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Qualcomm、ミリ波5Gモデム搭載「ThinkPad X13s」をMWCで実働デモ。最大10Gbpsの新モデム「Snapdragon X70」も
2022年3月1日 09:04
Qualcommは、スペイン・バルセロナ市で2月28日(現地時間)から開催されているMWC 2022に出展し、昨年(2021年)12月に米国ハワイ州オアフ島で行なわれたSnapdragon Tech Summitで発表されたArm版Windows向けのSoC 「Snapdragon 8cx Gen 3」を搭載したLenovo ThinkPad X13sを公開した。
ThinkPad X13sはバッテリ駆動時間が28時間と長時間駆動を実現しながら、SoCにSnapdragon 8cx Gen 3を搭載することで従来のArm版Windowsの弱点だった性能を大幅に向上させていることが特徴となる。さらに、ノートPCとしてはおそらく初めてミリ波(日本では28GHz)に対応していることも特徴で、通信キャリアがミリ波に対応したサービスを展開している場合には、一般的な5Gで使われているSub6(6GHz以下の帯域)を利用する場合に比べて高速に通信することが特徴となる。
また、Qualcommは新しい単体モデム「Snapdragon X70 5G Modem-RF System」を発表し、MWCの同社ブースでデモを行なった。同モデムはNR-DCなどの新しい複数の通信方式に対応しており、より柔軟CA(キャリアアグリゲーション、複数の周波数を束ねて通信を行なうこと)が可能になっており、下り10Gbps、上りは3.5Gbpsへの通信速度が強化される。
重量1.06kgでWUXGAパネルを搭載したThinkPad X13s、ミリ波もサポートする5Gモデム搭載で28時間電池駆動
Qualcommは現地時間の2月28日に記者会見を行ない、いくつかの新製品を発表した。この中で大きくフォーカスされたのは、Lenovoが同日に発表したばかりの「ThinkPad X13s」だ。Qualcommの記者会見では同社 社長 兼 CEOのクリスチアーノ・アーモン氏が、Lenovo 上席副部長 兼 インテリジェントデバイス事業本部 事業本部長 ルカ・ロッシ氏が呼ばれ、ThinkPad X13sの説明を行なった。
ThinkPad X13sはThinkPadブランドのWindowsノートPC製品としては初めてSnapdragonシリーズを採用した製品で、昨年(2021年)の12月にQualcommがオアフ島で行なったSnapdragon Tech Summitでは発表されたArm版Windows向けのハイエンドSoCとなる「Snapdragon 8cx Gen 3」を最初に搭載したノートPC製品となる。
詳しくは上記の記事に詳しいが、Snapdragon 8cx Gen 3は、CPUがCortex-X1(4コア)と、Cortex-A78(4コア)という強力な構成になっており、GPUも強化されるなどしており、CPU、GPUともに処理能力が従来の世代と比較して大きく向上していることが最大の特徴になる。メモリは最大で32GB(LPDDR4)で、SSDは最大1TBとなるので、最近のThinkPadシリーズで採用されている2242サイズのM.2で実装されている可能性が高い。Lenovoが発表した詳細なスペックは以下の通りだ。
製品名 | ThinkPad X13s |
---|---|
CPU | Snapdragon 8cx Gen 3 |
GPU | 新Adreno |
メモリ | 最大32GB(LPDDR4) |
ストレージ | 最大1TB(SSD) |
ディスプレイ | 13.3型 16:10比 WUXGA IPS 300cd/平方m 13.3型 16:10比 WUXGA IPS 300cd/平方m(インセルタッチ) 13.3型 16:10比 WUXGA IPS 400cd/平方m(ローパワー/ブルーライト低減) |
タッチ/ペン | タッチ(インセルタッチモデル)/- |
カメラ(Windows Hello対応有無) | 500万画素/IRカメラ |
USB Type-C(USB 3.1 Gen1 or Gen2) | 2(Gen 2) |
オーディオ端子 | 1 |
マイク | 搭載 |
その他ポート | ケンジントンロック |
Wi-Fi | Wi-Fi 6E |
Bluetooth | BT 5.2 |
WAN | Snapdragon X55 5G modem-RF(ミリ波/サブ6) |
対応LTEバンド | 非公表 |
キーボード | TrackPointキーボード/バックライト付き |
ポインティングデバイス | TrackPoint/タッチパッド |
バッテリ(サイズ/駆動時間) | 49.5Wh(ビデオ再生で28時間) |
カラー | サンダーブラック |
サイズ(横×縦×高さ) | 298.7×206.4×13.4mm |
重量 | 1.06kg~ |
OS | Windows 11 |
最大の特徴はバッテリ駆動時間で、49.5Whというこの13.3型ディスプレイを搭載したノートPCとしては標準的なサイズでありながら、ビデオ再生時で28時間という長時間駆動が可能になっていることだ。一般的なx64ベースのノートPCでは、同サイズのバッテリでビデオ再生時間20時間弱というバッテリ駆動時間のスペック製品が多いので、それよりも長めになっていることがわかる。
そしてもう1つの特徴は、5Gに対応したノートPCは既にはいくつも発売されているが、まだまだ実際に販売されている例は少ないミリ波に対応していることだ。一般的に5GではSub6(6GHz以下の周波数)とミリ波(28GHzなどの超高周波数)の2つの周波数が利用されるが、多くのスマートフォンやPCではSub6のみの対応になっている。ミリ波は広帯域を実現することが可能だが、電波の特性などから1つの基地局でカバーできるエリアが小さく、まだまだ基地局も多くないという現状だ。そこで、ノートPCなどでは5Gに対応していてもSub6のみという製品がほとんどで、珍しい製品となる。
日本では通信キャリアが鉄道駅やその駅前など人が集まりやすいところなどを中心にミリ波の導入を始めており、22年中には基地局の設置数なども増える見通しと言われており、そうした所で高速に通信できるミリ波対応は今後要注目になるだろう。
下り10Gbps、上り3.5Gbpsで通信が可能になる単体モデムSnapdragon X70が発表
Qualcommは、そうしたミリ波の通信もサポートする新しい単体5Gモデムの新製品として「Snapdragon X70 5G Modem-RF System」(以下Snapdragon X70)を発表した。Qualcommの5Gモデムとしては第5世代となるSnapdragon X70は、新しくQualcommのAIプロセッサが内蔵されており、Sub6とミリ波の間で通信速度、カバレッジ、レイテンシ、電力効率などをモデムチップが自動で調整する機能を持っている。
そうした機能と、4つのFDDないしはTDDの回線を束ねて通信することが可能なCA(キャリアアグリゲーション)機能を備えているほか、NR-DC(New Radio Dual Connectivity)というミリ波とSub6を同時に利用する通信方式では、ミリ波とSub6のCAが可能になり、両方の帯域を束ねて通信する方式が利用可能になっているという。また、上りに関してはTDDとFDDの回線を束ねて通信が可能になっている。これらの機能により、理論的な通信速度は、下りは従来世代のSnapdragon X65 5G Modem-RF Systemと同じ10Gbpsだが、上りに関しては最大で3.5Gbpsに引き上げられている。
今回QualcommはこうしたSnapdragon X70を利用していると思われるいくつかのデモを行なっている。前出のNR-DCのデモでは、ミリ波とSub6の帯域を束ねて、Sub6の周波数を4つ束ねて1.7Gbps、ミリ波は8つ束ねて6.7Gbps、その2つを合わせて通信することで下り最大8.4Gbpsで通信できる様子をデモした。
QualcommによればSnapdragon X70は第2四半期からサンプル出荷が開始され、搭載製品が市場に登場するのは今年(2022年)の終わり頃になる見通しだということだった。