笠原一輝のユビキタス情報局

SIMロックフリーLTEを内蔵したタフモバイルPC市場を切り開く「VAIO S11」

~VAIO S11開発者インタビュー

 VAIO株式会社は9日、「VAIO S11」を発表した。VAIO S11は、「VAIO Pro 11」と同じ11.6型のフルHD液晶ディスプレイを採用し、CPUには第6世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Skylake)を搭載したクラムシェル型ノートPC。ビジネス向けの堅牢ノートPCとして好評を博している「VAIO Pro 13 | mk2」と同じクラスの堅牢性を実現しながら920~940gとそれなりの軽量さを実現している。

 ノートPCとしては珍しく、SIMロックフリーを明言したLTEモデムを内蔵していることも大きな特徴で、NTTドコモやそのMVNOの通信キャリアがサービスを提供しているSIMカードを使って、データ通信が可能だ。

 今回は、そうしたVAIO S11の開発担当者に、そのコンセプトや開発の苦労点などに関してお話を伺ってきた。

VAIO S11の開発チーム。後列左よりビジネスユニット3エレクトリカルプロジェクトリーダー細萱光彦氏、エレクトリカルプロジェクトリーダー江口修司氏、カニカルエンジニア渡部学氏、メカニカルエンジニア拇速真氏、前列左より商品企画担当黒崎大輔氏、クニカルユニットTG11チーフメカニカルエンジニア曽根原隆氏、商品ユニット3プロジェクトリーダー花村英樹氏

VAIO Pro 11よりも小さな底面積で作られているVAIO S11

 VAIOでは、VAIO S11を新シリーズとして位置付けているが、フットプリントの点では、2013年のソニー/VAIO時代に投入されたVAIO Pro 11かなり似通った位置付けの製品となる。実際、底面積はVAIO Pro 11の約幅285mm×奥行197mmとほぼ同じ約幅284mm×奥行190.4とmmなっている。

 ただし、高さ方向は大きく異なる。VAIO Pro 11の高さは約11.8~15.8 mmであったのに対して、VAIO S11は約16.4~19.1 mmとやや厚くなっている。その替わりに、LTEモデムやVGAコネクタ、さらにThunderbolt 3対応など、ビジネスPC向けの仕様を強化した製品となる。できるだけ薄さや軽さは実現しつつも、ビジネスPCとしての基本的な使い勝手にこだわった製品ということになる。

 そうした基本的なVAIO S11のコンセプトについてVAIO株式会社商品ユニット3プロジェクトリーダーの花村英樹氏は「現在ノートPCの市場で起きていることは、タブレットからの揺り戻し。一度はタブレットに行ったビジネスユーザーが、再びクラムシェル型ノートPCに戻りつつある。一般向けとなる13型のサイズでVAIO Pro 13 | mk2をビジネスモバイルとして提供させて頂いたが、依然として11型は特に国内では強いご要望を頂いていた。B5サイズのサブノートPCにこだわってきたVAIOとしては、このサイズは欠かせないと考えていたが、中途半端なモノを出すことはできないと思い、しっかり作り込んでいきたいと考えてきた」と説明する。

 2015年の夏にVAIO Pro 11が販売終了になった時に、10型や11型といった小型のノートPCが欲しいユーザーからはそれを惜しむ声がでていた。ビジネス向けには、13型が売れ筋だが、女性のようにカバンが小さくて、大きなPCが入れられないユーザーや、新幹線や飛行機の中でも気軽に開きたいといったニーズを持つビジネスユーザーなどに10~11型も人気を集めており、VAIOとしてもその市場は、引き続きカバーしていきたいという意向をもっており、それがこのVAIO S11ということになる。

 花村氏は「我々は新会社への移行などもあり、VAIO Pro 11を世に送り出してからずいぶんと時間が空いてしまった。この市場は強力な競合他社が定番製品を作っている市場でもあるので、しっかり作り込まないといけないと考えた。このため、コンセプト段階から、しっかりとしたキーボードがついていて、ビジネスPCとして不自由なく使える製品を目指した」と述べる。基本的なコンセプトとしては、VAIO Pro 13 | mk2と同じようにしっかりとしたキーボード、そして日本の満員電車などに持ち込んでも壊れない堅牢性、そうしたことを目指して開発したのだという。堅牢性に関しては、VAIO Pro 13 | mk2や、プレミアムモデルとなるVAIO Zと同じような基準で作られているという。

 同じことは、キーボードにも言え、VAIO ZやVAIO Pro 13 | mk2に採用されているのと同じアイソレーションキーボードを、11型にサイズを縮小したものが採用されているのだという。

 VAIO株式会社テクニカルユニットTG11チーフメカニカルエンジニアの曽根原隆氏は「従来のVAIO Pro 11では、お客様からのフィードバックで打鍵音が気になる、フィーリングが今ひとつという意見があった。そこで、静かでフィーリングも良いと好評を得ているVAIO Zと同じキーボードを採用することにした。当初は13型用のをそのまま利用するという案もあったが、そうなると底面積が大きくなってしまうので、11型のサイズに合うものをキーボードメーカーに作ってもらった。コストはかさんだが、使い勝手の観点からは必要だと判断した」とする。

 作る側の事情から言えば、VAIO Pro 11という同じサイズの製品が既にあり、そこそこのキーボードが存在しているとなれば、それを使い回したいと考えるのが常道だ。しかし、ユーザーの不満があるということで、VAIO ZやVAIO Pro 13 | mk2と同じ機構でサイズを縮少したキーボードを新規に作った。ノートPCでユーザーが最も触る部分がキーボードであると考えればこれは妥当な判断だろう。

VAIO S11、第6世代Coreプロセッサを採用した11型ノンタッチアンチグレア液晶搭載ノートPC。重量約920~940gで、SIMロックフリーのLTEモデムを内蔵している
底面部、VAIO Pro 13 | mk2と同じようにメンテナンス性を重視して、ネジなどが見える位置にある
本体の左側面。ACアダプタ端子(従来のVAIO Proシリーズと共通のACアダプタが使える)、USB 3.0、ヘッドフォン端子
本体の右側面。フルサイズのSDカードスロット、USB 3.0、USB Type-C(USB 3.1、DP Alt Mode対応、Thunderbolt 3対応、USB PD非対応)、Ethernet、ミニD-Sub15ピン
VAIO S11のキーボード。VAIO Z、VAIO Pro 13 | mk2で好評を博した新世代のVAIOキーボードの11型版となっている。比較的静かで、打鍵感がしっかりあるタイプのキーボード

SIMロックフリーLTEモデムを内蔵。現時点でのサポートはドコモのバンド

 VAIO S11のもう1つの大きな特徴は、SIMロックフリーLTEモデムを内蔵(内蔵していないモデルもある)していることだ。VAIOでは、これまでも何度も3G/LTEモデムの内蔵を実現してきた。有名なところではVAIO Pは3Gモデムを内蔵していたし、VAIO Duo 13はLTEモデムを内蔵していた。だが、いずれもキャリアによるSIMロックがされており、ユーザーが自由に通信キャリアを選ぶことができなかった。それに対して、VAIO S11に内蔵されているLTEモデムは、SIMロックされておらず、ユーザーが自由に通信キャリアを選べる。

 VAIO株式会社商品企画担当の黒崎大輔氏は「ソニー/VAIOの時代から、PCにも通信機能は付いているべきだと考えていたが、問題はそのタイミングだと考えていた。現在は、MVNOの通信キャリアの勃興などにより、量販店の意見などを伺っても、今後モバイルPCも通信機能内蔵が増えるのではないかという声が増えている。そこで、LTEモデムを実装すべきだと開発と話し合って搭載を決めた」と説明する。

 VAIOからは、LTE:バンド1/3/19/21、3G:バンド1/19がサポートされていることが明らかにされている(LTEのバンドに関しては僚誌ケータイ Watchの解説記事をご覧頂きたい)。

 VAIO S11に搭載されているLTEモデムはデバイスマネージャで確認したところ、Telit LN930であった。Telitが公開している資料によれば、LN930には北米向けの無印LN930、アジア太平洋地域向けのLN930-AP、欧州/アジア向けのLN930-AUが用意されており、VAIO S11にはLN930-APが採用されている。LN930-APのモジュールとしてのスペックは、LTE:バンド1/3/8/9/11/18/19/21/26、3G:バンド1/6/8/11/19となっている。これらのスペックを、日本の通信キャリアのLTEの対応バンドを合わせて表にすると以下のようになる。なお、CAなどには未対応になる。

【表】 VAIO S11でサポートしているLTEのバンド
バンド1バンド3バンド8バンド9バンド11バンド18バンド19バンド21バンド26
VAIO S11サポート-----
LN930-AP(モジュールスペック上の仕様)
NTTドコモ-----
au/KDDI-----
ソフトバンクモバイル------
SIMカードはMicro SIMサイズで、マシンの後面から差し込む形
SIMカードがきっちり入っていなくて、飛び出した状態で液晶ディスプレイを開けてもヒンジがSIMカードに当たらないように配慮されている。もっと飛び出している場合には、SIMカードがスロットから外れるのでカードを壊すということがない

通信品質にこだわったがために、auやソフトバンクへの対応は見送る

 表を見て分かるように、NTTドコモのバンドのみに対応しており、auやソフトバンクモバイルがサポートする帯域についてはサポート対象外となっている。花村氏によれば「ご指摘の通り技適マークの取得は製品でサポートするよりも広いレンジで取得している。しかし、今回サポートすると発表したバンド以外は、弊社として通信品質の保証もできないので、出荷時点では利用できないように設定して出荷する」とのこと。VAIOによる非常に厳しい通信品質のテストを行なってから出荷にこぎ着けているためだ。

 実はVAIOは、国内だけでなく世界のPCメーカーでもあまり例のないセルラー通信のテストができる自社試験設備を利用して通信品質のテストを行なっている。これはソニー/VAIO時代に、現VAIO本社がある安曇野事業所に設置された試験設備で、Satimo Star Gate 32と呼ばれる360度セルラーアンテナの受信感度などを測定できる装置、さらにはOTA測定装置といセルラー無線の通信性能の特性を計測する装置を利用し、さまざまな評価を行なっている。通常のPCメーカーであれば外部のテスト会社などに依頼して試験を行なうのが一般的だという。しかし、VAIOはその設備を自社で持っているため、より細かく行なうことができるという。

 VAIOとしては、対応するからには、きっちり受信感度などを実現してからサポートしたい方針だが、auとソフトバンクモバイルの回線に関してはそこまでの確認が取れていないという。

 ただ、花村氏は「将来的には対応できるように検討していきたい」と、現時点では難しいが、将来のモデルなどでは対応できるようにしていきたいとした。また、今回のモデルは国内向けということになるので、LTEモデムはあくまで日本向けの認定ということになり、国内利用のみの対応となる。

 MNOキャリアの認証に関しては、モジュールレベルでNTTドコモの相互接続性試験(IOT)を通している。ただし、製品として通しているわけではないので、回線のサポートに関してはVAIO独自ということになる。VAIOが正式にサポートするのは、発表と同時に開設を明らかにしたVAIOストアでバンドル販売を行なうNTTコミュニケーションのSIMカードとなる。そのほかのNTTドコモのMVNO回線に関しては、モジュールがNTTドコモの相互接続性試験を通っているので、問題なく使えることを付け加えておく(このことは、SIMロックフリーのLTEモデムを内蔵したスマートフォンやPCなどはすべて同条件となる)。

Satimo Star Gate 32、アンテナの特性などを360度のセンサーで測ることができる。基本的にはスマートフォンメーカーが持っているテスト装置で、PCメーカーで導入しているのは世界でもVAIOだけではないかという施設
OTA測定装置。システムに組み込んだ状態で電波の受信強度などを計測したりできる。今回のVAIO S11はこうした装置を使って、スマートフォンメーカー並の厳しい試験をパスしたバンドのみの対応を謳っている
OTA測定装置の検査機器、上の装置が4G用、下の装置が3G用
このように、視覚的に受信感度が強いところ、弱いところなどがすぐ分かる。これを利用して受信感度を最大限にする開発を行なっている

自家中毒を防ぐために、CPUやメモリに専用のシールドケースを装着

 今回のVAIO S11の目玉となるLTEモデム内蔵だが、当初からLTEモデムを内蔵することを前提に設計を進めてきたため、アンテナなども専用設計になっている。花村氏によれば「今回アンテナは液晶ディスプレイの上部に2つ入れることにした。LTEのアンテナはマルチバンドになるので、ある程度面積を取る必要があった」とする。スケルトンモデルで見ると分かるように、Wi-Fiのアンテナと比較して、LTEモデムのアンテナが非常に大きいことが目につく。

 Wi-Fiの場合には2.4GHzや5GHzといった高い周波数だけを利用しているので、このサイズでも十分なのだが、LTEの場合は800~900MHzから、2GHzという高い周波数まで幅広くサポートしなければならず、より大きなアンテナが必要なのだという。VAIOの社内に設置されているOTA測定装置は、こうした800MHz帯だけでなく、地デジの電波特性も試験できるようにUHF帯も試験できるようになっており(ソニー/VAIO時代に地デジチューナーをテストする必要があったためより低い帯域もテストできるようになっている)、より精密な調整が行なわれている。これにより、同クラスの他社製品に比べてより良い受信特性が実現できているという。

 アンテナの設計だけでなく、エンジニア用語で“自家中毒"と呼ばれる、製品自身が出しているノイズにより、受信感度が悪くなってしまうことへの対処もされている。VAIO株式会社ビジネスユニット3エレクトリカルプロジェクトリーダーの細萱光彦氏は「CPUやメモリは、900MHzなどのLTEバンド19とかぶってしまう動作クロックで動くことがあり、何も対策をしない場合には、そのノイズがLTEのアンテナに混入して受信感度を下げたりなどの影響を及ぼす場合があい」とのことで、その対策が必要になった。

 そこで、VAIOではシールドケースをCPUやメモリの上にかぶせ、そのシールドケースとマザーボード側に用意している接地部分と接触させることで、シールドケースに溜まったノイズを、マザーボードのグラウンドに逃がし、最終的にはACアダプタやバッテリに逃がす仕組みになっている。

液晶モジュール部分のスケルトンモデル、Wi-Fiアンテナ、LTEアンテナ、カメラモジュールなどがぎっしり詰まっている
左端の高さがやや小さいのがWi-Fiのアンテナ、カメラとWi-Fiアンテナの間に見える高さがあるのがLTEアンテナ。Wi-Fiアンテナに比べても大きなアンテナであることが分かる
マザーボードのCPUやメモリの部分にはシールドケースが取り付けられている。これにより、CPUやメモリからのノイズをグラウンドに逃がす
ピンクの線の間に見える突起部分がシールドケースと接地しており、そこからノイズを基板のグラウンドへ逃がす

新要素を追加しつつもVAIO Pro 11とほぼ同じサイズの基板

 VAIO S11の基板は、VAIO Zなどに採用している「Z Engine」という高密度実装基板技術を応用して作られている。基板サイズを見ると、前世代と言ってもよいVAIO Pro 11とあまり変わらないサイズであることが分かるだろう。

 細萱氏によると「VAIO Pro 11の世代に比べると、LTEモジュール用のM.2.コネクタ、USB Type-Cコネクタを実装するためのThunderbolt 3のコントローラや、ミニD-Sub15ピンなどが追加されており、基板の機能としては大幅な増加になっているが、ほぼ同じサイズに納めている」という。

 言葉で聞くと、大したことないように思えるかもしれない。しかし、実際にはこれらの追加は基板の実装面積や内部配線への影響が非常に大きい。例えば、Thunderbolt 3のコントローラであるIntelのAlpine Ridge(アルパインリッジ)を例に挙げると、Thunderbolt 3自体の信号線を通すためにPCI Express(Gen3)を4レーン通さないといけない。さらに、VAIO S11では、USB Type-CのDisplayPort Alt Modeに対応しており、DisplayPortの信号線を2ポート出力できるようになっている。このために、その分がさらに2レーン必要になる。また、SDカードスロットのためにPCI Express Gen2を1レーン、さらにはEthernetのためにPCI Express(Gen1)を1レーン通す必要があり、都合8レーン分のPCI Expressの信号線を基板内部で通さないといけないのだ。

 また、CPUは第6世代CoreプロセッサのUプロセッサを採用しているが、VAIO Pro 11世代の第4世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Haswell)ではCPUに内蔵されていたFIVR(完全統合電圧変換器)がCPUの外に出されている。このため、CPU、メモリ、GPUなど向けの電源回路は別途基板上に実装する必要がある。その影響も決して小さくないという。それにより、VAIO Pro 11では8層だった基板の層数はVAIO S11では10層にしてあり、前出のPCI Expressの8レーン分の高速信号を通すために、CPUからAlpine Ridgeまでの基板までの底面積を増やして信号線を通せるようにしてあるという。

 なお、既に述べた通り、VAIO S11ではUSB Type-CをAlpine Ridgeによって実装している。このため、USB Type-CをUSB 3.1として、さらにはThunderbolt 3としても、さらにはDP Alt Modeを利用してDisplayPortの出力としても活用できる(市販の変換ケーブルが必要)。SkylakeのGPUはDisplayPort 1.2の対応となるので、4K/60Hzの出力が可能。このクラスの製品だと、4K/30HzまでのHDM出力のみになっているものが多く、2,560×1,440ドットなどのHDMIでは規定されていない解像度のディスプレイに対応できないことが多いのだが、S11では変換ケーブルは必要になるとは言え、DisplayPortが利用できる。

 ただ、今回の製品では、USB PD(Power Delivery)の規格には対応しておらず、従来のVAIO Pro 11/13、VAIO Pro 13 | mk2と同様のACアダプタを利用する。花村氏によれば「保護回路を入れて動かすという手段がないわけではなかったし、自社で設計することもできた。しかし今後、粗悪なUSB PDのACアダプタが出回ったりした時に、それに対しての対策も加味し、万全を期してからの方が良いと考えて今回は見送った」とのことだ。また、このUSB Type-Cコネクタの隣にあるUSBポートも、Alpine Ridgeに繋いでUSB 3.1にする選択肢も考えられたが、信頼性重視ということで、CPUに内蔵されているPCH側のUSBコントローラに接続されているためにUSB 3.0になっている。

VAIO S11の裏蓋を開けたところ
VAIO Pro 11(右)と基板サイズを比較しているところ
VAIO S11の基板と、SSD(PCI Express Gen3接続)
上がVAIO Pro 11のCPUファン、下がVAIO S11のCPUファン。VAIO S11のCPUファンはファンの高さが大きくなり、羽の面積が相対的に大きくなっているので、同じ熱処理の枠であればより低速で回すことができるので、静かになっている
CPU周辺部分、上に3つ見える(実際には左の1つも入れて4つなのだが)のが電圧変換器。Skylake世代ではFIVRではなくなったため、電源回路が再び複雑になっている
バッテリは31Whから38Whに容量が引き上げられている。駆動時間はJEITA 2.0準拠で約15時間なので、実動ではその半分以上が使えそうだ
M.2モジュールなどの下にある基板の中をThunderbolt 3などに接続されるPCI Expressの信号線が通っている
Ethernetのポートは、VAIO Pro 13 | mk2やVAIO Z Canvasに利用されているのと同じ可動型のポート
右からミニD-Sub15ピン、Ethernet、USB Type-C、USB 3.0
左側のカードがLTEモデム、右はWi-Fi/Bluetoothのコンボモジュール
PCI Express Gen3 x4で接続されるPCI Express SSD
SIMカードスロット部分
スピーカー部分。モバイルPCにしては大きなスピーカーが採用されている

最後に追加されたミニD-Sub15ピンのためにポートの位置変更も含む大改造に

 VAIO S11の機構設計においては、設計中にさまざまな変更に何度も見舞われ、そのたびに対処を迫られたという。その最大のものは、奥行き方向で当初の計画よりも2mmほど増えてしまったことだという。VAIO S11は、VAIO Pro 11に比べて奥行き方向が若干小さくなっているが、実はさらに2mmほど小さくする予定だったという。

 しかし、設計段階で満足のいく受信性能を実現するために、当初の予定よりもLTEアンテナを大きくする必要がでてきた。液晶の上部には、2つのWi-Fiアンテナ、2つのLTEアンテナ、そしてカメラが入っているため、かなりギリギリである。曽根原氏は「11型の液晶で、これだけのアンテナを液晶の上部だけに入れた設計は記憶がない」というほどアンテナとカメラでいっぱいいっぱいだ。このため、急遽2mmほど液晶ディスプレイの上部を延長することにしたのだ。

 だが、その分システム側の底面積が増えることになるため、バッテリ容量を増やしたり、基板に割り当てたり、熱設計に余裕を持たせたりすることができるようになった。実際、バッテリの容量はVAIO Pro 11の31Whから38Whへ23%と増やされている。バッテリの実装面積は変わっておらず、厚さ方向を増すことが可能になった。PCの駆動時間は、バッテリの物理的な容量に依存するので、CPUの違いなどを別にすれば単純に駆動時間が23%増えることになる。

 また、曽根原氏によればミニD-Sub15ピンは、最終段階で実装することが決定されたのだという。「設計の最初の段階ではHDMI端子を搭載するつもりで実装していた。また端子の位置も、現在ミニD-Sub15ピンとEthernetの位置が逆になっていた。しかし、VAIO Pro 13 | mk2のリリース後、市場の反応も良く、S11に関してもミニD-Sub15ピンが必要だと上が判断し、急遽設計を変更した」とのこと。

 ちなみに、第6世代CoreプロセッサのGPUは標準ではVGA出力には対応していない。このため、Alpine Ridgeから出ているDPの出力を、基板上の変換チップを利用してVGAに変換するという方法でVGAに出力されている。

本体左側のポート、ミニD-Sub15ピンが特徴的
初期のモック(下)ではミニD-Sub15ピンはなく、HDMI端子になっており、位置もEthernetと逆だった
SkylakeのGPUはVGA出力に対応していないため、DPの出力を、写真中央のICでVGAに変換して出力している

SIMロックフリーモバイルPC時代の先駆けとなるか

 こうして見ていくと、VAIO S11は堅牢なビジネスPCとしてビジネスユーザーに好評を博しているVAIO Pro 13 | mk2と共通の点が多く、兄弟機に近い製品だと考えていいだろう。であれば、なぜVAIO Pro 11 | mk2ではなく、VAIO S11という製品名にしたのかという疑問も沸くが、おそらくこれはソニー時代のVAIOブランドから、VAIO時代のVAIOブランドへの移行を見据えて、ということなのではないだろうか? であれば、見えてくるのは、VAIO Pro 13 | mk2の延長線上に、S11の兄弟機となるような“VAIO S13"とった未来の製品だろう。実際、VAIOはプレミアムのラインには“Z”のブランド名を与えており、スタンダードなモバイルには今後は“S"を使っていくのではなかろうか。

 ちょっと先走ったが、VAIO Pro 11が販売終了になった時、11型のVAIOのラインナップがなくなって悲しいという声を筆者はあちこちで耳にした。そうしたユーザーの声に応える製品がVAIO Pro 11 | mk2でないのは、VAIOとしてもゼロ設計したという意味も込められているのだと考える。

 SIMロックフリーのLTEモデムを内蔵していることも大きな話題だ。バンド対応の観点ではau/KDDIおよびソフトバンクモバイルで利用する場合には課題が残るものの、SIMロックフリーになった点は大いに評価したいと思う。筆者個人としては、既にインターネットがない環境でPCを使うということはあり得ない状況になっているだけに、PCを開いてログインしたらすぐにインターネットに接続している環境を多くのユーザーに体験してみてその便利さを知って欲しいと思うし、SIMロックフリーのセルラーモデムを内蔵していることが日本のモバイルPCでは常識になることを願ってこの記事のまとめとしたい。

(笠原 一輝)