買い物山脈

1日で一番長く使う家具が椅子になったので、20万円のアーロンチェアを買った

製品名
ハーマンミラー「アーロン リマスタード」
購入金額
21万4,500円
使用期間
約1カ月
「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです
ハーマンミラーの「アーロン リマスタード」

 筆者は2019年12月に今の家に引っ越してきた。引っ越しに併せ、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯ジャー、食器棚、ベッド、机、椅子など多くの物を買い換えた。筆者は、日常的に使う家具や家電などについては、なるべく良いものを買うようにしている。その方が、たいていの場合、長持ちし、何よりも良いものを使っているというある種の満足感が日々の生活に潤いを与えてくれるからだ。

 しかし、この中に、あまり事前に吟味せず、「とりあえずこの辺でいいかな?」と適当に購入したものがある。それが椅子だ。当時、1日の内、自宅でパソコンに向かう時間は2~3時間程度だったので、見た目がしょぼくなく、機能的には高さ調節とリクライニングくらいできればいいと考え、1万5千円くらいのものを購入した。

 しかし、引っ越してほんの数カ月で、新型コロナウイルスの影響による完全在宅勤務が突然始まった。在宅勤務自体はそれまでも週1日行なっていたので、何の支障もなかったが、1つ問題が起きた。何時間が作業していると、お尻や膝、背中などが痛くなるのだ。

それまで使っていた椅子

 原因が椅子にあることは明々白々だが、実は机の高さにも問題があった。筆者の机は、天板の高さが約77cmある。これは、今回新しい椅子を購入したハーマンミラーの説明員さんに教えてもらったのだが、日本の机の平均的な高さは72cm程だそうなので、筆者の机はそれより5cmも高いということになる。

 元々椅子が体に合っていなかったのに加え、机に併せてかなり高めで座っていたこともあり、夕方くらいになると、体のいろんなところが悲鳴を上げるようになった。お尻の部分については、ゲルクッションを買って座面に敷いてみたものの、焼け石に水であった。

 と言うことで、1年くらいは自分をごまかしつつこの環境で仕事をしていたのだが、さすがに体にも良くないし、集中力低下の要因にもなるということで、良いものを買うことにした。選んだのは、ハーマンミラーの「アーロン リマスタード」で購入価格は21万4,500円だった。

専門スタッフによる製品案内が決め手に

 これまでの人生であまり椅子に気を遣ってこなかったので、どこの椅子がいいのかについての知識が非常に少ない。ただ、過去にMicrosoftとコラボ製品を出していたことで、かろうじてハーマンミラーが椅子の高級ブランドであることは知っていた。

 とりあえず、「高級椅子」などでググってみると、やはりハーマンミラーの製品が多数ヒットする。レビューをみても、いずれも評価が高い。

 ただ、PCと違って、椅子はスペックや他者の評判だけでは自分に合うものかどうかは判断できない。理想を言うなら1週間程度は試してから購入したい。しかし、そんなサービスを提供しているところもなかなかないので、少なくとも店頭などで実物を試したい。

 そんな事を思いながら、ハーマンミラーのサイトを覗いてみたところ、都内に2カ所ショップがあり、予約してから行くと試座だけでなく、専門スタッフがいろいろと相談に乗ってくれるサービスを提供していることを知った。これはありがたい、と早速予約をし、8月の下旬にお店へと足を運んだ。

丸の内と青山にショップがあり、予約すると製品案内や試座がスムーズにできる

 店舗に着いて名前を伝えると、すぐに担当の方が応対してくれた。とりあえず、在宅勤務で椅子に座る時間が長く、今の椅子がどうも体に合っていないようなので、買い換えに来たことを伝えると、即座に「アーロンリマスタード」を奨めてくれた。

 アーロンリマスタードは、同社のオフィス/書斎向けで定評のある「アーロンチェア」の進化版だ。サイズや色、キャスターの種類などで少し変わってくるが、価格は20万円程度する。

製品の特徴

 だが、背もたれと座面は薄いメッシュでできており、正直なところ第一印象は価格に見合う物なのか少し疑っていた。しかし、「まずは座ってみてください」と言われるがままに座って、その直感はいい意味で裏切られた。

 一見、何の工夫もなく貼られたように見える座面は、その見た目からは想像できないくらいクッション性が高いのだ。説明員の方によると、座面のメッシュは、前から後にかけて4つのゾーンに分かれており、ゾーンごとに張力が異なるのだという。それによって、うまい具合に臀部から大腿部を支えてくれるのだ。

ぱっと見は変哲のないメッシュだが、奥から手前にかけて4つのゾーンに分かれ、それぞれ張力が異なる

 ただ、最大限その恩恵に預かるには座り方にも注意がいる。注意と言うほどではないが、なるべく深く腰掛けないとその威力は発揮されないそうだ。そしてもう1つ大事なのが、体に合ったサイズを選ぶことだ。

 アーロンリマスタードは(元祖アーロンチェアも)、S/M/Lの3つのサイズがある。選び方は、深く腰掛けた(つまり最適な位置に座った)ときに、椅子の一番手前の部分と、膝の裏側部分に1~2cm程度の隙間が空くくらいがベストなサイズなのだという。

 実は筆者が言われるがままに案内されたのはSサイズだったのだが、説明員の方は、筆者の体格を目測し、Sサイズが一番ぴったり合うと判断してこれを奨めてくれていたのだ。試しにとMサイズに座ると、座面が少し大きく、膝裏と座面が当たってしまった。さすがプロである。ちなみに、膝裏が座面に当たると、膝裏の血流が阻害され、疲れたり、健康を損なう原因となるらしい。また、膝裏に椅子が当たるのを嫌がって、無意識の内に腰が前にずれていき、腰に負担のかかる座り方になりやすくなるそうだ。

 もう1つ説明員の方に教えてもらった椅子の座り方の基本が、座ったときに、膝が直角になり、足の裏がしっかり床についていること。そして、肘掛けに肘を置いた時、肩が自然な高さになり、肘の角度も90度になることだ。

適切な座り方。膝も肘も直角になり、足裏は床にぴったりついている

 日本で売られている机の多くは、高さが72cm前後の物が多いという。ハーマンミラー店舗の机もほぼその高さになっており、椅子や肘掛けの高さをちょうどいい具合に調節すると、体に負担の少ない姿勢で机に向かうことができた。

 だが、筆者宅の机は高さが77cmある。この場合、座面の高さがそのままだと、手の位置が上がるので、肘の内側の角度が90度より狭く窮屈になる。これも負担の原因となる。そのため、座面の高さを上げることになる。すると当然足裏が床にぴったりつかなくなるので、足置きを使う必要が出てくる。と言うか、それまで使っていた椅子でも、基準を机の高さに併せていたので、座面を高くしてあり、足置きを使っていた。

 机の高さが高いということは引っかかっていたが、これら以外にもアーロンリマスタードの各種機能などについてプロフェッショナルな説明を受けている内に、完全に買う気満々になり、そのまま2つ返事でご注文と相成った。

その場で注文

 ちなみに、アーロンリマスタードは、椅子のサイズ以外にも、色、アームパッドの素材、フレームの素材、キャスター(カーペット用など)などを指定できる。筆者はキャスターは堅い床とカーペット両用タイプを、アームパッドは掃除がしやすいと言うことでビニールタイプを選んだ。

 ハーマンミラーでは、在庫のあるものだと納期は最短で1週間だ。完成品として届けられ、配達時に不要な椅子の引き取りも行なってくれる。それまで使っていた椅子は、置いておいても邪魔になるので、引き取ってもらうことにした。

やはり高さが合わなかったので、逆転の発想(?)で机を低くする

 実際に1カ月ほど使ってみての率直な感想だが、いい買い物をしたと思っている。お尻の痛みや、背中の疲れは、完全になくなった。そして、良いものを買ったという満足感も十二分にある。

正面
左側面
背面
右側面

 ただ、使い始めはここまで快適ではなかった。若干だが、お尻の痛みや背中の疲れは継続していたのだ。これは兎にも角にも机が高すぎることに起因していた。

 筆者のPCデスクの足元には、電源タップやACアダプタなどを収納しておくボックスが置いてある。机に合わせて椅子の座面を上げる時は、このボックスの上に足を置くと、そこそこちょうど良い高さになる。しかし、足の裏の全体を載せられるわけではなく、しっかりと安定しなかったのが理由だろう、一定時間以上座ってると、以前の椅子同様、座面に触れる部分や膝が痛み始めた。

 どんな椅子であっても、ずっと同じ姿勢ではどこかしらに負担がかかってくる。足元に床のような広いスペースがある場合は、足の位置を自由に変えられるので、無意識に微妙に座り方を変えることで負担をうまく減らしているのではないかと思う。

 しかし、椅子が高いとそれができない。

 どうするか?

机の高さに椅子を合わせると、こんな風に足がつかなくなる

 筆者は机の高さを下げることにした。

 と言っても、机の脚を切って削ったりしたのではない。キーボードとマウスを置く棚を追加したのだ。

 購入したのは、サンワダイレクトの「キーボードスライダー」。価格は6,000円ほどだった。これは、キーボードとマウスを載せる棚で、クランプで机に固定する。棚の部分は前後にスライドするので、キーボード/マウスを使わないときは、机の下に収納できる。

 これを使うと、棚の高さがちょうど机の高さより10cmほど低い位置に来る。業務のほぼ全ての作業をマウスとキーボードでやるので、実質的に机の高さを10cm下げた形となる。

 また、キーボードとマウスが机から棚へと移動したので、机の上のスペースがより広くなり、そこにほかの物を置けるというメリットもある。

 我ながらうまいこと考えたなと思う。

サンワダイレクト「キーボードスライダー」を机に取り付けたところ
キーボードとマウスを載せたところ
自分視点してんだとこんな感じ。机の上のスペースがより広くなった
使わない時は収納できる
膝の角度に合わせて椅子の高さを調節すると、このように机が高すぎる
キーボードスライダーを使うことで、椅子の高さはそのままに、キーボード、マウスの位置(高さ)を下げることができた

 と言うことで、キーボードスライダーの導入により、理想的な姿勢になったときに、足裏が床にぴったりつくようになった。これ以降は、前述の通り、痛みや疲れを感じることがほぼなくなった。

様々な体型の人に合わせるための、細やかな調節機能

 じゃぁ、キーボードスライダーがあれば、前の椅子でも快適だったのでは? そういう疑問もあるにはある。もう廃棄したので比べようはないのだが、アーロンリマスタードには負担を減らすための様々な工夫が盛りこまれている。

 まずは、既に紹介した座面のメッシュ。4つのゾーンの張力を変えることで、絶妙なクッション性を実現している。これは、座面だけでなく、背もたれのメッシュも同様となっている。背もたれのカーブも人間工学にもとづいて設計されているのだが、腰の部分には「ポスチャーフィット」というサポート具が取りつけられている。

 このポスチャーフィットはダイヤルで出っ張り具合を調節でき、これによって適度に腰が曲がらず前に出るようになる。それによって、自然と胸を張る形になるのだ。

背もたれも座面同様、張力が4つのゾーンで異なる設計
深く腰掛けると、ポスチャーフィットが腰を前に押し出してくれる
押し出し具合はノブで調節可能

 先に、肘掛けに腕を載せたときに肘の内側の角度が90度くらいになるのがちょうど良いと書いたが、それを実現するため、肘掛けは高さ調節ができる。加えて、肘掛けの上部だけを腕の方向にフィットするよう左右に回転したり、前後にずらしたりもできる。

 ちなみに若干の余談となるが、アーロンリマスタードはそれまで使っていた椅子と比べ、肘掛けから内側の寸法が短い。そのため、膝にアーケードコントローラを置いて操作しようとするとかなり窮屈になる。しかし、肘掛けは一番低くすると腿の高さくらいまで下げられるので、こうすればアーケードコントローラも広々と使える。

肘掛けを一番低くしたところ
一番高くしたところ
肘掛けを一番前に出したところ
肘掛けを一番内側に回転させたところ
肘掛けを一番外側に回転させたところ
肘掛けを上げているとアケコンの操作は窮屈だが
下げておけば広々使える

 リクライニング機能も独特な設計となっている。座面下の左側にあるノブで操作できるのだが、3つのモードを切り替えられる。1つは固定モード。この場合、背もたれはほぼ固定される。ノブを1つ回転させると少しだけ倒れるようになり、もう1つ回転させると、もっと倒せるようになる。一番倒せるモードで45度くらいだろうか?

 そして、リクライニングさせる時の固さも座面下右側のノブで調節できる。一番堅くすると、かなり足を踏ん張って倒さないと倒れないほど。いろいろ試して、筆者は基本的に背もたれは固定させ、ちょっと伸びをしたいなぁという時などは、リクライニングできるようにモードを変えているが、頻繁に角度を変えたい人なら、固めの設定でリクライニングオンにするというのもありだろう。

 もう1つ筆者が感心したのが、前傾チルトモードが用意されていること。座面下右側のノブを使って操作すると、座面と背もたれ、つまり椅子の上側の部分が、軽く前傾するのだ。例えば、机の上にノートを置いて文字を書き込んだり、紙や液晶タブレットにイラストを描いたりといった際は、パソコン作業と違って目線が手元に落ち、背中がやや丸まることになる。

 しかし、前傾チルトを使えば、そんなときも背中がしっかり背もたれにくっつき、胸を張った状態を維持できるのだ。アーロンシリーズはマンガ家やイラストレーターにも愛用者が多いと聞くが、この前傾モードもその理由の1つだろう。

通常状態
前傾チルトさせたところ

 また、まだ買って1カ月ほどしか経っていないというのもあるかとは思うが、全体的な剛性感が確保されており、椅子の上で上体を動かした時に、きしんだりすることがない。

絶対価格こそ高いものの、確実に元は取れる

 ということで、筆者のアーロンリマスタードに対する評価は二重丸だ。価格が高いのは認める。しかし、椅子が体に合わず、集中力が維持できないといった問題が解決したことで、日常業務の生産性は格段に増したと言える。12年保証のある椅子なので、10年使ったと考えると、1年あたりの投資は2万円ほど。これは、この年間90%を超える在宅勤務状況において、確実に元が取れると考えている。

 IT関連の仕事をする知人の状況を聞くと、未だにダイニングチェアなどで間に合わせている人も何人かいる。そういった椅子は長時間座ることを想定していないだろうし、やはりそういった椅子を使っている人は漏れなく腰痛などの悩みを抱えている。そういう人全てに20万円の椅子を買えとは言わないが、本記事が、仕事における椅子の重要性を考えるきっかけになってくれれば幸いだ。