笠原一輝のユビキタス情報局
「Surface Connectのアイデアは日本の“炊飯器”でひらめいた」
~MicrosoftのデザイナーがSurfaceの歴史とデザインを語る
2019年6月14日 06:00
Microsoftは、米国本社(ワシントン州レッドモンド市)で日本のテックメディアなどを対象とした記者説明会を開催し、Surfaceのデザイナーなどが製品の説明をするセッションを行なった。
Surfaceだけでなく、すべてのハードウェア製品は同じデザインチームでデザインされている
Microsoft デバイスデザイン担当 執行役員 ラルフ・グローネ氏はMicrosoftのデザインチームについて、「Microsoftのデザインチームは現在60人のデザイナーがおり、Surface、Xbox、HoloLens、そしてマウスやキーボード、ヘッドフォンといった新しいジャンルの周辺機器も含めて一緒にやっている。それだけでなく、製品発表時のプレゼンテーションやアニメーションなどもデザインチームで作っている。製品を作ることはもちろん大事だが、Microsoftが顧客に対して提供する価値はなにかということも同じぐらい重要だ」と説明した。
Microsoftのハードウェア製品というと、PC Watchの読者にとってはSurfaceシリーズが一番身近な製品だと思うが、それ以外にもゲーミングデバイスのXboxシリーズ、HoloLens(2月のMWCでHoloLens2が発表されたばかりだ)、そしてキーボードやマウスといったデバイスもMicrosoftのハードウェアだ。
そうしたハードウェア製品はすべてグローネ氏のチームに属するデザイナーが設計している。確かに言われてみれば、最近のMicrosoft製品のデザインにはSurfaceブランドではない製品もSurfaceぽいなと感じることが増えた。マウスなどがわかりやすいが、Surfaceブランドがついていない製品でもSurfaceに近い色やテイストを採用した製品が増えてきている。
グローネ氏によれば、同社のデザインチームが掲げている哲学は3つある。
「ハードウェアとソフトウェアが正しく連携して動くことが重要だ。われわれは顧客にソフトウェアをよりよく使ってもらうためにハードウェアを提供している。このため、ソフトウェアの特徴をよく捉えてハードウェアを設計している。また、人々がソフトウェアをどう使うかを考えれば、マルチデバイスを意識する。
たとえばSurface Goはもっとも軽いラップトップであり、タブレットにもなる。これは会社や家のなかで使うというよりは、自転車に載せて外でスケッチしたりを意識した軽量な設計になっている。音楽家が曲に合わせて楽器を変えるようなものだ。
そしてもう1つ重要なことは、ユーザーがどのようなワークフローでデバイスを使っているのかを意識し、それに合わせた設計を心がけていることだ」と述べる。
その具体例として、同社の売れ筋製品であるSurface Pro 6についてふれ、「われわれがタブレットの開発をはじめたころに、iPadがリリースされた。だが、それを見て、答えはこれじゃないと感じた。というのも、テーブルに置いたときに便利じゃない。それで、すぐにスタンドをつけるというアイデアを当時の上司に提案したらすぐやれということになって、キックスタンドの開発を推し進めた。
そして同時にキーボードをつけて、ノートPCとしても使いたいということを提案されて、Surface RTと初代Surface Proを設計して、2年半の開発期間を経て発表した。キックスタンドには薄さを実現するため、アルミよりも35%軽いマグネシウムを活用し、初代では1段階だったが、2段階、そして無段階へと進化していった」とする。
初代Surface Proから現在の最新製品であるSurface Proまで採用されているキックスタンドと着脱式のキーボードが、Surface Pro製品の成功を支えた秘訣だったというわけだ。
いま、MicrosoftのSurfaceシリーズと、AppleのiPad Proシリーズを見ていると、OSやSoCのアーキテクチャという違いはあるが、製品のコンセプトはどちらも驚くほど似通っていると感じる。どちらもデジタイザペン、タッチで操作できるスレートタブレットとして使うことができ。Surfaceシリーズはキックスタンドがあり、iPadにはスタンドがないという違いはあるが、キーボードをつけるとどちらもノートPCの代わりに使えるというコンセプトはほぼ同一と言っていい。
スレート型タブレットというコンセプトを持ち込んだApple、そしてペンとキーボードというコンセプトのMicrosoftというように、それぞれのプラットフォーム企業が開発してきた両製品が、今それがおたがいに良いところを取り合いながら似通った製品に落ち着いているというのはなんとも興味深い状況だと言える。
Surface Connectの仕組みは日本の“炊飯器”を見て思いついた
そして、グローネ氏におそらく多くのSurfaceユーザーが気になっているUSB Type-Cのサポートについても聞いてきた。
現在のSurfaceシリーズのUSB Type-Cのサポート状況はSurface GoとSurface Book 2にはUSB Type-Cが用意されており、Surface Pro 6とSurface LaptopにはUSB Type-Aがだけが実装されており、USB Type-Cのサポートはない状況だ。
この点についてグローネ氏は、「現状では周辺機器はUSB Type-Aがまだまだ多い状況。顧客にとっては全部USB Type-Aがいいという人もいれば、いや最新のUSB Type-Cがいいという人も少なくない。このため、USB Type-Cを実装している製品と、USB Type-Aだけの製品と対応を分けている」と述べ、より尖ったユーザー向けのSurface Book 2やSurface Go、メインストリーム向けのSurface Pro 6とSurface Laptopといったように、特性によって違いを出していることを説明した。
その一方でSurfaceシリーズでACアダプタの端子として利用されている「Surface Connect」に関しては、ユーザーの支持が強いと述べた。「Surface Connectはすべてのモバイル型のSurfaceシリーズで採用しており、電源だけでなくドッキングステーションを接続するコネクタとしても利用できる。今後長い時間をかけてUSB Type-AからUSB Type-Cへの移行が進むが、われわれの製品もそのなかでコネクタを変更していくことになる。時には正しいタイミングで、時にはほかよりも早いかもしれないし、時には遅いかもしれない。しかし、今の段階ではSurfaceコネクタのメリットのほうが大きいと考えており、バランスを重視するとこの選択になっていると説明した。
そして、最後にグローネ氏はSurface Connectのデザインを採用した理由に関して、「じつは日本の炊飯器を見てひらめいた」と説明。日本の炊飯器や電子ポットなどでは、マグネット式の電源ケーブルを採用しており、床に置いてあって、誰かがケーブルにつまずいてしまってもある程度の圧力がかかれば外れる仕組みになっている。それにより、炊飯器や電子ポット自体は倒れることなく、倒れた炊飯器や電子ポットのお湯が人にかかって怪我をすることがないように配慮されている。
Surface Connectの端子も同じ考え方で作られており、ACアダプタのケーブルにつまずいて引っ張ってしまっても、簡単にケーブルが本体から抜けるようになっており、本体がどこかに飛んでいって破損しないように配慮されている。そのアイデア自体は、Surfaceのデザイナーが日本の炊飯器を見て思いついた方式なのだという。
グローネ氏の話をうかがい、MicrosoftとしてはこのSurface Connectがユーザーに支持されているのだと認識しているのがわかった。したがって、近い将来にSurface ProシリーズやSurface Laptopなどに採用されているUSB Type-A端子がUSB Type-Cになることはあっても、Surface Connectの端子はなくならないだろう。
MicrosoftがSurfaceシリーズの更新をしたのは昨年(2018年)の10月で、おそらく今年も同じようなタイミングで更新されるだろうが、そのときに登場するであろう「Surface Pro 7」の端子がどうなっていくのか、それが楽しみだ。