笠原一輝のユビキタス情報局
2in1としてさらに磨きがかかったDell「XPS 13 2-in-1」
2019年5月31日 18:37
米Dellは5月28日、COMPUTEX TAIPEIの会場近くにて記者会見を開催。上席副社長兼Dellコンシューマ・スモールビジネス製品事業本部事業本部長のレイ・ワー氏が登壇し、新製品を発表した。
それらの製品に関しては別記事で紹介しているとおりだが、そのなかで最も注目を集めていたのが、Intelから発表されたばかりの第10世代Coreプロセッサー(以下第10世代Core)を搭載した、新しい「XPS 13 2-in-1 (モデル7390)」だった。
2017年に前世代が投入されたXPS 13 2-in-1は、従来はYシリーズの第7世代Coreプロセッサと、アスペクト比16:9の13.3型ディスプレイを搭載した2in1デバイスだったが、今回登場した新しいXPS 2-in-1は、Uシリーズの第10世代コアに、16:10の13.4型ディスプレイと仕様を一新。2in1デバイスとしては1つの理想型に近づいた製品となる。
本記事では、XPS 13 2-in-1のスペックだけでは解らない注目すべきポイントを紹介していきたい。
性能は2.5倍でバッテリ駆動時間は延長
今回Dellが発表したXPS 13 2-in-1(モデル7390、以下新XPS 13 2-in-1)は、2017年のCESで発表したXPS 13 2-in-1 (モデル9365、以下旧モデル)の後継となる製品だ。発表時点での両モデルの違いを表にすると以下のようになる。
製品名 | XPS13 2-in-1(7390)/2019年モデル | XPS13 2-in-1(9365)/2017年モデル |
---|---|---|
CPU | 第10世代Core(Ice Lake/TDP 15W) | 第7世代Core(Kaby Lake /TDP 4.5W) |
GPU | Intel Iris Plus/UHD | Intel UHD 615 |
メモリ | 4~32GB(LPDDR4X-3733) | 4~16GB(LPDDR3-1866) |
ストレージ | 最大1TB(PCIe x4) | |
ディスプレイ | 13.4型UHD(500cd/平方m、HDR400)/フルHD(500cd/平方m) | 13.3型QHD+/フルHD(400cd/平方m) |
タッチ/ペン | タッチ対応/ペン(4,096筆圧検知、AES2) | タッチ対応/ペン(2,048筆圧検知、AES) |
カメラ(Windows Hello対応有無) | HD(-)/ディスプレイ上 | HD(-)/ディスプレイ下 |
USB Type-C(Thunderbolt 3) | 2 | |
カードリーダ | microSD | |
オーディオ | オーディオ/マイクコンボジャック(3.5mm) | |
その他ポート | - | セキュリティケーブル用穴 |
Wi-Fi | Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax) | Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac) |
Bluetooth | Bluetooth 5 | Bluetooth 4.2 |
指紋認証 | 電源ボタンに内蔵(オプション) | オプション |
キーボード | フルサイズバックライトマグレブキーボード(0.7mmストローク) | フルサイズ/バックライト(1.3mmストローク) |
ポインティングデバイス | Precision TouchPad | |
ACアダプタ | 45W(USB Type-C) | 30W(USB Type-C) |
バッテリ | 51Wh | 46Wh |
カラー | プラチナシルバー/アーティックホワイト | シルバー |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 297x207x7~13mm | 304x199x8~13.7mm |
重量 | 1.32kg | 1.24kg |
OS | Windows 10 Home/Pro |
性能面でのもっとも大きな変化は、旧モデルでは発表時点で第7世代Core(Kaby Lake)、途中でマイナーモデルチェンジされ第8世代Core(Amber Lake)が採用されてきたが、新XPS 13 2-in-1では、CPUが第10世代Coreへと変更されている。
それに加えて大きいのは、従来モデルではYシリーズと呼ばれる4.5W(第7世代)、5W(第8世代)のTDPであったのに対して、新XPS 13 2-in-1では、TDP 15WのUシリーズと呼ばれるCPUが採用されている。
YシリーズCPUは、消費電力が小さいためファンレスにできるので、より薄かったり小型なPCを設計できるというメリットがある。その反面、クロック周波数はUシリーズに比べて低く抑えられるため(だからTDPが低く設定できる)、性能はUシリーズに比べると見劣りする。
とくに、従来世代(第7世代など)のYシリーズはCPUコアが2コアまでとなるので、第8世代以降は4コアになっているUシリーズに比較すると、差が大きくなっていた。
Uシリーズに変更した効果は、ライルズ氏によると「従来製品と比較して、2.5倍の性能を実現している。非常に大きな効果がある」とのとおりで、CPUもそうだが、GPUの性能も大きく向上している。
というのも、今回の新XPS 13 2-in-1では、Core i7-1065G7、Core i5-1035G1、Core i3-1005G1という3つのSKUから選択できる。
現時点では、Intelから第10世代CoreのSKUに関して説明がないため、それらのSKUのスペックに関して詳しいことは解らないのだが、現地での製品で確認したところ、第10世代CoreはCore i7-1065G7となっており、GPUはIris Plusになっていた。
搭載されているIris Plusが64EUなのか48EUなのかは解らないが、UHDよりもGPU性能が高いIris Plusを搭載したCPUが選択できるのは嬉しいところだ。
ただ、ライルズ氏によれば、この新モデルの熱設計は15Wをターゲットにしており、cTDP upで規定されている25Wはターゲットにしないという。XPS 13 2-in-1のターゲットユーザーがビジネスユーザーなどであることを考えると、当然の選択だろう。
しかし、そうした性能向上のトレードオフとして、旧モデルではファンレスになっていたのに対して新製品では2つのファンで冷やすかたちになっている。
現在こうした薄型ノートPCでは薄型化を実現するために、高さ方向が必要になる1つの大きなファンではなく、薄い2つのファンで放熱するという設計が一般的だが、課題はデュアルファンにすると底面積を占めてしまうことだ。その結果として、バッテリを小さくしなければならないなどの弊害が出る。
そこで、このXPS 13では基板を極限まで小さくしている。ライルズ氏によれば、SSDすら基板上に実装しているということで、極限まで小さくしており、バッテリは従来モデルが46Whだったのに対して51Whとむしろ増えている。
これにより、フルHDディスプレイ搭載モデルでは、従来モデルで15時間だったバッテリ駆動時間が16時間に伸びている。
アスペクト比16:10のディスプレイを採用し縦方向が伸びているXPS 13 2-in-1
そしてもう1つ、新XPS 13 2-in-1を特徴付けているのが、PC用ディスプレイとしては久々の登場となるアスペクト比16:10のディスプレイだ。
じつは、かつてはアスペクト比16:10のディスプレイは、PCで一般的に採用されていた。というのも、16:10のメリットは、縦方向が長いということで、Webブラウザなどで表示したときに情報が増えるからだ。
しかし、MicrosoftがWindows 8でモダンUIを導入した時に、16:9のディスプレイを奨励したということもあり、ノートPCはほとんどが16:9のディスプレイになってしまったという歴史的な経緯がある(しかも、その16:9を一番最初に止めたのがMicrosoftのSurfaceだったというのが皮肉だが……)。
そうしたこともあり、今はパネルメーカーもノートPC向けの16:10のパネルを一般的なラインナップ向けには作っていないというのが現状だ。
しかし、今回の新XPS 13 2-in-1は、16:10のパネルを採用している。ライルズ氏は「16:10にしたのは縦方向を伸ばせるからだ。7%大きなディスプレイというメリットがあるほか、Webブラウザで表示するときに表示できる領域を増やすことができるなど、生産性の向上に寄与する。また、縦方向を伸ばすとパームレストやタッチパッドも大きくできる。タッチパッドは前世代と比較して19%大きくなっている」と説明する。
なお、すでに述べたとおり、パネルメーカーの標準ラインナップには16:10のパネルは存在していないため、パネルメーカーと共同開発し、この製品向けに起こしてもらったということだった。
確かに、底面の縦方向は16:10により若干大きくなっている(旧モデルが199mmに対して207mm)ため、パームレストやタッチパッドは大きくなっている。とくにタッチパッドの大型化はユーザーの使い勝手に直結するだけに歓迎して良いだろう。
だが、逆に横方向は若干小さく(旧モデルが304mmであるのに対して、297mm)なっており、そうなるとキーボードを小さくするなどのしわ寄せが発生しそうだ。
だが、実際のキーボードはしわ寄せどころか、むしろ旧モデルよりも、さらに言えば、15型のXPS 15よりも大きくなっている。Dellがフレームギリギリまで入っている新しいキーボードを開発したからだ。
では、新しいのキーボードを起こしただけなのかと言えば、ライルズ氏によればそうではなく、1つ課題を解決する必要があったという。
それが「左側のUSB Type-Cポートはキーボードよりもディスプレイ側にオフセットしているので問題ないが、右側のポートは、キーボードと重なってしまっている。そこで、キーボードの右上は電源ボタン+指紋認証というスイッチにして薄く作り、その下にUSB Type-Cポートのモジュールを入れる場所を確保した」(ライルズ氏)とのとおりで、キーボードの右上をタッチセンサーを兼ねた電源ボタンにして、その下の余裕を利用してUSB Type-Cのポートを入れているという。
なお、左側のmicroSDカードはキーボードの下に入っているが、これは元々薄型であったため問題がなかったそうだ。
第2世代のマグレブキーボードに進化し、第1世代に比べて静かに
そして、この新しいキーボードは、Dellが昨年のCESで発表したXPS 15 2-in-1で初めて採用された「マグレブ(磁気浮遊式)キーボード」となっている。
マグレブキーボードは、磁気でキーボードを支える仕組みになっており、小さなストロークしか確保できない超薄型キーボード(ストロークは0.7mm)であっても、これまでのキーボードと同じように、クリック感を感じながら入力することが可能になるというギミックを採用しているキーボードだ。
ライルズ氏によれば、今回採用されているマグレブキーボードは第2世代になっており、XPS 15 2-in-1に採用されていたものよりも音が静かになっていることが大きな特徴だという。実機で確認してみると、音は静かになり、キー入力の感触も従来モデルよりも快適になっていた。
新XPS 13 2-in-1では、CESで発表された新「XPS 13(モデル9380)」にも採用さていた、幅2.5mmの超小型カメラが採用されており、3面狭額縁になっている(上左右、下はヒンジになっている)。
従来モデルでは、カメラがディスプレイの下部にあったため、テレビ会議などをすると、相手からすると顔を見上げるかたちになっていたが、今回のモデルでは上に来ているので、そうしたことはない。
そしてとても細かい点だが、ユーザーの使い勝手を左右しそうな改良点としては、マイクの搭載位置がある。
新XPS 13 2-in-1では、ステレオマイクがディスプレイ部分の頂点に用意されている。これにより、ユーザーの声だけでなく、体面で座っている相手(たとえばミーティングしている相手など)の声も拾いやすくなるほか、どこの方向からでも声を拾えることが可能なので、CortanaやAlexaなどの音声認識を使う場合の認識率が上がることになる。
多くのビジネスパーソンにとって、PCで録音しながら会議のメモを取るという使い方はじょじょに一般的になってきていると思うが、そうした時の悩みは、ディスプレイ側にマイクがあるため、キーボードのノイズを拾いやすい、そして自分の声は良く入るが、相手の声は入りにくいということではないだろうか。しかし、マイクが搭載位置がディスプレイの頂点であれば、その悩みが大きく改善されることになる。
スッキリしたデザインを目指し、排気口やヒンジなどにもこだわり
ライルズ氏によれば、こうしたXPS 13 2-in-1を設計する上のこだわりは、そうした性能や機能だけではないという。
ライルズ氏は「今回の製品ではデザインをスッキリにすることにこだわった」と説明し、使い勝手を損なわないように配慮しながら、美しいデザインの実現を目指したと説明する。
こだわりの1つが、キーボードの右上にある電源ボタン兼指紋認証センサーだという。
旧モデルではキーボードの右下あたりのパームレストに指紋センサーがあり、いかにも指紋センサーという体だった。せっかくパームレストがタッチパッドを中心として左右対称になっているのに、陥没が存在するかたちになっていた(ノートPCではそれが一般的だが……)。
Dellのデザイナーはそれが無粋だと判断し、電源スイッチと一体化し、キーボードの右上に統合することを決めた。
すでに説明しているとおり、新XPS 13 2-in-1ではCPUにUシリーズを採用しており、それを冷却するために2つのファンを内蔵している。
このため、筐体のどこかに吸気口と排気口が必要になる。この吸気口は本体の底面の左右にある。かつ、その吸気口はスピーカーの穴も兼ねており、空いている穴を活かし、音を出せるようにしている。
排気口はさらにユニークだ。排気口は底面に1つあるほか、Cカバー(キーボード面のこと)のヒンジ部分と中央部分にスリットが開けられており、ここからも排気される。ただし、そのCカバー側の排気口は、ユーザーがクラムシェルノートPCとして使うときには見えないようにデザイン上の工夫がされており、普通に使っているとその存在に気がつくことはないだろう。
ヒンジも従来モデルでは前から見ると見えてしまっていたのだが、今回のモデルでは見えてはいるものの、極力目立たないようになっている。
同じ工夫は底面にもされている。従来モデルではサービスタグや各国の認証情報などは底面に用意されている蓋のなかに書かれていた。新モデルではそうした蓋は廃止され、サービスタグや認証情報はレーザー刻印に変更になった。目立たなくなったため、シンプルで美しいデザインになっている。
「Dell」のロゴが前面から消えたことに隠されたその意味とは……
このように、新しいXPS 13 2-in-1は、Uシリーズの第10世代Core/Iris Plusが選択可能で、メモリは最大で32GB、ストレージは1TBまで選択可能と、ハイエンドPC並のスペックを11型や12型の従来型ノートPCのフットプリントに詰め込み、さらに16:10の13.4型UHD+ディスプレイを内蔵しているなど、2in1デバイスとしては1つの完成度に近づいたと言って良いだろう。
個人的に1つだけ惜しいと思ったのは、セルラーモデムが内蔵できないことで、それは次世代への課題だろう。
ライルズ氏によれば、XPSシリーズがセルラーモデムを内蔵していないのは、XPSシリーズがA面とD面にCNC削り出しアルミを採用しているため、セルラーのアンテナを入れるにはアンテナ部分を樹脂に変更するか、C面にアンテナを入れるかになるのだが、前者の場合は強度が下がるという課題があり、後者に関しては感度に関しての課題が残るからだという。
しかし、Dellとしてもセルラーモデム内蔵をあきらめたわけではなく、それは将来への検討課題と考えているということだった。
最後にライルズ氏が教えてくれた、とっておきの話を紹介してまとめにしたい。
今回の新XPS 13 2-in-1は、ディスプレイの下部に「Dell」というロゴがない。言われてみれば、従来のモデルにはDellのロゴがディスプレイの下部に入っていた。
「従来のモデルを使っていたマイケル(筆者注: 創業者兼CEOのマイケル・デル氏)から、テントモードにした時にDellのロゴが逆さになるのはいかがなものかというツッコミが入った(笑)。デザインチームも言われてみればそのとおりだと感じたので、今回のモデルからはなくなった」とのこと。