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NVIDIA、70万円でリアルタイムレイトレを実現した「Quadro RTX」をデモ

SIGGRAPH 2018のNVIDIAブース

 8月12日~8月16日の期間でカナダのバンクーバー市で開催中のグラフィックス関連展示会「SIGGRAPH 2018」の基調講演に、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏が登壇し、新GPUアーキテクチャ「Turing GPU Architecture」と、それを採用したプロ向けのQuadro RTX 8000など3製品を発表した。

 基調講演が行なわれた翌日(現地時間8月15日)からはSIGGRAPHの展示会がスタートし、NVIDIAもブースを設置して、Turing GPUベースのQuadro RTXシリーズを利用したデモを行なっていた。

現実的な表現を1枚のTuring GPU搭載カードで実現

 ポルシェの自動車の3Dデータを利用したデモでは、Quadro RTX 6000を利用し、より現実的な車体の反射や影の表現がレイトレーシングで再現されていた。

 従来までのQuadroシリーズの場合、レイトレーシングの演算がSM(CUDAコア)で行なわれていたため、処理能力に制限があり、表現に限界があった。

 しかし、Quadro RTX 6000ではRTコアを内蔵しており、10Giga Rays/sの性能を持つエンジンを利用したレイトレーシングが可能になっている。レイトレーシングのアクセラレータがQuadroに追加されたようなもので、これまでのCUDAコアだけを利用した場合に比べて高い表現力がもたらされている。

 自動車メーカーのエンジニアなどのプロフェッショナルユーザーは、より高品質な3Dモデルを作成するために、少しでも性能の高いGPUを必要とする。QuadroシリーズからQuadro RTXシリーズに移行することで、同じ品質ならより短時間に、より高品質を求めた場合でも同じ時間でレンダリングしたり、場合によってはリアルタイムでレンダリングすることが可能になる。生産性の向上につながるため、要注目のデモと言える。

高品質なレンダリングを、リアルタイムレイトレーシングで実現
これだけの高品質な3Dモデルが、ぐりぐり動くのは正直驚きだった

 Autodeskが提供するArnoldは、レイトレーシングを活用するレンダラーで、同社の3DソフトウェアであるMaya、Cinema 4D、3ds MAXなどで利用できる。Arnoldはいち早くNVIDIAのレイトレーシングSDKとなるRTXに対応しており、デザイナーはQuadro RTXシリーズのRTコアを利用したレイトレーシングをAutodeskの3Dモデリングソフトウェアなどで使えるようになる。

 なお、基調講演のレポートでもふれたように、ほかにもAdobe SystemsのDimension CC、自動車設計の現場で一般的に使われているダッソー・システムズのCATIAなどもRTXに対応する予定で、対応が進めばプロフェッショナルグラフィックス環境でのレイトレーシング活用が促進されるだろう。

AutodeskのArnoldのデモ

 ParaViewというデモでは、リアルタイムレイトレーシングによるレンダリングと、CUDAコアを利用した物理シミュレーションを、Quadro RTX 6000のカード1枚でやっていた。

 これまでであれば、CUDAコアを利用した物理シミュレーションに専用のカードを用意し、それとは別のカードでレンダリングをやっていたとのことだが、RTコアが入っているQuadro RTX 6000ではレイトレーシングのレンダリングをRTコアにオフロードして、CUDAコアで物理シミュレーションを演算しており、すべてを1枚のカードで実現できているという。

ParaViewのデモ、RTコアのレイトレーシングとCUDAコアを利用した物理演算を同時(実際には仮想的に同時)に実行している

 また、NVIDIAのレイトレーシングSDK(RTX)のデモでは、RTXを有効/無効にした場合の比較デモなどが行なわれていた。

RTXオンの影
RTXオフの影
RTXオンの反射
RTXオフの反射

70万円のQuadro RTX 6000でリアルタイムレイトレーシングが可能に

 RTXのデモでは、3月のGDCで行なわれて話題になったスターウォーズのストームトルーパーを(Unreal Engineの「スター・ウォーズ」レイトレデモは実写と見紛うほどの出来)、レイトレーシングを利用してリアルタイムにレンダリングするデモが公開されていた。

 GDCのデモでは、DGX StationというGV100が4枚入っているモンスターワークステーションベースでデモされていたが、今回のデモでは1枚のQuadro RTX 6000で同じデモが動いていた。

 説明員によれば、RTコアによって単体カードで実現できるようになったということで、1080pの解像度でスムーズに動いていた。リアルタイムに再生している証拠として、ワイヤーフレームで表示することも可能で、GV100 4枚で行なっていた処理を、Quadro RTX 6000 1枚で再生できていることには驚かされた。

 なお、DGX Stationは7万米ドル(日本円で約770万円)という価格だが、Quadro RTX 6000は6,300ドル(日本円で約70万円)だ。

スターウォーズのストームトルーパーのデモ
ワイヤーフレームの状態

 基調講演の最後で紹介されていたアンドロイドのデモは、Quadro RTX 6000とUnreal Engine 4を利用したもの。レイトレーシングにはMicrosoftのDXRがAPIとして使われており、DXRを利用可能にした特別版のUnreal Engine 4で動いている。

 ゲームエンジンがUnreal Engine 4であることを考えると、このデモはそもそもコンシューマ製品向けに作られた可能性が高い。これを見ると、NVIDIAがGamescomでコンシューマ向けのTuring GPUを発表する確率は高そうだ。

Unreal Engine 4を利用したQuadro RTX 6000でのゲームデモ
ワイヤーフレームの状態

 また、NVIDIAはVR環境で複数人と共同作業できるNVIDIA Holodeckの機能を向上させたことを明らかにした。

 1つは、Quadro RTXシリーズに内蔵されているTensorコアを利用して、AIでVR環境とオーディオの反響などを適合させていく機能。もう1つは、従来は足がなかったHolodeckのキャラクターに足をつけたことだ。

 なお、現状のVR HMD(HolodeckにはHTCのVIVEが利用されている)は足の動きを検知する機能がないので、HMDやコントローラなどの動きなどからAIが推測して足を動かすかたちになっており、実際に人間の足の動きを反映しているわけではないとのことだった。

Holodeckの機能を説明するビデオ。レイトレーシングの機能も一部取り入れられている