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異議あり!Intelの「現時点の最速CPUコア」にQualcomm反論、駆動時間も優位と主張

左がSnapdragon X Elite(X1E-80-100)を搭載したXPS 13、右がCore Ultra 7 256Vを搭載したXPS 13。Cinebench R2024のシングルスレッド(ACアダプタ接続時)で、Snapdragon X Elite(X1E-80-100)が117、Core Ultra 7 256Vも116とどちらもほぼ同じスコアになっていた

 Qualcommは、10月21日~10月23日(現地時間)にSnapdragonプロセッサに関する年次イベント「Snapdragon Summit」を、米国ハワイ州マウイ島において開催。最終日となる10月23日には、同社のWindows on Arm(WoA)向けのSoCとなる「Snapdragon X Elite」のベンチマークに関する説明会を開催した。

 この中で、Intelが9月に発表した「Core Ultraプロセッサー 200Vシリーズ」(以下Core Ultra 200V)のベンチマークデータに対して同社が持っている“異議”を表明した。

Qualcommが、IntelのIFAでのCore Ultra 200Vの発表に異議表明

初日基調講演でのクリスチアーノ・アーモンCEO

 Snapdragon Summitの初日に行なわれた同社 CEO クリスチアーノ・アーモン氏の会見で、AMDが7月に発表した「Ryzen AI 300シリーズ プロセッサ」(以下Ryzen AI 300)、Intelが9月に発表したCore Ultra 200Vとの比較データを明らかにした。

 最終日となる10月23日には、そうしたベンチマークデータの詳細が説明されるセッションが行なわれ、Intelが9月のCore Ultra 200Vシリーズ発表時に行なった主張に対するQualcomm側の反論が行なわれた。

Qualcomm Technologies エンジニアリング部長 スリラム・ディクシット氏
IntelのIFAでの主張(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)

 Qualcomm Technologies エンジニアリング部長 スリラム・ディクシット氏は「Intelは同社が9月にベルリンで開催した記者会見の中で、現時点で最速のCPUコア(英語だとThe Fastest Cores. Period.)だと表現した。それに対しての弊社の見解を説明していきたい」と、Intelの見解に対する異議があるとし、市販されたRyzen AI 300シリーズやCore Ultra 200Vのシステムを利用して計測したデータを用いて、“反論”を行なった。

シングルスレッドではわずかに、マルチスレッドではSnapdragonが上回っているとアピール

Cinebench R2024シングルスレッドの結果、左側がIntelのIFAでの主張、右側はQualcommの計測データ(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)

 ディクシット氏は「Intelが公開したCinebench 2024のシングルスレッドの結果では、X1E-78-100(Snapdragon X Eliteの最下位SKU)に比較して、Core Ultra 288Vが20%高いとなっていた。

 一方で、弊社で最上位SKU(X1E-84-100)と比較してみると、テスト時点で市販されていたCore Ultra 7 256Vと比べて上回っていたし、PCWorld誌が公開したCore Ultra 9 288Vのスコアも上回っていた」と述べ、Qualcommの最上位SKUであるXIE-84-100の方が高い性能を発揮できると主張した。

Cinebench R2024のマルチスレッドの結果、こちらはSnapdragon X Elite(X1E-80-100)が圧勝(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)

 製品にSnapdragon版とCore Ultra 200V版の両方が同じ筐体で用意されているDellの「XPS 13」で比較したところ、Cinebenchのマルチスレッド性能は、Snapdragon X Elite(X1E-80-100)の方が、Core Ultra 7 256Vに比べて92%高速だったというデータを示した。

 なぜこうした結果になるのかと言えば、それは両者のコア数とコア構造の違いだ。Snapdragon X EliteはOryonのプライムコアと呼ばれるIntelで言えばPコアに相当するCPUコアが12コアある。それに対してIntelの側はPコアが4つ、Eコアが4つになっており、プライムコア(Pコア)がその3倍あるSnapdragon X Eliteの方がCinebenchのようにCPUをフルロードにするテストでは有利な結果が出るのは容易に想像できるだろう。

Geekbench 6 シングルスレッド(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)
Geekbench 6 マルチスレッド(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)
SPECint_base(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)

 QualcommはほかにもGeekbench 6、SPECint_baseなどに関して、Intelの主張に対する反論データを公開した。

QualcommはSnapdragon X Elite(X1E-80-100)、Core Ultra 7 256Vを搭載した同じXPS 13でバッテリ駆動時間(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)
そのほかのアプリでのバッテリテスト(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)

 また、QualcommはSnapdragon X Elite(X1E-80-100)、Core Ultra 7 256Vを搭載した同じXPS 13でバッテリ駆動時間を計測するベンチマーク(UL Procyon Battery Life Office Productivity)を行なった結果を公表。

 それによれば、Snapdragon X Elite(X1E-80-100)は28.7時間、Core Ultra 7 256Vは24.2時間となり、4.5時間Snapdragon X Eliteの方が長いという結果になると説明した。9月のIntelの会見時にIntelは「同じディスプレイパネル、同じバッテリ容量」でCore Ultra 200Vの方が1.7時間長いと説明しており、これに関しては結果が分かれた形だ。

Snapdragonはバッテリ駆動時の落ちが小さい(出典:Snapdragon X Series Benchmarking、Qualcomm)

 さらに、Qualcommはバッテリ駆動時にはSnapdragon X Elite(X1E-80-100)がCore Ultra 7 256Vに比べて性能の落ちが少ないというデータを公開し、バッテリ駆動時により高い性能で使えるともアピールした。

 今回Qualcommが公開したデータを見ていると、シングルスレッドの性能に関しては、テスト環境(それこそ外気温)などで揺れる程度の差だと感じた。つまり、どっちもシングルスレッドに関しては同等と言ってよい。それに対してマルチスレッドは、プライムコアが12コアという時点で、Snapdragonの方が圧倒的に有利なことは最初から予想されていたので、妥当な結果だと言える。バッテリに関しては、同じ筐体を使って比較しているという意味では、Qualcommの言い分の方に分があるように思えるが、このあたりはIntelの反論を聞きたいところだ。

自社の良いところを主張するのが公式ベンチマーク結果。「何を言っていないのか」に要注目

 こうした主張は、どちらの側もお互いに自分の都合の良いことを主張するのが通例。いわゆる嘘は言ってないけど、すべて本当のことも言っていないというのがマーケティングの世界だ。そのため、受け取る側としては、何を言っていて、逆に何を言っていないかをよく検討してみる必要がある。

 実際、今回のセッションでQualcommは一度も3Dゲームの性能に関しては主張をしなかった。IntelのIFAでの発表でIntelは「Snapdragonでは動かないゲームが多く、性能はCore Ultra 200Vが上回っている」と主張していたのだが、それに対しての反論は一切なかった。つまり、Qualcommの側もそこは事実だと認めざるを得ないということだと理解できるだろう。

 一方IntelのIFAの発表でもCinebenchのシングルスレッドの結果には触れているが、マルチスレッドのデータは公開していない。つまり、Intelの側もそこは弱点だと認識しているということだ。

 SoCベンダー同士がこうした主張をし合うというのも、言ってみればそれだけ競争が激しくなっているということの裏返し。消費者にとっては、中長期的に見ればSoCベンダー同士が競争することで価格の下落が期待できるだけに、今後も「競争」が激しくなることは歓迎してよいのではないだろうか。