レビュー
TDP 300WのCPUに対応するSupermicroのゲーミングマザー「C9X299-PG300」レビュー
2018年5月16日 11:00
Supermicroの「C9X299-PG300」は、CES 2018で発表された同社最新となるIntel X299チップセット搭載ゲーミングマザーボードである。グローバルでも発売されておらず、ホームページ上では「Coming Soon」と表記されているモデルだが、発売に先立ち、PC Watchは特別にサンプルを入手することができたのでご紹介したい。
同社はCOMPUTEX TAIPEI 2017のブースにて、「C7X299-PG」という型番のマザーボードを発表した(関連記事:完成度を高めたSupermicroのIntel X299マザー「C7X299-PG」参照)。実際には、COMPUTEX展示とはデザインが異なる(プラスチック製の装飾カバーがない)「C9X299-PGF」と「C9X299-RPGF」の2モデルを発売した。
一方で、今回新たに投入される「C9X299-PG300」は、C7X299-PGシリーズとは完全に異なる仕様とデザインとなっており、基板から新規設計されたものとなっている。最大の特徴はTDP 300WのCPUへの対応が謳われている点と、10Gigabit Ethernetへの対応だ。それでは具体的に見ていこう。
TDP 300W対応の意味とは
海外ですでに発売中のC9X299-PGFとC9X299-RPGFは、公式スペック表ではTDP 165WのCPUの対応が謳われている。TDP 165WのLGA2066 CPUは、いまのところCore i9-7980XEとCore i9-7960Xの2モデルが投入されている。旧製品でも、普段遣いにおいては電力供給面での不足はないが、これらのCPUをオーバークロックすると消費電力が跳ね上がるので、クロック倍率が変更できるCPUとの組み合わせとしてはアピール不足が否めなかった。そこでC9X299-PG300は、対応TDPを300Wにまで引き上げることで、オーバークロック能力を高めたものとなっている。
筆者はC9X299-PGFを手にしたことがないので確信はないが、おそらく電源設計としてはC9X299-PGFもC9X299-PG300も共通だ。しかしC9X299-PGFはCPUの12V補助コネクタがEPS 8ピン+ATX 4ピン構成であったのに対し、C9X299-PG300は新たにEPS 8ピン×2となったことで、電源からの供給能力が高まり、結果として高いTDPを支えられるようになったと想像される。
ATXやEPSの仕様書を読んでみたが、ATX 4ピンおよびEPS 8ピンのコネクタが供給できる電流の上限についてはとくに書かれていなかった。使われているコネクタハウジングやコンタクト自体はかなり高めの電流量(1コンタクトあたり11A)を許容するのだが、コネクタ接続による転送ロスや、マザーボード自身の電流許容量、電源回路への負荷、そしてコネクタ部の発熱などの関係から、余裕を見て設計しているとみられる。
もっとも、この変更は必然的だったとも言える。というのも、Intelは当初、コンシューマ向けのLGA2066プロセッサに関してはTDP 140Wの10コア製品しか用意していなかった。ところがAMDが最大16コアのRyzen Threadripperをコンシューマ向けに投入することが決まったため、Intelは対抗製品として急遽最大18コアのものを用意することとなった(関連記事:AMDのRyzen ThreadripperがIntelの危機感に火をつけた参照)。
そのため、TDP 140W CPUのオーバークロックをターゲットにして設計したマザーボードは、急遽TDP 165W CPUのオーバークロックも耐えられるよう再設計しなくてはならなくなった経緯がある。具体例を挙げるとすれば、ASRockの「X299 Taichi XE」やGIGABYTEの「X299 AROUS Gaming」などだ。初期製品である「X299 Taichi」や「X299 AROUS Gaming 7」でもTDP 165WのCPUを問題なくサポートできるが、オーバークロックするなら後期モデルのほうが良いとされている。C9X299-PG300もその流れのなかで生まれたモデルだと言えるだろう。
ちなみにオーバークロックのような高負荷な使い方でなければ、EPS 8ピン×1の接続のみでも本製品は動作する。このため、2つ目のEPS 8ピンコネクタはシールで封がされており、使いたいユーザーだけがそれを剥がして使う格好だ。
本製品の電源回路は、Infineon Technology製のデジタルVRMコントローラ「ADPE11280A」が使われている。データシートがないため不明だが、本製品では8+1フェーズ構成が採用されているとみられる。DriverMOSFETとして、Infineon(IORブランド)の「TDA21470」を採用。ピーク変換効率は96%に達し、最大電流70Aまで対応している。また、裏面にタンタル固体コンデンサを採用するなど、電源周りの設計は一線級のものとなっている。
製品情報では「Our motherboard supports the latest Intel Core i9 Extreme processors up to 300W」といった表記もあり、将来的にはTDP 300W級のCPUが登場することも予想されるのだが、いまのところは心置きなくCore i9-7980XEをオーバークロックするための装備だと言っていいだろう。
有線LANやデザインも旧モデルから大幅変更
「C9X299-PG」までは型番が同じだが、C9X299-PG300は旧製品のC9X299-PGFとC9X299-RPGFと設計が大きく異なる。まず1つ目に挙げられるのは、搭載する有線LANコントローラが、Aquantia製5Gigabit Ethernet対応の「AQtion AQC108」から「AQtion AQC107」に変更されている点。いまのところ個人ユースでは10Gbps対応のメリットが薄いが、10Gigabit Ethernet環境をすでに構築、もしくはこれから構築しようとしているユーザーにとって、本製品はそのベースを構築できる製品となる。
拡張スロット構成も変更された。C9X299-PGFとC9X299-RPGFは、ATX規格の上限であるスロット7本分をフルに利用したもので、4本のPCI Express x16スロットが等間隔に設置されていたのだが、C9X299-PG300は上から1本目と2本目と3本目のあいだが2スロット分の間隔が空いていて、3本目と4本目が隣接している。いまや3Wayや4WayのマルチGPU構成をすることが少なくなったため、妥当な変更だと言えるだろう。ちなみにスロットは金属カバーで強化されており、剛性は高そうだ。
新たにRGB LEDによるイルミネーションに対応した点もトピックだ。本製品は背面I/Oカバーがあるのだが、この上の「SuperO」のロゴがRGB LEDで光る。また、サウンド回路の分離帯裏面にもRGB LEDがあり光る。さらにチップセットヒートシンク上の「Play Harder」の文字もRGB LEDで光るようになった。下部にRGB LEDストライプ用のピンヘッダがあり、別途RGB LEDを接続すれば、そちらも光らせることが可能になっている。
一方でC9X299-PGFとC9X299-RPGFから省かれたのが、ベースボードマネージメントコントローラ(BMC)である「AST2500」だ。AST2500は、LAN経由で本製品の電源オン/オフや状況の監視、そしてリモート管理/操作などを実現するものだが、本製品がターゲットとするゲーマーで使われることはまずない。よってこれを省いたことは極めて正しいともいえる。
同社のコンシューマ向けマザーボードブランド「SuperO」のホームページでは、C9X299-PG300が“Professional Gaming”として位置づけられているが、「C9X299-PGF」は“Core Business”として位置づけられており、両製品の立ち位置の違いが明確に分かれていることがわかる。
背面I/Oカバーは重厚な金属製のほか、AQtion AQC107には大きな金属製ヒートシンクが取り付けられている。また、チップセットのヒートシンクも大型で、さらにはM.2用ヒートシンクとも接続されている。このため本体はかなりの重量があり、手にしたときの満足度は高い。ただ、動作中チップセットはかなり発熱し、M.2ヒートシンクまで熱くなっていたのは気になった。M.2のSSDを接続して使用するのであれば、風を当てて冷やしたほうが良いだろう。
ハイエンドならではの豊富な装備
このほかの装備はハイエンドにふさわしいものとなっている。先述のとおり10Gigabit EthernetコントローラのAQC107が装備されているほか、Gigabit EthernetコントローラのIntel「I219V」も装備し、バックアップや第2のLANを構築できる。M.2スロットを2本、U.2コネクタを2基、SATA 6Gbpsを6基装備し、ストレージの足回りも万全。また、ASMediaのUSB 3.1ホストコントローラ「ASM3142」を備え、最大10Gbpsの転送が可能だ。
ただ、本製品の装備をフルに活用するためには、PCI Expressを44レーン持つCPU、つまりCore i9-7900X以上の利用が必須。28レーンのCPUでは、U.2のうちの1つとPCI Expressスロット1(最下段)が使えなくなるほか、PCI Expressスロット4(下から2段目)はx8に制限され、スロット2(下から3段目)はx4でU.2と排他となる。
オーディオコーデックにはRealtekの「ALC1220」を採用。またSuper I/OにNuvotonの「NCT6792D-B」、(おそらく)RGB LEDの制御用にルネサスの16bitマイクロコントローラ「R5F104ACA」が採用されているところが目立つ。また、オンボードの電源/リセットボタンの装備、POSTコードを表示する7セグメントLEDなども、パワーユーザーに好まれる機能だ。
背面パネルI/OはUSB 3.1×2(うち1基はType-C)、USB 3.0×4、USB 2.0×2、PS/2、音声入出力となっている。個人的にはあと2ポートほどUSBがほしかったところだ。オンボードで電源/リセット/CMOSクリアボタン、そして7セグメントLEDによるPOSTコード表示を備えており、バラック状態の検証や、組み込み前のテストなどに好適だ。
マザーボード本体は、めずらしくヒートシンクを含めてほぼ無彩色となっており、無彩色のパーツとよく似合う。自作PCでは無彩色のパーツが多いため、テーマを合わせやすいのがポイントだ。
ちなみにSupermicroのマザーと言えば、ただならぬ“最短配線”への追求だが、本製品でもその路線は踏襲されている。CPUからのPCI ExpressスロットやU.2へと伸びる配線は、ほかのメーカーの追従を許さず、眺めているだけでも楽しめる。
グラフィカルなUEFI BIOSに同じUIの設定ツール
Supermicroはこれまでに何度かコンシューマ向けマザーボードのUEFI BIOSのデザインを変更してきているが、本製品に関しては以前レビューしたX11SRA-Fと同じものを採用している。
ただ、「Overclocking」といった本製品ならではの項目が用意されており、Intel X299チップセットの機能に恥じぬ幅広い設定項目が用意されている。また、「System Health」の項目では細かなファンコントロール機能が用意され、CPUおよびチップセットの温度に応じて、5つのファン回転速度の変化をさせられるようになった。
X11SRA-Fの初期UEFI BIOSでは、プルダウンメニューがなぜか上方向に開いてしまい、一部項目が見えず選択しにくくなる問題があった。また、メニューの深い階層から抜けたさいに、1つ上の階層ではなく、トップ階層に戻ってしまう問題も指摘したが、これらはいずれもC9X299-PG300で修正されている。ちなみに、X11SRA-Fも3月28日にビルドされたSpectre/Meltdown対策UEFI BIOS「R1.1a」で、プルダウンメニューや階層関係の問題も同時に修正され、使い勝手が向上している。
個人的には、現在のステータス表示を減らし、解像度を活かして設定項目の一覧性を高めてほしかったところだが、一般的にはそうUEFI BIOSにお世話になるわけではないので、問題はないだろう。UEFI BIOSの「設定を保存して終了(Save Changes and Reset)」する項目が「Boot」の項目のなかにあるのが若干気になったが、それ以外は自作PCに慣れたユーザーであればとっつきやすいメニュー構成で、Z97世代からは大きく完成度が上がっている。
Windowsの設定ユーティリティとして、「SUPERO Booster」が提供されている。これはSuperOブランドのIntel 200シリーズマザーボードから使用可能になったユーティリティで、CPUのクロックやメモリのタイミング、一部電圧を変更可能なほか、システムの温度に応じたファンの回転数設定も、よりグラフィカルに行なえるようになったものだ。
UIはUEFI BIOSと共通の構成であり、これはこれで統一感があって面白い。設定項目はさほど多くなく、とくにLEDイルミネーションについてはもう少しエフェクトや色のカスタマイズを充実させてほしいところだが、このあたりは今後のバージョンアップによる機能強化に期待したい。
高い信頼性を必要とするゲーマーへ
C9X299-PG300を概観してみたが、はっきり言ってSupermicroのゲーミング向けマザーボードは、いまや他社にまったく引けを取らない完成度になったと言ってもいいだろう。5年前の「C7Z87-OCE」のときは、「サーバー/ワークステーション向けのマザーボードにオーバークロックの要素をくっつけただけ」といった印象が拭えなかったが、C9X299-PG300はコンシューマ向けのトレンドをすべて取り入れ、一からコンシューマ向けに設計したマザーボードだと言ってもいい。その一方で、部品の信頼性や最短の配線といったSupermicroならではのDNAは健在であり、本製品はその2つの要素をうまく融合させた製品だ。
筆者は、ゲームとサーバーアプリケーションはある意味共通の類だと考えている。1つ目はコンピュータの各部品に継続的に高い負荷がかかる点で、2つ目はいずれもアプリケーションの動作がエラーや故障などによって止まってしまうと“命取り”になる点だ。よって、高負荷が継続しても信頼性を維持しなければならないニーズは共通である。
ましてやいまのオンラインゲームは、プレイヤーがディスプレイの前で実際に操作していなくても、放置によって自動でスキルやレベルを上げる仕組みが取り入れられているわけだから、“24時間/7日間”の連続稼働もPCに求められるようになっている。そのような使い方をするゲーマーにとって、長年、サーバーでの実績を積んできたSupermicroのマザーボードは、良い選択肢となりえるだろう。