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NVIDIAがGPUを再定義。Turing GPUは今後十数年間のグラフィックストレンドに
2018年8月15日 10:16
8月12日~8月16日にカナダのバンクーバー市で開催中のグラフィックス関連の展示会「SIGGRAPH 2018」の基調講演に、NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏が登壇し、同社の新しいGPUアーキテクチャとなる「Turing GPU Architecture」と、それを採用したプロ向けのQuadro RTX 8000など3製品を発表した。
この講演のなかでフアン氏は、NVIDIA Turing GPU Architectureがリアルタイムレイトレーシングに対応していることを強調し、具体的なデモを交えながらそのメリットなどを説明。Turing GPU Architectureが今後の3Dグラフィックスのトレンドをリードする製品になると強調した。
レイトレーシング利用で、レンダリングは新しい時代に
フアン氏は、トレードマークの革ジャンで登場。革ジャンは3月の末に行なわれたGTCから変更されており、ここ数回で登場した肩のあたりにフィンのようなものがついているデザインから、すっきりとしたものに変更されている。
フアン氏はまずレンダリングの歴史についてふれ、「昔はムーアの法則でのCPUの進化よりも、レンダリングに必要な性能を上回っていた。それを変えたのがわれわれのGPUで、GeForce 256のデビューからずっとグラフィックス業界に必要な処理能力を提供してきた」と述べ、レンダリングを行なうプロセッサがCPUからGPUに変わってきた経緯を説明した。
そして、リアルタイムのフォトリアルの時代に突入しており、「すでに物理的な動きがリアルタイムレンダリングで再生できるようになっている」と述べ、NVIDIAのGPUを利用して物理シミュレーション、キャラクターアニメーション、人の顔のアニメーションなどが可能になってきており、より現実に近いレンダリングができるようになっていると指摘。
35年前のレンダリングの研究についてもふれ、512×512ドットの初期段階のレイトレーシングをレンダリングするのに1.2時間近くかかっていたが、それが今はもっと多いデータ量のレイトレーシングをGPUで処理できるようになっているとし、「2018年のレンダリングは新しい時代に突入した」と述べた。
Turing GPUとQuadro RTX 8000/6000/5000を紹介
フアン氏は、「3月に行なわれたGDCではDGXワークステーションを利用したフルリアルタイムのレイトレーシングを紹介したのはとても画期的なことだったが、今回は1枚のカードでレイトレーシングを実現できるTuring GPUを紹介したい」と述べ、GPUの新しいアーキテクチャとして「NVIDIA Turing GPU Architecture」を発表した。
Turing GPUは、従来までのCUDAコアから搭載されているSMに加えて、レイトレーシング処理を行なうRTコア、そしてAIの推論を行なうTensorコアを搭載している製品となる。
従来どおりのレンダリングはCUDAコアで行ない、レイトレーシングの処理はRTコアに、AIの推論はTensorコアにオフロードすることで、リアルタイムレイトレーシングを実現する。
昨年(2017年)のSIGGRAPHなどでNVIDIAが発表してデモを行なったAIの推論を利用したデノイズなどの新しい手法を、RTコア、Tensorコアなどを利用し、リアルタイムにレイトレーシングを行なうことを可能にしている。
このほか、Turing GPUの特徴としては、SMが最大4,608CUDAコアで、FP32時に16TFLOPS、RTコアが10GigaRay/s、TensorコアがFP16時に125TFLOPS、INT8時に250TOPS、INT4時に500TOPS、メモリコントローラが6MBのL2キャッシュ搭載、386bit幅で14GbpsのGDDR6を利用することで、672GB/sの帯域幅を実現する。製造プロセスルールは12nmになると、基調講演後の質疑応答で説明されており、ダイサイズは754平方mmとなっている。
また、2wayのNVLinkに対応しており、2つのGPUを接続して最大100GB/sの帯域で接続して1つのGPUとして扱うことが可能だ。これは3月に発表されたGV100を利用したQuadro GV100でも導入されていた仕組みで、専用のブリッジを利用して2枚のカードを接続し、1枚として利用する。フアン氏はこのブリッジを紹介した後、革ジャンの胸ポケットにそれを挿したまま講演を続けた。
そしてフアン氏が「世界初のレイトレーシングGPUだ」として紹介したのが、Turing GPUを採用した最初の製品となるQuadro RTX 8000、同6000、同5000のQuadro RTXシリーズとなる。
詳しくは別記事(NVIDIA Turing GPU Architecture採用の「Quadro RTX 8000」)を参照してほしいが、最上位モデルのQuadro RTX 8000は10Giga Rays/s、16TFLOPS+16TIPSの性能を備えているほか、ビデオメモリは標準で48GB、NVLinkで接続した場合には2枚のカードで1つのGPUとして利用可能で、その場合には96GBという容量を実現する。
レイトレーシングの各種デモを紹介、レイトレーシングが時代を変える
フアン氏は、グローバルイルミネーションなどのレイトレーシングを利用した場合に、レンダリングがどれだけ向上するかのデモや、ドイツの自動車メーカーポルシェのコンセプトモデルであるポルシェ911 スピードスターコンセプトのCGモデルを利用したデモを実演した。
自動車を動かすことで、光の反射や陰などがリアルタイムに動く様子が紹介され、「これはビデオではなく実際にリアルタイムに動かしている」と述べ、リアルタイムのレイトレーシングが可能になることで、自動車などの工業用品の設計に一般的に利用されているCAE(Computer Aided Engineering)の品質が大幅に向上するとアピールした。また、従来世代のPascalとの性能比較では、レイトレーシング時に6倍高速になると説明した。
また、NVIDIA RTX Serverも発表。RTX ServerはQuadro RTX 8000を8枚格納したサーバーアプライアンスで、リモートでマルチGPUバーチャライゼーションを利用可能になっており、レンダリングにかかる時間を少しでも削減したい企業など対象にした製品となる。
アーリーアクセスが第4四半期から開始され、来年(2019年)の第1四半期に一般提供が開始される予定だ。フアン氏はCPUベースのシステムとの比較についてふれ、「Skylakeベースのサーバーで構成しようとすると240個の12コア CPUが必要になり、144kWの電力と200万ドルのコストを必要とする。それに対してGPUで同じ性能を実現するには、4つのRTXサーバーを導入すればよく、電力は13kW、5万ドルのコストですむ。コストは4分の1、電力は11分の1、必要となるスペースは10分の1になる」と述べ、GPUのお得さをアピールした。
そしてNVIDIAのリアルタイムレイトレーシングのソフトウェア開発の基盤となるRTXを、3D CADなどのISVが対応を開始する予定であることを明らかにした。AdobeのDimension、CC、AutodeskのArnoldや、自動車の設計などで一般的に使われているダッソー・システムズのCATIAなどがリストに含まれており、とくに日本の自動車メーカーで広く利用されているCATIAでRTXがサポートされるのは重要なニュースと言える。
最後にフアン氏は、Quadro RTXを利用したレイトレーシングを活用したデモCGを紹介し、「Turing GPUはGPUを再定義する。これはレイトレーシングという今後十数年間のグラフィックストレンドのはじまりだ」と述べ、Turing GPUがグラフィックス業界にとって画期的な製品になるとアピールして講演を終えた。