福田昭のセミコン業界最前線
東芝、NANDフラッシュとSSDの開発戦略をFMSで公表
(2015/8/13 14:11)
東芝は、フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「Flash Memory Summit(FMS)」で2015年8月11日(現地時間)に基調講演を行ない、同社における大容量NANDフラッシュメモリとSSDの開発戦略を明らかにした。
FMSの開催に先立つ8月4日(日本時間)に東芝は、256Gbitとシングルダイとしてはきわめて大きな記憶容量のNANDフラッシュメモリを開発し、9月にサンプル出荷を始めると発表した。このメモリはメモリセルトランジスタを垂直に積層した3D NAND技術を採用しており、積層したセル層の数(トランジスタの数)が48層と多いことを特徴とする。
同社は2015年3月26日に同じ48層の3D NAND技術で128GbitのNANDフラッシュメモリを開発し、サンプル出荷を始めたと発表していた。この128GbitシリコンダイではMLC(2bit/セル)の多値メモリ技術を採用していた。これに対して8月4日に発表した256GbitのNANDフラッシュでは、積層数は48層のままでTLC(3bit/セル)技術を採用することで、記憶容量を拡大した。
製品仕様のほとんどは未公表
開発した256Gbit大容量NANDフラッシュメモリの製品仕様のほとんどを、東芝はFMSの基調講演と8月4日のニュースリリースでは公表していない。読み出しアクセス(及びサイクル)時間、書き込みアクセス(サイクル)時間、消去時間、書き換えサイクル寿命、データ保持時間、使用温度範囲は、いずれも不明である。記憶容量は公表されているものの、ワード構成(入出力ビット幅)は明かされていない。
また製造技術に関する情報も、ほとんど分かっていない。設計ルール(最小加工寸法)、メモリセル面積、シリコンダイ面積とも不明である。これらの情報は、半導体技術の国際学会(IEDMやISSCCなど)で公表される可能性が少なくない。
FMSの基調講演に初めて登場
話題を「Flash Memory Summit(FMS)」に移そう。このイベントは、毎年8月に米国カリフォルニア洲サンタクララ(シリコンバレーの一角)で開催されてきた。フラッシュメモリとその応用に特化したイベントで、講演会と展示会で構成されている。基調講演には、フラッシュメモリの大手メーカーやSSD(Solid State Drive)の大手ベンダーなどの代表者が登壇することが恒例となってきた。基調講演の常連と言える企業には、Samsung Electronics、SanDisk、Micron Technologyなどがある。
ところで、SanDiskのパートナーである東芝はなぜか、FMSではあまり存在感がなかった。基調講演はおろか、一般講演や展示会でも登場の機会が非常に少なかったのだ。今年(2015年)のFMSで東芝は初めて、基調講演に登壇した。講演者は、東芝 セミコンダクター&ストレージ社でフラッシュストレージシステム技師長を務める大島成夫(おおしま しげお)氏である。大島氏は迫力とユーモアのある講演で、聴衆を大いに湧かせてくれた。
SSDの用途によってNANDフラッシュを使い分ける
大島氏は、コンピュータのメモリ階層が将来(2020年)はどのように変わるかを始めに展望した。メモリ階層を最上層から「ティアー1(ホットデータ)」、中間層の「ティアー2(ウオームデータ)」、最下層の「ティアー3(コールドデータ)」に分けて考察した。
現在はティアー1がCPU(キャッシュ)とDRAM、ティアー2がSSDと15K HDD、10K HDD、ティアー3がニアラインHDDと磁気テープ、光ディスクで占められている。これが将来(2020年)は、大きく変わる。
特に大きな変化は、SSDの進化によってもたらされる。東芝は、SSDを3つの方向に進化させていくとした。性能重視のSSD(「パフォーマンスSSD」)、大容量重視のSSD(「キャパシティSSD」)、低コスト重視の超大容量SSD(「アーカイブSSD」)である。将来のティアー2には「パフォーマンスSSD」と「キャパシティSSD」が入り、将来のティアー3には「アーカイブSSD」が入っていく。
これら3種類のSSDで、開発するNANDフラッシュメモリを分けるというのが東芝の基本戦略である。パフォーマンスSSDには、TSV(シリコン貫通電極)技術によってシリコンダイを数多く積層した高性能のNANDフラッシュメモリを使用する。具体的な事例は、8月6日に東芝が発表した16枚積層の256GBフラッシュメモリである。数多くのシリコンダイをTSV技術によって積層することで、高い入出力速度と高いデータ転送速度を実現する。
キャパシティSSDには、3D NAND技術による大容量NANDフラッシュメモリを使用する。具体的な事例は、8月4日に発表した48層の3D NAND技術とTLC技術による256Gbitの大容量NANDフラッシュメモリである。このような大容量NANDフラッシュを大量に搭載することで、HDDを超える記憶容量の大容量SSDを実現する。
3D NAND技術で4bit/セルの多値メモリが復活
最後のアーカイブSSDが搭載するNANDフラッシュメモリは、まだ存在していない可能性が高い。コンセプトの提案、あるいは開発中と見られる。1個のメモリセルに4bitを記憶する4bit/セル(QLC)の多値技術と3D NAND技術を組みわせることによって、きわめて記憶密度の高い、あるいは記憶容量当たりのコストが低いメモリを実現する。
QLC(4bit/セル)技術はかつて、プレーナ技術のNANDフラッシュメモリでも研究開発が進められていた。しかし微細化によって1個のメモリセルが蓄積する電荷(電子)の数量が著しく減少したため、QLCの実現は困難になっていた。
ところが3D NAND技術では、プレーナ技術に比べると数多くの電荷を蓄積する。東芝は、15nmのプレーナ技術によるNANDフラッシュのMLC方式メモリセルが蓄積する電荷の量を「1」とすると、3D NAND技術のMLC方式メモリセルが蓄積する電荷の量は「6」だとする。3D NAND技術ではQLC方式でもメモリセルの電荷蓄積量は「1.5」で、プレーナ技術のメモリセルよりも多い。実現の可能性は、かなりありそうだ。