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Intel、Core Ultra シリーズ2正式発表。Armより低消費電力で高性能
2024年9月4日 01:00
米Intelは3日(ドイツ時間)、次世代ノートPC用SoC「Lunar Lake」(ルナーレイク、開発コードネーム)を「インテルCore Ultraプロセッサー シリーズ2」(以下Core Ultra シリーズ2)として正式に発表した。既にOEMメーカーなどに対して出荷が開始されており、9月24日からグローバルに販売が開始される計画だ。
同社は正式なブランド名、モデル構成とそのスペックを公開。加えて、内蔵GPUの性能がAMDのRyzen AI 300シリーズ、QualcommのSnapdragon Xシリーズなどを上回り、かつより低消費電力であることがアピールされている。
Lunar LakeがCore Ultra シリーズ2として正式に発表、合計で9つのSKUが投入される
Intelは6月に台湾・台北で開催されたCOMPUTEX 24において、これまでLunar Lakeのコードネームで呼ばれてきた次世代SoCの詳細を明らかにした。以下はその記事となる、詳細に関しては以下のリポートをご参照いただきたい。
ブランド名は、前世代(開発コードネーム: Meteor Lake)で導入されたCore Ultraが継続され、前世代と区別する意味でシリーズ2が追加されて、Core Ultra シリーズ2となる。
Core Ultra シリーズ2は、CPU、GPU、NPUなどの各プロセッサだけでなく、SoCのデザイン全体として省電力になっている。具体的には、CPUのEコアがSoCの中でも低消費電力なアイランドに置かれるなどしており、高性能だが、低消費電力を実現している。
モデル構成は以下のようになっている。
Core Ultra 9 288V | Core Ultra 7 268V | Core Ultra 7 266V | Core Ultra 7 258V | Core Ultra 7 256V | Core Ultra 5 238V | Core Ultra 5 236V | Core Ultra 5 228V | Core Ultra 5 226V | |
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CPU Pコア | 4 | ||||||||
CPU Eコア | 4 | ||||||||
コア/スレッド | 8/8 | ||||||||
最大ターボクロック周波数(Pコア) | 5.1GHz | 5GHz | 4.8GHz | 4.7GHz | 4.5GHz | ||||
最大ターボクロック周波数(Eコア) | 3.7GHz | 3.5GHz | |||||||
LLC(L3キャッシュ) | 12MB | 8MB | |||||||
GPUブランド名 | Intel Arc 140V GPU | Intel Arc 130V GPU | |||||||
Xeコア数 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 7 | 7 | 7 | 7 |
最大周波数 | 2.05GHz | 2GHz | 1.95GHz | 1.85GHz | |||||
XMX AI TOPS | 67TOPS | 66TOPS | 64TOPS | 53TOPS | 53TOPS | ||||
NPU構成 | 6x Gen4 | 5x Gen4 | |||||||
NPU TOPS | 48TOPS | 40TOPS | |||||||
メモリ | LPDDR5x-8533 | ||||||||
メモリ容量 | 32GB | 16GB | 32GB | 16GB | 32GB | 16GB | 32GB | 16GB | |
PBP(TDP) | 30W(最小17W) | 17W(最小8W) | |||||||
最大ターボパワー | 37W |
前世代となる「Core Ultra」ではプロセッサーナンバーの最後の文字は、H、Uの2つで表記されており、PBP(かつてのTDP)が45Wと28WがH、15WがUになっていたが、Core Ultra シリーズ2ではいずれもVに統一されている。旧来製品との違いをプロセッサーナンバーで分かりやすく表記するため、今回のCore Ultra シリーズ2では「V」が採用されたという。
CPUはすべての製品で、Pコアが4コア、Eコアが4コアとなっており、SKUによりコア数の違いがないのが特徴。上位SKUではTurbo Boost時のクロック周波数が高めに設定されており、LLC(L3キャッシュ)がCore Ultra 7は12MB、Core Ultra 5は8MBとなっているのが違いになる。
PBPは30Wと17Wの2種類。8Wのファンレスデザイン可能なデザインポイントも提供
GPUに関してはCore Ultra 7以上がIntel Arc 140V GPU、Core Ultra 5がIntel Arc 130V GPUを搭載しており、両者の違いはXeコアと呼ばれるシェーダエンジンの数になる。前者は8つ、後者は7つとなっている。クロック周波数も違っており、それにより内蔵のXMX演算器を利用した時のAI演算性能が違っている。
NPUに関して、Core Ultraでは発表時のどのSKUでも11TOPSと同性能になっていた。それに対して、Core Ultra シリーズ2では、Core Ultra 7以上の演算器は6つ、Core Ultra 5は5つになっている。性能はCore Ultra 7以上が48TOPS、Core Ultra 5は40TOPSで、いずれもCopilot+ PCの要件である40TOPSを満たすことになる。
メモリに関しては、唯一30WのSKUとなるCore Ultra 9 288Vだけが32GB版のみの提供となり、Core Ultra 7以下は32GB版と16GB版の2つが用意される。プロセッサーナンバーの数字末尾が8の場合は32GB、6の場合は16GB版を意味している。なお、Intelは6月の技術概要の説明では、Core Ultra シリーズ2のメモリバスを64bit幅と説明していたが、それは間違いで実際には1チャンネルあたり64bitで、デュアルチャネル構成対応(つまり128bit幅)であると説明があった。
ノートPCのデザインを規定する熱設計枠は、最上位モデルだけが標準30Wで最小が17W、Core Ultra 7以下は17Wが標準で、最小が8Wとなる。いずれも従来の28W、15Wから2W分増えているが、それはマザーボードからSoC基板上にDRAMが移動した分だけ増えているためだ。
PBPが最大だけでなく最小の設定も用意されているのは、Core Ultraでは熱設計の枠はOEMメーカーが選択できるためだ。たとえば、30WのCore Ultra 9 288Vを選択した場合、30Wの熱設計の枠で設計することも可能だし、17Wと低い方の枠で設計することが可能だ。17W版の場合は8Wに設定することも可能になっている。8Wでは最大クロック周波数は低くなるが、ファンレスタブレットを設計することも可能になる。
第10世代Core(開発コードネーム: Lakefield)や、第12世代Core(開発コードネーム: Alderlake)では、TDP 9WのSKUが用意されており、フォルダブルPCなどに採用されていたが、第13世代CoreやCore Ultra シリーズ1では9W PBP(ないしはTDP)の製品が消滅していた。それに対してCore Ultra シリーズ2では、17WのPBP設定のSKUで、OEMメーカーが8Wを選択すると同じようなファンレス製品を設計することが可能になる。
オフィスアプリケーションを実行した時、性能もバッテリ駆動時間もSnapdragon Xシリーズを上回る
Core Ultra シリーズ2の性能は、ほとんどの項目でQualcomm Snapdragon XシリーズやRyzen AI 300シリーズといった他社のノートPC向けSoC製品を上回っているという。同時にArm CPUを採用しているSnapdragon Xシリーズによりも低消費電力になっており、同じバッテリ容量であれば、Core Ultra シリーズ2の方が長時間バッテリ駆動を実現できるとIntelは説明している。
具体的には、QualcommのSnapdragon X Elite X1E-80-100と比較して、Core Ultra 9 288Vの方が電力効率で勝っているという。なお、Snapdragon X Elite X1E-80-100が比較対象とされているのは、現状販売されているSnapdragon X Elite搭載PCはX1E-80-100が最上位で、それより上のSKUを搭載して販売しているOEMメーカーがないためだと考えられる。
Core Ultra 7 165Hを基準にすると、性能ではCore Ultra 9 288Vが上回っており、Snapdragon X Elite X1E-80-100はほぼ同等だが、SoCパッケージ全体での消費電力はSnapdragonが49%少ないのに対して、Core Ultra 9 288Vは53%と大きく減っている(性能や消費電力はベンチマークとしてUL Procyon Office Productivityを利用した場合)。これにより、QualcommのSnapdragon X Elite X1E-80-100と比較して、Core Ultra 7 288Vは電力効率で1.2倍優れているとIntelは主張した。
バッテリ駆動時間は、ほぼ同じ構成(同じディスプレイ、55Whのバッテリ)で、UL ProcyonのOffice Productivityベンチマークテスト(Microsoft Officeアプリケーションを利用したバッテリベンチマーク)で、Snapdragon X Elite X1E-80-100は18.4時間だったのに対して、Core Ultra 9 288Vは20.1時間を実現しているという。
ただし、Teamsを利用して電話会議をした場合にはそれが逆転し、Core Ultra 288Vの10.7時間に対して、Snapdragon X Elite X1E-80-100は12.7時間になっていることも合わせて説明されている。
CPU単体ではシングルスレッドの性能がSnapdragon XシリーズやRyzen AI 300シリーズを上回ると明らかに
CPUの性能に関しては、シングルスレッドの性能が引き上げられていることが強調された。Snapdragon X Elite(XIE-78-100)をベースラインにすると、Cinebench 2024のシングルスレッドでAMDのRyzen 9 HX 370は3%の性能向上だが、Core Ultra 9 288Vは20%の性能向上がある。Geekbench 6.3やSPECrate2017_int_base(i-copy)などでも同様の傾向になる。
マルチスレッド時の性能は、CPUの物理的なコア数やスレッド数などが減っているため、基本的には不利になる。22スレッド(6xPコア/コアあたり2スレッド+8xEコア、2xLP Eコア)構成のCore Ultra シリーズ1と比較すると、8スレッド(4xPコア、4xEコア)のCore Ultra シリーズ2はやや不利になるが、パッケージ全体の電力が17Wである場合にはむしろ高い性能を発揮し、23Wを超えるとマルチスレッド性能ではやや不利になるという。しかし、その分1スレッドあたりの性能はむしろ向上しており、17W時に3倍、23W時に2.6倍の性能向上になっている。
GPUに関しても新しいXe2アーキテクチャを採用したことで性能が向上している。Core Ultra 9 288Vは前世代のCore Ultra 7 155Hと比較してAAAタイトルのゲームで、平均31%の性能向上を実現している。Snapdragon X Elite X1E-80-100との比較では、Qualcomm側では23個の動かないゲームタイトルがあり、それを除いても平均して68%高い性能を発揮する。AMDのRyzen 9 HX 370との比較ではいくつかのタイトルでは負けるが、多くのゲームでは上回っており、平均して16%高い性能を発揮するという。
NPUではStable Diffusion 1.5での画像生成で、FP16を利用したGPU実行がSnapdragon X Elite X1E-80-100は未対応で、Core Ultra 9 288Vが3.89秒。NPUでint8実行した場合にはSnapdragon X Elite X1E-80-100が5.89秒であるのに対して、Core Ultra 9 288Vは5.28秒となっている。
同様に、UL BenchmarksのProcyon AI Computer Visionテストでは、Core Ultra 9 288Vはint8が1,866、FP16が1,077であるのに対して、Snapdragon X Elite(X1E-78-100)はint8が1760でFP16のテストは実行できず、Ryzen 9 HX 370はint8もFP16も実行できなかったとIntelは説明した。
Intelによれば、Core Ultra シリーズ2を搭載したノートPCは、9月24日から販売が開始される予定で、Acer、ASUS、Dell、HP、Lenovo、LG、MSI、SamsungのようなグローバルレベルのOEMメーカーからはもちろんのこと、日本ローカルのOEMであるマウスコンピューター、サードウエーブ、ユニットコムの3社もOEMメーカーのリストに入っており、それらのメーカーからも搭載PCが販売されることが期待される。既に20以上のOEMメーカーが設計に着手するなどしており、80以上のデザインが市場に登場する見通しだとIntelは説明している。
なお、今回はコンシューマ版の発表となり、企業向けのvPro版はまだ発表されていない。Core UltraのvPro版が発表されたのが2月末に開催されたMWC 24のタイミングで、通常vPro版の発表は、前モデルから約1年後となることが多いので、Core Ultra シリーズ2でもそのあたりのタイミングで発表される可能性が高いだろう。