多和田新也のニューアイテム診断室

DirectX 10.1対応に進化した統合型チップセット「AMD 785G」



 AMDが8月4日に発表した新チップセット「AMD 785G」。すでに搭載マザーボードの販売も始まっている。内蔵ビデオ機能が、DirectX 10.1、UVD2.0など、最新世代の単体Radeonと機能面で肩を並べた本製品をチェックしていきたい。

●DirectX 10.1とUVD2.0によるトランスコードをサポート

 AMDの統合型チップセットは、2008年3月に発表された「AMD 780G」、昨年8月に発表された上位モデルの「AMD 790GX」の2製品がメジャー製品としてラインナップされてきた。今回発表されたAMD 785Gは製品名からも分かるとおり、AMD 780Gのセグメントに投入される後継製品となるわけだが、機能面ではAMD 790GXを上回る部分が多い。

 AMD 785Gのブロックダイヤグラムを図、主な仕様を表1に示した。変更となったのはグラフィックスコアで、AMD 780G/790GXのRadeon HD 3000シリーズのコアから、Radeon HD 4200という最新世代のコアへ進化した。これにより、DirectX 10.1対応となったほか、HDMI 1.3のサポート、UVD2.0のサポートといった新機能が加わったことになる。

【図】AMD 785Gのブロックダイヤグラム

【表1】AMD 785Gの主な仕様

AMD 785GAMD 780GAMD 790GX
グラフィックコアRadeon HD 4200Radeon HD 3200Radeon HD 3300
DirectX 10.1DirectX 10
シェーダユニット40基40基
動画再生支援UVD2.0UVD
ディスプレイ出力DVI/ミニD-Sub15ピン/DisplayPortDVI/ミニD-Sub15ピン/DisplayPort
HDMI 1.3HDMI 1.2

【画面】AMD 785Gの内蔵グラフィックはコアクロック500MHzで動作する

 グラフィックコアの動作クロックは500MHz(画面)。これはAMD 780Gと同じで、AMD 790GXの700MHzより低い。AMD 790GXは、PCI Express x8×2のCrossFireをサポートするという機能も備えているので、サポートする機能の新しさではAMD 785Gに優位性があるものの、AMD 790GXの上位モデルとして立場も維持された格好といえる。

 サウスブリッジはSB700シリーズが使われる。AMD 790GXではRAID 5をサポートしたSB750が使われることが多いが、主に低価格帯をカバーすることになるAMD 785GではSB710と組み合わせた製品が多くなっているのも傾向の違いといえる。

 また、AMD 785GではATI Streamをサポートしており、対応ソフトウェアを利用することで、動画トランコードに代表される処理をGPUで実行することができるようになった。このATI Streamには、新しい動きも出ている。これまで、ATI Video ConverterなどのATI Stream対応ソフトは、Streaming Processorが少ないバリュークラスの製品ではサポートされてこなかった。実際、AMD 780G/790GXではサポートされていない。これに対し、AMD 785GでATI Streamがサポートされたのは、UVD2.0の存在があるからだ。

 筆者も具体的な時期は分からないのだが、実は数カ月前からAMDのWebサイトでは、動画再生支援エンジンであるUVDをATI Streamの機能の1つとして扱い始めており、これまでCPUで行なっていた処理をGPUで行なわせるということを広く表すものに変化しつつあると感じていた。しかし、AMDによれば、AMD 785GのUVD2.0では、動画のトランスコードを行なえるようになっているという。

 その対応ソフトとして、「MediaShow Espresso」が挙げられている。今回の環境では、ATI Streamを有効にしたトランスコードが正常に動作しなかったのでテストは見送っているが、AMDの資料には、Pentium Dual-Core E6300を用いた環境と比較して、3分の1以下の所要時間でトランスコードが終了することが示されている。

●AMD 785Gと従来製品を比較

 それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。環境は表2に示したとおり。テストに用いるAMD 785Gマザーは、GIGABYTEの「GA-MA785G-UD3H」である(写真1、2)。本製品はATXかつDDR2対応という、AMD 785G搭載製品では珍しい仕様を採っている製品だ。

 比較対象には、同じくGIGABYTE製品から、ATXフォームファクターかつDDR2対応製品を選択した(写真3、4)。AMD 790GXを搭載する「GA-MA790GP-UD4H」のみSidePortを搭載しているが、各製品の仕様を揃えるため、BIOSからUMAのみを使用する設定に変更してテストを行なっている。

【写真1】AMD 785Gを搭載するGIGABYTE「GA-MA785G-UD3H」【写真2】GA-MA785G-UD3HのI/Oリアパネル
【写真3】AMD 780Gを搭載するGIGABYTE「GA-MA780G-UD3H」【写真4】AMD 790GXを搭載するGIGABYTE「GA-MA790GP-UD4H」

【表2】テスト環境

AMD 785GAMD 780GAMD 790GX
マザーボードGIGABYTE GA-MA785G-UD3HGIGABYTE GA-MA780G-UD3HGIGABYTE GA-MA790GP-UD4H
グラフィック機能Radeon HD 4200Radeon HD 3200Radeon HD 3300
グラフィックドライバDriver Package Version: 8.634-090717a-085165E-ATI
CPUPhenom II X4 945
メモリDDR2-800 1GB×2(5-5-5-18)
HDDSeagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS)
OSWindows Vista Ultimate Service Pack 2

 まずは、各コンポーネントの性能をチェックするために、Sandra 2009 SP3aのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、Cache & Memory Benchmark(グラフ2)、PCMark05(グラフ3)の結果をチェックしておきたい。

 SandraのCPUおよびメモリ周りのテスト結果は、ほぼ誤差の範囲の違いといって良いだろう。AMD 790GXのL1キャッシュがやや遅い結果になっているが、L1キャッシュはベンチマークでも誤差が大きい部分であり、それほど気に留める必要はないと思う。

 むしろ、PCMark05のメモリスコアで、AMD 785Gの結果が目立って劣るのは気になるところだ。SandraのCache & Memory Benchmarkも、AMD 785Gがやや遅い結果になっている。PCMark05の結果を詳細に見ると、どうやらメモリへのライト性能がほかの2製品に比べて劣る傾向がある。まだまだチューニングが必要ということだろう。ファーストリリースのBIOSでもあり、徐々に解消されていくと思われる。

【グラフ1】Sandra 2009 SP3a (Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】Sandra 2009 SP3a(Cache & Memory Benchmark)
【グラフ3】PCMark05 Build 1.2.0

 次に実際のアプリケーションを用いた、SYSmark 2007 Preview(グラフ4)、CineBench R10(グラフ5)、動画エンコードテスト(グラフ6)の結果である。

 ちょっとバラつきはあるものの、一定の傾向が見られるわけではなく、大きな差はない結果となっている。ベンチマークスコアの誤差と見ていいだろう。先にメモリ周りにチューニング不足を感じる点はあったものの、実際のアプリケーションにおいてはそうした傾向も見て取れず、従来製品と同等レベルの性能を引き出せている。

【グラフ4】SYSmark 2007 Preview(Ver. 1.05)
【グラフ5】CineBench R10
【グラフ6】動画エンコード

 続いては3D関連のベンチマークだ。3DMark06(グラフ7、8)、3DMark05(グラフ9)、ストリートファイターIVベンチマーク(グラフ10)、Tom Clancy'S H.A.W.X.(グラフ11)、Unreal Tournament 3(グラフ12)の結果を示している。過去に本コラムでも取り上げているアプリケーションもあるが、今回のテスト対象製品の性能に合わせ、過去記事で用いたものとは異なる設定を適用している。もちろん、今回の3製品間では共通の設定にしている。

 結果はAMD 790GXが頭1つ抜けた結果となった。クロックが高く、グラフィックコアのアーキテクチャも3D描画周りでは大きな違いがないので、当然といえば当然の結果だろう。AMD 780Gとは同等程度の性能に落ち着いている。

【グラフ7】3DMark06 Build 1.1.0(CPU Test)
【グラフ8】3DMark06 Build 1.1.0
【グラフ9】3DMark05 Build 1.3.0
【グラフ10】ストリートファイターIV ベンチマーク
【グラフ11】Tom Clancy's H.A.W.X
【グラフ12】Unreal Tournament 3 Patch v2.0

 最後に消費電力の測定結果だ(グラフ13)。似た仕様の製品で揃えたとはいえ、マザーボードが異なるため、あくまで今回使用のマザーボード製品間での比較という観点になる。

 3DMark06実行時のAMD 790GXの消費電力がやや高めに出ている点はグラフィックコアのクロック差が生んだものと見られるが、ほかは最大でも5Wの差。マザーボードが異なるため何かを断言できるほどの差はない。ただ、似た仕様のマザーボードであることが考えると、AMD 785GはAMD 780Gに近い消費電力であると推測される。

【グラフ13】消費電力

●AMDプラットフォームの新規導入ユーザに向いた製品か

 以上のとおり、AMD 785Gの性能をチェックしてきたが、AMD 780Gに対して目立ったアドバンテージは見られない。

 パフォーマンス面でメリットがあるとすれば、UVD2.0になったことでBlu-rayのデュアルストリームがハードウェアアクセラレーションされるとか、UVD2.0の動画トランスコード機能を用いたアプリケーションを活用した場合という、ちょっと限定された使い方になるのではないかと思う。AMD 790GXという存在があるなかで、AMD 785Gというやや控えめなチップセット名に留めたのも納得だ。

 ただ、今回のテストではチップセットの性能という観点から、マザーボード製品による違いをなくすため可能な限り条件を揃えている。例えば、AMD 790GXのSidePortを無効化したのもそのためだ。

 AMD 785Gを搭載したマザーボードはSocket AM3、つまりDDR3 SDRAM対応の製品が非常に多いし、SidePortを搭載した製品も目立つ。この点は、AMD 780G搭載マザーのトレンドとは大きく異なっており、時代の変化が生んだ性能の上積みは得られるはずだ。

 Radeonのコアを用いたグラフィック性能に支えられたプラットフォームの魅力はいうまでもなく、低コストで最大限のパフォーマンスを得たいユーザーにとって、AMD 785Gの存在は大きな魅力となるだろう。とくに、先月から今月にかけて、AMDからはデュアルコアのSocket AM3対応製品が次々にリリースされており、これらと組み合わせて利用したいチップセットだ。