Hothotレビュー
驚異的な性能と静音性を両立!最新のRyzen 7 7840HSを搭載するミニPC「GTR7 7840HS」
2023年7月5日 06:22
AMDは2023年1月に米国ラスベガスで開催された「CES 2023」で、ノートPC向けの最新APU「Ryzen 7040」シリーズを発表した。CPUコアは「Zen 4」世代、GPUコアも「RDNA3」世代と、同社の最新世代を組み合わせた期待の新製品であり、6月に入ってこの最新APUを搭載したノートPCやミニPCが多数発表されている。
今回紹介するBeelinkの「GTR7 7840HS」もその1つで、Ryzen 7040シリーズの高性能モデル「Ryzen 7 7840HS」を搭載することが最大の特徴となる。磁石を用いたACアダプタのコネクタや指紋認証機能など、デスクトップPCとして利用する上で便利なギミックにも注目したい。
Zen 4+RDNA3の最新APUを搭載した高性能ミニPC
BeelinkはミニPCにはかなり積極的なメーカーで、これまでもさまざまなモデルをラインナップしている。その中でも「GTR」シリーズでは、ハイエンドに近いAMDのAPUを搭載したモデルを展開しており、Ryzen 7 7840HSを搭載するGTR7 7840HSもまた、そうした系譜に連なる1台である。
搭載APUのRyzen 7 7840HSは、8コア16スレッドに対応するZen 4世代のCPUコアと、RDNA3世代に進化した「AMD Radeon 780M」をGPUコアとして搭載する。型番の最後に「HS」と付いているとおり、高性能なモバイルゲーミングノートPC向けとして設定されたAPUだ。AMDの命名則に関しては、「AMD、Zen 4になったモバイルRyzen 7000。RDNA 3 GPUとNPUも内蔵」という記事が詳しい
ちなみに以前、Ryzen 7000シリーズに属する「Ryzen 7 7735HS」を搭載したBeelinkの「SER6 Pro 7735HS」をレビューしている。このミニPCでは、同じく型番の最後にHSが付く「Ryzen 7 7735HS」というAPUを搭載している。Ryzen 7 7840HSと同じく、モバルゲーミングノートPC向けのAPUである。
しかしRyzen 7 7735HSのCPUコアは「Zen 3+」、GPUコアは「RDNA2」世代と、構成的には1世代古いRyzen 6000シリーズのリネーム版と言ってよい。そうしたモデルと比べるとGTR7 7840HSが搭載するRyzen 7 7840HSは、正真正銘最新世代のAPUだ。性能面では、大きな期待がかかる。
メーカー | Beelink |
---|---|
製品名 | GTR7 7840HS |
OS | Windows 11 Pro |
CPU | Ryzen 7 7840HS(8コア/16スレッド) |
搭載メモリ (空きスロット、最大) | DDR5 SODIMM PC5-44800 16GB×2 (なし、64GB) |
ストレージ(インターフェイス) | 1TB(PCI Express 4.0) |
拡張ベイ | PCI Express 4.0対応M.2スロット×1 |
通信機能 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax、Bluetooth v5.2 |
主なインターフェイス | 2.5Gigabit Ethernet×2、DisplayPort×1、HDMI×1、USB4×2、USB 3.1×3、USB 3.1 Type-C、USB 2.0×2 |
本体サイズ | 約168×120×49mm |
重量(実測値) | 898g |
直販価格 | 789ドル |
本体は横幅が広い長方形で、女性向けの弁当箱のようなサイズ感である。ミニPCでは幅と奥行きがほぼ等しいスタイルのモデルが主流だが、横幅が広い分ちょっと大きめには感じる。とはいえサイズの違いは微々たるものだし、後述するベイパーチャンバーを利用した高性能なCPUクーラーを搭載していることもあり、そうした横幅が必要になっているのかもしれない。
筐体は金属製で、天板、両側面、背面に通気性のよいメッシュ構造を採用する。両側面にはブランド名の「GTR」が印刷されているほか、メッシュ構造の天板にはGTRの文字が刻まれているなど、シンプルなデザインが多いミニPCとしては主張が強い。
CPUの冷却には、薄型で高性能な放熱機構ベイパーチャンバーに、比較的大きめな冷却ファンを組み合わせている。さらに通気性の高い外装を組み合わせていることもあり、冷却性能は高く動作音は小さい。室温が24.5℃の状態で、アイドル時の温度はおおむね30~32℃。大型の冷却装置を搭載できないミニPCとしてはかなり低い上、動作音はほぼ聞こえない状態だった。
Webブラウズや音楽再生、動画配信サイトの利用、書類作成と言った軽作業時でもAPUの温度は40~43℃であり、ファンの動作音はほとんど変わらず非常に静かに利用できる。ベンチマークテスト時など高い負荷がかかったときの状況は後述するが、総じて動作音自体は小さく、うるさいと感じる場面はない。
また、いくつかおもしろいギミックを装備しているので紹介しよう。電源はACアダプタを利用するが、ケーブルは一般的な差し込み式ではなく、底面のコネクタにACアダプタからの接点を磁石で密着させるマグネット式を採用する。個人的には、バッテリがないのに外れやすいマグネット式は怖いなとも思った。
しかし実際の製品を見ると、マグネットの吸着力が非常に強くてそう簡単には外れない。そもそも「底面の接点にACアダプタのコネクタをくっつける」という構造なので、通常の横起き状態なら本体の重みで接点は密着し続ける。また背面方向に引っ張っても抜けないように、接点の先端部分が膨らんだ形状になっているなど、なかなか考えられたギミックだ。
天板には、Windows Hello対応でWindows 11のサインインやWebブラウザでの各種ログイン認証で利用できる指紋認証機能が組み込まれている。こうしたミニPCはユーザーに近い場所に置いて使うことが多いだけに、本体に指紋認証機能を装備するのは合理的だ。
前面のインターフェイスは、USB 3.対応のType-AコネクタとType-Cコネクタが1基ずつの構成だ。ヘッドセット用の端子も装備する。背面には映像出力端子としてDisplayPortとHDMI、2基のUSB4を装備する。USB 3.1ポートとUSB 2.0ポート、そして2.5Gigabit Ethernetポートも2基ずつ装備する。
かなり充実した構成で、小型ではあってもデスクトップPCとして利用する上で不満を感じることはないだろう。4基のディスプレイ出力端子はいずれも4K解像度でリフレッシュレート60Hzでの表示に対応しており、複数の4K対応ディスプレイでマルチディスプレイ環境を作るのも容易だ。
個人的にうれしかったのが背面のヘッドセット端子。ミニPCではヘッドセット端子を前面に搭載していることが多いのだが、スピーカーやアンプにつなぐ場合には前面からケーブルを引き回さなければならない。しかし本機では前面と背面に1基ずつ搭載しているため、ほかのケーブルと同じく背面から引き回せる。
基本性能の高さに驚く、重量級のPCゲームも設定しだいではイケる
ここからはいくつか基本的なベンチマークテストを行なって性能を検証してみよう。比較対象は前述のSER6 Pro 7735HSと、MINISFORUMのミニPC「Venus NPB7」(以降NPB7)だ。SER6 Pro 7735HSが搭載するRyzen 7 7735HSと比べると、前述の通りAPUの世代が進んでいるため、どの程度性能が向上したのかが分かる。
NPB7ではIntelの高性能ゲーミングノートPC向けCPU「Core i7-13700H」を搭載する。GTR7 7840HSが搭載するRyzen 7 7840HSとほぼ同じセグメント向けのCPUであり、位置付けが似たライバル同士の対決と言ってよいだろう。それぞれのモデルが搭載するCPUや内蔵GPU、メモリ容量などは下記の表で簡単にまとめた。
製品名 | APU/CPU | 内蔵GPU |
---|---|---|
Beelink GTR7 7840HS | Ryzen 7 7840HS(8コア16スレッド) | AMD Radeon 780M(12コア) |
Beelink SER6 Pro 7735HS | Ryzen 7 7735HS(8コア8スレッド) | AMD Radeon 680M(12コア) |
MINISFORUM Venus NBP7 | Core i7-13700H(14コア20スレッド) | Intel Iris Xe Graphics(96ユニット) |
まずは、PCの基本的な使用感をScoreで比較できる「PCMark 10 Extended」の結果を比較してみよう。Scoreが高ければ高いほど性能が高い。驚くべきはGTR7 7840HSの結果で、総合Scoreが7,000を超えている。ビデオカードを搭載しないデスクトップPCではまず見たことのないScoreで、正直驚いた。
実はSER6 Pro 7735HSで6,000を超えたときにも同じことを書いたのだが、1世代違うだけでここまで大きく進化していることにはさらに驚く。各項目の比較でも、GTR7 7840HSのScoreの高さが際立つ。
3D描画性能をScoreで比較できる「3DMark」も、Scoreが高いほうが性能が高い。ここでも全般的にGTR7 7840HSが一歩リードする結果となった。NPB7は、GTR7 7840HSやSER6 Pro 7735HSと比べるとちょっともの足りない結果にはなったのだが、ちょっと待ってほしい。「この3モデルで比較すれば」という話であってNPB7のScoreも、内蔵GPUを利用するPCのなかではかなり高いほうであることは追記しておきたい。
TMPGEnc Video Mastering Works 7は、動画ファイルのエンコードソフトだ。今回は、H.264/AVC形式とH.265/HEVC形式へのエンコード処理が終わるまでの時間を計測した。CPUコア部分の処理性能に影響されるテストで、処理時間が短ければ短いほど性能が高い。
今回テストしたモデルの中でもっともコア数/スレッド数が多いのはNPB7だが、もっとも短い時間で処理を終えたのはやはりGTR7 7840HS。CPUコア部分のコア数やスレッド数はNPB7が搭載するCore i7-13700Hがもっとも多いが、Performanceコア(高性能コア、Pコア)は6基、Efficientコア(高効率コア、Eコア)が8基という構成を取っている。
対してGTR7 7840HSが搭載するRyzen 7 7840HSでは、Intelの分類で言うところのPコアのみで8基という構成であり、さらにZen 4世代でCPUコアの性能が向上したことが、こうした結果につながったと思われる。
さらに、いくつか実際のゲームを利用したベンチマークテストも実行してみた。「ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマーク」は、実際のプレイ感をScoreで計測できるテストで、フルHD解像度(1,920×1,080ドット)で[最高品質]のScoreは5,823で平均FPSは約40FPS。[標準品質(デスクトップPC)]のScoreは8,469で平均FPSは約60FPSだった。どちらでも描画は安定しており、プレイに支障はなさそうだった。
「レインボーシックス シージ」は描画負荷の軽いPCゲームであり、フルHD解像度でグラフィックスのプリセットをもっとも高い[最高]にしても、平均FPSは115だった。最低FPSも86と60を大きく超えるため、スムーズな描画でゲームを楽しめる。
「サイバーパンク2077」はかなり描画負荷の高いPCゲームであり、ビデオカードなしのシステムではかなりつらい。実際ここまで重量級のゲームだと、フルHD解像度でグラフィックスのプリセットを一番低い[低]にしても平均FPSは53.79だった。
最低FPSも30.77まで落ち込むため、微妙に描画が引っかかる場面はある。とはいえそうした状況になることは少ないし、基本的にはシングルプレイのゲームなので、この程度なら気にせずプレイできる、という考え方もあるだろう。
総じて重量級のゲームでは設定を調整する必要はあるが、それなりにPCゲームを楽しむことは不可能ではない。正直、ビデオカードを搭載せず、APUのみで利用するPCとしては、破格の性能と言ってよいだろう。
冷却性能はかなり高め、M.2対応SSDを増設可能
このように性能の高いGTR7 7840HSなので、APUの温度や動作音の状況が気になるところだろう。テストが終了するまで約10分間CPUコア部分に高い負荷をかける「Cinebench R23」を実行したところ、最高温度は約80℃だった。ほかのミニPCだと100℃に達してもおかしくないテストだけに、冷却性能はかなり高いと見てよさそうだ。
もう1つ、PCゲームを長時間プレイしたときの状況を想定し、3DMarkの「StressTest」(Time Spy)も行なった。これはCPUコアとGPUコアの両方に高い負荷をかけるTime Spyのグラフィックステストを20回ループで行なうテストで、終了するまでに約21分かかる。
このテスト中の最高温度は、CPUコア部分が約65℃、GPUコア部分は66℃といった状況でやはり冷却性能は高い。本機が搭載するペイパーチャンバー方式のCPUクーラーと、メッシュ構造を多用した通気性のよい外装のおかげだろう。長時間負荷がかかる状況でも安心して利用できそうだ。
動作音については、前述のとおりアイドル時や軽作業時はほぼ無音の状態になる。ただ全コア/全スレッドを利用するCinebench R23中やTMPGEnc Video Mastering Works 7による動画エンコードテスト中は、「サー」という風切り音が聞こえる。
もちろん負荷が高いテストが終わればAPUの温度は下がり、動作音ももとの状態に戻る。ゲームのベンチマークテスト中は、たまに温度が上昇したタイミングで風切り音が鳴るが、基本的にはかなり静かだった。
アイドル時の消費電力は7.6Wと、10Wを大きく割り込んだ。Webブラウズや音楽再生、動画配信サービスなどの軽作業時は15~20Wといったところで、前述のCinebench R23や3DMarkのStressTest中の最高消費電力は100W前後。総じて「省エネPC」と言ってよいレベルだと思う。
最後に拡張性をチェックしていこう。ほかのミニPCと同じように、GTR7 7840HSでも底面を外して内部の基板にアクセスできる。4本のネジと底面を外すと、ファンとヒートシンクが付いたプラスチックの保護板がある。GTR7 7840HSのような最新のミニPCではPCI Express 4.0対応の高速なSSDを利用できるが、それだけに発熱も大きくなる。こうしたヒートシンクやファンを付けて、SSDの冷却を強化しているモデルは多い。
プラスチックの保護板は、3本のネジで固定されており、これを外すと基板上のメモリスロットやM.2スロットにアクセスできる。固定用のネジは細くて小さく、うっかり落とすと基板と筐体の隙間に入り込んでしまうこともある。また保護板にはファン用の電源コネクタと、ACアダプタ用のケーブルがつながっている。強く引っ張って断線させないよう、慎重に作業したい。
基板上には2基のメモリスロットと、M.2スロットを装備している。1TBのSSDがすでにM.2スロットに挿さっており、もう1基のM.2スロットを利用して市販の2280サイズのM.2対応SSDが利用可能だ。メモリスロットにはすでに2枚のメモリモジュールが挿さっており、増設したい場合はこれを外して挿し替えることになる。
ヒートシンクはM.2スロットに挿したSSDに当たる位置にあり、そこには熱伝導シートが貼られている。ただ、自作PC用マザーボードのようにSSD全体をカバーする長さではないため、発熱が大きいコントローラに熱伝導シートが接触できない可能性はある。SSDを交換してSSDの温度が上がり過ぎる場合は、熱伝導シートの位置を調整してみるのもいいだろう。
ミニPCの中でも一歩抜きん出た存在感の1台
以前検証したSER6 Pro 7735HSは、世代的には1世代古いRyzen 7 7735HSを搭載しながらも、素晴らしい性能を示した1台だった。それだけにAMDの最新APUを搭載したミニPCには期待が大きかったのだが、今回レビューしたGTR7 7840HSは、そうした期待をさらに上回った。
日常的な使用感だけでなく、CPU性能、PCゲームもそれなりに遊べるレベルのグラフィックス描画性能など、PCに求められる要素を高いレベルで兼ね備える。さらに動作音は非常に静かで省エネと、正直やり過ぎ感すらある出来栄えだ。
強力なグラフィックス性能を要求する最新PCゲームをバリバリプレイしたい、というユーザーには向かないが、逆に言えばそれ以外の用途には大抵対応できる。「ノートPC向けのCPU/APUを搭載しているから性能が低い」、「小型だから使いにくい」というのは思い込みに過ぎない。GTR7 7840HSは、間違いなく優れた「デスクトップPC」の1台と言ってよい。