イベントレポート
Lunar Lakeは「x86が効率的ではないという神話を打ち破る」
2024年6月4日 12:00
IntelはCOMPUTEX 2024の開幕初日に、Intel CEO パット・ゲルシンガー氏が基調講演に登壇し、同社が第3四半期に発表を計画している次世代薄型ノートPC向けSoC「Lunar Lake」の技術的な詳細を発表した。
それに先だって行なわれた同社の記者会見では、Intel 上席副社長 兼 クライアント・コンピューティング・事業本部 事業本部長 ミッシェル・ジョンストン・ホルトス氏や同社幹部が登壇し、Lunar Lakeの技術詳細を説明した。
この中でジョンストン・ホルトス氏は「Lunar Lakeは前世代と比較して40%も消費電力を削減し、CPU/GPU/NPUの性能を大きく引き上げている。これによりx86プロセッサは効率的ではないという“神話”をついに打ち破ることになる」と述べ、x86プロセッサでも高い電力効率でかつ高い性能を実現するというSoCを実現するのだと強調した。
x86プロセッサは効率的ではない話は過去のものに
ホルトス氏は「我々はAI時代の入り口にいるに過ぎない。これから大きな転換点を迎えて、2030年には1兆ドルを超える市場になると予想されている。それに向けてIntelはAI Everywhereという戦略を打ち出し、昨年(2023年)の12月にCore Ultraを発表して以来、5月末の時点で800万ユニットを出荷してきた」と述べ、Intelが生成AIやAIのトレンドに対して対応した製品を計画しており、その1つが昨年12月にIntelが発表したMeteor LakeことCore Ultraであり、AI PCの取り組みなのだと強調した。
その上でジョンストン・ホルトス氏は「本日はその第2弾となる製品としてLunar Lakeの技術的な詳細を皆さんに明らかにする。Lunar LakeはAI PCを次のステップに進ませるために必要な要素であり、前世代と比較して40%も消費電力を削減し、これまでにない高い電力効率のx86プロセッサを実現する。
さらにグラフィックスの性能は1.5倍になり、GPUのAI推論性能を大きく引き上げ、さらにNPUも48TOPSを実現するなど大きく性能を引き上げる。こうした結果により、これまでのx86プロセッサは効率的ではないという“神話”をついに打ち破ることになる」と述べた
つまり、多くの人が「x86プロセッサは電力効率が悪く、高効率なプロセッサを実現できない」と考えている「神話」(意訳すれば誤解)を打ち破ることが可能になるぐらい高効率なプロセッサだと強調した。
ホルトス氏は「既にLunar Lakeの採用を決めたパートナー企業は20社を超えており、それらのパートナーから80を超えるデザインが登場する見通しだ。また、先日Microsoftが発表したCopilot+ PCにも対応する」と述べ、Microsoft Windows・デバイス担当 執行役員 パヴァン・ダビュルリ氏からのLunar LakeがMicrosoft Copilot+ PCに対応することをうれしく思うという内容のビデオを公開した。
その上で「対応しているソフトウェアが揃っており、それを開発する環境が整っていることが何よりも重要だ。互換性があることが分かっている一部のアプリを選ぶのではなく、すべてのアプリが動くというエコシステムを実現することが大事だ。我々のプラットホームにはそうした懸念は一切ない」と述べ、Copilot+ PCのローンチパートナーに選ばれたQualcommが、Arm ISAを採用していることにより、依然としてソフトウェアの互換性に不安があることを念頭に、遠回しではあるがチクリと皮肉った。
IntelのAI PCに向けたAIアプリケーションを開発する環境「Lunar Lake Dev Kit」の投入意向表明
ジョンストン・ホルトス氏は、そうしたLunar Lakeを搭載した開発キットの提供を開始することを明らかにした。QualcommとMicrosoftはArm版Windows向けの開発キットを昨年のBuildでSnapdragon 8cx Gen 3搭載版を発表し、今年(2024年)のBuildではSnapdragon X Eliteを搭載したバージョンの投入を明らかにしている。
IntelやAMDのx86プロセッサのようにそこら中にPCがありふれているような場合には、こうした開発キットは特に必要ではなく、ユーザーが開発しているPCでアプリケーションのデバッグなどを行なえる。しかし、Snapdragonを搭載したPCはまだまだ多いという状況ではないので、Arm版Windows向けに開発する開発者にとっては、比較的安価に入手できるこうしたキットの存在が重要になる。
その意味でx86プロセッサ向けのアプリケーションを開発する場合にはこうした開発キットの存在は、Qualcommほどは重要ではなかったが、AIアプリケーションに関しては話が別だ。
たとえば、アプリケーション開発者がLunar LakeのNPUを利用したアプリケーションを、DirectMLで作りたいと考えた場合には、Lunar Lakeの実機が必要になる。そうしたニーズに応えるのが、今回Intelが存在を明らかにした、「Lunar Lake Dev Kit」になる。
展示会場で公開したLunar Lake Dev Kitは、前面にUSB Type-C端子とヘッドフォン端子、背面にUSBが2つ、USB Type-Cが1つ、HDMIが1つ、有線LAN端子が1つとなっており、いわゆるミニPCとしても十分使えるポート類を備えている。
現時点でIntelはLunar Lake Dev Kitの販売方法、発売日、詳細なスペックなどは明らかにしていないが、第3四半期に予定されている、Lunar Lakeの正式発表時に明らかになるだろう。
Lunar LakeはCPUの電力が半分に、GPUは性能が1.5倍、NPUは48TOPSを実現する
Intel 執行役員(CVP) 兼 クライアント・コンピューティング事業本部 CTO(最高技術責任者) ロブ・ブルックナー氏は、今回Intelが明らかにしたLunar Lakeの技術詳細のハイライトを説明した。
ブルックナー氏は「AIの使い方はこれからもどんどん進化する。AIはこれまで3段階で進化してきたと考えている。第1段階はマシンラーニングの登場だ。それにより作業の効率化などが実現された。第2段階はCopilotのようなパーソナルアシスタントだ。そして次の段階になるが、デバイス上でユーザーが何をしているのかなどをAIが解析して新しい使い方を提案する段階だ。これによりPCの使われ方は革命的に変わっていくことになるだろう」と述べ、エッジAI、オンデバイスAI、AI PC呼び方はさまざまだが、デバイス上でAIの処理を行なうAI PCの使い方により、PCの存在は革命的に変わっていき、現在はその初歩にいる状態だと説明した。
ブルックナー氏はそうしたAI PC時代のSoCに求められる条件として「低消費電力だけど、高いIPCを実現するCPU、高い性能を実現するGPU、CPU/GPU/NPUといった複数のエンジンを組み合わせた高いAI処理性能、3Dチップレットなどの最新のパッケージング技術、そして開発ツールや過去の資産を含めてソフトウェアのエコシステムがそろっていることが重要になる」と述べ、それらすべてを満たしているのがLunar Lakeだと強調した。
ブルックナー氏は「Lunar LakeはSoC全体で前世代と比べて40%の消費電力を削減し、新しいCPUコアはシングルスレッドで同じ性能を実現しながら消費電力は半分になる。GPUは性能が1.5倍になり、AIではNPUが48TOPS、GPUが67TOPSを実現し、(5TOPSのCPUを含めて)プラットホーム全体で120TOPSの性能を実現する」とLunar Lakeは従来世代と比較して性能が大きく向上しているのに、消費電力は40%も減っていると高効率の製品だと強調した。