笠原一輝のユビキタス情報局
年末商戦の目玉となる第8世代Coreプロセッサ、IFAで多数の搭載製品が登場
~筐体をそのままにクアッドコア化が可能に
2017年9月12日 12:55
9月1日~6日(現地時間)にドイツ ベルリン市で開催された世界最大の家電ショー「IFA」に先だって、米Intelは第8世代Coreプロセッサを発表した。
開発コードネーム“Kaby Lake Refresh”(KBL-R)で知られる、第8世代Coreプロセッサの最初の製品は、TDP 15Wと薄型ノートPCに採用できるTDP(熱設計消費電力)を実現しながら、CPUコアが2つ増えてクアッドコアCPUに強化されており、前世代(第7世代Coreプロセッサ、Kaby Lake)に比べて、40%の性能向上が実現されているのが大きな特徴となっている。
IFAでは、OEMメーカー各社から第8世代Coreプロセッサを搭載したPCが多数発表され、大きな注目を集めた。つまり、今年(2017年)のIFAのトレンドは、クアッドコアCPU搭載の薄型ノートPCだったのだ。
IFAでクアッドコアの第8世代Coreを搭載した薄型ノートPCが多数登場、dGPU搭載版も
今回のIFAでは、実に多数の第8世代Coreプロセッサを搭載したクラムシェル型PCと2in1型デバイスが発表、展示された。多くはすでに第7世代Coreプロセッサ搭載製品として発表された製品を、第8世代Coreプロセッサに置き換えた製品で、いくつかは新設計の筐体を採用した製品となる。
IFAに先立ってIntelは記者説明会を行なっており、そこにはIFAには参加していなかった、HPの第8世代Coreプロセッサ搭載クラムシェル型ノートPC、2in1デバイスが展示されてた。これで、Windows PCを販売するグローバルの5大メーカーすべてが第8世代Coreプロセッサ搭載製品をリリースしたことになる。
また、Acerの「Switch 7 Black Edition」、ASUSの「ZenBook Flip 14」のように、薄型ノートPCでありながらdGPUとしてGeForce MX150を搭載している製品もいくつかあった。Pascal世代のdGPUを搭載した薄型ノートPCというのも、今回のIFAで顕著に見えた特徴と言える。
Acer
詳細は既報(Acer、4コアCPUとGeForce MX150搭載でファンレスを実現した13.5型2in1「Switch 7 Black Edition」、Acer、Always Connected PC構想のLTEモデム内蔵「Swift 7」の開発意向を表明)を参照されたい。
HP
HPはIFAにブースを出展しておらず、記者会見なども開催していなかったが、IFAに先立って米国で販売が開始された3製品を、Intelの記者説明会で展示した。
なお、いずれの製品も第7世代Coreを搭載した製品として販売されていた製品の第8世代版となっているためか、プレスリリースなどは出されていない。
前世代に比べて40%性能向上した第8世代Coreプロセッサ
今回、Intelは大規模な記者会見を行なわなかったが、小規模の記者説明会を行なった。また、Intel 副社長兼クライアントコンピューティング事業本部 モビリティクライアントプラットフォーム事業部 事業部長のクリス・ウォーカー氏は、8月30日~31日に相次いで行なわれたAcer、ASUS、LenovoのPCメーカーの発表会に参加し、第8世代Coreプロセッサについてアピールした。
Intelが開催した記者説明会でウォーカー氏は、「世界中では5年より前のPCがまだまだ現役で動いているが、今こそまさに買い替えるのに素晴らしいタイミングが訪れている。例えば、今は4Kのプレミアムコンテンツ、VR、新しいゲーミングなど新しい体験がPCにもたらされている。
また、5年前のPCと言えば35mmよりも厚いノートPCばかりだったが、現在はUltrabookなどの取り組みにより、薄く軽いPCが当たり前になっている。さらに、TDP 15Wでクアッドコアを実現している第8世代Coreプロセッサの登場により、性能が昨年の製品に比べて40%向上している」と語り、今回Intelが発表した第8世代Coreプロセッサが、非常に大きな性能向上を実現していると述べ、この年末商戦がPCの買い換え時期として適当だとアピールした。
IntelがCPUの性能についてこれだけアピールするのはいつ以来だろうと思い出せないぐらいだが、今回はこんなにアピールするのか、と思うぐらい、40%を強調していた。つまり、クアッドコアCPUになったことで性能面にいい影響があったということだ。
Intelがクアッドコアの第8世代Coreプロセッサ-Uシリーズを投入した理由について、ウォーカー氏はソフトウェア側の環境が整ったことと、技術的な背景という2つの理由があると説明している。
1つ目は「マルチタスク的な使い方が当たり前になりつつあるからだ。生産性を上げる業務にPCを使っている場合であっても、電子メールやプレゼンテーションファイルを作りながら、同時にYouTubeを再生させたり、SNSを見たりしている。そのようにオフィスユーザーであってもマルチタスクのユースケースが当たり前になってきている」という。
もう1つは、「そのままクアッドコアにした場合、バッテリ駆動時間やフォームファクタが犠牲になってしまう。そこで製造過程や設計を見直すことで、TDPの枠に収めることを実現した」と、CPUの製造過程やプラットフォーム側をを見直すことでTDP 15Wの枠に収まるようにすることができたからだとした。
前者に関しては、おそらく多くの読者がうなずくことだろう。すでに、PCを使う場合にはマルチタスクが当たり前になっており、特にWebブラウザで動画を再生しながら何か別のことをするというのはよくあるシーンだ。あるいは、AdobeのLightroomのような写真管理ソフトで写真の管理を行なっている場合には、CPUの利用率が100%になることも珍しいことではない。
そうしたユーザーが何かほかのことをやろうとすると、タスクの切り換えに時間がかかったりとイライラさせられることも少なくないだろう。コア数が増えて性能が上がるには、アプリケーションそのものがマルチスレッドになるか、ユーザーが複数のアプリケーションを並列して利用するかのどちらかが必要になるが、今となってはどちらも普通になりつつある。
第8世代Coreプロセッサは、デュアルコアの第7世代と同じTDPで、同じ筐体が利用できる
そして、後者に関しては本来はHシリーズ(TDP 45W)用として開発されたKaby Lakeのクアッドコア版ダイを、Uシリーズ(TDP 15W)用として投入することが技術的に可能になったということだ。
これはどういうことかと言うと、同じダイをベースにしていると考えられる第7世代CoreのHシリーズ(KBL-H)と、今回の第8世代CoreのUシリーズ(KBL-R)とで、SKUを比較してみるとよくわかる。
製品シリーズ | 第7世代Core Hシリーズ | 第8世代Core Uシリーズ | 第7世代Core Uシリーズ | |||||||||||
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開発コードネーム | Kaby Lake-H(KBL-H)/4+2ダイ | Kaby Lake Refresh(KBL-R)/4+2ダイ | Kaby Lake-U(KBL-U)/2+2ダイ | |||||||||||
SKU | Core i7-7920HQ | Core i7-7820HQ | Core i7-7820HK | Core i7-7700HQ | Core i5-7420HQ | Core i5-7300HQ | Core i7-8650U | Core i7-8550U | Core i5-8350U | Core i5-8250U | Core i7-7600U | Core i7-7500U | Core i5-7300U | Core i5-7300U |
コア/スレッド | 4/8 | 4/8 | 4/8 | 4/8 | 4/4 | 4/4 | 4/8 | 4/8 | 4/8 | 4/8 | 2/4 | 2/4 | 2/4 | 2/4 |
ベースクロック | 3.1GHz | 2.9GHz | 2.9GHz | 2.8GHz | 2.8GHz | 2.5GHz | 1.9GHz | 1.8GHz | 1.7GHz | 1.6GHz | 2.8GHz | 2.7GHz | 2.6GHz | 2.6GHz |
ターボ時最大 | 4.1GHz | 3.9GHz | 3.9GHz | 3.8GHz | 3.8GHz | 3.5GHz | 4.2GHz | 4GHz | 3.6GHz | 3.4GHz | 3.9GHz | 3.5GHz | 3.5GHz | 3.5GHz |
キャッシュサイズ | 8MB | 8MB | 8MB | 6MB | 6MB | 6MB | 8MB | 8MB | 6MB | 6MB | 4MB | 4MB | 3MB | 3MB |
メモリタイプ | DDR4-2400/DDR3L-1600 | DDR4-2400/LPDDR3-2133 | DDR4-2133/DDR3L-1600/LPDDR3-1866 | |||||||||||
GPU | Intel HD Graphics 620 | Intel UHD Graphics 620 | Intel HD Graphics 620 | |||||||||||
GPU周波数(最高) | 1,100MHz | 1,000MHz | 1,150MHz | 1,000MHz | 1,150MHz | 1,050MHz | 1,100MHz | 1,000MHz | ||||||
TDP | 45W | 15W | ||||||||||||
価格 | 568ドル | 378ドル | 378ドル | 378ドル | 250ドル | 250ドル | 409ドル | 409ドル | 297ドル | 297ドル | 393ドル | 393ドル | 281ドル | 281ドル |
これで見てわかるように、第8世代Core U(KBL-R)は、第7世代Core H(KBL-H)よりもクロック周波数が低くなっている。
第7世代Core H(KBL-H)が2.5GHz~3.1GHzのベースクロックになっているのに対して、第8世代Core U(KBL-R)は1.6~1.9GHzになっている。つまり上のクロックを抑えることで、消費電力を低く抑えた製品だと言える(逆に言えば、コアが倍になっているのに性能向上が倍近くではなくて40%なのは、それが影響していると考えることができる)。
ただ、ユニークなことにターボモードが有効になったときのクロック周波数は、むしろ第7世代Core H(KBL-H)よりも上がっており、ターボモードを有効に使えば(つまり筐体側が熱設計に余裕がある設計になっていれば)、第7世代Core H(KBL-H)に匹敵する性能を発揮することができることを意味する。
その上で、第8世代Core U(KBL-R)は従来のデュアルコアの第7世代Core Uシリーズ(KBL-U)と同じ15WのTDPになるので、OEMメーカーは同じ筐体を利用できると、ウォーカー氏は説明する。
ウォーカー氏は「OEMメーカーと協力して実装している。Intel Dynamic Platform & Thermal Frameworkの仕組みを活用して、アルゴリズムの調整などを行なうことで、1年前の製品と比べて高いターボ周波数にも対応しつつも、15Wという枠に収めている」と、従来の第7世代Core Uシリーズ(KBL-U)向けの筐体を、そのまま第8世代Core U(KBL-R)の筐体へと転換できると述べた。もちろん、その場合はターボモード時の限界は、第8世代Core U(KBL-R)専用に設計した筐体よりも早く来てしまい、性能面ではやや不利になることは否めないのだが。
ただし、ウォーカー氏は言及しなかったものの、基板に関しては同じものが利用できない。というのも、ターボ時の周波数が大幅に上がっており、ピーク時に必要な電力が従来の第7世代Core Uシリーズ(KBL-U)よりもはるかに上がっており、電源回路は見直す必要があるからだ。
価格上昇もほとんどなく、同じ価格帯でクアッドコアを手に入れるチャンス
価格(1,000個ロット時)に関しては、表にまとめたとおりだが、ほぼ据え置きになっている。Core i7-8650UはCore i7-7600Uの393ドルから16ドルアップだけの409ドル、Core i5-8350UはCore i5-7300Uの281ドルからやはり16ドルアップの297ドルとなっており、性能が大幅アップしているに比べてほとんど値上げしていない。
HプロセッサのCore i7-7920HQとして販売すれば、568ドルで販売できるダイを、Uシリーズとして販売するだけで100ドル以上のディスカウントと考えられるので、ユーザーにとってはお買い得なCPUだと言って良いかもしれない。
もちろん、ノートPC向けのCPUの場合には、CPU単体で買っても意味はなく、OEMメーカーの製品に組み込まれて出荷されるので、直接的にはノートPCの価格が上がるのか下がるのかが重要になると思うが、今回IFAで聞いた関係者は口を揃えて価格レンジはほとんど上がらないと述べていた。
つまり、昨年Kaby Lake-Uのトップグレード(Core i7-7600U)を搭載した発売されたノートPCが、Core i7-8650Uを搭載してリファインされても価格は据え置きになる可能性が高いということだ。
であれば、ユーザーにとっては、第8世代Coreプロセッサを搭載したクアッドコアな薄型ノートPCの登場は大いに歓迎していいと思う。
今後、IFAには参加していなかった、AppleやMicrosoftといったメーカーの新製品が登場する可能性もある。それらも含めて、特にハイエンドのCore i7を搭載している製品を購入しようと考えていたハイエンドユーザーであれば、今年の年末商戦では、第8世代Coreプロセッサを搭載した薄型ノートPCに要注目だ。