多和田新也のニューアイテム診断室

クロック上昇で最上位モデルを更新「Phenom II X4 965 Black Edition」



 AMDは13日、Phenom IIシリーズの最上位モデルとなる「Phenom II X4 965 Black Edition」を発表。動作クロックを3.4GHzへ上昇させ、さらに倍率ロックフリーになっているモデルである。この製品のパフォーマンスをチェックしていきたい。

●クロックとTDPのトレードオフ

 まず最初に、今回発表されたPhenom II X4 965 Black Edition(Black Editionは以下、BEと表記)の特徴をまとめておきたい(写真1)。この製品は単純に言い表してしまえば、L3 6MBのDenebコアを3.4GHz動作させたもの、といえる製品。コアもPhenom II X4 955 BEなどと同じリビジョンC2が使われている(画面1)。

【写真1】Phenom II X4 965 Black Edition【画面1】CPU-Zの結果。Rev.C2のDenebコアが使われている

 ただし、主な仕様をまとめた表1を見ても分かるとおり、TDPが140Wへ上昇した。これまでに登場した、Denebnコアは発熱や電力さえ許容できれば高クロック化できることは、Phenom II X4 955 BEやPhenom II X4 42 TWKRの実績から見えていたことだ。Phenom II X4 965 BEは、このTDP枠を140Wにすることで高い動作クロックを実現したものと見ることができるだろう。

 もっとも、TDP140Wの製品は初期のPhenomにもラインナップされていた。Socket AM3のPhenom IIでは初めての登場にはなるものの、こうした製品が登場する可能性は考えられたことだ。ユーザとしてはTDP 140Wに対応したマザーボードが必要になるという点には注意が必要となる。

 OPNは「HDZ965FBK4DGI」となっており、Phenom II X4 955 BEのOPNからモデルナンバを示す部分のみが入れ替わった格好となっている。OPNにはTDPの情報も含まれるわけだが、こちらの資料にある表5を見ても分かるとおり、7~8桁めの“FB”はTDP125Wと140Wで共通になっているので、このようなOPNになっているわけだ。

【表1】Phenom II X4 965 Black Editionの主な仕様

Phenom II X4 965 Black EditionPhenom II X4 955 Black EditionPhenom II X4 945
OPNHDZ965FBK4DGIHDZ955FBK4DGIHDX945WFK4DGI
リビジョンRev.C2Rev.C2Rev.C2
ソケット種別Socket AM3Socket AM3Socket AM3
動作クロック3.4GHz3.2GHz3.0GHz
L1データキャッシュ64KB×464KB×464KB×4
L2キャッシュ512KB×4512KB×4512KB×4
L3キャッシュ6MB6MB6MB
HT Linkクロック2.0GHz2.0GHz2.0GHz
対応メモリDDR3-1333/DDR2-1066DDR3-1333/DDR2-1066DDR3-1333/DDR2-1066
動作電圧0.875~1.5V0.875~1.5V0.85~1.425V
周辺温度(最大)62℃62℃71℃
TDP(最大)140W125W95W

●2万円台のクアッドコア4製品を比較

 それではベンチマーク結果をお伝えしたい。テスト環境は表2に示したとおりで、今回のテストは、下位モデルとなるPhenom II X4 955 BEに加え、2万円台で入手可能なIntel製品2モデルと比較を行なう。テストに用いたマザーボードは写真2~4のとおりである。

【写真2】AMD 790FX+SB750を搭載する、ASUSTeK「M4A79T Deluxe」【写真3】Intel P45+ICH10Rを搭載する、ASUSTeK「P5Q3 Deluxe/WiFi-AP@n」【写真4】Intel X58+ICH10Rを搭載する、ASUSTeK「P6T Deluxe V2」

【表2】テスト環境
CPUPhenom II X4 965 Black Edition
Phenom II X4 955 Black Edition
Core 2 Quad Q9550Core i7-920
チップセットAMD 790FX+SB750Intel P45+ICH10RIntel X58+ICH10R
マザーボードASUSTeK M4A79T DeluxeASUSTeK P5Q3 Deluxe/WiFi-AP@nASUSTeK P6T Deluxe V2
メモリDDR3-1333(1GB×4/9-9-9-24)DDR3-1066(1GB×3/8-8-8-20)
ビデオカードNVIDIA GeForce GTX 280(GeForce Release 190.38)
HDDSeagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS)
OSWindows Vista Ultimate Service Pack 2

 まずは、CPU性能のチェックである。テストはSandra 2009 SP3aのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2~3)だ。

 3.4GHz動作のPhenom II X4 965 BEは、Phenom II X4 955 BEから6%強のクロックアップが行なわれているわけだが、演算性能のテストでは順当におよそ6%強のスコアとなっている。まずは妥当なところだ。

 Intel製品との比較では、Core 2 Quad Q9550に対しては、すべてのテストでこれを上回るスコアを出せている。Core i7-920に対しては、Hyper-Threadingの効果もあってかSandraでは全体に不利に結果となった。一方で最大でも4タスクの同時実行となり極端なマルチスレッド処理が行なわれないPCMark05のCPUテストでは、Phenom II X4 965 BEの良さが目立つ結果となっている。

【グラフ1】Sandra 2009 SP3a(Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】PCMark05 Build 1.2.0(CPU Test-シングルタスク)
【グラフ3】PCMark05 Build 1.2.0(CPU Test-マルチタスク)

 次はメモリ周りのチェックである。Sandra 2009 SP3aのCache & Memory Benchmark(グラフ4)と、PCMark05のMemory Test(グラフ5)の結果だ。

 こちらもPhenom同士の比較ではキャッシュの範囲内ではクロックの差に近い性能向上が見られ、メインメモリのアクセス速度はあまり変わらないという妥当な結果が出ている。

 Intel製品との比較では、メインメモリへのアクセスで大きな差が見られる。トリプルチャネルアクセスとなるCore i7-920に対してはやや分が悪いが、チップセット側にメモリコントローラを内蔵しないCore 2 Quad Q9550環境に対してはかなりの優位性がある結果だ。

【グラフ4】Sandra 2009 SP3a(Cache & Memory Benchmark)
【グラフ5】PCMark05 Build 1.2.0(Memory Latancy Test)

 次に一般アプリケーションを用いたベンチマーク結果である。テストはSYSmark 2007 Preview(グラフ6)、PCMark Vantage(グラフ7)、CineBench R10(グラフ8)、動画エンコードテスト(グラフ9)だ。Core i7-920環境でPCMark VantageのGaming関連のテストが動作しなかったため、その結果は省いている。

 まずPhenom II X4 955 BEに対する結果だが、PCMark VantageのMusicテストのように誤差の範囲に留まる程度の差しかない結果はあるものの、こうした頭打ちと見られる結果を除けば、おおむね順当にスコアを伸ばす結果となった。アーキテクチャに変化はなく、クロックが上昇した分の性能の上積みは期待できる結果だ。

 得手不得手は見られるものの、Core 2 Quad Q9550に対しては安定的に上回る性能が得られている。逆にCore i7-920に対しては不利な部分も目立つが、SYSmark2007のVideoCreationとProductivity、PCMark VantageのTV and MoviesとProduvtivityという、似たようなシーンを想定したテストにおいて同等もしくはそれ以上の結果を得られている。単独の動画エンコードでもコーデックにはよるものの差は小さく、こうした利用シーンでPhenom II X4 965 BEの良さが活かされそうである。

 次は3D関連のベンチマークである。今回からゲームタイトルを新しめのものへ入れ換え、エンジンの異なる3種類を選択した。クオリティ設定は最高となるよう設定し、アンチエイリアスは適用していない。

【グラフ6】SYSmark 2007 Preview(Ver. 1.05)
【グラフ7】PCMark Vantage Build 1.0.0.0
【グラフ8】CineBench R10
【グラフ9】動画エンコード

 テストは3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ10)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ11)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ12)、「BIOHAZARD 5 ベンチマーク」(グラフ13)、「ストリートファイターIV ベンチマーク」(グラフ14)、「Tom Clancy's H.A.W.X」(グラフ15)である。

 BIOHAZARD 5のようにハッキリとマルチスレッド化の効果が出るタイトルではCore i7-920が持つHyper-Threadingの強みが活きるが、H.A.W.X.のようにPhenom II X4 965 BEが高い優位性を持つ結果もあり、タイトルによる得手不得手が大きい。

 1つ言えるのは、Phenom II X4 955 BEに対してはもちろん、Core 2 Quad Q9550に対しても安定した強さを見せているということ。この価格帯でゲーム用PCのCPUを選ぶなら、Phenom II X4 965 BEかCore i7-920の二択という状況といえるだろう。

【グラフ10】3DMark06 Build 1.1.0 / 3DMark Vantage Build 1.0.1(CPU Test)
【グラフ11】3DMark Vantage Build 1.0.1(Graphics Test)
【グラフ12】3DMark06 Build 1.0.1(SM2.0 Test,HDR/SM3.0 Test)
【グラフ13】BIOHAZARD 5 ベンチマーク
【グラフ14】ストリートファイターIV ベンチマーク
【グラフ15】Tom Clancy's H.A.W.X

 最後に消費電力のテストである(グラフ16)。アイドル時の結果は、Cool'n'Quietによりともに800MHzまで動作クロックが下がるPhenom II X4 965/955 BEは、似たような数値となる。ここでは、Intelの両製品とも似たような消費電力に落ち着いているが、こちらはマザーボードの差もあるため参考程度に留めたい。

 高負荷の結果は、Core 2 Quad Q9550の低消費電力さが際立つ結果となっている。Core i7-920との比較では、MPEG-2エンコードは論理8コアがフルに活かされないこともあってかMPEG-2エンコードではCore i7-920の消費電力が意外に低い。ただ、CPUがフルロード状態となるCineBench R10ははっきりとPhenom II両製品のほうが低消費電力となっており、今回の環境におけるCPUの消費電力差という観点ではPhenom IIの良さが見られる結果といえる。

 ちなみにTDP125WのPhenom II X4 955 BEと、TDP140WのPhenom II X4 965 BEという構図もあるわけだが、こちらは高負荷時でおおむね15W前後の電力差であり、ほぼTDPどおりという面白い結果になっている。

【グラフ16】消費電力

●着実な進化を遂げたPhenom IIのフラッグシップ

 以上のとおりベンチマーク結果をお伝えしてきた。順当な性能アップを見せており、とくにPhenom II X4 955 BEではベンチ結果で勝ち切れていないCore 2 Quad Q9550に対して、Phenom II X4 965 BEではっきり土を付けた格好となったのは大きなポイントといえるだろう。Core i7-920に対しては得手不得手が目立つものの、拮抗した性能を持つCPUと言って差し支えないかと思う。

 気になるのは消費電力とTDPで、やはりクロックが上昇した分、消費電力が増す傾向が見て取れる。この点はトレードオフとして受け入れる必要がある。この点では、Phenom II X4 955 BEにも一定の価値が残るともいえる。

 気になる価格は245ドル。日本円では25,980円前後が想定されている。米ドルにおける245ドルという価格はPhenom II X4 955と同じ。4か月の時を経て、より高クロックの製品が同価格で登場するということは喜ばしいことだ。

 今年はAMDが怒濤の新CPU投入ラッシュを見せているが、IntelのLynnfield登場が近づく今、それに先んじてフラッグシップ製品を更新した意味は大きい。もちろんLynnfieldとの性能差も気になるところで、こちらの競争も今から楽しみである。