笠原一輝のユビキタス情報局

VAIO、工業製品では禁じ手の“揺れる仕様”に挑戦。創立5周年のVAIO SX12/14の勝色モデルを限定販売

VAIO SX12 | 勝色特別仕様のキーボードカバー、カメラのレンズを通しても色に違いがあることがよくわかる

 VAIO株式会社が7月1日に創立5周年を迎えた。VAIOは2014年2月にソニー本体から切り離されて投資会社の日本産業パートナーズ株式会社(JIP)に譲渡された。それ以降は独立企業としてPCの販売を中心とするメーカーとして存在してきた。

 独立後はPCだけでなく、長野県安曇野市にある本社工場における受託生産事業も行なうなどして収益の多様化を実現し、2016年の7月には会社設立2年目にして営業黒字を実現したと発表(VAIO、会社設立2年目にして営業黒字を達成参照)するなど、嵐の船出だったことに比べれば、比較的穏当に運営されてきた。

 VAIOは会社創立5周年を記念した記者会見を7月9日13時より開催しているが、それに合わせて新製品のモバイルノートPC「VAIO SX12」が発表された。

 そして、それと同時に台数限定モデルとして、「VAIO SX12 | 勝色特別仕様」、「VAIO SX14 | 勝色特別仕様」を販売。これら製品の技術的な詳細に関してVAIOにインタビューしてきたので、その内容を含めてお伝えしていく。この「勝色特別仕様」の特徴は、工業製品としては禁じ手であるはずの“揺れる仕様”だった。

2014年の7月からの5年間、3つのSシリーズとA12という4ラインナップに集約

 VAIO創立からの5年間で投入されたPCを振り返ってみると、以下の図のようになっている。

VAIOのラインナップの変遷(筆者作成)

 当初のVAIOは、ソニーから引き継いだVAIO Pro 11、VAIO Pro 13、VAIO Fit 15Eという3製品をラインナップしてスタートした。いずれもメーカーロゴがSONYからVAIOに変わったという製品だった。

VAIO Z(VJZ13Aシリーズ)

 2015年の2月にはVAIO ZというソニーVAIO時代には究極を意味する「Z」のブランドを冠した2in1 PCが発売された。VAIO Zはヒンジが360度回転することで、クラムシェルだけでなく、タブレットとしても使える製品だった。ただし、翌年にはVAIO Zのタッチ機能がないクラムシェル版が追加されており、そのときのユーザーのニーズは2in1よりもクラムシェルだったということを知らしめる結果になってしまった製品でもある。

VAIO Z Canvas(VJZ12Aシリーズ)

 もう1つのVAIOのハイエンド製品としては、VAIO Z Canvasが2015年の5月に発表された。VAIO Z Canvasはペンが使えて、HシリーズのCoreプロセッサが搭載されている製品として、とくにクリエイターニーズを意識した製品だった。

 VAIOとしては両製品ともに新しい市場開拓的な位置づけの製品だったと思うが、いずれの製品も生産終了扱いになっており、後継製品が出なかったということは、ビジネス的にはあまり成功しなかったと推測できる。

 現在そうしたVAIOの新しい市場を切り開く位置づけ的なPCはVAIO A12(VAIO、新ヒンジ機構採用で約1kgの12.5型着脱式2in1参照)となる。A12はスレートタブレットに分離する形状になっていながら、クラムシェルとしても利用できる製品だ。Surfaceシリーズのようなキーボード一体型カバーを使うものとは異なり、キーボードドックがしっかりと作られている。そのため、ドッキングしたときにはクラムシェルPCとして使えることが特徴となっている。

新しいSシリーズとしてディスプレイを狭額縁化した12.5型の「VAIO SX12」

VAIO SX12、本体の縁までキーボードがいっぱいに入っている

 VAIOのビジネスの屋台骨を支えているのは、「S」のブランドが冠されているメインストリームの製品となる。いずれもビジネスユーザー向けと位置づけられており、VAIO Pro 11の流れを組む「VAIO S11」、VAIO Pro 13の流れを組む「VAIO S13」、VAIO Fit 15Eの流れを組む「VAIO S15」という3つのディスプレイサイズの製品から構成されていた。

 だが、2019年1月に新モデルとして「VAIO SX14」が追加され、これが新しくS13の後継と位置づけられた。SX14は狭額縁のディスプレイを採用しており、S13とほぼ同じ底面積でありながら、14型にサイズアップされているのが特徴だ(究極のVAIO Sシリーズが登場、14型4Kに進化しながら13.3型とほぼ同等の底面積参照)。

VAIO SX12のキーボード、縁までキーが来ていることがわかる
指紋センサー
右側の端子、キーの下に端子モジュールが入っている
左側の端子、こちらもキーの下にUSB端子などが来ている
SX14(奥側)のキーボードと、SX12(手前)のキーボードの比較。CapsLockなどは若干短くなっているがほぼ同じサイズになっている

 本日VAIOが発表したSX12もその延長線上にある製品だ。従来は狭額縁ではなかったS11を狭額縁化し、ほぼ同じ底面積でありながらディスプレイのサイズが12.5型(フルHD)になっており、モバイルでも大画面を求めるユーザーニーズに応えられるようにしている。

 なおかつ、S11の特徴だったレガシーポート(ミニD-Sub15ピンやGigabit Ethernetなど)も搭載されており、S11では搭載されていなかったUSB Type-Cポートが追加され、SX14と同じようにスマートフォンの充電などで一般的な5VのUSB充電器で緊急避難的に充電できる仕様になっているなど、SX14の12.5型という製品に仕上がっている。

 そう言ってしまうと、SX12が簡単にできあがったように聞こえてしまうが、じつはその設計には1つ大きなハードルがあった。それは、ポート類をどう収めるかだ。

 従来のS11ではキーボードが端からオフセットしていたため、フルサイズキーボードよりはやや小さなキーボードになっていた。しかし、SX12ではフルサイズキーボードになっており、その結果としてキーボードがC面(キーボード面)の縁まで来ており、本体を厚くしないと端子類をキーボードの下に入れることができなくなってしまうのだ。

 これは狭額縁ノート共通の問題で、DellがCOMPUTEXで発表したXPS 13 2-in-1でも同じ問題を抱えていた。Dellはわざわざキーボードの一部を指紋認証センサーにすることで、この問題を回避している。

手前側が従来のマザーボード、端子の横に背の高いICがある
新しいマザーボード、背面にあった端子が表面に移動している
従来のS11の底面カバーと基板、端子の上に樹脂はない
新しいSX12のD面と基板、端子の上に樹脂があり、強度が上がっている

 VAIO SX12でもまさに同じ問題に直面していた。端子類をUSB Type-Cのような薄いものだけにするかなど、いろいろと検討したそうだ。しかし、日本のビジネスユーザーはミニD-Sub15ピンなどのレガシーポートをまだ必要としていると判断して、本体を厚くしないでレガシーポート類を実装する設計に取り組んだ。

 それをどう実現したのか。具体的にはメインボードの裏面にあった背の高いICを表面に移動し、裏面の高さ方向を限界まで削って対応した。言ってみれば底面カバーのなかで、メインボードが深いほうに移動することで、底面カバー→メインボード→キーボードと重ねても従来どおりの厚みで実現できたということだった。

均一性を捨てて“揺れる仕様”をありとした勝色特別仕様

VAIO SX14 | 勝色特別仕様(左)とVAIO SX12 | 勝色特別仕様(右)

 こうして誕生したVAIO SX12だが、1月に発表されたVAIO SX14と同じく通常版とALL BLACK EDITIONと呼ばれるブラック塗装の特別版が用意されており。SX14と同じように、キーボード無刻印版を選ぶことができる。

 そして、このVAIO SX12とSX14に、VAIO創立5周年を記念した特別限定モデルが追加された。それが「勝色特別仕様」と言われるSX12とSX14だ。この勝色特別仕様では、天板とキーボード面の2カ所が、VAIOのコーポレートカラーであり、“勝色”と呼んでいる濃い藍色に塗られた特別版となる。

箱も特別バージョン
箱を開けたところ

 通常モデルでは、キーボード面の素材がアルミニウムになっており、アルミニウムを着色するときには一般的にアルマイト加工処理が行なわれる。アルマイト加工処理とは、アルミの表面に化学加工により被膜を作ることで、それにより色をつけられるようになる。

自然藍を利用することで色がばらつく仕様になっている
専用の指紋拭き取りのクロス(東レのウルトラスエード)

 これに対して、今回の勝色特別仕様モデルでは、自然界の存在する藍を利用してアルマイト加工処理されているという。VAIO株式会社 PC事業部PC設計部 メカ設計課課長の浅輪勉氏は、「通常の塗料でアルマイト加工で塗装した場合には、無機質な色しか作れない。そこで自然の材料、今回は自然藍を含む塗料を利用することで、多彩な色素を意図的に活用するようにした」と説明する。多彩な色素を意図的に活用するということは、言い換えれば1枚1枚に微妙に色が違ってきてしまうということだ。

 浅輪氏は、「ここからここまでというレンジを設けて、そこに入らないものは弾いているが、実際にそれなりのバラつきが出ている。しかし、それも製品の特徴とすることにした」と述べる。これまでの工業製品の常識である“均一性”を捨てて、むしろバラつきがあることが特徴だというのだ。

 筆者はこれまで数多くの開発者にインタビューしてきたが、「製品の品質がバラついてもいい」と言われたのは初めてだ。つまり、今回は「数限定」ということもあり、その常識は外してチャレンジしてみたわけだ。したがって、じっさいに勝色特別仕様モデルが世に出れば、同じ勝色特別仕様を持っているユーザー同士であっても、微妙に色が違うということに気づかされるという。

天板は勝色で塗装し、かつUVの光沢クリアが塗られている。そのため下地のカーボンが見えるようになっている
塗る前のカーボン

 なお、天板も勝色で塗装されているが、こちらは上からUVの光沢クリアが塗られており、下地となるカーボンのイメージが出るようにしているという。

 また、非常に細かいことだが、こうした塗装により通常モデルと比べて平均2gくらい重くなっているという。平均と書いたのは、前述のとおり塗料の量も1つ1つ異なっており、VAIO側で計測して出した平均値が2gということだ。

勝色特別仕様は標準モデルに比べて2万円アップ

 この勝色特別仕様だが、基本的にはVAIO SX12、VAIO SX14の特別仕様である「ALL BLACK EDITION」と同じCTOツリーになっており、CPU、メモリ、ストレージ、キーボード(日本語/英語、刻印あり/刻印なし)、LTEなどのスペックは同等だ。

 ALL BLACK EDITIONが標準モデルにプラス5,000円の価格設定になっているのに対して、勝色特別仕様はプラス2万円となる。台数限定になっており、在庫がなくなり次第販売終了となる(台数は非公表)。

 SX12の勝色特別仕様モデルの税別価格は、ソニーストアの完全CTOモデルが216,800円からで、VAIOストアではオリジナルSIMバンドルパッケージつきのものが262,800円となる。

 SX14勝色特別仕様モデルはソニーストアの完全CTOモデルが216,800円からで、VAIOストアのオリジナルSIMバンドルパッケージつきが264,800円となる。受注はソニーストアおよびVAIOストアで行なわれ、すでに開始されている。

 特別仕様ということで、ALL BLACK EDITIONからさらに15,000円ほど価格の上乗せがあるが、1台1台が違う色という工業製品としては珍しい仕様や、VAIO創立5周年記念モデルという点を考えれば、十分にその価値があると言えるのではないだろうか。