笠原一輝のユビキタス情報局
Apple M2と第12世代Core Pをベンチ比較。CPUはCoreが、GPUはM2が優位
2022年7月7日 06:16
Intelは2月に第12世代Core PシリーズおよびUシリーズを、Appleは6月にM2というそれぞれ薄型ノートPC向けのSoCを発表し、すでに搭載ノートPCが販売開始されている。筆者もWindowsマシンとして第12世代Core Pシリーズ(Core i7-1280P)を搭載したLenovo「ThinkPad X1 Carbon Gen 10」、M2を搭載した13インチ「MacBook Pro 13(2022モデル)」を購入。それぞれの性能などをチェックしたので、紹介していきたい。
出そろった2022年製品向けの薄型ノートPC用SoC
今年(2022年)は、4つのメーカーから薄型ノートPC向けに新SoCが投入されている。Windows向けにAMD、Intel、Qualcommの3社から、macOS向けにAppleからとなっている。
AMD | Apple | Intel | Qualcomm | |
---|---|---|---|---|
プラットフォーム | Windows 11(x64版) | macOS Monterey | Windows 11(x64版) | Windows 11(Arm版) |
ブランド名 | Ryzen 6000 | M2 | 第12世代Core P/U | Snapdragon 8cx Gen 3 |
CPUコア数(高性能コア/高効率コア) | 最大8コア | 8コア(4コア/4コア) | 最大14コア(6コア/8コア) | 8コア(4コア/4コア) |
GPU(コア数) | RDNA2(最大12コア) | 10コア | Iris Xe(最大6コア) | Adreno(非公表) |
メモリ | LPDDR5-6400/DDR5-4800 | LPDDR5-6400 | LPDDR5-5200/DDR5-4800/LPDDR4x-4266/DDR4-3200 | LPDDR4x-4266 |
最大メモリ容量 | 非公表 | 24GB | 64GB | 非公表 |
熱設計消費電力 | 28W/15W | 非公表(15W?) | 28W/15W/9W | 非公表 |
製造プロセスルール | TSMC 6nm | TSMC 5nm | Intel 7(10nm Enhanced SuperFin) | Samsung 5nm |
この中から今回は、13インチ MacBook Pro(2022モデル)に搭載されるApple M2、そしてすでに多くのノートPCメーカーから搭載製品が発表されているIntelの第12世代Core Pシリーズを取り上げる。
AMDのRyzen 7 6800Uを取り上げていないのは、現時点では量販店などで搭載製品を確認できず入手できなかったためで、今後入手したら紹介したい。
なお、Ryzen 7 6800Uは一般消費者向けだが、そのビジネス版となるRyzen 7 PRO 6850UはすでにLenovoの「ThinkPad Z13 Gen 1」に搭載され、販売が開始されている。レノボの通例で言うと、1~2カ月後ぐらいにユーザーの手元に届くことになるだろう。
Snapdragon 8cx Gen 3に関しても、Lenovoが「ThinkPad X13s」を販売している、こちらも今後実機を手に入れることができるようになれば、性能などを紹介していきたい。
13インチ MacBook Pro(2022モデル)の主な仕様は、M2、メモリ8GB、SSD 256GBとなる。Appleオンラインストアでの7月上旬時点の価格は17万8千円となる。
ThinkPad X1 Carbon Gen 10は、Core i7-1280P、メモリ32GB、SSD 256GBという仕様で、直販価格は約27万6千円だった。
M2はGPUがさらに強化され、最大10コアに
13インチ MacBook Pro(2022モデル)に搭載されているM2は、2020年に販売開始された13インチ MacBook Pro(2020モデル)に搭載されていたM1の後継製品となる。M1とM2のスペックを比較してみると、以下のようになる。
M1 | M2 | |
---|---|---|
CPUコア | 8コア(4コア/4コア) | 8コア(4コア/4コア) |
クロック周波数(Cinebench R32での表示) | 3GHz | 3.5GHz |
GPU | 最大8コア | 最大10コア |
NPU | 16コア | 16コア |
メモリ | LPDDR4x-4266? | LPDDR5-6400? |
バス幅(帯域幅) | 128Bit?(68GB/秒) | 128Bit?(100GB/秒) |
容量 | 8GB/16GB | 8GB/16GB/24GB |
製造プロセスルール | TSMC 5nm | TSMC 5nm(第2世代) |
M2はM1と同じTSMCの5nmプロセスノードで製造される。ただし、同じ5nmノードでも第2世代になっており、半導体としてのパフォーマンスは改善されている。TSMCにせよ、Intelにせよ、こうした最先端のノードは、導入されてから時間がたつごとに特性が改善され、同じプロセスノードでも徐々に性能が上がったり、消費電力が下がったりする傾向がある。今回AppleがM2で利用しているのも、TSMCの改善された5nmと考えられ、クロック周波数などを引き上げることが可能になる。
実際、後述するベンチマークプログラムのCinebench R23では、M1のクロック周波数は3GHzと表示され、M2のクロック周波数は3.5GHzと表示される。
GPUに関してはM1では8コアだったのが10コアに増えている。と言っても、M1とM2のGPUのアーキテクチャがそもそも同じなのか、それとも違うのかそうした基本的な説明をAppleはしていないため、必ずそうとは言い切れないのだが、仮に同じアーキテクチャ、ないしはM2がM1のGPUをベースに改良したアーキテクチャであると考えれば(通常はそうだ)、シンプルに演算器が増えた分性能が向上する可能性が高い。
もう1つ大きな改良点は、メモリの帯域幅が上がっていることだ。Appleは、M2のメモリ帯域は100GB/秒で、M1から50%向上していると説明している。そこから逆算すると、M1のメモリ帯域は約67GB/秒という計算になる。AppleはM1のメモリのバス幅も、DRAMの種類(分解写真などからLPDDR4x-4266であることは分かっていた)などを公開していなかったが、この数字からはLPDDR4x-4266、128bit幅というスペックになるだろう。そこから100GB/秒に引き上げるためには、LPDDR5-6400しか計算的に成り立たないので、こちらもAppleの発表はないが、DRAMはLPDDR5-6400でほぼ間違いないだろう。
第12世代Coreは、ハイブリッドアーキテクチャによりCPUコア数が大幅増加
Intelの第12世代Coreに関しては本連載でも何度か取り上げている。詳細は以前の記事をご参照いただきたいが、第12世代Coreには、デスクトップPC向けのSシリーズ、ワークステーション/ゲーミング向けのHXシリーズ、ゲーミング/コンテンツクリエーション向けのHシリーズ、薄型ノートPC向けのPシリーズ、Uシリーズの5シリーズがある。
第12世代Core Pシリーズと第11世代Core UP3の違いは以下のようになる。
第11世代Core UP3 | 第12世代Core P | |
---|---|---|
開発コードネーム | Tiger Lake-UP3 | Alder Lake-P |
CPUコア数(Pコア/Eコア) | 最大4コア | 最大14コア(6コア/8コア) |
L3キャッシュ | 最大12MB | 最大24MB |
GPU | Iris Xe(Xe-LP) | Iris Xe(Xe-LP) |
最大EU数 | 96 | 96 |
メモリ | LPDDR4x-4266/DDR4-3200 | LPDDR5-5200/DDR5-4800/LPDDR4x-4266/DDR4-3200 |
バス幅 | 最大128bit(67GB/秒) | 最大128bit(83GB/秒) |
容量 | 最大64GB | 最大64GB |
TDP(ベース設定) | 15~28W | 28W |
製造プロセスルール | Intel 10(Intel 10nm SuperFin) | Intel 7(10nm Enhanced SuperFin) |
第12世代Core Pシリーズの最大の特徴は、パフォーマンスハイブリッドアーキテクチャと呼ばれるヘテロジニアス構成だ。Pコアと呼ばれる従来のCoreをベースとした低レイテンシ重視の処理向けのコアと、Eコアと呼ばれる従来のAtomをベースとした効率重視のコアの2種類のコアから構成されており、オフィスアプリケーションなどはPコアで、エンコード処理のような並列処理はEコアで実行することで、システム全体の性能を引き上げている。
第12世代Core Pシリーズでは、Pコアを最大6つ、Eコアを最大8つで、最大14コアという構成が可能になる。ただし、その構成は最上位モデルのCore i7-1280Pのみで、他のモデルは12コア(Pコアが4つ、Eコアが8つ)構成になっており、性能を重視するユーザーにとっては、Core i7-1280Pが文字通り唯一の選択肢になっている。
GPUに関しては第11世代Coreと同じIris Xe(Xe-LP)となっており、基本的には全く同じだ。ただし、メモリは第11世代ではLPDDR4x-4266/128bitで67GB/秒の帯域幅となっていたが、第12世代Core PシリーズではLPDDR5-5200までの対応になっており、128bit幅で82GB/秒の帯域となっている。
帯域幅は増えているが、M2やRyzen 6000シリーズがLPDDR5-6400までの対応となっているのに比較すると、なぜ5200に制限しているのかはよく分からない。バリデーション(動作検証)のことを考え、保守的なスペックにしたと考えられる。今回筆者が購入したThinkPad X1 Carbon Gen 10では、LPDDR5-6400のDRAMが搭載されているものの、LPDDR5-5200にダウングレードして使われており、なんとももったいない感じがある。それでも帯域幅は上がっているので、GPU性能向上に寄与している。
ベンチマーク結果
それでは、実際にベンチマークプログラムを利用して、CPU、GPUの性能を計測していこう。利用したのはCPUの性能を計測するCinebench R23と、GPUの性能を計測するGFXBenchの2つだ。この2つを採用したのは、macOS、Windowsの双方にネイティブ版が用意されているからだ。
比較対象として、Intelの1世代前のCore i7-1185G7、2世代前のCore i7-1065G7、5世代前のCore i7-7600U、Appleの1世代前のM1でも計測を行なった。なお、参考スコアとして以前計測したRyzen 7 5800Uのスコアも掲載しておく。他のシステムはWindows 11、macOS Montereyと最新版になっているのに対して、Ryzen 7 5800UのスコアはWindows 10当時のスコアとなるので、あくまで参考スコアとして考えていただきたい。
なお、本連載でも何度も説明しているが、現代のノートPCは、CPUがターボモードなどと呼ばれる規定のクロック周波数以上で動くようになっている。このため、ノートPCの放熱設計によって、同じCPUでも性能が変わってくる。従って、今回の結果は、CPUの性能というより、ノートPCの熱設計とそのCPUの組み合わせで実現される性能という表現が正しい。同等スペックの別PCで、この結果が再現されないかもしれないということは、あらかじめお断わりしておく。
なお、設定は可能な限り、最高性能を発揮できるようにしている。テストに利用したマシンや環境などは以下の通りだ。
Ryzen 7 5800U | Apple M1 | Apple M2 | Core i7-7600U | Core i7-1065G7 | Core i7-1185G7 | Core i7-1280P | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
システム | ASUS ZenBook 13 OLED | 13インチMacBook Pro(2020) | 13インチMacBook Pro(2022) | ThinkPad X1 Yoga Gen 2 | Surface Pro 7 | Surface Pro 8 | ThinkPad X1 Carbon Gen 10 |
メモリ | 16GB(LPDDR4x-4266) | 16GB(LPDDR4x-4266) | 8GB | 16GB(LPDDR3-1866) | 16GB(LPDDR4x) | 16GB(LPDDR4x) | 32GB(LPDDR5-5200) |
ストレージ | 1TB(NVMe) | 256GB(NVMe) | 256GB(NVMe) | 256GB(NVMe) | 256GB(NVMe) | 256GB(NVMe) | 256GB(NVMe) |
ディスプレイ | 13.3型 | 13.3型 | 13.3型 | 14型 | 12.3型 | 13型 | 14型 |
OS | Windows 10 | macOS Monterey | macOS Monterey | Windows 10 | Windows 11 | Windows 11 | Windows 11 |
CPUを利用したレンダリングを、シングルスレッド、マルチスレッドで行なうことでそれぞれのCPU性能を計測できるCinebench R23だが、第11世代Core(Core i7-1185G7)とM1の比較では、M1の方が41%高速になっていた。
しかし、第12世代Coreは、その第11世代Coreと比較して86%も性能が大きくジャンプしており、M1だけでなく、M2も超えており、M2比較で約118%の性能となっている。そして、こうした薄型ノートPCで、Cinebenchのマルチスレッドのスコアが1万を超えたというのは画期的と言っていいだろう。
Core i7-1280PはRyzen 7 5800Uも追い抜いており、その意味では今後登場するRyzen 7 6800Uがどの程度の性能になるのかが楽しみな結果だ。
AppleがCPUのパフォーマンスリーダーだったのはM1が発売されてからわずかな間だけで、すぐRyzen 5000シリーズに抜かれ、M2に進化しても、CPU性能はRyzen 5000シリーズにも、第12世代Coreにも負けているというのが現状だ。
だが、GPUに関しては引き続きAppleがパフォーマンスリーダーだ。M1からM2になりGPUコアが2つ増えていること、そしてメモリ帯域幅が広がっていることなどから、性能が大きく向上している。テストによるが、M1と比べ37~39%程度性能が向上しており、1世代分の性能向上としては十分に大きな性能向上が実現されているといえる。
第12世代Coreとの比較では2倍以上になっており、大きなパフォーマンス差があることが見てとれる。その意味で、Intelの課題はGPUにあると言える。なお、第12世代Coreの内蔵GPU(Iris Xe)と、第11世代Coreの内蔵GPUはほぼ同じものと考えて良いが、第12世代Coreの方が、若干だが性能向上している。これはメモリの帯域幅が上がったためだろう。
CPUの第12世代Core、GPUのM2だが、M2はGPUを活用するアプリの充実が課題
以上のような結果から、第12世代CoreとM2を比較すると、CPU性能では第12世代Core、GPU性能ではM2という評価になるだろう。ノートPCを選択する上で、この点をどう評価するかは難しいところだ。
ただ、M2のGPU性能は確かに高く、第12世代Coreの倍の性能を実現しているのはアドバンテージだが、それを使えるアプリがどれほどあるのかはは考慮する必要がある。M1/M2のGPUを積極的に使うmacOSアプリというと、AdobeのLightroomやPremiere Proなどの写真/動画編集ツールだろう。それらで効果があるのはその通りなのだが、WindowsではゲームやVRのようなGPUをフルに使うアプリケーションが多数あるのに比べると、macOSではそれが少ないというのが現状だ。
その意味では、Appleがソフトウェアベンダに積極的に働きかけて、GPUを活用したアプリを増やしていけば、M2の価値はより高まっていくと考えられるが、時間はかかるだろう。
対して第12世代Coreでは、第11世代CoreからGPUは据え置きになっており、性能はほとんど上がっていない。次世代のMeteor Lakeでは、GPUがArc世代と同じアーキテクチャになるとされているので、性能向上が期待できるとは思うが、現状ではM2と比べると、Intelももう少しGPUの性能を頑張りましょうというのが正直な評価だ。
一方でCPUに関しては大きな性能のジャンプがあった。前世代に比べて倍とまではいかないが、86%の性能向上は、Intel CPUの歴史上なかったぐらいの性能向上だと言うことができる。その意味で、薄型ノートPCで、高性能なCPUが欲しいというユーザーであれば、Core i7-1280Pは真っ先に検討すべきSoCということは言えるだろう。