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Wi-Fi 5、6、7で速度はどれくらい違う?無線ルーター規格別実測テスト

Wi-Fi 7、Wi-Fi 6、Wi-Fi 5対応ルーターの性能を比較してみた

 普及価格帯のWi-Fi 7対応ルーターの登場やCopilot+ PCなどのWi-Fi 7対応PCの登場、Windows 11の正式対応などによって、Wi-Fi 7の普及が加速しつつある。そこで本稿では、Wi-Fi 5、Wi-Fi 6、Wi-Fi 7の違いに迫ってみた。規格上の違いはもちろんのこと、なぜ速度に差があるのか、実際の現場で速度がどれくらい変わるのかを解説する。

Wi-Fi 5/6/7で何が違うのか?

 Wi-Fi製品は、現状、大きく分けて3つの規格の製品が販売されている。

 1つは2013年頃から製品販売が始まり、現在はエントリーモデルを中心に採用されているWi-Fi 5対応製品。もう1つは、2018年頃から現在まで、幅広い価格帯の製品で広く採用されているWi-Fi 6対応製品。そして、今年(2024年)に入って対応製品が続々と登場してきた最新のWi-Fi 7対応製品だ。

 この「Wi-Fi ○」という表記は、Wi-Fi製品の互換性向上や普及を目指して設立された業界団体のWi-Fi Allianceが定めた認定名称で、正式な規格名はWi-Fi 5が「IEEE 802.11ac」、Wi-Fi 6が「IEEE 802.11ax」、Wi-Fi 7が「IEEE 802.11be」となっており、それぞれ以下のような違いになっている(ちなみにWi-Fi 8となる予定のさらに次世代の規格はIEEE 802.11bn)。

【表】Wi-Fiの規格
Wi-Fi 5Wi-Fi 6/6EWi-Fi 7
規格IEEE 802.11acIEEE 802.11axIEEE 802.11be
周波数帯5GHz2.4/5GHz/6GHz(6E)2.4/5GHz/6GHz
最大帯域幅80MHz160MHz320MHz
最大ストリーム数4816
変調方式256QAM1024QAM4096QAM
最大速度3.5Gbps9.6Gbps46Gbps
機能的な特徴DL MU-MIMOOFDMA
UL/DL MU-MIMO
TWT
MLO
MultiRU
Puncturing
一般的なWi-Fiルーター速度※11,733Mbps4,804Mbps1,1529Mbps
一般的なPC速度※1866Mbps2,402Mbps5,764Mbps
※1 Wi-Fiルーターは4ストリーム時の速度、PCは2ストリーム時の速度を想定

 規格上の大きな違いは、周波数帯、速度、機能の3つになる。

 Wi-Fi 5は5GHz帯のみで利用可能な規格だ。5GHzのみだと不便なので、実際の製品はさらにもう1つ前の世代のIEEE 802.11nを2.4GHz用として組み合わせて利用することが多い。最大速度は規格上、最大3.5Gbpsだが、製品レベルでは1,300Mbps(3ストリーム、80MHz)、または1,733Mbps(4ストリーム、80MHz幅対応)となるのが一般的だ。

 Wi-Fi 6は、2.4GHz帯と5GHz帯の両方で利用でき、後から6GHz帯向けの拡張されたWi-Fi 6Eが追加された。速度は、規格上は最大9.6Gbpsだが、製品レベルでは2,402Mbps(2ストリーム、160MHz対応)、または4,804Mbps(4ストリーム、160MHz幅対応)となるのが一般的だ。OFDMAやMU-MIMOなど複数クライアントの同時通信に対応する機能が追加されているのが特徴となる。

 最後のWi-Fi 7は、2.4/5/6GHzのすべての帯域に対応しており、最大速度は46Gbpsにまで向上している。製品レベルでも、11,529Mbps(4ストリーム、320MHz幅対応)と10Gbps越えが可能だが、320MHz幅は現状6GHz帯でしか利用できないため、5GHz帯利用時の最大速度は5,764Mbpsとなる。

 Wi-Fi 7は新機能が豊富で、2.4/5/6GHz帯のそれぞれの帯域を組み合わせて通信するMLO(Multi-Link Operation)、より効率的に複数台同時接続を処理できるMulti-RUなどが利用できる。

 なお、利用する周波数については、以下の表を参照してほしい。前述した320MHzなどの利用できる帯域幅の違いもあるが、屋外利用ができるかどうかの違いも存在する。

【表2】電波の違い
2.4GHz5GHz6GHz
周波数2,400~2,497MHz5,150~5,350、5,470~5,730MHz5,925~6,425MHz
チャネル1~13ch36~144ch※11~91ch※1
占有周波数帯幅20/40MHz20/40/80/160MHz20/40/80/160/320MHz
屋内利用W52/W53/W56LPI/VLP
屋外利用W56※2VLP
DFS-W53/W56-
※1:4チャネルおき。36、40、44……
※2:W52も登録局なら屋外利用可能
※3:W52は36~48ch、W53は52~64ch、W56は100~144ch

 Wi-Fiの速度は、変調方式、利用する周波数帯域幅、同時通信可能なストリーム数などの組み合わせによって決定される。

 よくある例として、トラックでの荷物の輸送にたとえると、以下の図のようになる。

 要するに、荷物をより高く積み込むことができ(変調方式)、荷台(周波数帯)が広いほど多くの荷物(データ)を運べ、トラックの台数が多い(ストリーム数が多い)ほど、たくさんの荷物を運べる=高速に通信できることになる。

 また、荷物の混載が可能(OFDMAやMulti-RU)なことで同時接続環境に強く、複数道路の利用などで遅延なく荷物を届けられる(MLO)のも特徴となる(図中の「燃料200mW」については後述)。

余談:電波の出力はみんな同じ

 余談だが、Wi-Fiの利用時に困るのが電波が届かない場所が発生することだろう。

 このため、なるべく「電波の強い」製品を欲しいと考えるかもしれないが、Wi-Fi製品の電波の出力(電力)の上限は法令で定められているため、どの規格でも、どの製品でも電波の強さに大きな差はない。

 利用する周波数帯域幅や利用シーン(屋外や社内など)によってアンテナに供給する電力(空中線電力)や実際にアンテナから出力される一定方向の電波の電力(EIRP)が定められているが、基本的には次の表のように考えると分かりやすい。

【表3】電波の出力
占有周波数帯幅空中線電力密度空中線電力
20MHzシステム10mW/MHz200mW
40MHzシステム5mW/MHz200mW
80MHzシステム2.5mW/MHz200mW
160MHzシステム1.25mW/MHz200mW
320MHzシステム0.625mW/MHz200mW
※空中線=アンテナ、空中線電力=アンテナに供給される電力、EIRP=アンテナの利得を考慮した一定方向への電波の強さ
※LPIモードの場合、空中線電力とEIRPの値は同じ
※VLPモードの場合、空中線電力は同じだがEIRPが1/10程度に抑えられる(例:320MHz幅=0.078125mW/MHz)

 法令ではアンテナに供給する電力の上限が200mWまでに定められており、このため通信時に利用する周波数帯幅が広くなるほど、MHzあたりの電力が低くなる。

 先のトラックの図で例えると、この出力制限はトラックを動かすための燃料と考えるといいだろう(エンジンの馬力などに例えることも考えたのだが、最終的に変わるのは到達距離なので燃費的な考えの方がピンとくる)。

 つまり、荷台が狭かろうが、広かろうが使える燃料(アンテナに供給できる電力)は同じなので、80MHz幅通信のような小型のトラックは遠くまで荷物を運べるが、320MHz幅通信のように荷物がたくさん搭載されたトラックの場合、到達できる距離が短くなるというわけだ。

 実際、後述する今回の検証で利用したWi-Fi 5(Archer AC1900)、Wi-Fi 6(Archer AX80)、Wi-Fi 7(Archer BE900)対応の各Wi-Fiルーターの電力は以下のようになる(「技術基準適合証明等を受けた機器の検索」の検索結果から抜粋)。

【表4】空中線電力の違い
W52 40MHzの場合
法令5mW/MHz
Archer BE900D1D,G1D 5,190~5,230MHz(2ch) 2.40mW/MHz
Archer AX80G1D,D1D 5.19GHz,5.23GHz 0.003935W/MHz, 0.003953W/MHz
Archer AC1900D1D,G1D 5,190~5,230MHz(2ch) 3.88mW/MHz

 たくさんの記述の中から、5GHz帯の40MHz幅時の値のみをピックアップしてみたが、思った以上に機種ごとに電力の違いがあることが分かる。これは、各機種でアンテナの形状や実装方法が異なるため、アンテナの利得に合わせて、最終的な出力が法令上の上限である5mW/MHzを超えないように調整されているためだ。

 上位モデルのArcher BE900の出力がもっとも低い(2.40mW/MHz)が、アンテナの利得が高いため、無理に出力を上げなくても済む設計になっているのではないかと推測される。

TP-Link「Archer BE900」、「Archer AX80」、「Archer AC1900」で検証

 本題に戻ろう。実際の利用環境で、Wi-Fi 5、Wi-Fi 6、Wi-Fi 7の各ルーターでどれくらいの違いがあるのかを検証してみた。利用したのは、TP-Linkからお借りした「Archer BE900」、「Archer AX80」、「Archer AC1900」の3機種となる。これらの製品を木造3階建ての筆者宅の1階に設置し、各階でiPerf3による速度を計測した。

Archer BE900
Archer BE900の側面、背面
Archer AX80
Archer AX80の側面、背面
Archer AC1900
Archer AC1900の側面、背面
Archer BE900Archer AX80Archer AC1900
価格9万1,080円1万2,552円3,980円
CPU-クアッドコア-
メモリ---
無線LANチップ(5GHz)---
対応規格IEEE 802.11be/ax/ac/n/a/g/bIEEE 802.11ax/ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/b
バンド数422
320MHz対応--
最大速度2.4GHz1,376Mbps1,148Mbps600Mbps
5GHz-15,760Mbps4,804Mbps1,300Mbps
5GHz-25,760Mbps--
6GHz11,520Mps--
チャネル2.4GHz1-13ch1-13ch1-13ch
5GHz-1W52/W53W52/W53/W56W52
5GHz-2W56--
6GHz1-93ch--
ストリーム数2.4GHz443
5GHz-1443
5GHz-24--
6GHz4--
アンテナ内蔵12本内蔵4本内蔵3本
WPA3
メッシュ
IPv6
IPv6 over IPv4DS-Lite
MAP-E
有線LAN2.5Gbps 4基、1Gbps 1基1Gbps 3基1Gbps 3基
WAN/LAN10Gbps 1基、10Gbps SFP+/RJ45 1基2.5Gbps 1基、1Gbps 1基1Gbps 1基
LAG-
USBUSB 3.2 Gen 1 1基、USB 2.0 1基USB 3.2 Gen 1 1基-
高度なセキュリティ(HomeShield)-
USBディスク共有-
VPNサーバーOpenVPN/PPTP/L2TP/WireGuardOpenVPN/PPTP/L2TP-
動作モードRT/APRT/APRT/AP
ファーム自動更新
LEDコントロール
本体サイズ(mm)96×302×262.559×189×20040.3×130×150

 なお、それぞれの製品は無線のスペックだけでなく、機能的な違いも存在する。Archer BE900やArcher AX80は高度なセキュリティ機能(HomeShield)やVPNサーバー機能、USBディスク共有機能などを備えているが、Archer AC1900はこれらの機能を搭載しない。

 また、Archer BE900は本体前面にタッチパネルやLEDスクリーンを搭載しており、設定画面から表示する情報をカスタマイズできるようになっている。今回の本題からズレるので詳しくは触れないが、なかなか個性的な製品だ。

Archer BE900は前面にさまざまな情報を表示できる

検証1:最大速度での接続

 まずは、それぞれの規格で実現可能な最大速度で接続した際の速度を比較した。具体的には、Wi-Fi 5のArcher AC1900は866Mbps(5GHz、2ストリーム、80MHz幅)、Wi-Fi 6のArcher AX80は2402Mbps(5GHz、2ストリーム、160MHz幅)、Wi-Fi 7のArcher BE900は5764Mbps(6GHz、2ストリーム、320MHz幅)となる。

検証1の信号強度とリンク速度

 結果を見ると、もちろんWi-Fi 7が強い。特に近距離は320MHz幅のメリットを生かして、3Gbps以上で通信できている。速度的には申し分ない印象だ。

 しかしながら、3階入口や3階窓際の長距離の結果を見ると、Wi-Fi 6のArcher AX80も健闘していることが分かる。3階入口ではWi-Fi 7の下りが596Mbpsなのに対して、Wi-Fi 6の下りが1030Mbpsとなっており、速度が逆転している。

 このテストでは、Wi-Fi 7は6GHz帯を利用しているが、6GHz帯は長距離の通信や遮蔽物がある環境が苦手ということを表わしている。

 前掲の信号強度とリンク速度の図版を見てほしいが、Wi-Fi 6の5GHz帯は3階入口でも81%の信号強度を示しているが、6GHz帯は46%と、クライアント側の受信信号の感度の落ち込みが大きい。

 一緒に掲示しているリンク速度は、Wi-Fi 7が2,305Mbps/1,729Mbpsと高くなっているが、おそらく実際にiPerf3の通信が開始されたタイミングで、より低いリンク速度に変更されたか、信号強度の低さからエラーなどで再送が発生してiPerf3の実行速度が低下したと考えられる。

 Wi-Fi 5のArcher AC1900も、近距離で600Mbpsオーバー、3階端でも100~200Mbpsなので、実用上は問題ない印象だ。しかし、ここまでWi-Fi 6、Wi-Fi 7と差がつくと、やはりWi-Fi 6、Wi-Fi 7を選びたくなる。

検証2:5GHz帯での比較

 続いて、すべてのWi-Fiルーターで5GHz帯を利用した場合の値を比較してみた。と言っても、Wi-Fi 5のArcher AC1900とWi-Fi 6のArcher AX80は上記でも5GHz帯(W52)を利用していたため、値はそのまま流用し、Archer BE900のみ5GHz帯(W52)で接続した場合の値に差し替えて比較している。

検証2の信号強度とリンク速度

 Wi-Fi 7であっても、5GHz帯を利用する場合は帯域幅が160MHzまでしか利用できない。しかしながら、4096QAMを利用できるため、近距離でもWi-Fi 6よりは高い速度を実現できており、実効で2Gbpsを超える値を確認できた。

 課題だった長距離に関しては、3階入口は6GHz時が上り596Mbps/下り414Mbpsだったが、これが5GHz時は上り749Mbps/下り418Mbpsと若干値が向上した。上記、信号強度も6GHz帯時の46%から5GHz帯時は81%に改善されている。

 今回試用したArcher AX80の性能がやたらに高く、差があまり縮まらなかったのだが、Wi-Fi 7の場合、長距離は5GHz帯を利用した方が明らかに快適だ。

 今回試用したTP-LinkのArcher BE900は、クアッドバンド対応で5GHz帯が2系統搭載も搭載された豪華な製品なので、5GHz帯をメッシュの専用バックホールとして活用したり、ゲーム機やゲーミングPC専用の5GHz帯を用意したりするといった贅沢な使い方ができる。広い建物や遮蔽物がある環境で利用するなら、この長距離通信のバックホールとして5GHzをうまく活用することをおすすめする。

11月11日は「Wi-Fiルーター見直しの日」

 以上、Wi-Fi 5、Wi-Fi 6、Wi-Fi 7のパフォーマンスを比較した。絶対的な性能はWi-Fi 7が有利で、壁や床を1枚隔てた程度の場所なら、6GHz帯の320MHz幅の3Gbps越えの性能が強烈だが、長距離の実用性という点では、まだまだWi-Fi 6も現役で戦える印象だ。

 ただし、今回の検証は端末を「1台のみ」接続した環境なので、複数台接続した環境だと話が変わってくる可能性がある。最近では、家庭でも20~30台、さらにそれ以上の台数の機器(IoT機器や家電など)がつながるケースも増えている。

 そうなると、利用できる帯域が多い方が有利な上、Wi-Fi 7のMulti-RUやMLOのメリットが生きてくる。トータルの性能で考えると、Wi-Fi 7が有利と言えるだろう。

 また、今回は、Wi-Fi 5も現役で販売されているArcher AC1900を利用している点に注意したい。同じWi-Fi 5対応製品でも、古い製品の場合、内部に採用されているチップの世代が古く、今回の結果ほどの性能を発揮できない場合がある。

 このため、もしも古いWi-Fiルーターを使い続けているのであれば、このタイミングで買い替えを検討してみることをお勧めする。Copilot+ PCのようなWi-Fi 7対応のPCやPixel 9などのWi-Fi 7対応スマートフォンも増えてきたうえ、Wi-Fi 7ルーターも安い機種が登場しつつあるので、タイミングとしては悪くない。

 なお、僚誌INTERNET Watchでは、11月11日を「Wi-Fiルーター見直しの日」に制定して、しばらくの間、セキュリティ対策や買い替えに役立つさまざまなコンテンツを用意している。セキュリティ対策の実施や買い替え検討時に、ぜひ参考にしてほしい。