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VAIO、会社設立2年目にして営業黒字を達成

~2016年度には第3のコア事業を立ち上げると大田社長

長野県安曇野市にあるVAIOの本社

 VAIO株式会社(以下VAIO)は、7月1日で同社が設立されてから2年目を迎えたことを記念して、長野県安曇野市にある同社本社施設において記者説明会と、工場見学ツアーを開催した。この中で、VAIO株式会社 代表取締役の大田義実氏は「PC製品は、製品毎にPL(損益計算書)を作成し、原価利益などを担当者に降ろして責任を持ってやってもらっている。そうした体制の変更により売り上げが大幅に増加し、前年度には19億円の大幅な赤字だったのを、営業黒字化に成功した」と述べ、会社設立2期目にして営業黒字化を実現したことを明らかにした。

 また、大田社長は「今後もVAIOらしさを失わないPC事業を継続しつつ、新規事業に取り組んでいく。昨年(2015年)はEMS事業に取り組み成功を収めたので、今後さらに第3の柱となるべく新規事業を模索していく。それにより、PC事業と新規事業の利益を1:1にしていきたい」と述べ、現在の主力事業であるPC事業、そして昨年から取り組んでいるEMS事業に加えて、新規事業を立ち上げて、より安定した企業運営を目指すと述べた。

PC事業とEMS事業の躍進で2年目して営業黒字を実現、第3のコア事業を模索

 VAIO株式会社 代表取締役 大田義実氏は「ここ安曇野の本社には、設計から製造まで全てが揃っている。弊社のコア事業であるPC事業、EMS事業のいずれもがこの本社工場で展開されている。PCではVIAO Zをこの工場で設計から製造まで行ない、そのほかの機種はODM先に製造を委託し、この工場に集荷してソフトウェアのインストールや品質チェックをやっている」と述べ、VAIOの安曇野市にある本社工場が、同社のビジネスにとって非常に重要な位置を占めていると強調した。

VAIO株式会社 代表取締役 大田義実氏
VAIO 安曇野本社

 安曇野市にある本社は、VAIOが設立される以前は、ソニーの子会社でソニー製品の製造を委託されていたソニーイーエムシーエス株式会社 長野テックとして運営されており、古くは1991年から、米国PCメーカー向けのノートPCのOEM製造を始めた。1997年にVAIOブランドのノートPC、2005年からはノートPCに加えてVAIOブランドのデスクトップPCの製造などを担当してきた。

 また、ソニーのペット型ロボット「AIBO」の工場としても知られており、最先端の高密度基板実装技術で高い評価を受けてきた。2014年にVAIOが、投資会社のJIP(日本産業パートナーズ)に売却され、独立起業としてスタートした時に、ソニーからVAIOに譲渡され、現在はVAIOの本社となっている。

 現在「VAIO Z」がこの本社工場で生産されているほか、「VAIO S」シリーズや「VAIO Phone Biz」などのODMメーカーの工場で生産される製品も一度この本社工場に納品され、OSのインストールや検品などを受けてから出荷されるようになっており「品質が大幅に向上した」(大田氏)という状況になりつつある。また、VAIOではEMS(電子製品受託生産サービス)事業を昨年より開始しており、富士ソフトの人型ロボット「Palmi」がVAIOの本社工場で生産されている。

2015年度でVAIOが目指したこと
目指したことが達成できた
設計製造から販売サポートまで一貫した体制

 大田氏は「VAIOの2年間で目指してきたことは、自立と発展。まずは営業利益を黒字にしようと、この2年間頑張ってきた。この会社には設計製造から保守まで全てが揃っていたが、営業という概念が抜けていた。そこでまずそこを改善し、エンジニアが営業となってお客様を訪問させて頂くという体制を作った。それを元に、社員一人一人の意識改革を行ない、会社の収益に対して責任を持つ体制へと移行した。例えば、PCでは製品すべてで損益計算書を設定し、原価利益なども社員に公開することで、量販店での販売が落ちているならすぐにキャンペーンをやるとか、そういうことが迅速にできるようになった」と述べ、大田氏が社長に就任してからさまざまな体制変更を迅速に行なったことが、社員の意識改革に繋がったとした。

EMS事業が大きく伸びた
売上高の大幅増加、営業利益の黒字化に成功

 そうしたPC事業の収益改善や、EMS事業が大きく伸びたことで、売り上げは大幅に増加したという。大田氏は「前々年度には19億円の大幅な赤字だった。しかし、そうした改善により、前々年度からのV字回復を実現し、前年度は営業黒字を実現した」と述べ、前年度(VAIOの会計年度で2015年度)は営業黒字を実現したことを明らかにした。ただし、その黒字額に関しては明らかにしておらず、前々年度の赤字をカバーできたのかなどに関しては明らかにされていない(VAIOは公開会社ではないので、決算書は公開されていない)。

2016年度の目標
成長のために第3のコア事業の立ち上げを目指す
現在のEMS事業を第3コア事業につなげていく
2016年も成長を目指すと大田氏

 大田氏は今後のVAIOの成長戦略として「今後もVAIOらしさを失わないPC事業を継続しつつ、黒字を安定的に増やしていくために、第3のコア事業を立ち上げていく。現在EMSでお客様の注文に応じてやっているが、弊社の方から主体的に企画、製造、販売、サービス主体的に始めていこうというものになる」と、今後、現在EMS事業として展開している製品の製造の経験をベースにして、VAIOが主体的に行なうビジネスになるとした。現時点ではそれが何になるかについて大田氏は明確にはしなかったが、PC事業ではない何らかのデジタルデバイスをVAIOブランドで製造して販売していく形という可能性も考えられるだけに要注目だ。

これまでの“快”とは違う方向性の“快”もあり得る

 大田氏の後には、安曇野市の副市長である村上広志氏が登壇し、VAIOと安曇野市の関わりについて紹介した。村上副市長は「安曇野市にある企業として、世界的に知られているような企業はVAIOだけ。VAIOには世界に誇れる地元企業として貢献してもらっている。昨年の6月からVAIO Zをふるさと納税の特産品にご提供頂いたところ、1分とか2分とかでなくなってしまうぐらい人気だった。実際Yahoo Japanのトップニュースになった時には3分で160台がなくなってしまうほどだった。昨年の実績としては1,591台を出荷することができた。その後総務省から、ふるさと納税の礼品で換金性が高いPCなどは望ましくないという通達はあったが、VAIO Zは市内で作っている特産品として今後もやっていきたい。今年(2016年)に入ってからも420台が出荷されている」と述べ、VAIOの安曇野工場で生産されているVAIO Zを今後もふるさと納税の特産品として提供していきたいとした。

安曇野市の村上広志副市長
VAIO株式会社 執行役員副社長 赤羽良介氏

 次いで、VAIOでPC事業の統括をしているVAIO株式会社 執行役員副社長 赤羽良介氏が登壇し、VAIOのPC製品の開発哲学などに関して説明した。「現在“快”が仕事の生産性を高めるというキャンペーンを行なっている。VAIO株式会社が船出した2年前に、なぜこうなってしまったのかをみんなで議論した。その時決めたデザインポリシーが、レスポンスの追求、入力の質の追求、出力の質の追求、高密度/剛性の追求の4つで、各製品の企画書にはそれを必ず盛り込んでいる。そうした製品を、実際に広告代理店のクリエイティブディレクターに使ってもらってでてきたブランドスローガンが“快”だった」とVAIOが最近広告などに利用している“快”というキーワードについて説明した。

“快”が現在のVAIOのブランドスローガン
レスポンスの追求、入力の質の追求、出力の質の追求、高密度・剛性の追求の4つのデザインポリシーを追求する

 なお、赤羽氏は「個人のぴったりとはまるこれまでと違う快感もあり、そういう快も提供していきたい」と述べ、今後現在の製品で提供している“快”とは異なる方向性の“快”を追求した製品もあると、今後の製品でこれまでのVAIOの製品とは異なる方向性のPCがあり得ると示唆した。

VAIO株式会社 執行役員専務 今井透氏

 EMS事業を担当するVAIO株式会社 執行役員専務 今井透氏は「VAIOの安曇野工場は、東洋工業通信豊科工場としてスタートしてから50年に渡ってモノ作りを続けてきた。現在はそのノウハウを利用して、PCの設計生産、さらには受託生産を一気通貫で行なっている」と述べ、前身となるソニーイーエムシーエス 長野テック時代からのノウハウが現在のPC製造やEMSビジネスに役立っているとした。

VAIOにとっては新しい事業となるEMS事業
VAIOが持つPCやロボットなどの製造の経験を他社の製造に提供していく
VAIOの安曇野本社の歴史
企画、設計から出荷まで一気通貫で提供する

 その上で、富士ソフトのPalmi、AKA LLCの英語学習AIロボット「Muscio(ミュージオ)」、テラダ・ミュージック・スコア株式会社の2画面電子ペーパー楽譜専用端末「GVIDO(グイド)」などのEMSビジネスによりパートナー企業が安曇野工場で生産している、あるいは将来生産を行なう予定の製品を公開した。

テラダ・ミュージック・スコア株式会社の2画面電子ペーパー楽譜専用端末「GVIDO(グイド)」。開くと両面見開きの電子ペーパーに楽譜が表示される
左が富士ソフトのPalmi、右がAKA LLCの英語学習AIロボット「Muscio(ミュージオ)」(ただし展示されていたのはモックアップだった)

2枚のアルミパネルを色合いや質感がばらつかないようにペアで製造しペアで管理

VAIO株式会社 メカ設計 浅輪勉氏

 VAIO株式会社 メカ設計 浅輪勉氏はVAIO Zの設計における、部品メーカーとの共同開発についての説明を行なった。昨年の2月に発表されたVAIO Zは、今年の1月にマイナーチェンジ版となる2016年モデルが発表されている。この2016年版では、CPUが第6世代Coreプロセッサに強化されたほか、2in1型のフリップモデルに加えて、クラムシェルモデルが追加されるなど、ハイエンドPCとして高い完成度を実現している。

タイトル
VAIO Zの部品には多数の部品メーカーと共同開発のパーツが利用されている

 浅輪氏は「VAIO Zはさまざまな部品を国内メーカーと共同開発している。今回はその中から外装のアルミパーツについての共同開発を東洋理化科学研究所様と行なっている取り組みについて紹介したい」と述べ、VAIO Zの外装に使われているアルミニウム板に関する開発についての説明を行なった。

 VAIOは、ソニー時代からカーボンやアルミニウムなど、新しい素材の採用に積極的で、アルミニウムの開発は2007年から東洋理化科学研究所と行なってきたという。アルミニウムは、一般的なPCに使われている強化プラスチックなどに比べて同じ強度を実現するの比較的に薄く、軽く作れるというメリットがある。VAIO Zではプレスと切削で作り出したアルミニウムの板を液晶ディスプレイ裏側のいわゆるA面などに使っており、薄さと軽さの実現に大きな貢献をしている。

金属加工で有名な株式会社東洋理化科学研究所とアルミ加工に取り組んできた
加工時のばらつきなどを押さえる工夫

 しかし、そのアルミニウムを天板にするには技術的なチャレンジがあったのだという。具体的にはVAIO Zのフリップモデルでは、液晶の中央を起点として回転して、クラムシェルとタブレットの2つの形状に変形できる。このため、液晶裏面が2つのパーツに分離しており、それぞれを別のパーツとして製造すると、製造上のばらつきのために、色とか質感が違ってきてしまうのだ。そこで「2つの部品を1つの材料で作るよう、ペアで製造する。しかし、製造上の都合で途中で分割されてしまうので、それ以後の工程でも分割した2枚をペアで処理する」(浅輪氏)と、本来は別の部品として作られる2つのパネルを1枚として製造し、切り離した後もペアとして処理して部品メーカーからVAIOに納品される仕組みを採用していることを紹介した。

 また、アルマイト加工で表面処理をしていく過程でも、通常は1回のアルマイト加工を行なうのだが、アルマイト加工後、ダイアモンドカットを行ない、さらにその上からもう一度アルマイト加工をすることで、VAIOロゴを勝色に見せる処理などが行なわれていることなどが紹介された。

2枚のパーツを1枚のパーツとして処理していく
分割される前のアルミニウム板
分割された後も同時に生産された2枚のパーツが同じ製品に組み込まれる
ダブルアルマイト加工
完成するまで何枚もサンプルが作られた
ダブルアルマイト加工によりVAIOロゴの部分が勝色になっている