IOPS84,000 IOPS-
書き込み上限数144 TBW150 TBW400 TBW-
Fast Tier用ドライブ
NVMe SSDの「Intel SSD 760p (256GB)」
M.2 SATA SSDの「Samsung SSD 860 EVO (250GB)」
Slow Tier用ドライブ
SATA SSDの「SanDisk Ultra 3D SSD (1TB)」
3.5インチHDDの「WD Blue WD20EZRZ (2TB)」

 そのほかの機材は以下のとおり。

【表3】テスト機材
CPUAMD Ryzen 7 2700
マザーボードASUS X470-PRO (UEFI:4011)
メモリDDR4-2933 8GB×2 (16-18-18-36、1.35V)
GPUNVIDIA GeForce GTX 1080 8GB
システム用ストレージCrucial MX300 CT525MX300SSD1 (256GB SSD/6Gbps SATA)
電源玄人志向 KRPW-TI700W/94+ (700W 80PLUS Titanium)
グラフィックスドライバGeForce Game Ready Driver 397.64
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver 1803 / build 17134.48)
電源設定高パフォーマンス

SATA SSDをFast TierにしたStoreMIの性能

 まずはM.2 SATA SSDである「Samsung SSD 860 EVO」をFast Tierに使用したさいの性能から紹介する。組み合わせたSlow TierはHDDの「WD Blue WD20EZRZ」。

 CrystalDiskMarkの実行結果では、StoreMIで構築した仮想ドライブは単体時のSamsung SSD 860 EVOに匹敵する性能を発揮し、DRAMキャッシュを有効にするとリード性能が大幅に向上したことが確認できた。

単体での性能
Samsung SSD 860 EVOのCrystalDiskMark実行結果
WD Blue WD20EZRZのCrystalDiskMark実行結果
StoreMI (SSD + HDD)の性能
StoreMI (SSD + HDD、DRAMキャッシュ無効)
StoreMI (SSD + HDD、DRAMキャッシュ有効)

 続いて、「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」のローディングタイムと、4K解像度パックを適用した「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION」のセーブデータロード時間を各3回ずつ測定して比較した。

ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク (ローディングタイム)
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION (セーブデータロード時間)

 総じてStoreMI構築直後に実施した1回目の測定では、HDDを単体で使ったときよりロードに時間がかかっているものの、2回目以降は大きく高速化され、Fast Tierに用いたSSD単体時の性能に迫っている。

 DRAMキャッシュの効果については、2回目以降の測定において、「ファイナルファンタジーXIV」ではFast TierのSSD単体時を超える性能を発揮する一方、「FINAL FANTASY XV」ほとんど効果がなかった。また、1回目のロード時間はDRAMキャッシュ無効時より悪化している。

 DRAMキャッシュを大きく超えるデータを読み出すような場合、DRAMキャッシュは逆効果になってしまう可能性がありそうだ。

NVMe SSDをFast TierにしたStoreMIの性能

 次はSATA SSDより高速なNVMe SSD「Intel SSD 760p」をFast Tierに使用したさいの性能を見てみよう。Slow Tierには、HDDの「WD Blue WD20EZRZ」とSATA SSD「SanDisk Ultra 3D SSD」を使用した。

 HDDと組み合わせたさいのCrystalDiskMarkの実行結果は、NVMe SSD単体時に比べランダムアクセス性能やシーケンシャルリードが多少落ち込んでいるものの、かなりNVMe SSDに近い性能を発揮した。DRAMキャッシュ有効時にリード性能が大きく向上するのはM.2 SATA利用時と同様だ。

単体での性能
Intel SSD 760pのCrystalDiskMark実行結果
WD Blue WD20EZRZのCrystalDiskMark実行結果
StoreMI (NVMe SSD + HDD)の性能
StoreMI (NVMe SSD + HDD、DRAMキャッシュ無効)
StoreMI (NVMe SSD + HDD、DRAMキャッシュ有効)

 SATA SSDとの組み合わせでは、HDDとの組み合わせよりシーケンシャルリードは高いものの、ランダムアクセス性能については同様にNVMe SSD単体時より低下している。DRAMキャッシュ利用時の性能は、HDDとの組み合わせよりも多少ランダムライト性能が高い程度で、大きな差はないようだ。

単体での性能
Intel SSD 760pのCrystalDiskMark実行結果
SanDisk Ultra 3D SSDのCrystalDiskMark実行結果
StoreMI (NVMe SSD + SATA SSD)の性能
StoreMI (NVMe SSD + SATA SSD、DRAMキャッシュ無効)
StoreMI (NVMe SSD + SATA SSD、DRAMキャッシュ有効)

 ゲームのロード時間比較では、仮想ドライブ構築直後の測定ではSlow Tierに使用したドライブ単体時の性能より遅くなり、2回目以降はFast Tierに近い性能を発揮するというのが、組み合わせを問わない共通の傾向であることが確認できる。

 また、ロードするデータ量が多いFINAL FANTASY XVでDRAMキャッシュが薄いというのも今回テストしたすべての組み合わせに共通している。

 注目したいのは、NVMe SSDとSATA SSDの組み合わせであれば、仮想ドライブ構築直後の測定であっても、HDDとの組み合わせほど極端にロード時間が悪化しないという点だ。このような性能特性は、ゲームインストール用ドライブに適したものであり、ゲーマーにとっては実用性の高い組み合わせとなりそうだ。

ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク (ローディングタイム)
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION (セーブデータロード時間)

上級者向けだが効果は大きいストレージ高速化技術

 StoreMIの魅力は、OSをインストールしたストレージの容量不足や速度不足をあとから解消できる点と、非ブートドライブの高速化が可能な点にある。OSをインストールしたNVMe SSDにSATA SSDを追加して容量を強化したり、倉庫用HDDをSSDで高速化するというのは、自作PCユーザーにとっても現実的な使い方だ。

 導入はまだしも解除方法がユーザーフレンドリーとは言いにくく、PCの扱いに慣れた上級者向けの機能ではあるのだが、うまく使いこなせばPCのストレージ性能を大きく改善できる可能性がある。

 X470環境を所有しており、手元にHDDとSSDが余っているようであれば、導入も解除も簡単な仮想データドライブの作成からStoreMIをはじめてみてはいかがだろう。