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東芝、NANDフラッシュとSSDの開発戦略をFMSで公表

 東芝は、フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「Flash Memory Summit(FMS)」で2015年8月11日(現地時間)に基調講演を行ない、同社における大容量NANDフラッシュメモリとSSDの開発戦略を明らかにした。

「Flash Memory Summit(FMS)」の基調講演会場。2015年8月11日午前11時5分前(現地時間)に撮影

 FMSの開催に先立つ8月4日(日本時間)に東芝は、256Gbitとシングルダイとしてはきわめて大きな記憶容量のNANDフラッシュメモリを開発し、9月にサンプル出荷を始めると発表した。このメモリはメモリセルトランジスタを垂直に積層した3D NAND技術を採用しており、積層したセル層の数(トランジスタの数)が48層と多いことを特徴とする。

 同社は2015年3月26日に同じ48層の3D NAND技術で128GbitのNANDフラッシュメモリを開発し、サンプル出荷を始めたと発表していた。この128GbitシリコンダイではMLC(2bit/セル)の多値メモリ技術を採用していた。これに対して8月4日に発表した256GbitのNANDフラッシュでは、積層数は48層のままでTLC(3bit/セル)技術を採用することで、記憶容量を拡大した。

製品仕様のほとんどは未公表

 開発した256Gbit大容量NANDフラッシュメモリの製品仕様のほとんどを、東芝はFMSの基調講演と8月4日のニュースリリースでは公表していない。読み出しアクセス(及びサイクル)時間、書き込みアクセス(サイクル)時間、消去時間、書き換えサイクル寿命、データ保持時間、使用温度範囲は、いずれも不明である。記憶容量は公表されているものの、ワード構成(入出力ビット幅)は明かされていない。

 また製造技術に関する情報も、ほとんど分かっていない。設計ルール(最小加工寸法)、メモリセル面積、シリコンダイ面積とも不明である。これらの情報は、半導体技術の国際学会(IEDMやISSCCなど)で公表される可能性が少なくない。

FMSの基調講演に初めて登場

 話題を「Flash Memory Summit(FMS)」に移そう。このイベントは、毎年8月に米国カリフォルニア洲サンタクララ(シリコンバレーの一角)で開催されてきた。フラッシュメモリとその応用に特化したイベントで、講演会と展示会で構成されている。基調講演には、フラッシュメモリの大手メーカーやSSD(Solid State Drive)の大手ベンダーなどの代表者が登壇することが恒例となってきた。基調講演の常連と言える企業には、Samsung Electronics、SanDisk、Micron Technologyなどがある。

 ところで、SanDiskのパートナーである東芝はなぜか、FMSではあまり存在感がなかった。基調講演はおろか、一般講演や展示会でも登場の機会が非常に少なかったのだ。今年(2015年)のFMSで東芝は初めて、基調講演に登壇した。講演者は、東芝 セミコンダクター&ストレージ社でフラッシュストレージシステム技師長を務める大島成夫(おおしま しげお)氏である。大島氏は迫力とユーモアのある講演で、聴衆を大いに湧かせてくれた。

SSDの用途によってNANDフラッシュを使い分ける

 大島氏は、コンピュータのメモリ階層が将来(2020年)はどのように変わるかを始めに展望した。メモリ階層を最上層から「ティアー1(ホットデータ)」、中間層の「ティアー2(ウオームデータ)」、最下層の「ティアー3(コールドデータ)」に分けて考察した。

 現在はティアー1がCPU(キャッシュ)とDRAM、ティアー2がSSDと15K HDD、10K HDD、ティアー3がニアラインHDDと磁気テープ、光ディスクで占められている。これが将来(2020年)は、大きく変わる。

 特に大きな変化は、SSDの進化によってもたらされる。東芝は、SSDを3つの方向に進化させていくとした。性能重視のSSD(「パフォーマンスSSD」)、大容量重視のSSD(「キャパシティSSD」)、低コスト重視の超大容量SSD(「アーカイブSSD」)である。将来のティアー2には「パフォーマンスSSD」と「キャパシティSSD」が入り、将来のティアー3には「アーカイブSSD」が入っていく。

コンピュータにおけるメモリ階層の変化。SSDが性能と容量、コストの3つの方向に進化する
コンピュータにおけるストレージ階層の変化。SSDの適用領域が大きく広がる

 これら3種類のSSDで、開発するNANDフラッシュメモリを分けるというのが東芝の基本戦略である。パフォーマンスSSDには、TSV(シリコン貫通電極)技術によってシリコンダイを数多く積層した高性能のNANDフラッシュメモリを使用する。具体的な事例は、8月6日に東芝が発表した16枚積層の256GBフラッシュメモリである。数多くのシリコンダイをTSV技術によって積層することで、高い入出力速度と高いデータ転送速度を実現する。

3種類のSSDと適用するNANDフラッシュメモリ
パフォーマンスSSDに向けたNANDフラッシュメモリのロードマップ
TSV(シリコン貫通電極)技術によって16枚のシリコンダイを積層したNANDフラッシュメモリ
16枚のシリコンダイを積層したNANDフラッシュメモリの断面観察像
16枚のシリコンダイを積層したNANDフラッシュメモリの外観写真
TSV技術によって8枚のシリコンダイを積層したNANDフラッシュメモリの入出力信号波形(左)とシュムープロット(右)。電源電圧が1.1Vの時に、1.2Gbpsのデータ転送速度を得ている

 キャパシティSSDには、3D NAND技術による大容量NANDフラッシュメモリを使用する。具体的な事例は、8月4日に発表した48層の3D NAND技術とTLC技術による256Gbitの大容量NANDフラッシュメモリである。このような大容量NANDフラッシュを大量に搭載することで、HDDを超える記憶容量の大容量SSDを実現する。

48層の3D NAND技術による大容量NANDフラッシュメモリ。3月にMLC(2bit/セル)技術による128Gbit品、8月にTLC(3bit/セル)技術による256Gbit品の開発とサンプル出荷を発表した
キャパシティSSDに向けた大容量NANDフラッシュメモリのロードマップ
講演者の大島氏は、48層の3D NAND技術によるメモリセルアレイの立体模型を聴衆に示した。この模型を「3Dプリンタ」で作製したと説明して笑いを誘っていた

3D NAND技術で4bit/セルの多値メモリが復活

 最後のアーカイブSSDが搭載するNANDフラッシュメモリは、まだ存在していない可能性が高い。コンセプトの提案、あるいは開発中と見られる。1個のメモリセルに4bitを記憶する4bit/セル(QLC)の多値技術と3D NAND技術を組みわせることによって、きわめて記憶密度の高い、あるいは記憶容量当たりのコストが低いメモリを実現する。

 QLC(4bit/セル)技術はかつて、プレーナ技術のNANDフラッシュメモリでも研究開発が進められていた。しかし微細化によって1個のメモリセルが蓄積する電荷(電子)の数量が著しく減少したため、QLCの実現は困難になっていた。

 ところが3D NAND技術では、プレーナ技術に比べると数多くの電荷を蓄積する。東芝は、15nmのプレーナ技術によるNANDフラッシュのMLC方式メモリセルが蓄積する電荷の量を「1」とすると、3D NAND技術のMLC方式メモリセルが蓄積する電荷の量は「6」だとする。3D NAND技術ではQLC方式でもメモリセルの電荷蓄積量は「1.5」で、プレーナ技術のメモリセルよりも多い。実現の可能性は、かなりありそうだ。

プレーナ技術(左)と3D NAND技術(右)におけるメモリセルの電荷蓄積量の違い
アーカイブSSDの可能性。SSDのコストの大半は、ストレージ(記憶素子)、すなわちNANDフラッシュメモリが占める(右)。NANDフラッシュメモリのコストをQLC技術によって下げれば、HDDよりも記憶容量当たりのコストが低いSSDを実現できる可能性が出てくる

(福田 昭)