UQコミュニケーションズによる初期モニターサービスも開始後1ヶ月を過ぎた。5,000人限定の初期モニターサービスでの評価は、報道、個人ブログを問わず、一通り出そろったことで、話題も一段落した感がある。 前回。WiMAXを取り上げたコラムで筆者は現在のWiMAXを“試験サービス期間中のPHSに近い”カバー範囲と書いたが、その印象は現時点でも変わらない。街に出るごとに僅かずつではあるが、通信可能な場所が増えていて、サービス品位を向上させる途上という感覚も、やはりPHSの頃と同じだ。 徐々に基地局が増えてきているのだろうという感触を深めている反面、2.5GHz帯という高い周波数帯のため致し方ないがエリア内でも使えない場所は多い。将来的にUQコミュニケーションズは無線LANアクセスサービスも提供するとのことだが、相互補完という意味でもしばらくの間は併用が必要だと思う。 ●ISPがWiMAXアクセスのオプションを提供 UQコミュニケーションズの初期サービスに対する評価は、大きく2つに分かれるだろう。 確かに高速だ。これならモバイル通信時のアプリケーションの幅が広がる可能性がある、というポジティブな意見。ワイヤレスでありながら、常時、自宅やオフィスにいる感覚でコンピュータを使える可能性は、さまざまな想像を刺激してくれる。 一方、単純に3Gネットワーク通信カードやPHSデータ通信カードの代わりとして使い始めた人の中には「こんなにエリアが狭いんじゃ、将来も期待できない。建物の中は全滅だ」とネガティブな意見を持っている人も少なくないだろう。 確かに2.5GHz帯のWiMAXをビル街や地下街でどのように浸透させるかは課題ではある。現時点において、Webのブラウズやメール処理といったライトな使い方をするだけならば、UQコミュニケーションズを使うよりも3G通信サービスの中から自分の使い方に合ったものを選ぶ方が、トータルの体験レベルは上だろう。WiMAXは既存のWAN通信サービスの置き換えではなく、WiMAXを前提にした使い方やアプリケーションが生まれ始めてこそ活きてくるものではないだろうか。
UQコミュニケーションズの初期モニターサービスの開始と前後して、ニフティやビッグローブなど大手ISPがWiMAXの接続オプション提供を発表した。UQコミュニケーションズとは別に、独自にモニターを募集したが、筆者はニフティのモニターサービスを利用できた。UQコミュニケーションズのモニターは当たらず、プレス向けモニターを申し込むも連絡はなく、あとは購入して試すしかないと諦めていたところ、然るべきタイミングから試験できたのは助かった。 せっかくならばMVNOとしてUQコミュニケーションズのインフラを用いてサービスする側の意見を伺いたいと考え、ニフティの担当者にも取材してみた。将来的にはUQコミュニケーションズは通信インフラを提供する側に回り、顧客向けのサービスは各ISPが行なうビジネススタイルが主流になると思うからだ。 ●MVNO版WiMAXも、現時点では提供元と違いなし 今回取材したのは、ISP事業本部ISP企画部の丸山人詩氏とISP企画部ワイヤレスBB企画チームリーダーの澁谷晃生氏だが、記事はインタビュー形式ではなくコラム形式で進める。 ニフティによると、UQコミュニケーションズのMVNO向け販売は、帯域幅を購入する契約と1アカウントごとに仕入れる契約が選択できるとのことだ。本格的にMVNOサービスを展開するならば帯域幅で購入し、自分でアカウントを発行して接続させる方が効率がいいことは言うまでもない。が、現時点では試験サービス期間ということもあり、利用者ごとに接続料金をニフティが支払うスタイルでの契約を選択しているという。もちろん、有償サービス開始後、ユーザーが増えてくればこの方針は変わってくるだろう。 次にMVNO経由でUQコミュニケーションズを利用する際の個人認証の手法だが、基本的にはUQコミュニケーションズと同じ方法が採用されている。というよりも、ニフティと契約すると送られてくるキットは、利用契約の内容が若干異なることを除けば、UQコミュニケーションズのものと全く同じ。そもそも認証は必要なく、通信アダプタのMACアドレスで認証されるため、ユーザー側の使い勝手としてはUQコミュニケーションズを契約する場合でも、@niftyのサービスを利用する場合でも全く同じだ。接続ユーティリティも全く同じである。 おそらくニフティだけでなく、他のMVNOでも同じだと思うが、各ISPの会員が追加サービスとしてWiMAX接続サービスを申し込むと、ISP側でユーザーに送る機器の登録を申請して機材を送るという手順。ISPが代表して代理契約をUQコミュニケーションズと行なっているようなスタイルだと考えればいいかもしれない。 高速モバイル通信サービスの「@nifty Mobile BB」を見る限り、提供元が提供するサービスとの利用料金に大きな差違はない。ニフティとしては「インターネットへの接続は、すべてニフティに任せたいというお客様がいるため、新しい通信インフラには対応していく必要がある」という観点から、MVNOとしての事業を行なっているという。 これは正直、肩透かしの印象だった。家庭向けブロードバンドネットワークのプロバイダで最大手のニフティだけに、もっと魅力的なサービスを提供し、積極的に自社の魅力を高めるために活用するのだろうと想像していたからだ。 ●MVNO提供WiMAXの可能性 たとえばWiMAXで高速アクセスが可能になるなら、@niftyで家庭内のLANをインターネットに接続しているユーザーに対し、そのユーザー(あるいは家族)がWiMAXで接続した場合に家庭内LANへと自動的に繋いでしまい、自宅にいる時(あるいはオフィスにいる時)と外出先でのネットワーク環境が全く同一に見えるようにする、といったことも可能なはずだ。もちろん、WiMAXで繋いだあとに自分でVPNを張れば同じことだが、そこを完全にシームレスにしなければ、利用は広がらない。 また、@niftyへの接続ツールをWiMAXのユーティリティとも統合し、無線LANスポット、3G WAN、WiMAX、電話回線など、あらゆる通信経路に対してワンストップで接続の面倒を見るといったツールも欲しいところだ。ニフティに限らず、多くの大手ISPは複数のモバイルアクセス手段、ローミングアクセス手段を持っており、マニュアルなしには使いこなせない。これらを解決した上で、ニフティと契約する家族のネットワークアクセスの面倒を丸抱えするというスタイルならば、あえてISPを乗り換えてでも“インターネットは○○におまかせ”というユーザーも増えるだろう。 といった話を前述の担当者としていると、先方からも前向きな話が出てきた。「モバイルアクセスといっても、WiMAXと3Gで大きく変わるわけではないが、高速なWANアクセスが可能なことを活かした、WiMAXとの親和性が高いアプリケーションの開発は進めている。ISP側は位置情報をもらえないので、アプリケーションの幅は限定されるがチャレンジする」という。 また、現在はウィルコム、イーモバイル、UQコミュニケーションズのそれぞれを別々にオプション契約しなければ利用できないが、これらモバイルアクセスの手段と無線LANスポットローミングなどをまとめ、ひとつのオプションパッケージで提供するといったことも検討したいとの返答を得た。 もちろん、グループ企業である富士通と連携し、年内には発売されると見られる富士通製のWiMAX内蔵モバイルパソコンへの接続サービスを提供することも決まっている。 ●WiMAXを固定回線ライクに使うユーザーも さらに、ニフティではWiMAXをモバイル通信の手段としてだけでなく、家庭向けのラストワインマイル回線の代わりとして利用されることも念頭に入れ、将来のサービスを構築しようとしているという。 固定電話を契約せず、携帯電話だけで暮らしている人が増えているように、引っ越し時の面倒なども考えて、WiMAXだけでインターネットのすべてをまかなう人が、今後は増えてくるのではないかと見ているわけだ。 UQコミュニケーションズ自身も、先日、WiMAX Wi-Fiゲートウェイのモニター募集を開始している。このゲートウェイは無線LANのPCをWiMAX経由でインターネットに接続させるルーターで、ADSLサービスで言うところのモデム内蔵無線ルータのようなものだ。 WiMAXはPINGなどを打ってみるとレイテンシがやや大きめなため、細切れのパケットを頻繁にやり取りするような通信には向いていないが、一般的なWebアクセスやメール、常識的なサイズのダウンロードぐらいならば、さほどストレスを感じずに家庭内でも利用できる。 特に大半の時間を留守にしている一人暮らしのサラリーマンや学生ならば、固定のブロードバンド回線を引くよりも利便性は高いかもしれない。 試験サービスは、ユーザーがどのように利用するのか、実態調査を行なうという側面が強い。前回、WiMAXを取り上げた時にも触れたが、複数の異なるWiMAX通信アダプタからシングルアカウントで接続可能にするなどの改善も必要になる。利用環境の変化(今後はWiMAX内蔵PCが急速に増加すると考えられる)に合わせた、サービス内容の調整は黎明期には不可欠だからだ。 速度が速くなったからといって、何かが急に変わるわけではない。それは正しい認識だがアイディアの幅は広がる。WiMAXのインフラが全国政令指定都市に行き渡る頃には、今は気付かない何らかの変化が市場に起こり始めていることだろう。 □関連記事 (2009年4月6日) [Text by 本田雅一]
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