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NVIDIAとソフトバンク、Blackwell採用の国内最速AIスパコンを構築。今こそ「ものづくり」に囚われない産業革命の時
2024年11月13日 20:02
NVIDIAは12日と13日の2日間、東京で「AI Summit Japan 2024」と題した大規模なイベントを開催。2日目には同社CEO兼創業者であるジェンスン・フアン氏が基調講演を行ない、ソフトバンクがAI向けスーパーコンピュータ(スパコン)を構築するのにあたって、最新のBlackwellプラットフォームを導入する発表を行なった。また、基調講演の後半で孫正義氏を壇上に呼び、トークショーを実施した。
基調講演の内容は長くなるため、先に発表内容を挙げると以下のようになるが、ソフトバンクとの大規模なパートナシップがメインだ。
ソフトバンク、日本最強のAIスパコンの構築にBlackwellを採用
ソフトバンクは、Blackwellを搭載したスパコン基盤「DGX B200」システムを受領し、日本で最高性能になるとみられるスパコン「DGX SuperPOD」を構築。自社の生成AI開発、AI関連事業で使うほか、日本全国の大学、研究機関、企業のAI開発向けに提供する。
このDGX SuperPODに加え、極めて計算負荷の高いワークロードを実行するために、追加のNVIDIAアクセラレーテッドスパコンを構築する予定で、初期の計画では、ArmベースのGrace CPUを組み合わせたGrace Blackwellプラットフォームを基盤にする予定で「GB200 NVL72」マルチノード、液冷式、ラックスケールシステムを搭載した設計を計画する。
AIと5Gワークロードを同時実行できるAI-RANの実現
AI-RANはAIと5Gのワークロードを同じハードウェア上で同時に実行。5Gのワークロードが低い時は、余剰容量を使用してAI推論ワークロードを行なうもの。従来の通信ネットワークはピーク時負荷を想定して設計しているが、平均するとその容量の3分の1しか使用されていない。残る3分の2の容量をAI推論サービス用としてユーザーに提供することで、さらなる収益化が図れる。
ソフトバンクは「NVIDIA AI Enterprise」を使用して、自動運転車の遠隔サポート、ロボット制御、マルチモーダルRAG(検索拡張生成)などAI推論アプリを構築したほか、「NVIDIA Aerial CUDA アクセラレーテッド RAN ライブラリ」をベースとした完全なソフトウェアでファインドの5G無線スタックを実現。神奈川県で実施した屋外試験で、キャリアグレードの5G性能を実現しながら、余剰容量を使用してAI推論ワークロードを同時に実行できることを実証した。
両社の見積もりによれば、通信事業者はAI-RANインフラに投資するコストの1ドルごとに、5ドルのAI推論収益が得られると見積もっている。運用コストなども含めて、AI-RANサーバーごとに最大219%の利益率を達成できるとソフトバンクが見積もっているという。
NVIDIAが考えるAIの今
ジェンスン・フアン氏による基調講演の冒頭では、NVIDIAが3DグラフィックスからAI企業への変革をなぞった。1960年代はCPUだけで実行されていたプログラムが、CUDA、領域限定のライブラリの登場などによりGPUで実行可能となり、さまざまな演算が大規模化/並列化できるようになると、今度はマシンラーニングが登場した。
マシンラーニングによってコンピュータが実現したのは、2つのものを因果関係のように結びつけられること。これによってデータは意味があるもの、理解できるようにしていくことが可能となった。たとえば“テキストからテキスト”は文章の要約やQ&A、テキスト生成のAIとして意味を持つし、“動画からテキスト”は動画のキャプション付け、“画像からテキスト”は画像認識といった具合だ。これらがAI技術のベースとなっている。
そのAIだが、現時点では2種類あるとフアン氏は言う。1つは「デジタルAI社員」で、企業のプランを理解して実行に移す。たとえばマーケティングキャンペーンの実施、ユーザーサポート、サプライチェーンの計画、調査アシスタントといった類だ。NVIDIAは現在こうした「デジタルAI社員」を実現するプラットフォーム「NeMO」を提供しており、世界のISVと連携し、デジタルAI社員を“レンタル”しているという。
もう1つが「フィジカルAI」で、つまりは自律的なロボティクスだ。現在ロボットは生産現場で活用されているもののその数は限定的で、その理由の1つとして、工場自体が人間向けに最適化されたものであって、ロボット向けに最適化されたものではないからだ。フィジカルAIを導入することによって、柔軟な対応が可能になる。NVIDIAはフィジカルAIをより簡単に企業が開発/導入できるよう、さまざまなプラットフォームの提供を行なっている。
そしてこのデジタルAI社員やフィジカルAIを、「日本でも今すぐ展開すべきだ」というのが、今回の基調講演におけるフアンCEOの最大のメッセージ。300年前、電気の誕生によってエネルギー業界が新たに生まれた時と同じように、コンピュータによって生まれたAIによって、新たな産業が創出されると期待しているのだという。
こうしたデジタルAI社員やフィジカルAIの登場により、「AIが人々の仕事に取って代わるのではないか」という懸念についても言及し、「少なくとも近い将来それ(100%取って代わる)は起こり得ない」と否定。
「今は人間の50%程度の仕事ができる、そしてそれが近い将来80%まで引き上がるかもしれない。しかし“労働力をその分減らせる”のではなく、“生産性をその分引き上げられる”と考えてほしい。AIが肩代わりすることによって生まれた余剰時間で、ほかのことを考えたり取り組んだりすることができる。それが組織全体の生産性向上につながる」とした。
日本における「ものづくり」の負の面
ここでフアン氏は孫正義氏を壇上に呼び、AI技術について語りあった。ここで、孫氏が今回率先してAIスパコンを構築する理由や戦略、思惑が明らかとなった。
「日本の大企業と話をいろいろしてきたが、“ものづくり”という物理的なことばかり重視されてきた。ソフトウェアというのはバーチャルなものなので、その価値を過小評価している。そうした心理が次世代へと受け継がれてきたように思う。
しかしソフトウェアが価値を持つ時代=AIがやってきた。日本は“失われた30年”があると言われているが、AIというブームの中で、業界のすべてのスタックをリセットし、失われた30年を取り返すチャンスがあると考えている。
日本のベンチャーにとってラッキーなのは、海外と違ってAIによる革命を政府が止めようという動きが特にないということ。日本には350ものAIスタートアップ企業があり、若い起業家やイノベータを飛躍させていくには、支援が必要であり、実現にはインフラの整備が必要だ。ソフトバンクが日本最大のAIスパコンを構築し、トライアウトを経由してほぼ無償で使えるようにすることで、こうした起業家やイノベータを支援していきたい」。
また、「かつてビル・ゲイツがすべてのデスクトップにPCを、スティーブ・ジョブズがすべての人々にスマートフォンを……といったスローガンを掲げたように、私はすべての人々にAIエージェントを提供したいと考えている。
今や1歳程度の子どもでもまったく抵抗なく自然にスマートフォンを操作できるのと同じように、将来はAIエージェントが1歳の子どもに寄り添って成長するようになる。病気の時に助けてくれる医師にもなれば、すべてを知っている家庭教師のような、いわば“パーソナルなアリストテレス”が実現すると考えている。そうした素晴らしい未来を日本では実現できる」と語った。
2024年11月13日、日本におけるAI産業革命の“Day0”
今回NVIDIA AI Summitを日本で開催するにあたって、ジェンスン・フアン氏の熱い思いがあった。
1つは同氏が好きなロボットが日本に集まっていること。先述のロボット製造の中心としての日本もそうだが、「鉄腕アトム」や「マジンガーZ」、「ガンダム」など、世界に名だたるロボットアニメは日本生まれだ。
もう1つは「日本企業のサポートがなければ、今のNVIDIAはない」ということ。その企業はセガだ。NVIDIAは1993年に創業し、その後セガとゲームコンソールのGPU開発における契約を結んだのだが、GPUで使うべき3D技術の選択に失敗。そこで、フアン氏が率直に失敗を認め、なおかつ契約の延長や契約金の全額支払いをしてほしい……というかなり無理なお願いを、当時セガのCEOである入交昭一郎氏に直接交渉したところ、「“寛大な対応”をしていただいた」とフアン氏は振り返る。その後に開発した「RIVA 128」で成功への礎を築けたのは言うまでもない。
別の形とはなっているが、世界的にも需要が高いであろうBlackwellプラットフォームをソフトバンクに対して優先的に納入する(納期的にだけでなく、数としても)ということは、日本への恩返しでもあると捉えることはできるだろう。
基調講演の後の報道関係者向けのQ&Aでも、フアン氏は、「今から日本で巨大ソフトウェア企業を産もうと思ってももう遅いかもしれない。しかし、今はDay0だ。AIの登場によってすべてをリセットする産業革命が引き起こせる。巨大なAI産業の国、AIロボティクスの国……それが日本の未来である。孫氏も同じことを考えている」と語り、日本におけるAIの成長に期待を寄せた。