関係者の表情が示すモバイルWiMAXの明るい未来



記者会見に集った各社の代表

 先週、UQコミュニケーションズが正式サービスの開始を控えて記者会見を行なった。そこに集まった顔ぶれは、まさに日本のPC業界を支える面々としてお馴染みの方々だったが、さらにデモ会場に目を向けると何人かの知人が、喜々としてモバイルWiMAXモジュール内蔵PCの説明にあたっていた。

 このところ緊張の面持ちを見せることが多かったPC業界の人々だったが、モバイルWiMAXに関しては非常に明るい未来を想像しているようだ。今後のインフラ整備次第とはいえ、ほとんどのエリアでネットワーク接続する作業を意識せずに、ブロードバンドネットワークを通じたサービスを得られるようになる。今後どんなアプリケーションが生まれるのか楽しみだ。

 '90年代、マイクロプロセッサの発展と共にソフトウェアの応用範囲が広がっていった時のようなワクワクした子供のような気持ちに、エンジニア、商品企画担当者ともになっているのかもしれない。彼らのモチベーションは、開発/企画のアイディアを出して、それを実現することの楽しさにある。

 だからこそ、モバイルWiMAX周辺に集まる人々の表情は明るいのだろう。モバイルWiMAXと聞いて顔をしかめるのは、最大手の携帯電話事業者ぐらいのものだ。自分が敷こうとしているレールを邪魔するのでなければ、可能性が広がる分だけ新たな地平を見る歓びもあるというものだ。

 もっとも、7月の正式サービスを控えて、あまり知られていない事情も少なくない。モバイルWiMAX関連の情報をいくつかピックアップする。

●UQ WiMAXとの相互接続認証が取れている機器はオンラインサインナップが可能
IntelのWiMAXモジュール「WiMAX/WiFi Link 5150」

 テストサービスでは、UQ WiMAXの接続ユーティリティに、あらかじめ接続先としてUQ WiMAXの情報が書き込まれている。これは市販されているモジュール、あるいはMVNOがテストのために配布しているモジュールも同じだ。このため、どのサービスプロバイダから受け取ったものであっても、サービス内容に全く差がない。

 今後、正式にサービスが開始されると、接続先の情報はMVNOごとに異なるものになる。買ってきてソフトウェアをインストールし、通信モジュールを取り付けただけでは通信できない。ユーザー認証もサービスプロバイダごとに行なわれ、インターネットあるいは各社独自サービスへの接続経路なども異なるものになっていく。

 MVNOが自社サービス専用の通信モジュールを販売する場合は、あらかじめ接続情報がモジュール内に記録されて出荷される可能性はあるが、UQ WiMAXが販売するものに関しては、すべて接続情報のない“白ROM”状態で出荷される。通信モジュールがOMA-DM対応クライアントに切り替わるからだ。

 PC内蔵のモバイルWiMAXモジュールに関しては、たとえばインテルのEcho PeakはOMA-DMに対応しているので、オンラインサインナップが可能だ。このためほとんどの場合は白ROMになると考えられるが、例外はあるかもしれない。

 まず一部の大手量販店が自社が展開する(MVNOによる)モバイルWiMAXサービスとヒモ付けたネットブックを販売する場合など、製品とサービスが一体化した商品でも、あらかじめモバイルWiMAXのモジュールに接続先情報が書き込まれている状態(いわゆる黒ROM)にはならない見込みだが、自社提供サービスへと専用ユーティリティにより契約を促すか、あるいは自社サービスとの契約をくくりつけた商品構成を採るところもあるだろう。その場合は白ROMではあるが、黒ROMに近い状態と言えるかも知れない。

 しかし、通常はサービスプロバイダとのヒモ付けも、専用ユーティリティによる特定サービスプロバイダへの誘導も行なわず、オンラインで接続事業者をユーザー自身が選択して契約することになる。これは、UQコミュニケーションズのモバイルWiMAX事業では携帯電話のようなインセンティブモデルを採用していないため、必ずしもハードウェアとサービスを1対1でくくりつける必要がないからだ。

 表面上、自身でもモバイルWiMAXサービスを立ち上げてはいるが、事業戦略としてはあくまでもインフラ事業者に徹する水平分業の方針をUQコミュニケーションズは示している。実際にどのようにそのインフラを使うかは、サービス事業者とユーザーに任せようというスタンスだ。

 もっとも、今後モバイルWiMAX内蔵PCが増えていく中にあっては、Echo Peakのように無線LANとモバイルWiMAXが一体となったモジュールが使われるようになるだろう。そうなってくれば、そもそもモバイルWiMAXのモジュールにインセンティブモデルを導入する必要は全くないとも言える。

 7月1日の正式なサービスイン時には、接続先が書き込まれていない白ROMのモバイルWiMAXモジュールからアクセスすると、その場でサインナップを進めることが可能なように開発が進められているようだ。ただし、モジュールはUQ WiMAX側でOMA-DMによる接続検証が行なわれているものに限られる。たとえば前述のEcho Peakの場合、まだ正式には公開されていないが、UQコミュニケーションズ側で確認が取られているため、白ROM状態の通信モジュールが装着されているならば、問題なく利用できるということになる。

 しかし、秋葉原などで売られるバルク品と言われるような部品の場合はトラブルになる可能性がある。

 前述したようにオンラインで接続事業者を選択してサインナップするためには、白ROMでなければならない。ところが、海外で展開しているモバイルWiMAX事業者は、その多くがあらかじめ接続先情報を記録した形で製品を発注しているという。日本仕向けのEcho Peakならば白ROMモジュールである可能性が高いと考えられるが、海外から流れたものの場合、黒ROMの可能性も否定できない。現時点で、すでに秋葉原など電気街にはEcho Peakのバルク品が流れているが、これらを既存の無線LAN mini PCI Express cardと差し換えたとしても、うまくUQ WiMAXと接続できるかどうかは判らない。

 サービス初期の黎明期には、そうしたグレーマーケットのバルク品を用いるリスクは避けた方が無難だろう。

●6月中に倍増するモバイルWiMAX基地局
首都圏のカバーエリア

 もっとも、試験段階にあったモバイルWiMAXのエリアの狭さや、エリア内であっても使えない場所が多いことを残念に思っている試験サービスのユーザーもいるのではないだろうか。筆者は以前、初期のPHS並と表現したが、ちょっとしたビルの影や建物内の移動で使えたり、あるいは使えなかったりといった状況がある。

 しかし、都内の隙間だけでなく、住宅地など様々なエリアにおいて、7月1日を控えて大規模な増設が行なわれる。6月中に開通する基地局数は非常に多く、5月までに稼働していた基地局が、6月末にはおよそ2倍近くまで増えるようだ。実際の基地局数はここでは公開できないが、あまりに急激に増えるのに少々驚いた。

 これは、6月に突貫で工事をしているのではなく、継続的に行なってきたものだという。たとえば集合住宅の上に設置している場合などは、そのマンションの管理組合に最終的な承認をもらわないと光回線を開通できない。このように基地局は存在するが、光回線が開通していない基地局が非常に多くあるということだ。

 ただ、それにしてもエリア拡大のペースは早い。今年9月までには、都心部や横浜周辺の充実はもちろん、埼玉、千葉、神奈川も芦ノ湖周辺まで伸び、一部は静岡県までカバーする。この調子ならば名古屋、大阪を中心としたエリアへの展開も早いだろう。2010年末に人口カバー率70%という数字は、もう来年のことだ。当初はその数字にあまりリアリティを感じなかったが、このペースなら達成は難しくないかもしれない。

 そうなってくると、モバイルPC、あるいはネットブックやMIDといった製品に、別の可能性が出てくる。iPhoneなどスマートフォン上で、常時ネットワークに繋がっていることを活かした新しいアプリケーションが生まれているように、モバイルWiMAXは新たなアプリケーションへの拡がりを作るトリガーになるはずだ。

 そもそも、デバイスのサイズや能力によってカテゴライズすることも、さほど意味を成さなくなるかもしれない。PCはその能力の高さを訴求すればいい。MIDならコンパクトさを活かした使い方の提案が訴求点になるだろう。複数のデバイスを組み合わせて利用する手法にも変化が出てくるはずだ。

 それはエンジニアや企画を仕事とする人たちにとって、新たなる挑戦を行なえるチャンスを得たことと同じだ。モバイルWiMAXの周辺にいる業界関係者の顔は明るいのは、彼ら自身がそこに関わっていて楽しいからに他ならない。

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(2009年 6月 18日)

[Text by本田 雅一]