笠原一輝のユビキタス情報局

新しいVAIO S11は「帰ってきたVAIO Pro 11」だ

~Windowsストアでデータプランが買えるLTEモデム入り

新旧VAIO S11、奥側が旧VAIO S11、手前が新VAIO S11

同じ内部コンポーネントをうまく活用して、11型と13型の2つのモデルに派生しているVAIO S11/S13

 VAIOがメインストリーム向けクラムシェル型ノートPCとなるVAIO S13、VAIO S11をリニューアルした。

 VAIO S11、VAIO S13はどちらも、従来から存在するVAIOのメインストリーム向けPCのブランドである“S”を冠する製品であり、かつ製品名も同じであるため、単純な継続モデルのように思う人も少なくないと思うが、実際には継続性を重視はしているものの、新しい設計にもとづいた新モデルになっている。

 VAIOによれば、今回の製品に向けて、内部プラットフォームを完全に新しくしている。CPUは第7世代CoreプロセッサのUシリーズを採用しており、最大でメモリ16GB、最大で1TBの第3世代ハイスピードプロSSD(NVM Expressに対応したPCI Express SSDのこと)を搭載可能なマザーボードを採用しているが、実のところこのマザーボードは両製品で共通だという。

新旧VAIO S11のポート比較。上が旧モデルで、下が新モデル。新モデルではUSB Type-C(Thunderbolt 3)がなくなっているが、HDMIとUSB Type-Aが1つ増え、セキュリティロックが追加されている。
こちらは新VAIO S13のポート、上のS11の写真と見比べればわかるが、ポートの配置されている場所は相対的に同じ。従来モデルにはなかったケンジントンセーバー用のセキュリティホールが追加されている
VAIO株式会社になってからは初めての指紋認証センサーを搭載、もちろんWindows Hello対応

 内蔵されているポートなどの位置もほぼ同じになっている。11.6型と13.3型ではディスプレイの横幅が異なるため、マザーボードは一緒でも、左右どちらかのポートは子基板で実現されていると思われるが、基板を共有化することは2つの製品でコストをシェアすることができるため、賢明な選択だと言える。

VAIO S11(上)とVAIO S13(下)を重ねて置いたところ、ポートの位置やデザインが似通っていることがよくわかる

 バッテリ(約35Wh)も共有化されており、S11は約14時間、S13は約12時間のバッテリ駆動が可能になっている(計測はJEITA測定法2.0による)。同じバッテリ容量なのにバッテリ駆動時間に違いがあるのは、液晶のサイズの違いによるもので、S13の13.3型のパネルのほうが電力が多いからだ。

VAIO S11のバッテリ情報。デザイン容量は34,800mWhだが、実容量は38,450mWhとなっていた
VAIO S13のバッテリ情報。デザイン容量は34,800mWhだが、実容量は37,630mWhとなっていた

 つまり、S11とS13はそれぞれどちらの製品も同じ“2017年型VAIOプラットフォーム”とでも呼ぶべき共通化された設計を採っている。このプラットフォームで、11.6型と13.3型のバリエーションを作っているわけで、これが新しいVAIO Sシリーズの形というわけだ。

Microsoftアカウントに紐づいたクレジットカードで“ギガ買える”SIMカードが付属

 今回発表されたS11とS13には、両方ともLTEモデム搭載モデルを選択することができる。搭載されているモデムモジュールは、TelitのLN940で、カテゴリ9のLTE-Advancedをサポート。このため、3つの帯域を束ねた通信が可能で、最高で下り450Mbpsの通信速度を実現できる(もちろん通信キャリア側が対応していればの話)。

モデムはTelit社のLN940、カテゴリ9のLTE-Advancedに対応

 対応しているLTEバンドは以下のとおり。

【表1】VAIO S11/S13の対応バンド
新VAIO S11/S13旧VAIO S11NTTドコモauソフトバンク
バンド1
バンド2
バンド3
バンド4
バンド5
バンド7
バンド8
バンド11--
バンド12
バンド13
バンド17
バンド20
バンド21
バンド25
バンド26(バンド18/19を含む)-
バンド28
バンド29
バンド30
バンド38
バンド39
バンド40
バンド41

 ここで注目したいのは、日本のバンドだけでなく、海外の通信キャリアで使えるバンドにも幅広く対応していることだ。LTEで言えばバンド1、バンド3、バンド19だけでなく、バンド4やバンド17といった米国の通信キャリアだけで使われるような特別なバンドにも対応しており、ほぼ世界各国で使える仕様になっている。

付属するSIMカードのサンプル。フランスのTranstel社のSIMカード。1GBのお試しデータ利用権が付属している

 そしてもう1つの特徴は、Microsoftが提供する「Windows 10データプラン」に対応していることだ。

 「Windows 10データプラン」は、Windows 10のストアアプリからデータプランを購入して通信できる仕組みのことで、「有料Wi-Fi&携帯ネットワーク」というWindows標準のアプリから購入可能。通信するにはバンドルされているフランスTranstelのSIMカードを入れるだけでよい。

Transtel社のSIMカードを入れて通信しているところ、入れるだけで1GBのお試し分を利用できる
残高分を押すと、”有料Wi-Fi&携帯ネットワーク”のUWPアプリが起動して残り容量などを確認できる

 最初から1GBのお試し分が付属しており、それが切れたあとはアプリ経由でデータプランを購入できる。

【表2】Windows経由で購入することができるデータプラン
価格データ容量有効期間
700円500MB1日
1,200円1GB7日
3,000円3GB1カ月
8,400円10GB3カ月

 このため、クレジットカードなどを新たに登録する必要はなく、Microsoftアカウントで設定してあるクレジットカードで決済できるため、手軽に扱えるのが特徴だ。また、海外でも使用でき、その場合にはその地域向けに提供されているデータプランを、アプリ経由で購入できる。

「有料Wi-Fi&携帯ネットワーク」のUWPアプリ経由でデータプランを購入できる
「有料Wi-Fi&携帯ネットワーク」に表示されるプラン

 なお、Transtel自体はフランスの通信事業者になるので、日本での通信はローミング扱いとなる。このため、現状ではあまり速度が出ないが、2017年内に改善される見通しだとのこと。

 もちろん、TranstelのSIMカードを使わずに、日本のMNOキャリアやMVNOキャリアと契約して別のSIMカードを利用することは可能だ。

 余談になるが、今回のVAIO S11/S13に採用されているこの仕組みはMicrosoftがAlways Connected PC構想として推進している取り組みの一環となる。この仕組みを採用した国内メーカーはVAIOが初となる。

VAIO S11はカーボンの天板に変更され、VAIO Pro 11的な外装と重量を実現

 さて、今回の新モデルでもっとも注目したいのは、完全に前世代からデザインが新しくなったVAIO S11だろう。従来モデルのVAIO S11は、LTEモデムを搭載した戦略的な製品として販売された。

 しかし、それ以前にVAIO Pro 11として販売されていたVAIOの11型クラスの製品と比較するとやや重くなっていたり、デザインが丸みを帯びたデザインになっており、VAIO Pro 11のソリッド感が失われ、“普通のPCっぽい”デザインになっていた。

新VAIO S11(左)と旧VAIO S11(右)の天板比較
新VAIO S11(左)と旧VAIO S11(右)のキーボード比較
VAIO S11に使われているカーボンのAカバー(液晶天板)

 だが、新しいVAIO S11は、重量も約840gからと従来のVAIO Pro 11とほぼ変わらない重量に減っており(従来モデルのVAIO S11は約920~940g)、かつデザインもVAIO S13と共通のスクエアなデザインに変更され、より高級感が増している。

 その最大の理由は、Aカバー(液晶の天板)が、従来のS11では強化プラスチックだったのに対して、新S11ではカーボン素材に変更されたこと。同じ強度でも軽量化が可能になったのだ。

 もう1つの大きな違いは、キーボードの角度だ。詳しくは以下の表と写真を見てほしいが、従来の新旧S11/S13を比較してみると、新S11/S13のほうがよりパームレストに角度(机の表面からCカバーのヒンジ部分までの角度)がついたキーボードになっている。

【表3】新旧VAIO S11/S13のパームレスト角度の違い
パームレストの高さ(mm)パームレストの角度
新S1186.1度
旧S119.84.7度
-1.8+1.4度
新S137.45.6度
旧S138.34度
-0.9+1.6度
旧VAIO S13(左)と新VAIO S13(右)の角度比較。わずかながら新VAIO S13のほうがわずかに角度がついている

 角度にして+1.4度とほんのわずかな違いなのだが、実際にさわって見ると、明らかに新しいキーボードのほうが打ちやすさが増している、キーボードそのものは変わりがないのにだ。

 また、今回のVAIO S11/S13ではキーボードに水をかけても、水がマザーボードやバッテリといった電気周りに入らず、下に抜けるように設計されている。もちろんそのまま問題なく動き続けるという意味ではなく、やってしまった場合には修理に出す必要があるが、その前にデータをバックアップしたりできる時間が稼げるというための機能だとのこと。

 実際、記者説明会では以下のように150ccの水をかけても3分間動き続ける様子がデモされた。

この水をこれから……
キーボードに水をかけてから3分動き続ける様子

 CPUファンのために用意されている開口部などから水が入った場合にはダメなので、防水・防塵仕様というわけではなく、あくまでキーボードに水がかかったぐらいではデータがなくならないようにという意味での防水だ。

 ペットボトルを倒してしまって、「あ!」という経験をしたことがある人なら、このありがたさは筆者が強調するまでもないだろう。今回はほかにも、ペンはさみ試験や落下試験など従来のVAIO Sシリーズでテストされてきた耐久性テストもクリアしているとVAIOでは説明している。

 ただ、1つだけ旧VAIO S11にあって、新VAIO S11にないものがある。それは「USB Type-C/Thunderboltポート」だ。

 前述のように、VAIO S11自体が、VAIO S13と共通の内部コンポーネントから構成される設計になっているため、この部分は落とされた。

 確かにThunderbolt 3のドッキングステーションなどが使えなくなるのは残念だが、VAIO S11の場合にはUSB PDに対応しておらず、ACアダプタは従来のVAIO Pro 11/13と同じものが使えることを考えれば、従来製品のユーザーが乗り換える場合にはあまり大きな影響はないのではないだろうか。

新しいVAIO S11は“帰ってきたVAIO Pro 11”でも、LTEや第7世代Coreなどスペックは現代化

 じつは、筆者の周り、つまりメディア業界の関係者には今でもVAIO Pro 11を使っているというユーザーは少なくない。「VAIO Pro 11からほかに乗り換えたいのだけど、従来モデルのVAIO S11はちょっとなー」というユーザーが散見された。

 だが、新しいVAIO S11は、見た目もVAIO Pro 11に近いデザインに変更され、スペックも現代風に第7世代Coreプロセッサ(Uシリーズ)、メモリ最大16GB、ストレージは最大で1TBのNVMe SSDとなっており、十分ハイスペックな構成にすることも可能。それで最長約16時間のバッテリ駆動時間を持つというのだから、十分VAIO Pro 11の代替に値する製品になっていると思う。

 その上、今回の新VAIO S11にはLTEモデムという新しい要素も加わっている。すでに述べたとおり、日本の通信キャリアが利用するバンドだけでなく、海外のキャリアで使えるバンドにも対応していることは見逃せない。ローミングで利用するにせよ、現地でプリペイドSIMカードを買って入れるにせよ、その利便性は高いと言える。

 まさに新VAIO S11は、“帰ってきたVAIO Pro 11”であり、それも現代向けにきっちりスペックアップされたVAIO Pro 11なのだ。