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日本唯一のDRAM拠点。総額1兆5,000億円でMicron広島工場が新建屋を着工

Micron広島工場

 Micronの広島工場は、今の日本で唯一DRAMを製造する拠点だ。総額1兆5,000億円を投じた新しいクリーンルームが起工され、AI向け最先端メモリであるHBM4の開発および量産を担う重要な場所となる。AI時代に不可欠な次世代DRAMの国内生産能力が飛躍的に強化されることになるだろう。

 米国Micron Technologyおよび、その日本法人となるマイクロンメモリジャパン株式会社(以下両社合わせてMicron)は、7月4日に広島県東広島市にある広島工場において、新建屋(同社ではクリーンルームと表現)の起工式を開催した。

 新しい建屋は段階的に建設され、第一期工事では約30万平方フィート(約2万8,000平方m)の面積となり、製造装置の搬入は2028年後半を予定している。製造が開始されれば、日本におけるDRAM製造のキャパシティが強化される。

NECからエルピーダメモリ、そしてMicronの手にわたった広島工場の歴史

 Micronの広島工場は、NECの子会社だったNEC広島が1989年に、広島県東広島市の吉川工業団地に開設した工場がその起源となる。1999年にNECと日立が合弁会社としてエルピーダメモリ(当初はNEC日立メモリ)を設立すると、NEC広島が東広島市に持っていた工場や敷地などが譲渡され、エルピーダメモリの広島工場として運営されるようになった。

NECからエルピーダメモリへ、そして2013年からはマイクロンメモリジャパンへ(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)

 そして、エルピーダメモリが2012年に経営破綻し、会社更生法の適用を申請する事態にいたったあと、エルピーダメモリは米国のMicron Technologyに買収された。それ以降、エルピーダメモリはマイクロンメモリジャパン株式会社となり、Micronの日本法人として再スタートを切ることになった。

 そうした歴史的経緯があり、広島工場はNECからエルピーダメモリへ、そして現在はMicronへとオーナーが変わってきた。しかし、依然としてDRAMを生産する工場として運営されており、日本で唯一残ったDRAM生産工場となっている。

現在の社名はマイクロンメモリジャパン株式会社

 Micronの広島工場は、米国、台湾などにもあるDRAMの前工程(ウェハ製造)工場の中でも特別な位置付けとされている。というのも、広島工場には、ウェハを製造する生産ラインだけでなく、最先端のDRAM技術を開発する開発・研究部門も併設されており、同社の工場の中でも新しい技術をいち早く投入し、実際の生産にこぎ着ける工場と位置付けられているためだ。

 たとえば、AI用のGPUに利用されるHBM(High Bandwidth Memory)やLPDDR(Low Power Double Data Rate)、最先端の製造プロセスノードなどが広島で開発・生産されたあと、そのノウハウがほかの工場へと伝えられていくのだ。

 Micronが3月のGTCで発表したNVIDIA Vera Rubin向けのHBM4は、すでに量産が開始されており、今後は現行のプロセスノードである1β(ワンベータ)ノードから、1γ(ワンガンマ)ノードへと微細化される予定だ。最先端のDRAM技術やプロセスノードの開発・製造も広島工場で行なわれている。

経済産業省の助成金を活用しながら総額約1兆5,000億円の投資

Micronが公開した、広島工場の新建屋完成イメージ(写真提供: Micron Technology)

 Micronは広島工場の拡張計画を明らかにしており、同時に経済産業省の「認定特定半導体生産施設整備等計画」の認定を受ける。経済産業省の公開資料「認定特定半導体生産施設整備等計画の概要(2025半経第001号-1)」によれば、工場の拡張には1兆5,000億円の費用が使われる予定だ。経済産業省はその3分の1に当たる5,000億円が助成金として交付されることも、同省が行なった記者説明会で明らかにされている。

 なお、それとは別に研究開発費用向けとして530億円の交付も決定されており、合わせて総額で5,530億円となる。

赤澤亮正経済産業大臣

 今回の起工式に来賓として来場した経済産業大臣の赤澤亮正氏は次のように述べている。

 「現在はAI時代に突入しつつあり、GPUだけでなく半導体が一通り揃っていることが重要になる。半導体需要が増えている中で、わが国だけで半導体を安定供給できることには大きな意味があり、経済安全保障上重要な取り組みだ。

 また、本支援の中には需要逼迫時には国内に優先して供給するということが要件として入っており、国内安定供給のために必要な要件だ。Rapidusでロジック半導体を生産し、MicronでHBMをはじめとしたDRAMの生産を行なう。わが国はそうしたことを目指していきたい」。

 前出の経産省が公開した資料の中では、広島工場の規模も公開されている。それによれば広島工場全体の敷地面積は30万2,000平方m、生産能力は12インチ(300mm)ウェハ換算で月産4万枚と公開されている。

 製造されるDRAMのプロセスノードは、現時点での最先端ノードとなる1γ世代よりも微細化された世代と表現されており、1δ(デルタ)世代とされる次世代のプロセスノードになる可能性が高いといえる。

Micronが公開した、広島工場新建屋の完成イメージ(写真提供: Micron Technology)

 すでに広島工場では、現在利用されている建屋などに隣接する西側の敷地で、土地の造成が始まっており、そこに新しい建屋が建設され、ウェハ生産を行なうクリーンルームが設置されることになる。

 Micronが公表した報道発表資料では、新しい建屋など、第一期工事での敷地面積は約2.8万平方mで、1,000人以上の新規雇用が計画されており、2028年の後半に露光装置などの搬入が開始される計画という。

 Micronは完成予想図となるCGを公開しており、それを見る限り、2つの建屋が用意されており、そのうちの一つがクリーンルームになる可能性が高いだろう。いずれも現状の広島工場の建屋よりも高層建築に見え、クリーンルームは何フロアになるのかなど、どのような運用がされるのか注目が集まりそうだ。

酒造りの伝統と同じ水を使って製造される最先端DRAM

Micron Technology社長兼CEOのサンジェイ・メロートラ氏

 7月4日に広島工場で行なわれた新建屋(クリーンルーム)の起工式には、Micron Technology社長兼CEOのサンジェイ・メロートラ氏やマイクロンメモリジャパン株式会社 代表取締役の野坂耕太氏などといったMicron幹部、さらには来賓として政府、地元地方自治体関係者が参加して行なわれた。

 その際にメロートラCEOは次のように述べている。

「東広島にはかつて三浦仙三郎という日本酒の名匠がいらっしゃった。100年ほど前に、この地域の水は軟水だから良い酒は造れないと言われ続けたのを、徹底した測定と管理によって発酵温度を精密にコントロールして低温でじっくり時間をかけて発酵させる……そうした改善を何百回、何千回と繰り返した。その結果軟水を生かした独自の醸造法を確立し、広島の日本酒が全国品評会で高い評価を受けるようになり、今ではこの地域が、日本を代表する日本酒名産地の一つになっている。

 Micronも45年ほど前にメモリで世界を変えるという志を持ってスタートし、今では6万件を超える特許を保有し、世界有数のテクノロジ企業へと成長している。広島工場はMicronにとって単なる工場の一つではない。世界最先端のDRAMとHBMの開発と量産の両方を実現している。1β(ワンベータ)に続き、1γ(ワンガンマ)ノード、さらには HBM まで、AI 時代を支えるメモリを、ここ広島で生み出している。そのためにMicronは2013年以降この地に240億ドル(約3兆円)以上の投資を継続しており、今後も100億ドル(約1兆5,000億円)の投資を行なう計画だ。

 100年前にこの地域の水が世界最高の日本酒を生み出したが、これからの100年、この地から生まれる世界最高のウェハとメモリがAIを通じて人類の未来を変えていくと信じている」。

赤澤亮正経産大臣や岸田元首相らがくわ入れ式に参加

赤澤亮正経産大臣

 起工式の来賓として、1兆5,000億円の総予算のうち、約3分の1に当たる5,000億円の助成を行なった経済産業省の赤澤亮正大臣、地元広島県選出の国会議員で元内閣総理大臣の岸田文雄氏、広島県知事の横田美香氏、在日アメリカ大使館を代表してジョージ・グラス大使(ビデオメッセージ)、傘下のフジタとともに新建屋建設に携わる大和ハウス工業株式会社代表取締役会長/CEOの芳井敬一氏などが来賓代表としてあいさつを行なった。

広島工場 拡張の起工式での「くわ入れ式」セレモニー

 経済産業省の赤澤亮正大臣は、「半導体はDXやGXを支えるだけでなく、経済安全保障上も極めて重要な戦略物資だ。生成AIの急速な普及により、メモリ半導体の需要が世界的に拡大する中、日本が自ら半導体を生産し、国富を生み出しながら世界に貢献していくことには大きな意義がある。

 Micronは日本でDRAMを製造する唯一の企業であり、これまで広島を中心に3兆円を超える投資を行なってきている。経済産業省としても、設備投資と研究開発を合わせて7,700億円以上を助成してきている。高市内閣としては、2030年までにAI・半導体分野へ10兆円以上の公的支援を行なう方針だ。また、広島工場は日米連携の象徴でもあり、日米の良好な関係も広島工場の成功に不可欠だ。広島工場で生産されるウェハが世界中の人々に恩恵をもたらすことを期待したい」と述べた。

岸田文雄元首相

 岸田文雄元首相は、「私が在任中だった2023年5月、広島でのG7サミットの前に半導体企業のトップと面会し、日本への投資を呼びかけた。その中でMicronからEUV(極端紫外線露光)を利用した次世代DRAM製造に向けて東広島の拠点に大規模投資を行なうという表明があったことは強く印象に残っている。

 当時バイデン大統領に、この事例は日米半導体協力の好事例であると説明した。私が政権を担当していた時期には、半導体産業を国家戦略上の最重要分野と位置付け、国内の安定供給確保に向けた包括的支援を進めてきた。

 今後もAIの社会実装が進む中で高性能半導体への需要はさらに拡大すると考えられており、私も自民党の日本成長戦略本部長としてしっかり働きかけを続けていきたい」と述べた。

広島県 横田美香知事

 そのほかにも在日米国大使館のジョージ・グラス大使がビデオレターで、Micron広島工場がある地元自治体広島県の横田美香知事、建設を担当する大和ハウス工業の芳井敬一CEOなどが登壇し、広島工場への期待感などを表明した。

くわ入れ式の様子

 来賓のあいさつの後、起工式のメインセレモニーとなる「くわ入れ式」が行なわれた。くわ入れ式は建設予定地の屋外で行なわれる予定だったが、当日はあいにくの雨。そのため、室内にくわ入れ式用の土を運び込んで、来賓がシャベルでくわ入れを行なうという形で実施された。

すでに広島工場で1γノードのHBM4が量産開始

マイクロンメモリジャパン株式会社 代表取締役 野坂耕太氏

 マイクロンメモリジャパン株式会社 代表取締役 野坂耕太氏は、起工式に先立って記者説明会を開催し、現在のDRAM市場の状況や、広島工場の生産品などについて説明した。

野坂氏の経歴(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)

 野坂氏は九州大学を卒業後、2004年に当時のエルピーダメモリに入社し、プロセス・インテグレーション・エンジニアとしてDRAMの生産技術開発に携わった。その後、2013年にエルピーダメモリがMicronに買収された後は、新世代DRAM技術の米国工場からの技術移管などに関わり、2025年に現職に就任している。

メモリの需要が急増(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)

 野坂氏は、「AIの到来により、わずか1年でメモリを巡る状況は大きく変わっている。2025年には半導体全体の市場が7,900億ドルだったのに対して、メモリは2,250億ドルで28%を占めていた。しかし、本年の予測では半導体市場全体が1兆5,100億ドルに成長し、メモリは7,970億ドルになるとされており、メモリの占める割合は53%になっている。今や業界の重心はロジック主導からメモリ制約型へと移行しつつある」と述べた。

PC時代からAI時代へ(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)
MicronはHBMからNANDフラッシュまで幅広いメモリを提供(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)
提供している各種メモリ製品(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)

 そのうえで、以前のメモリはPC向けのDRAMが中心だったが、AI時代の現代はCPUにDRAMやLPDRAMが、GPUにHBMやGDDRなど多数の種類のメモリが使われるようになっていると述べ、HBM(High Bandwidth Memory)やDDR/LPDDRなどのDRAM、NAND型フラッシュを採用したSSDなど、さまざまなメモリが利用されるようになっており、Micronはそうした製品すべてを提供しているメモリベンダーだと説明した。

 たとえばAIデータセンターではHBMやLPDDRを搭載したSOCAMM2、レガシーのデータセンターではDDR5、PC向けにLPDDRを搭載したLPCAMM2、スマホ向けにはLPDDR5Xなどを提供していると述べた。

Micronのグローバルな製造施設(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)

 Micronの前工程の製造施設に関して、米国ではアイダホ州のボイシとニューヨーク州のクレイに新しい工場を、バージニア州のマナサスに安定ノード向けの工場を置いている。さらにアジア太平洋地域では、日本の広島のほかに、台湾の台中、桃園、台南、苗栗にDRAM工場があり、シンガポールにNAND型フラッシュメモリを生産する工場があると説明した。

マイクロンメモリジャパン(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)

 日本法人のマイクロンメモリジャパンに関しては、国内には広島工場のほか、研究開発を行なう神奈川県橋本の事業所、セールスなどの拠点となる東京オフィスと大阪オフィスなどの4拠点があり、国内の従業員数は4,700名以上という。

 野坂氏は、「広島工場は最先端のDRAMの開発と製造を行なう唯一の工場。さらに、開発と量産が同じサイト内にあるということがMicronの製造拠点としてもユニークで、新しい技術をいち早く顧客に届けるという観点で、開発と製造がシームレスになっていることが強みだ」と説明した。

 なお、同工場で利用されている素材(ウェハなど)は、80%が日本国内の企業から提供されたもので、日本の半導体サプライチェーンの強みが生かされているとのことだ。

1γノード(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)
HBM4(出典: マイクロン広島工場の取り組み、マイクロンメモリジャパン)

 広島工場では、すでに1γ(ワンガンマ)ノードを利用したHBM4の量産が開始されており、その製造にはEUVが利用されている。野坂氏はEUVを使って日本国内で量産が開始されたのはこれが初めてだと述べた。EUVを利用した1γノードのHBMは、従来の1βノードに比べて、エネルギー効率が20%、メモリ密度が30%改善されているという。