特集
Micronが捨てるコンシューマ向けメモリ/SSD事業。Crucialブランドはなぜ潰えるのか?
2025年12月8日 06:08
Micron Technologyは12月3日に、Crucialブランドによるメモリ(DRAM)およびSSD製品の販売を終了すると発表した。コンシューマ事業からの撤退である。Micronによれば、データセンター向けのDRAMやストレージの需要急増に対応するためという。
本紙の読者にとってはおなじみのブランドであるCrucialが消滅するというのは衝撃的なニュースだが、こうした事態にいたった背景には何があるのだろうか?ここでは、その理由を明らかにしていきたい。
データセンター向けの需要増により価格が上昇
今回の件はDRAMとSSDの両方に話が及んでいるが、ここではDRAMに話を絞って説明する。SSDに使われているNANDフラッシュメモリについても、価格変動の市場の需給の仕組みはほぼ同じと考えていいからだ。
まず基本的な話として、DRAMには「スポット価格」と「コントラクト価格」の2種類がある。
スポット価格(現物価格)というのは、いわゆるチャネルと呼ばれるDRAMベンダーの販売代理店、さらには販売代理店のさらに代理店……といった二次、三次の流通経路で販売されている「時価」だ。こうした販売代理店の先に、秋葉原のPCショップや家電量販店などの小売店があるというのがDRAM(小売店で販売されているのはメモリモジュール)の流通経路になる。
スポット価格は時価であるため常に変動しており、買う側と売る側の「需要と供給」の仕組みで綱引きが行なわれ、価格が決定される。
これに対してコントラクト価格(契約価格)というのは、DRAMベンダーとPCベンダーなどのOEMメーカーが直接契約して決める価格で、スポット市場の価格を参考にして決められることが多い。というのも、PCベンダーも仮にコントラクト価格が高ければ、2次、3次の代理店からスポット価格で購入することがあるからだ。
このため、スポット価格とコントラクト価格は常に連動しており、スポット価格が高くなれば、コントラクト価格も高くなるし、コントラクト価格が安くなれば、スポット価格も安くなる。これがDRAMの価格がダイナミックに変動している理由だ。
DRAMの価格などの詳しい分析を発表している台湾の調査会社「TrendForce」は、9月に公表したプレスリリース(英文)にて、現在につながるDRAM価格の上昇について理由を説明している。
その理由として挙げられるのは、2025年の第4四半期(10月から12月)にPCベンダーの在庫調整が発生し、主要PCベンダーがDRAMの調達量を減らしているためだ。
ただ、本来であればこれは価格下落の要素になり得る。それでも価格上昇が続いているのは、PCでもDDR4からDDR5、LPDDR4からLPDDR5への移行が進んでいることが影響している。
というのも、現状DDR5やLPDDR5に関してはデータセンター向けのサーバーでも使われるようになってきており、DRAMベンダーはDDR5のモジュール(DIMM)の増産をかけている状況だからだ。
特に米国のクラウドサービス事業者などがAI向けのデータセンターをどんどん建てているような状況で、それに引っぱられてDDR5やLPDDR5などのデバイス(DRAMチップそのもの)のコントラクト価格が上がり、それに引っぱられてスポット価格も上がっているという。
なお、PCベンダーが第4四半期に在庫を調整しているのは、10月14日にWindows 10のサポート終了(EoS: End of Support)がやってきて、Windows 11への乗り換え需要が来四半期(2026年1月から3月)は一段落し、PCの販売が昨年同期に比べて下落すると予想されているからだ。
DRAM自体の急な増産は難しく、供給の再調整が行なわれている
こうした問題が一筋縄でいかないのは、DRAMの需要が今後も伸びていくのか、それとも下がっていくのか、誰にも予想がつかないからだ。
DRAMベンダーにとって、現状は悪くない。というのも、黙っていても値段が上がっている状況で、それにより利益率が改善されることになる。
それなら増産をかければさらに利益を得られるのでは?と考えたいところだが、半導体ビジネスにおいては、それは簡単ではない。仮に上回った需要に対応できるように、供給を増やすとなると、新しい工場を建てたり、ラインを増やしたりしないといけない。
その投資が終わり、工場やラインなりが稼働して供給を増やせるようになった頃には、すでに在庫がだぶついていて、投資した分を回収できない可能性がある。半導体ビジネスは規模の経済であり、投資が回収できなければ、それがすぐに巨額の赤字につながってしまう。
しかし、従来はPCやスマートフォンなどに回していた分を、サーバーに切り替えれば、新しく投資をせずに、より利益率が高い市場向けの製品を増産できる。ちょうどPC向けの需要が一巡したところでPC向けだった分をサーバーに回せば、DRAMベンダーにとってより高い利益を確保することができる。
Crucialブランドは消えるがMicron製品がなくなるわけではない
そのような市場全体での再調整が行なわれている状況下で、MicronがCrucialブランドを廃止する動きに出たと考えられる。
もちろん、自社ブランドを廃止しなくても、在庫を持たずCrucial向けに製品を流さないという、実質的な廃止も可能だろう。しかし、それでは自作PC市場の流通チャネルやエンドユーザーなどに与える負の影響が大きいと判断され、それを視覚的にも分かりやすく見せるようにCrucialブランドを廃止したのではないだろうか。その意味では、Micronの決断は誠実と言える。
とはいえ、MicronやほかのDRAMベンダーのDRAMが自作PC向けの市場からなくなるということではない。CrucialのようなDRAMベンダー自身のブランドが登場する以前には、ノーブランドのOEMメーカー向けDIMMが、スポット市場を経由して自作PC向けとして販売されていた。
これは、SamsungやHynixなどのほかのDRAMベンダーも行なっていることで、販売チャネル(具体的には販売代理店)が販売を行ない、サポートなども販売代理店経由で行なわれるという以前の状況に戻るだけだ。
いつまで価格上昇が続くかは分からないが、いずれは落ち着くことになる。歴史的に見て、価格が上がったり、下がったりするのがメモリ市場というものだからだ。












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