後藤弘茂のWeekly海外ニュース

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と戦う半導体技術(1)

~なぜ伝染しやすいのか、そして終息への道筋は

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はRNAウイルス

 猛威を振るう新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)。SARS-CoV-2がもたらす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の確定感染者数は世界で250万人を越えて、まだまだ流行に終わりが見えない。新規感染症のパンデミックとしては、呼吸器系ウイルスでは1918年の「スペイン風邪」と呼ばれるインフルエンザの最初の流行以来の規模になりつつある。近年の感染症では、2002年の「SARS(重症急性呼吸器症候群)」、2009年の「A(H1N1)pdm09型インフルエンザウイルス(豚インフルエンザ)」、2012年の「中東呼吸器症候群(MERS)」に続く流行となっている。

 重症化しやすいがために逆に押さえ込みが容易だったSARSやMERS、H1N1型(ウイルス表面タンパクの種類)だったために免疫者が多かった新型インフルエンザに対して、SARS-CoV-2は発症しない感染者が多いために感染流行を止めることが難しく、過去に類似のウイルスの流行もなかったために免疫記憶もなく、やっかいな病原体となっている。

 しかし、半導体やコンピュータ技術の進歩によって、人類が新しい感染症に対して戦う力は大幅に増している。とくに、ゲノムシーケンサの発展は、SARS-CoV-2の正体を暴くのに非常に役立った。また、今後の創薬ではディープラーニングの応用が期待されている。

 そもそも、SARS-CoV-2は何で、現在、人はどうやって戦っているのか、まず、そこから簡単に説明したい。

 ウイルスは、単独では自己複製ができず、生物の細胞内の複製メカニズムを利用して自己複製を行なう。自己複製できないという意味では、厳密には生物とは言えないが、われわれ生物の成り立ちと進化に深く関わっていると言われている。

 現在、流行しているSARS-CoV-2は、コロナウイルスの一種だ。コロナウイルスの仲間には風邪の病原体になるものもあるが、2002年に猛威を振るった「SARS」もコロナウイルスだ。今回の新型コロナウイルスは、SARSに極めて似ており、そのため「SARS-CoV-2」と命名されている(SARSの正式名は「SARS-CoV」)。

 遺伝情報であるゲノムのコーディング方式で見ると、SARS-CoV-2は、RNAプラス1本鎖のウイルス。われわれ真核生物のようなゲノムの媒体がDNAではなく、RNAで約30,000塩基からなっている(ウイルスとしてはかなり大きい)。SARS-CoV-2ではゲノムが、真核生物のメッセンジャRNA(mRNA)と同じ“プラス鎖RNA”にコーディングされていることが特徴だ。また、ウイルスにはエンベロープを持たず20面体カプシド構造だけのものもあるが、コロナウイルス系は薄い膜であるエンベロープで囲まれている。エンベロープに突起があり、ちょうど太陽のコロナのように見えることから、コロナウイルスと名づけられている。

 SARS-CoV-2は、球形のエンベロープの表面に突き出したスパイク状のたんぱく質により、人間などの細胞の表面のレセプタ「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」と結合する(SARSと同様)。ちなみに、ACE2は血圧制御に関わる系の一酵素であるため、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では高血圧患者が重症化する。SARS-CoV-2ウイルスは、細胞表面の別な酵素「TMPRSS2」の助けを得て、細胞に取りこまれ、ウイルスのRNAが細胞内に放出される。

 SARS-CoV-2のRNAはプラス鎖なので、そのまま細胞内のリボソームによってたんぱく質に翻訳される。この時に、ウイルス独自の「RNA依存性RNAポリメラーゼ(RNA-dependent RNA polymerase : RdRp)」酵素も生成する。RdRpが、ウイルスのRNAを鋳型としてRNAへの転写を行なう。そこからウイルスの材料となるたんぱく質が生成される。最後に生成されたウイルスたんぱく質が、複製されたRNAを中核に取りこんでウイルスの複製が完成し、細胞外へと放出される。

 複雑に見えるが、ポイントは、ウイルス表面のたんぱく質の鍵を、鍵穴(レセプタ)に挿して細胞に侵入し、細胞内部では独自のポリメラーゼで複製を行なうことだ。ウイルスの複製を阻害できるチャンスが高いのは、こうした過程だと考えられている。とくに、RdRpはウイルスの自己複製の要であるため、変異が少ない(変異すると正常に複製できなくなるケースが多いため)ので、阻害ターゲットに向いていると言われる。SARS-CoV-2向けの治療薬の候補『アビガン』は、RdRpの阻害剤の一種だ。スパイクをターゲットとする薬も多数研究されている。

感染症の流行を予見できる「SIR」数理モデル

 SARS-CoV-2などの病原体による感染症には、その流行を予測できる疫学の数理モデルがある。現在の各国のロックダウンや日本の緊急事態宣言などは、数理モデルによる予測をベースに行なわれている。ベースとなるモデルは「SIR」で、感染する可能性がある感染可能者(S : Susceptible)、感染者(I : Infected)、感染後に回復(または死亡)して除外された者(R : Recovered/Removed)に区分して評価する。これにさらに、潜伏期間者(E : Exposed)を加えた「SEIR」モデルもある。

 SARS-CoV-2も基本は人間の間の直接伝播となるので、人から人への感染率と、集団内での人々の動態で感染の移行をモデル化することになる。基本的には、病原体が伝播していくにつれて感染者(Infected)が増えて感染していない(Susceptible)が減っていく。しかし、しばらくすると回復(または死亡)した除外者(Removed)が増えていく。除外者が免疫を有するとすると、免疫保持者が増加するにつれて、感染者の増加ペースが落ちていく。これは、感染者が接触する人のなかで免疫保持者の数が増えていくからだ。やがて、免疫保持者が一定数に達すると、感染者の増加が低下をはじめて、集団のなかでの流行は終わりへと向かう。

SIRモデルで感染症の流行をグラフ化した例。SIRモデルは1927年に提案されたが、疫病流行への数理モデルの導入は、流体力学で有名なダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli)が端緒
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SIRモデルで一定の人口のなかでの感染者と感染可能者と免疫を獲得した除外者の比率の推移を示したもの
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 ここで重要なポイントは、まず、前半での感染者の増加は指数関数的に進むこと。1人の感染者がもし2人に感染させるなら、2人が4人に、4人が8人に、8人が16人に感染させる計算になる。半導体やITの世界ではおなじみのムーアの法則カーブで感染者は増えていき、あっという間に感染者であふれかえることになる。指数関数カーブの怖さは、最初の頃はカーブが緩く感じられることで、時間がたてば立つほど増大する数が膨れあがる。半導体やIT技術の発展のカーブとまったく同じ。1週間で10人が20人になるのと、1週間で10万人が20万人になるのは、同じ指数関数カーブだ。

 ムーアの法則は2年で2倍のトランジスタ数の増加(論文の時点では異なるが)。疫学の数理モデルで、ムーアの法則にあたるのは「基本再生産数(Basic Reproduction Number)」だ。R0と表記され、通常はアールノートと発音される。基本再生産数(R0)は、1人の感染者が生み出す2次感染者数の平均値の基礎数で、感染症の感染力を決定する。「R0 2.5」の場合、1人の感染者は平均的に2.5人に感染させる。つまり、一定サイクルごとに、2.5倍に感染者が増えていき、感染が流行する。「R0 1」の場合は、1人の感染者が1人に感染させる。つまり、新規の感染者数は横ばいとなる。「R0 0.5」では、1人の感染者が0.5人にしか感染させないので、感染者数は減少に向かい、感染の流行はない。

R0と感染力
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 R0は、感染症の流行におけるムーアの法則的な基本則だと捕らえてもらっても、それほど間違いではない。ムーアの法則が半導体の技術自体から求められる法則ではなく観測則であるのと同様に、基本再生産数(R0)も感染症のモデル化で推測される値であり、病原体の生物学的な感染力自体を評価したものではない。注意が必要なのは、ムーアの法則は特定時間サイクルで2倍と時間ファクタが含まれているが、基本再生産数(R0)は感染の伝播力だけで時間のファクタはない。

感染症にとってのムーアの法則が「R0」

 免疫を保持する人口が増えれば、感染症の流行は止まる。集団のなかでどれだけの比率に免疫保持者が達すれば流行が止まりはじめるかは、R0の値に左右される。たとえば、「R0 1.7」ならば41.2%が免疫を獲得すれば流行は止まりはじめる計算となる。しかし、「R0 2.5」ならば60%が免疫を獲得しなければ止まりはじめない。日本人口1億2,650万人として計算すると、「R0 1.7」ならば約5,200万人、「R0 2.5」ならば約7,590万人が、感染症の流行が止まるために必要な集団免疫者数となる。

SIRモデルで感染者と免疫獲得者が一定数まで上がると、R0での感染力を相殺する集団免疫率に達して感染者数の減少がはじまる
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R0と免疫率の例。たとえば、R0=2の場合は、1人の感染者が平均で2人に感染させる。そのため、集団で50%が免疫を持てば、平均で1人にしか感染させることができなくなり、流行が止まりはじめる
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 感染症が流行している最中の、ある特定の時刻や条件における2次感染者数の平均値は、「実効再生産数(Effective Reproduction Number)」と呼ばれ、略す場合はRまたはREまたはRtと略される。通常はRが使われるが、グラフにする場合は、除外者のRとまぎらわしいので、今回はグラフのなかはREとしておく。以降、文中のRと、グラフ中のREは同じものだ。

 実効再生産数は、リアルタイムのRナンバーで、R0より小さな値となる。何もしなくても、感染者が増えると、免疫保持者が増えていき、リアルタイムのRが1を下回る「R <1」に達する。すると、感染者数は減少に向かう。また、社会的距離(Social Distancing)政策などで規制された場合も、実効R値は減少する。

社会的距離政策などで人と人の接触が規制された場合も実効再生産数(Effective Reproduction Number)は下がる
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SIRモデルのグラフに実効再生産数(Effective Reproduction Number)を加えたもの
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推定値にぶれがあるR0

 グラフで見ると、感染症の流行がスタートする時点では、RはR0値で、感染者(I)は指数関数的に増えていく。流行が進むにしたがってRが1に近づき、感染者(I)の山の頂点でR=1となる。この時点で、集団のなかでの免疫者数(この場合は感染者(I)と除外者(R)の合計)がR0から導き出される数字となる。その後は、R<1となってカーブは下向きとなる。

SIRモデルのグラフに実効再生算数をプロットして関係を示したもの
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 しかし、集団免疫に達して、R<1となっても、そこでパタっと感染が止まるわけではない。下降カーブの間も、残った非感染者(S)に対して、減少する感染者(I)がR 1以下であっても感染させ続けるため、非感染者(S)はさらに減っていく。最後に終息するときには、集団免疫から導き出される非感染者率よりも少ない人数しか非感染者(S)として残らない。たとえば、イギリスの試算では、R0 2.4の場合にイギリス人口の81%が感染すると予想している(Report 9: Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand(N. M. Ferguson, et al., Imperial College COVID-19 Response Team, 2019))。

 このように、R0は、感染症を規定するもっとも根本的なファクタだが、新しい感染症の流行が進行している最中では、その値を正しく推測することが難しい。国や社会によってR0値は異なり、各国のレポートに見られるSARS-CoV-2のR0にも1.4から多いものでは3以上まで幅がある。今後の研究で変化する可能性も高い。ヨーロッパでは2.2から2.6あたりの数字が予測に使われる例が多い。日本の場合はR0 1.7という数字が3月2日の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のレポートで示された(4月1日のレポートでは実効再生産数が1.7)。確実なことは、季節性インフルエンザ(R0 1.2~1.5)よりもR0が高いことだ。そして、R0が比較的低い値でも、免疫がないため、感染者数は膨大になる。

 たとえば、R0が1.7と低く見積もっても、集団免疫獲得に必要となる感染者と除去者の合計は約5,200万人。そのうち20%がCOVID-19を発症するとしても1,040万人の発症者。古い数字だが中国武漢での入院が必要な比率の19%を引っ張って来ると、入院が必要な患者数は198万人となる。ICUが必要となるのは5%程度として78万人となる。こうした試算は、ベースの数字に曖昧な部分があるので、正確性は低い(そもそも感染者中の発症者の比率がわかっていない)が、短期間に流行すると通常の医療リソースで対応が難しい数になることだけは確かだ。

実効再生産数を抑え込む緩和戦略

 感染症に対しては、初期には「封じ込め(Suppression)」戦略を取るが、それに失敗すると、もはや封じ込めは期待できず、別な戦略を取る必要が出てくる。今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の問題は、免疫率がR0値と釣り合う集団免疫となるまで何もしなければ、SIRモデルで予想される膨大な患者が短期間(3~4カ月)に発生することにある。各国の医療キャパシティを大きく越えることは確実で、その結果、ICU(Intensive Care Unit)での治療で助かるケースが、ICUキャパシティを越えるために助けられなくなり、死亡者の数が跳ね上がってしまう。

 そのために、各国は罰則を伴う外出禁止令などで社会的な人間同士の接触を抑え、患者数を抑制する方法を取った。日本は規制は緩いが、基本は同じ方向を向いている。現在の感染者数の多い国の多くが採用している戦略は、大枠では、感染流行のカーブを緩やかにして、山を“ならし”て医療リソースのキャパシティをはみ出す量をできるだけ抑える「緩和(Mitigation)戦略」にカテゴライズされる。

 ヨーロッパの多くの国や米国のニューヨーク州などでは、キャパシティをすでに大きく越えているため、緊急性の強い措置となっている。緩和戦略については、イギリスの有名な理工系大学Imperial College Londonが、3月16日に発表したレポート「Report 9: Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand(N. M. Ferguson, et al., Imperial College COVID-19 Response Team, 2019)」が非常にわかりやすい。このレポートは、非常に有名でいたるところで引用されている。1カ月以上前のレポートだが、現在の状況とずれがあまりない。

 Imperial College Londonの試算では、R0 2.4で何もしなかった場合は、3月中旬の時点からピークからピークアウトへと3カ月で移行し、その間に51万人の死者がイギリスで発生するとしていた。また、ピークのICUが必要な患者数はICUのキャパシティの30倍になると試算した。その上で、都市のロックダウンやソーシャルディスタンシングなどの強硬措置を取れば、ピークの山を大幅に抑えて被害を抑えることができるとしている。ヨーロッパの緩和(Mitigation)戦略は、こうした観測に沿ったものに見える。

人口10万人での患者数の推移を示したImperial College Londonのチャート。最下の赤い横線はICUキャパシティで、患者数の曲線が赤線を越えた部分は医療崩壊の危険がある。一番山が高い紫は何もしなかった場合の患者数、その下の緑は学校などを閉鎖した場合、茶色は感染者の隔離、褐色が隔離と自宅隔離、もっとも下の山の青が隔離と自宅隔離と70歳以上に対する社会的距離 「Report 9: Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand(N. M. Ferguson, et al., Imperial College COVID-19 Response Team, 2019)」

 緩和戦略の導入によって、ロックダウンやソーシャルディスタンシングを行なうと、実効再生産数(Effective Reproduction Number : R)は下がる。R=1となれば、新たな感染者数がフラットになり、R<1で減少に転じる。ヨーロッパで現在発生しているのはこれで、ロックダウンの結果、ちょうどR=1からR<1へと移行しつつあると考えられる。

 しかし、緩和戦略は、言ってみれば引き延ばし策だ。実効再生産数を規制によって下げても、免疫者の比率は必要な集団免疫の比率には達しないと見られている。そのため、社会への規制を緩めると、実効再生産数はR>1となり、再び第2波の流行がはじまってしまう。Imperial College Londonの試算では、社会規制を解くと再び秋に大規模な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が来ると予測している。

Imperial College LondonのReport 9より。ロックダウンに相当する規制を行なった場合の曲線が緑とオレンジで、ロックダウン期間が薄青で塗られた部分。ロックダウン後に再び感染の山がくる

社会規制を解くと実効再生産値が戻り第2波の流行へ

 ロックダウンなどの強硬な社会規制を行なっても、感染が広がって未発症感染者が社会に隠れている状態では、SARS-CoV-2の流行を“終息”させることは難しい。SIRモデルでは、感染流行を本当に終息させるには、まず、R0で予測される集団免疫に達する必要がある。

 SARS-CoV-2の場合、必要な集団免疫を達成するのがいつになるのかを予想するためには、現時点での本当に感染率を知る必要がある。そのためには、SARS-CoV-2に感染しても新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状を発症しない「不顕性感染」がどの程度の比率なのかをある程度正確に推測できるようになる必要がある。不顕性感染が多い場合は、集団免疫達成の時期が早まるからだ。そして、不顕性の感染者をチェックするための切り札が、抗体検査という流れになる。現在は、まさにそれがスタートしたところで、予想よりはるかに感染者が多い=不顕性感染者が多いというニュースが流れはじめている。まだ判断を下すには早すぎる時期だが、要チェックの項目だ。

 いずれにせよ、ある国の人口中の免疫者比率が、SARS-CoV-2の集団免疫に達して、何もしなくてもR<1となり感染者が減っていく段階に入るまでには、かなり感染が進行する必要がある。たとえば、R0 2.5ならば人口の60%が免疫を獲得する必要があり、感染を抑えながら進めるなら、それなりに長い期間が必要となる。

 しかし、社会はいつまでもロックダウンなどの強い社会規制を敷いたままではいられない。どこかの時点で、再オープンする必要がある。Imperial College Londonのレポートが興味深いのは、ロックダウン後の状況も提示していることだ。ロックダウンで、実効再生産数(Effective Reproduction Number : R)を下げた後、規制を解除すると、Rが上がり、しばらくすると再び入院患者数が危機的な数となる。そこで、再度ある程度の社会的な規制を行ない、再びRを下げ、患者数を下げる。これを何回か行ない、波を分散させるという。社会を完全に復帰させるまでに、かなりの期間がかかることになるが、最悪のケースは回避できる。

Imperial College LondonのReport 9より。ICU患者数が一定のトリガーに達した段階で再度規制を行なうことで患者数を抑え続けるという戦略が提示された

社会規制を解くためのハンマーとダンス

 こうした状況で、ここ数週間よく目にするワードに「Hammer(ハンマー : 英語発音ならハマー)」と「Dance(ダンス)」がある。ハンマーは社会的な規制や感染のトラッキング、隔離などで徹底的に感染を抑えることを言う。この戦略では、ハンマーによって、いったんRを0.3などに下げて新規感染者数を劇的に減少させる。その後は、「Rのダンス」の期間に入り、少数の新規感染者を制御して、Rが1以上にならないようにし続ける。ハンマーで叩くことで、ダンス期間は、社会的な規制をそれほど厳しくしなくても感染流行を抑えられるようにしようという提言だ。おもしろいのは、このハンマーとダンスは、疫学の専門家からの提言ではなく、ブログでの発信「Coronavirus : The Hammer and the Dance」(Tomas Pueyo, medium.com)だったこと。さまざまな意見がさまざまな領域から出る流れにある。

 日本では、SARS-CoV-2対策で、緊急事態宣言の出口として“収束”というワードが使われている。社会や経済への影響を最小化しながら感染流行を抑制することを収束としていると見られる。これは、ダンスに相当すると見られる。日本語の場合、収束と終息が同じ発音であるため、混同されることが多いが、終息はまだ難しい。さらには、根絶となると不可能に近い(SARS-CoV-2も人獣共通感染症であるため)。

 SARS-CoV-2の感染流行を終息に向かわせるためには、一定の免疫率である集団免疫が必要となる。その時期を早めるためには、免疫率を高めるためのワクチンが必須となる。ワクチンが早期に供給されれば、それだけ早くSARS-CoV-2の流行を終息に向かわせることができるようになる。また、有効な薬効の治癒薬が開発されるか、既存薬を転用する「ドラッグリポジショニング(Drug Repositioning)」に成功すれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威を減らし、医療崩壊の危機を減らすことができる。

 こうした流れで、半導体技術とその上に成り立つIT技術は、一体どのように役立っているのだろう。続く記事では、SARS-CoV-2と戦う半導体技術の概要に触れたい。