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100W対応USB PD充電器×4製品の実力を検証!ノートPCへの給電、チェックすべきポイントは?

最大出力100WのUSB PD充電器を4(+1)台用意し、3台のノートPCとの組み合わせで検証を行なう

 USB Type-Cによる急速充電規格「USB PD(Power Delivery)」は、現行のリビジョン(3.0)では最大100Wの給電に対応する。それゆえ100W対応のUSB PD充電器を1つ所有しておけば、ほぼすべてのUSB PD対応のノートPC、さらにはスマホやタブレットで、最高速度での充電が行なえる。ある意味でオールマイティな存在と言っていい。

 もっとも100W対応の製品ともなると、本体サイズも大きく、また発熱量も相当なもので、製品選びは慎重に行なう必要がある。昨年も、鳴り物入りで登場した某社の100W対応充電器がほどなくして回収となり、そのまま終息。先日新モデルが登場するまでの約1年間、後継が発売されなかった事実もある。また取り扱いのないメーカーもあるなど、設計が難しい製品であることは、容易に想像できる。

 今回は、現在入手可能な最大出力100Wの充電器を4(+1)台用意し、USB PDでの給電に対応した3台のノートPCに対してきちんと最高速度での充電が行なえるか、また発熱などの問題がクリアされているかをチェックする。

4(+1)台の100W対応USB PD充電器で検証

 今回用意した100W対応のUSB PD充電器は計4台。どの製品も複数ポートを搭載しており、1ポート利用時に最大100W(20V/5A)の充電が行なえる。

 選定条件は、Amazonで入手可能なこと、PSEなどの問題をクリアしていること、また筆者の知る限りにおいて、直近1年程度のうちにサクラレビューなどの問題を起こしていないメーカーの製品をチョイスしている。今回は1社1台までとし、ODM元が同じと見られる製品は一方をリストから省いている。

今回用意した100W対応USB PD充電器4台。右端は参考扱いとして追加したAppleの96W対応USB Type-Cアダプタ

 本来ならば複数ポートだけでなく単ポートの充電器も用意すべきだが、現在市販されている100W対応USB PD充電器はほぼすべて複数ポートを搭載したモデルゆえ、このようなラインナップとなっている。例外はApple純正の96Wアダプタだが、こちらは名前からも分かるように100Wにわずかに届かないため、今回は参考扱いで、5台目の製品として検証する。

 各製品のPDO(Power Data Object)を見ていくと、最大100W(20V/5A)対応なのは共通だが、デバイスに合わせて電圧/電流を調整するPPS(Programmable Power Supply)をサポートする製品とそうでない製品がある。

 また複数ポート利用時の供給電力は千差万別だが、今回は単ポート利用時の挙動のみ検証する。リンク先の製品ページ上の仕様、価格などはすべて2021年10月16日時点の掲載内容をもとにしている。

Anker「PowerPort III 2-Port 100W」

 Anker「PowerPort III 2-Port 100W」は、計2ポート(USB Type-C×2)を搭載。1ポート利用時のPDOは「5V/3A、9V/3A、15V/3A、20V/5A」で、PPSにも対応している(3.3V-16.0V/5.0A)。これら本体の表記とテスターでの計測値は一致している。保証は最大24カ月。実売価格は6,990円。ケーブル類は付属しない。

計2ポート(USB Type-C×2)を搭載。今回試用している4製品の中で唯一、GaN(窒化ガリウム)採用の有無について言及がない
プラグは折りたたみ可能。重量は実測214g
底面のラベル。PSEは「アンカー・ジャパン株式会社」
テスターでのPDOは本体の底面ラベルと同一

MATECH「Sonicharge 100W」

 MATECH「Sonicharge 100W」は、計2ポート(USB Type-C×2)を搭載。1ポート利用時のPDOは「5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3A、20V/5A」で、PPSは非対応。これら本体の表記とテスターでの計測値は一致している。保証期間は2年。実売価格は5,200円。5A対応のUSB Type-Cケーブル×1本も付属する。

計2ポート(USB Type-C×2)を搭載。GaNを採用している
プラグは折りたたみ可能。重量は実測208g
底面のラベル。PSEは「MATECH株式会社」
テスターでのPDOは本体の底面ラベルと同一

CIO「CIO-G100W3C1A」

 CIO「CIO-G100W3C1A」は、計4ポート(USB Type-C×3/USB Standard A×1)を搭載。1ポート利用時のPDOは「5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3A、20V/5A」で、PPSはAmazon製品ページでは「3.3-11V/5A、3.3-16V/3.75A、3.3-21V/2.85A」とあるが、本体にはPPSにまつわる印字は見当たらず、またテスターでのPPSの計測値は「3.3-21V/5A」となっている。保証は最大180日。実売価格は7,893円。ケーブル類は付属しない。

計4ポート(USB Type-C×3/USB Standard A×1)を搭載。GaNを採用している
プラグは折りたたみ可能。重量は実測224g
底面のラベル。PSEは「株式会社CIO」
本体ラベルにはPPSの値が記載されていないが、テスターでは1番目のポートについて「3.3-21V/5A」と表示される。ちなみに3番目のポートは最大100Wではなく最大30WであるためPDOも異なる

Baseus「CCGAN100US」

 Baseus「CCGAN100US」は、計4ポート(USB Type-C×2、USB Standard A×2)を搭載。1ポート利用時のPDOは「5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3A、20V/5A」で、PPSはAmazon製品ページ・本体ともに数値の記載はないが、テスターでのPPSの計測値は「3.3-21V/5A」となっている。保証期間の明記なし。実売価格は6,399円。5A対応のUSB Type-Cケーブル×1本も付属する。

計4ポート(USB Type-C×2、USB Standard A×2)を搭載。GaNを採用している
プラグは折りたたみ可能。重量は実測205g
底面のラベル。PSEは「株式会社神州」
本体ラベルにはPPSの値が記載されていないが、テスターでは「3.3-21V/5A」と表示される

 このほか、検証には以下の製品・機材も併せて利用している。

Apple 96W USB-C電源アダプタ。最大出力100Wにわずかに満たないため参考扱いとして一部製品の検証対象に加えている。実売価格は8,580円
本体ラベルのPDOは「5.2V/3A、9V/3A、15V/3A、20.5V/4.7A」と変則的な値。そのためかテスターでも正確な数値を取得できない
ケーブルはCable MattersのThunderbolt 4ケーブル「107032-BLK-0.8m」を使用。5Aに対応しており、USB PDで最大100Wの伝送に対応する。Thunderbolt 4解説記事で使用したのと同じ個体だ
もう1本は、エレコムのUSB4ケーブル「USB4-CC5P08BK」。5Aに対応しており、USB PDで最大100Wの伝送に対応する。こちらも上記記事で使用した個体を用いている
テスターはAVHzYの「CT-3」を使用。デバイスと充電器の間に挟むことで、電圧/電流/電力を測定できるほか、PC用のユーティリティを使うことでPDOを確認できる。一昨年(2019年)の検証記事で使用した「CT-2」の後継で、画面がやや大きい

まずはUSB PDの基本的な挙動をおさらい

 検証に先立ち、USB PDで給電が行なわれる場合の基本的な挙動をおさらいしておく。すでに把握しているという方はスキップして次の章に進んでもらって構わない。

 USB PDは、デバイスと充電器の間でやり取りし合って、どの電圧(V)と電流(A)の組み合わせ(PDO)で充電するかを決定する。例えば充電器が20V/5Aに対応していても、デバイスが45Wまでしか対応しなければ、PDOは20V/2.25Aが使われる。

 つまり出力の大きな充電器であるほど、多くのデバイスで最高速度での充電が行なえるため、最大100Wである現行のUSB PD 3.0では、100Wの充電器は「最強」ということになる。

 ちなみにUSB PDは2021年春に策定されたリビジョン3.1で最大240Wに拡張されることが決まっており、2021年10月にAppleが発表した140WのUSB-Cアダプタはそれに準拠している可能性があるが、現状では詳細は不明だ。いずれにせよ、対応環境が揃うのはまだ先だろう。

テスター「CT-3」で取得した、デバイスと充電器の間のPDOのやり取りのログ。充電器からデバイスに対して「このPDOに対応していますよ」と、5種類のPDOが提示されている
これに対してデバイスからは「5番目のPDO(前の画像における20V/5A)を5Aで使います」と回答している。これにより、20V/5Aでの電力供給が開始される。「3Aに下げて使います」などと、電流を下げることが通知される場合もある

 実際に流れる電圧と電流は、PDOと完全に一致するわけではなく、刻々と変化するほか、バッテリが満充電に近づいてくると電流が低下するのが一般的だ。

 これらはそのたびにPDOが切り替わるのではなく、同じPDOを保ったまま、デバイス側が制限をかける形になる。パイプの太さを決めるのがPDOで、その中で水(電流)をどれだけ流すかはデバイス側がその都度決定すると考えればよい。

 ちなみに市販されている廉価なUSB電力チェッカーは、実際に流れている電力(W)、電圧(V)、電流(A)しか表示できず、PDOの値を見ることはできない。たいていは実際に流れている電圧電流から推測できるが、稀にかけ離れたPDOを使っていたり、おかしな信号のやり取りを行なっていてヤバさを感じたりといったことがある。

実際に供給される電力(W)はPDOにある「20V/5A」ぴったりではなく刻々と変動する。たいていはこのように若干低い値となる
バッテリの残量がある程度回復すると電流(A)が下がり、供給される電力(W)が低下する。最終的には電圧(V)はほぼこのままで電流(A)がゼロになる

3台のノートPCに接続。最高速度での充電は行なえる?

 では具体的に、各ノートPCに接続した時に、どのPDOを用いて充電が行なわれるかを見ていこう。

デル「XPS 13」の場合

デル「XPS 13」。第11世代Coreを搭載する(レビュー記事へのリンク)
左右側面にThunderbolt 4ポートを各1基ずつ備え、電源供給に対応する。今回は左側面のポートを検証に使用した

 1台目は、Windows 10を搭載した13.3型のモバイルノート、デルの「XPS 13」だ。左右側面にThunderbolt 4ポートを各1基ずつ備えており、付属の専用ACアダプタもこのポートを使って充電する。ACアダプタは45W対応なので、USB PDの出力も45Wあれば問題なく動作すると考えられるが、それより高い電力の場合の挙動は明らかではない。

検証結果

 いずれのUSB PD充電器も「20V/2.25A」のPDOが選択され、実効33~42Wの範囲で充電が行なわれる。つまり標準添付のACアダプタの出力(45W)がイコール最大値であり、それを超える出力を持つUSB PD充電器と組み合わせても、高速化は望めないことになる。

 なお今回計測した中では、Baseus製品のみ実効41W前後で充電できており、実効33~35Wの他製品に比べると頭一つ抜けて高速だった。

Anker PowerPort III 2-Port 100Wの結果
Anker製品での計測結果。「20V/2.25A」のPDOが選択され、実効34W前後で充電が行なわれる
MATECH Sonicharge 100Wの結果
MATECH製品での計測結果。「20V/2.25A」のPDOが選択され、実効33W前後で充電が行なわれる
CIO-G100W3C1Aの結果
CIO製品での計測結果。「20V/2.25A」のPDOが選択され、実効34W前後で充電が行なわれる
Baseus CCGAN100USの結果
Baseus製品での計測結果。「20V/2.25A」のPDOが選択され、実効41W前後で充電が行なわれる

Apple「13インチMacBook Pro」の場合

Apple「13インチMacBook Pro」。M1チップ搭載モデルで「Late 2020」の名で呼ばれる
電源専用ポートはなく、左側面に2基のUSB Type-Cポートを備える

 2台目は、Appleの「13インチMacBook Pro」だ。標準添付のアダプタ(61W USB-C電源アダプタ)自体がUSB PD対応で、最大60W前後での給電に対応していると見られる。USB Type-Cポートは左側面に2基を備えており、いずれもThunderbolt 3/USB 4対応とされている。今回は奥側のポートで検証を行なっている。

検証結果

 いずれのUSB PD充電器も「20V/3A」のPDOが選択され、実効57~59Wの範囲で充電が行なわれる。標準添付のUSB PD充電器は最大61W(20.3V/3A)とされているが、今回使用したテスターによるとPDOは20V/3Aが使われており、本体側も60Wまでしか対応しないように見える。そのため最大出力60Wを超えるUSB PD充電器を調達しても、高速化は望めないことになる。

 ここでの計測はApple 96Wアダプタも加えて行なったが、どれも誤差レベルの違いしかない。

Anker PowerPort III 2-Port 100Wの結果
Anker製品での計測結果。「20V/3A」のPDOが選択され、実効58W前後で充電が行なわれる
MATECH Sonicharge 100Wの結果
MATECH製品での計測結果。「20V/3A」のPDOが選択され、実効57W前後で充電が行なわれる
CIO-G100W3C1Aの結果
CIO製品での計測結果。「20V/3A」のPDOが選択され、実効59W前後で充電が行なわれる
Baseus CCGAN100USの結果
Baseus製品での計測結果。「20V/3A」のPDOが選択され、実効57W前後で充電が行なわれる
Apple 96W USB-C電源アダプタの結果
Apple 96Wアダプタでの計測結果。「20V/3A」のPDOが選択され、実効59W前後で充電が行なわれる
Apple 61W USB-C電源アダプタの結果
Apple 61Wアダプタ(標準添付)での計測結果。「20V/3A」のPDOが選択され、実効59W前後で充電が行なわれる

ASUS「TUF Dash F15 FX516PR」の場合

ASUS「TUF Dash F15 FX516PR」。第11世代CoreのH35シリーズとGeForce RTX 3070を搭載する(レビュー記事へのリンク)
電源ポートとは別に、左側面にThunderbolt 4ポートを搭載し、USB PDによる充電が行なえる

 3台目は、ASUSの「TUF Dash F15 FX516PR」だ。Windows 10を搭載したゲーミングノートで、ACアダプタを接続する専用ジャックとは別にThunderbolt 4ポート×1基を搭載しており、USB PDによる充電が行なえる。ちなみにハイエンドなモデルだけあって、付属のACアダプタは200W対応というモンスター級のスペックだ。

検証結果

 いずれのUSB PD充電器も「20V/5A」のPDOが選択され、実効90~95Wの範囲で充電が行なわれる。充電器ごとの違いも誤差レベルで、なにより現行のUSB PDは最大100Wであるため、これ以上の高速化は難しいことになる。

 いずれにしても標準のACアダプタには敵わないので、USB PD充電器を使う場合は、荷物を軽くしたい外出先でのみ利用するという運用がベターだろう。

Anker PowerPort III 2-Port 100Wの結果
Anker製品での計測結果。「20V/5A」のPDOが選択され、実効92W前後で充電が行なわれる
MATECH Sonicharge 100Wの結果
MATECH製品での計測結果。「20V/5A」のPDOが選択され、実効91W前後で充電が行なわれる
CIO-G100W3C1Aの結果
CIO製品での計測結果。「20V/5A」のPDOが選択され、実効94W前後で充電が行なわれる
Baseus CCGAN100USの結果
Baseus製品での計測結果。「20V/5A」のPDOが選択され、実効90W前後で充電が行なわれる
Apple 96W USB-C電源アダプタの結果
Apple 96W充電器での計測結果。「20V/4.7A」のPDOが選択され、実効91W前後で充電が行なわれる

最高速度と併せてチェックしたい「充電中の発熱」

 以上のように今回の検証では、出力の大きなUSB PD充電器に交換したら標準添付のACアダプタよりも高速に充電できた……というサプライズこそなかったが、いずれもトップスピードの充電が行なえた。充電器ごとの充電速度の差もわずかで、おかしなエラーが起こる製品もなかった。この結果だけ見れば、どの製品を選んでも構わないだろう。

 もっとも実際の製品選びでは、ほかにも気をつけなくてはいけない点はある。ひとつはボディサイズだ。今回の4製品は、体積はどれも同等だが、市販品の中にはデザイン自体が据置を前提としていたり、またボディサイズそのものが巨大で、持ち出しには適さない製品もある。このほか保証期間の長さ、ケーブル付属の有無も、購入にあたってはチェックしたいポイントだ。

今回試用した4(+1)製品。幅はいずれもほぼ同等だが、背の高さはかなりの差がある
上から見た状態。もっとも背が高いBaseus製品(左から4つ目)は、そのぶん奥行きが短く、体積的にはどれも同等だ

 そしてもうひとつ気をつけたいのは発熱だ。現在のUSB PD充電器は、GaN(窒化ガリウム)の採用などでかつてに比べ小型化が進んでいるが、それでも一定の発熱は不可避で、充電中は触れられないほどの熱を持っていることもしばしばだ。特に最大100Wもの電力を流すとなると、かなりの熱を帯びるのは当然だ。

 その点、今回の4製品はどうだろうか。ASUS「TUF Dash F15 FX516PR」を100Wで30分間充電した時に、各充電器がどれだけ熱を帯びるかを、サーマルカメラで撮影してみた。「30分」である理由は、10%台から充電を始めて30分ちょっと経つと、バッテリ残量が60%まで回復して急速充電から通常充電へと移行し、以降は熱が下がる一方だからだ。つまり30分後の温度=今回の試用環境における発熱のピークと考えてもらっていい。

充電開始から30分経過後にサーマルカメラを用いて充電器の温度を測定する。なお充電器は直前までコンセントから抜いておき、温度が下がった状態で充電を開始している
Anker製品での計測結果。最大65℃まで温度が上昇している
MATECH製品での計測結果。最大49℃まで温度が上昇している
CIO製品での計測結果。最大68℃まで温度が上昇している
Baseus製品での計測結果。最大67℃まで温度が上昇している
Apple 96W充電器での計測結果。最大54℃まで温度が上昇している

 結果は上記の通りで、Anker、CIO、Baseusの製品は60℃台後半まで温度が上がっており、表面は手を触れられないほどだ。ちなみに卵の白身が透明→白に変化するのが70℃ということで、どれだけ高い温度かが分かる。挙動としては例え正常であっても、不在時に繋いだままにはしたくないし、また子供やペットがうっかり触れかねない環境での利用はためらわれる。

 一方、50℃前後に留まっているのがMATECH製品、および比較用に用意したAppleの96Wアダプタの2つだ。この2製品は前述の3製品と違って「PPS非対応」であり、このことが影響している可能性は少なからずあるが、詳しい理由は不明だ。いずれにせよ、最大出力が横並びなのに比べて、発熱については製品ごとにかなりの差があることが分かる。

 ちなみにこうした発熱の問題は、もっと低出力のUSB PD充電器でも起こる。手持ちの製品をいくつか確認したが、ピーク時に70℃を超える製品も見受けられたので、100Wの製品だから起こるのではなく、設計に依存する問題と言える。ボディが小型であることをアピールしている製品ほど、そうしたリスクはあると考えてよいだろう。

測定対象の4製品の中で唯一GaN非対応のAnker製品は、45W環境で5分間充電した時に唯一40℃を超えるなど(ほかはすべて30℃台)、熱くなりやすい傾向が認められた。GaNの有無が関係しているかは不明だ

複数ポート搭載のUSB PD充電器で避けられない「リセット問題」とは

 ところで複数ポートを備えたUSB PD充電器で気になるのは、別のポートにデバイスを接続した場合のリセット問題だ。もう一方のポートにケーブルを接続すると、先に接続済みのデバイスの充電がいったん切断されたのち、新しく発行されたPDOによって再接続が行なわれるというものだ。限られた電力を再配分するために起こる、複数ポート搭載の充電器につきものの現象だ。

複数ポートを搭載したUSB PD充電器では、一方のポートで抜き差しを行なうと、接続済みだったもう一方のポートでリセット→再接続が行なわれるのが一般的だ

 理屈を知ってしまえば「ああ、それはやむを得ないね」となるこの現象だが、もし先に充電を行なっていたデバイスがギリギリ起動可能なバッテリ残量しかない場合、リセットによってシャットダウンされる危険もあるので、使い方によっては問題となる。

 例えば遠征先のホテルなどで利用する場合、ここにWi-Fiアクセスポイントを繋いでいると、抜き差しのたびに電源が切断されて通信が途絶えるといった現象が起こる。

 今回使用した4製品はいずれも複数のポートを搭載しているが、実際に試したところ、もう一方のポートにケーブルを挿すことで、先に接続済みだったポートでリセット→再接続が行なわれる現象を確認した。もちろん取り外す場合にも、同様の現象が発生する。

1番目のポートのみにデバイスを接続したところ。最大20V/5AのPDOが発行されている
2番目のポートに別のデバイスを接続すると、1番目のポートにリセットがかかり、PDOが再発行される。複数ポートを同時利用するため、最大20V/3Aに目減りしている
デバイス側のユーティリティで見ると、最初の段階では100Wの電源として認識されている
リセットがかかったあとは60Wの電源として認識し直されていることが分かる

 もっとも例外もあって、ポートに接続しているのがiPhoneの場合、取り外す時にiPhoneだけを抜いてUSB-C-Lightningケーブルはそのままにしておけば、別ポートでのリセットは行なわれない。つまり「2番目のポートで充電するのがiPhoneの場合、ケーブルは挿したままiPhoneだけを着脱するようにすれば、1番目のポートに影響は及ばない」ということになる。今回の4製品の中では、Baseus以外の3製品はこの挙動であることを確認した。

 これは「USB Type-Cポートに差し込まれている間は、iPhoneが接続されているか否かを問わず接続状態をキープする」という、USB-C-Lightningケーブル独自の挙動によるものだ。明らかにイレギュラーな挙動なので褒められたものではないが、どうしても1番目のポートでリセットを発生させたくない場合、この仕様を逆手に取ってリセットを防ぐことができる。

 ただしこの場合、当然ながら1番目のポートは複数ポート利用時の速度制限がかかったままになるので、ほかにデバイスを接続していないのに最高速度で充電できないと思ったら、空きポートにUSB-C-Lightningケーブルがぶら下がっていた……という現象が起こりうる。

 こうした現象が起こったらまずUSB-C-Lightningケーブルの存在を疑ってかかるべきだろう。ちなみにUSB Type-Cケーブルではこの現象は発生しない。

iPhoneの充電に使用するUSB-C-Lightningケーブルは、実際にiPhoneが接続されているか否かに関わらず、ポートに接続したままだと認識されたままの状態が維持される。

 いずれにしても、複数ポートを同時に使って充電を行なう場合、ケーブルの抜き差しによるリセット→再接続は原則として避けられない。これを確実に避けたければ、Appleの96Wアダプタのような、単ポートの充電器を用いるしかない。

どの製品も合格だが……

 以上のように「大は小を兼ねる」という意味での挙動はどの製品も合格、ただし発熱に関しては製品によってバラつきが見られるほか、複数ポート利用時のリセット問題は、どの製品にも当てはまるという結果になった。

 今回の結果を鑑みるに、価格やポート数といった目に見える要素以外に、チェックすべき項目があるのはお分かりいただけるだろう。その多くは実際に使ってみなければ分からないため、レビューや口コミ頼りにならざるを得ないのだが、粗悪な品であればどのあたりに問題が発生しやすいかは、今回の結果からも明らかだ。本稿が優れた製品を選ぶための参考になれば幸いだ。

 ところで今回は、デバイスが「最大何Wでの給電が行なえるか」という、言うなればもっとも効率的に給電するための製品の選び方を検証したわけだが、その一方で「最低どれだけの出力を持ったUSB PD充電器があればバッテリ残量を回復させられるか」も、実際の利用シーンでは度々問題になる。こちらについても追って、検証レポートをお届けしたい。

出力の異なるUSB PD充電器を用意しての、各デバイスごとに必要な最小出力についても、別記事にて検証レポートをお届けする