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シャープ、プラズマクラスターで新型コロナの約91%不活化に成功
2020年9月7日 19:18
シャープは、同社独自のプラズマクラスター技術が、空気中に浮遊する新型コロナウイルスの減少に効果があると発表した。
長崎大学感染症共同研究拠点の安田二朗教授、南保明日香教授、島根大学医学部の吉山裕規教授と共同でプラズマクラスター技術搭載ウイルス試験装置を開発。これを利用して、長崎大学の協力で実験を行なった結果、空気中に浮遊する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に、プラズマクラスターイオンを約30秒照射することにより、感染価が91.3%減少することを実証したという。
室内でのエアロゾル感染にも有効か
特別に開発した約3Lの試験空間において、ウイルス感染細胞から調製したウイルス液を噴霧し、そこにプラズマクラスターイオンを照射。プラズマクラスターイオン濃度は、プラズマクラスターイオン発生装置付近で約1,000万個/立方cm。噴霧後に回収装置で回収したウイルス液からウイルス感染価(感染症ウイルスの数)を、プラーク法により算出した。
実験を行なった長崎大学感染症共同研究拠点の安田二朗教授は、「ウイルス噴霧装置から発生するウイルスは、粒径は平均2μmのエアロゾルであり、これは飛沫が一番遠くまで飛ぶ大きさである。噴霧から回収までの装置内へのウイルスの滞留時間は約30秒としている。
実験は、長崎大学のBSL-3試験施設内の安全キャビネットを使用。フードのなかに試験装置を設置して実験を行なった。回収したウイルスは10倍段階希釈したウイルス液を入れたあと、寒天培地で2~3日間かけて培養した。ウイルスは隣接した細胞に感染を広げていくが、ウイルスが感染し、壊れた細胞は染色液には染まらない。その結果を比較した」という。
プラズマクラスターイオンなしでは、感染性ウイルス数(プラーク数)は、17,600個であったのに対して、プラズマクラスターイオンありは、1,540個となり、感染性のあるウイルス粒子は、91.3%減少した。
「プライズクラスターを30秒間発生させることで、91.3%の新型コロナウイルスを不活性化させた」(同)と述べる。
なお、実際の商品に利用されているプラズマクラスター発生装置は、吹き出し口付近で約100~200万個/立方cmとなっており、今回の試験では、それよりも高い濃度を発生するデバイスを使用している。
実験では30秒間の照射となっているが、「今回は安全性を最優先し、30秒以上の照射は行なっていないため、具体的な数値では示せないが、より長時間照射したり、繰り返し照射すれば効果は上がるという合意確認はしている」(シャープ 専務執行役員 スマートライフグループ長兼Smart Appliances & Solutions事業本部長の沖津雅浩氏)とした。
長崎大学感染症共同研究拠点の南保明日香教授は、「新型コロナウイルス感染症は、接触や飛沫、エアロゾルによって感染するが、なかでも、エアロゾルによる感染は、密閉された同一空間に存在する人が一気に感染する可能性があることを示している。
感染初期段階で高い感染力を示しており、無症状ウイルス保有者による感染拡大という新型コロナウイルス特有の現象もある。対策は、3密を避けたり、安全な距離を保つこと、こまめに手を洗う、室内換気やマスクの活用といった対処療法にとどまる。ウイルスとの共存を進めるためには、これ以外の感染対策法の模索も必要である。今回の発表はそれにつながる」と語る。
また、長崎大学の安田教授は、「プラズマクラスター技術が、空気中に浮遊した状態の新型コロナウイルスを不活化させることが実証されたことで、一般家庭だけでなく医療機関などの実空間で抗ウイルス効果を発揮する可能性があると期待される。実空間において、どれぐらいのプラズマクラスターのイオン濃度を発生させられるかにも影響する。効果のある濃度を発生し、維持できれば実空間でも効果が出るだろう。これが、今後、どう社会実装されるかをシャープに期待したい」とした。
シャープが開発したプラズマクラスター技術
シャープのプラズマクラスター技術は、陽イオン(H+(H2O)m)と陰イオン(O2-(H2O)n)を同時に空中へ放出して、浮遊する細菌やカビ、ウイルス、アレルゲンなどの表面で瞬間的に陽イオンと陰イオンが結合し、酸化力の非常に高いOH(水酸基)ラジカルに変化。化学反応によって、細菌などの表面のたんぱく質を分解して、その働きを抑制する独自の空気浄化技術だ。抜き取った水素(H)とOHラジカルが結合し、水(H2O)になって空気中に戻る。
2000年に技術開発に成功して以来、これまで第10世代のデバイスにまで進化。イオン濃度を約20倍、体積は約6分の1、消費電力は約5分の1に進化させ、同社の空気清浄機やエアコン、洗濯機などにもこの技術を採用しているほか、日産やホンダの自動車、北陸新幹線や地下鉄御堂筋線などにも採用されており、累計で全世界9,000万台の出荷実績がある。2021年度には1億台の累計出荷が見込まれているという。
2004年に「浮遊ネココロナウイルス」に対する効果を実証したほか、2005年には「SARSコロナウイルス(SARS-CoV)」に対する効果も実証している。そのほかにも、ニオイやペット臭、美肌、美髪、肌保湿などにも効果があることが実証されている。
これらの効果策定は、世界の第三者試験機関と共同で実証するアカデミックマーケティングの手法を採用。薬剤耐性細菌やダニアレルゲンなどの有害物質の作用抑制や、小児喘息患者の気管炎症レベルの低減効果などの臨床効果を実証。あわせて、プラズマクラスターの安全性についても確認してきたという。
シャープ 専務執行役員 スマートライフグループ長兼Smart Appliances & Solutions事業本部長の沖津雅浩氏は、「2020年4月から進めてきた新型コロナウイルスへの効果検証が終了した。シャープでは、これまでにも実証実験のさいには、小空間での効果検証、実使用相当の空間での効果検証、臨床試験という3つのステップを踏んできた。
浮遊する新型コロナウイルスの検証は、ワクチンや有効な治療薬がない状況下での試験となるため、安全性を優先して、小空間での効果検証としている。より実使用に近い条件の効果検証も行なっていきたいが、当面は実空間での検証は難しいと考えている。しかし、試験可能な状況が整い次第、実験をしたい」とした。
また、「今回、空気中に浮遊する新型コロナウイルスに対して、プラズマクラスター技術が感染価減少の効果があることを実証できたことで、新型コロナウイルスの感染リスク低減に向けて、効果的なプラズマクラスター技術の応用や活用方法の検討を行ない、提案をしていきたい。
プラズマクラスター技術により、健康的、衛生的で快適な空気環境を世界に届けたい。そのためには、さまざまな作用メカニズムの解明を進め、一般家庭や業務用分野におけるさまざまな空気の困りごとに耳を傾け、プラズマクラスター技術の進化と効果検証を続け、解決したい」と述べた。
なお、新型コロナウイルスに対する抑制効果については、パナソニックが、同社が開発した独自技術のナノイーで利用している帯電微粒子水において、ウイルス液を滴下したガーゼをシャーレに設置した状態で曝露し、その結果、99.7%~99.9%の抑制率が見られたことを発表しているほか、ダイキンが同社独自のストリーマ技術で、3時間照射することにより新型コロナウイルスを99.9%以上不活化することを確認したことを発表している。
シャープでは、今回の効果実証は、浮遊菌を対象としていることが特徴で、自然減衰する付着菌を対象としたこれらの実証結果とは異なっていることを強調している。