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Ryzen 7 7735HS搭載小型PC「Beelink SER6 Pro」。PCゲームもイケる高い性能と驚くべき静音性を両立

手のひらサイズなので、持ち運びも容易だ

 ここ1、2年、ノートPC用のCPUやAPUを搭載する小型デスクトップPCが各社から登場しており、いずれも注目を集めている。今回紹介するBeelinkの「SER6 Pro 7735HS」もその1つで、手のひらサイズの筐体ながら、AMDのノートPC向け最新APU「Ryzen 7 7735HS」を搭載する。今回はこの小型PCの機能性や性能を細かく検証していこう。Amazonでの実売価格は8万9,800円だ(記事執筆時点、1万円オフクーポン適用後)。

Ryzen 7を搭載しながらも筐体は手のひらサイズ

 Beelinkは小型PCを数多くラインナップするPCメーカーの一つで、「SER6 Pro」シリーズでは基本的にAMDの高性能APUを採用している。今回紹介するSER6 Pro 7735HSでも、Ryzenシリーズの中では上位のRyzen 7ブランドに属するRyzen 7 7735HSを採用する。

【表】主な仕様(一部仕様は推定)
メーカーBeelink
製品名SER6 Pro 7735HS
OSWindows 11 Pro
CPU(最大動作クロック)Ryzen 7 7735HS(8コア16スレッド、4.75GHz)
搭載メモリ(空きスロット、最大)DDR5 SODIMM PC5-38400 16GB×2
(なし、64GB)
ストレージ(インターフェイス)500GB(PCI Express 4.0)
拡張ベイ2.5インチシャドウ×1
通信機能IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax、Bluetooth v5.2
主なインターフェイス2.5Gigabit Ethernet×1、HDMI×2(アップデートによりHDMI+DisplayPort構成に)、USB4×1(USB PD、DisplayPort Alt Mode対応)、USB 3.1×3、USB 2.0×1
本体サイズ126×113×42mm
重量649g
Amazon価格9万9,800円(1万円オフクーポン付きで8万9,800円)

 ただしCPUコアや内蔵GPUは、AMDの最新世代というわけではない。CPUコアは最新世代の「Zen 4」よりも1つ古い「Zen 3」の改良版、内蔵GPUも最新の「RDNA3」世代より1つ古い「RDNA2」世代であり、実質的には1つ世代が古いノートPC向けAPU「Ryzen 6000」シリーズと同じだ。

CPUのクロックやメモリの状況のほか、世代などをチェックできる「CPU-Z」では[Code Name]欄に「Rembrandt」と表示される。このコードネームはRyzen 6000シリーズと同じ

 とはいえ8コア16スレッドに対応するノートPC向けのCPU/APUは、基本的に上位モデルとしての位置付けになる。またZen 3コアを搭載するデスクトップPC向けの「Ryzen 5000」シリーズは、自作PC市場でAMDの躍進を支えた立役者だ。Ryzen 7 7735HSが内蔵する「Zen 3+」は、このZen 3の省電力化機能を強化したものである。

 また内蔵GPUの性能も、現在市場で購入できるノートPCが搭載しているCPUやAPUと比べるとかなり高い。そして型番の最後にある「HS」は、プレミアムな高性能モバイルノートPC向けであることを示す記号である。こうしたことを考えると、性能面ではかなり期待できそうだ。

 なおAMDは、23年1月に行なわれたCESの前日基調講演で、ノートPC向けAPUの命名則の変更や整理を行なっており、こうしたAPUの特性を型番から判断しやすくしている。「AMD、Zen 4になったモバイルRyzen 7000。RDNA 3 GPUとNPUも内蔵」も参照してほしい。

 編集部から届いたパッケージはコンパクトな長方形で、スマートフォンのパッケージを一回り大きくした程度だった。小型PCではこうしたサイズ感のパッケージが多く、小型PCが非常に好きな筆者はいつもわくわくさせられる。

 本体の幅は12.6cm、奥行きは11.3cm、高さは4.2cmで、ちょうど男性の手のひらにのる程度のサイズだ。今まで検証してきた小型PCの中でも、比較的サイズは小さめのモデルと言ってよいだろう。ちょっと変わっているのが天板のデザインで、手触りのよいファブリック素材が使われている。

APUにRyzen 7 7735HSを搭載する「SER6 Pro 7735HS」
280mlのペットボトルと比べても、かなり小さいことが分かる
天板は手触りのよいファブリック素材になっている

 これまでレビューしてきた高性能なCPU/APUを採用する小型PCでは、外気を取り込んでしっかり冷却するため、風通しのよいメッシュ構造の天板を採用することが多い。しかしSER6 Pro 7735HSでは、側面や背面に装備する細長い通気口だけを利用して吸排気を行なうようだ。発熱に関しては後述するが、だからと言ってファンがうるさかったり、筐体全体が熱くなるようなことはなかった。

両側面と背面にメッシュ構造の金属プレートがあり、それを通気口として利用しているようだ

 インターフェイスは前面と背面に振り分けられている。前面には、USB 3.1ポートが2基とUSB4が1基、電源ボタンとヘッドフォン端子を装備する。USB4はDisplayPort Alt ModeとUSB PDに対応しており、100WのUSB PD対応給電機能を利用できる液晶ディスプレイと組み合わせれば、給電とディスプレイ接続を1本のケーブルで行なえる。

前面にはUSB 3.1ポートを2基と、多機能なUSB4ポートを装備

 背面にはディスプレイ出力端子としてHDMIを2基(アップデートによりHDMI+DisplayPort構成に)、2.5Gigabit Ethernet、USB 10Gbpsポート、USB 2.0、ACアダプタ用の電源端子を搭載している。総じてUSB 3.1の数が少ないので、必要に応じてUSBハブなどを接続して補う必要はありそうだ。

【3月30日追記】製品版ではアップデートされ、HDMIとDisplayPort構成になりました。

背面にはHDMIを2基(アップデートによりHDMI+DisplayPort構成に)と、USB 2.0ポートとUSB 10Gbpsポートを1基ずつ装備。有線LANポートもあるが、Wi-Fi 6にも対応

 なお小型PCでは、SER6 Pro 7735HSと同様にサウンド入出力端子を前面に装備することが多い。ヘッドセットを接続して利用するには前面にあったほうが便利ではあるが、本格的にデスクトップPCとして利用する場合、サウンド入出力端子は背面にあるほうがケーブルが取り回しやすい。個人的に改善を期待したい部分である。

ACアダプタは比較的大きめだ。出力は19V×6.32Aで120Wまでの対応となる

上位CPUらしい性能の高さ、内蔵GPUの性能向上が際立つ

 一通り外観をチェックしたところで、やはり気になるのは実際の性能だろう。筆者としても期待が大きい部分である。

 今回は、以前レビューで検証した小型PCであるMINISFORUMの「EliteMini HX90」と、Intelの「NUC 12 Pro キット NUC12WSHi5」(以降NUC12WSHi5)の結果を比較対象として用意した。NUC12WSHi5はベアボーンPCなので、8GBのDDR4-3200メモリ×2(合計16GB)と1TBのPCI Express 3.0対応SSDを組み込んでいる。

 EliteMini HX90が搭載する「Ryzen 9 5900HX」は、SER6 Pro 7735HSが搭載するRyzen 7 7735HSと同じく8コア16スレッド対応で、高性能ゲーミングノートPCで利用されることが多かったAPUだ。CPUコアはZen 3だが内蔵GPUの世代が1つ古く、内蔵GPUの進化がどう影響するかが分かる。検証機のメモリは16GBで、内蔵SSDは256GBだった。

 NUC12WSHi5が搭載する「Core i5-1240P」は、「AlderLake」世代のノートPC向けCPUで、12コア16スレッドに対応する。比較的性能を重視したモバイルノートPCで搭載例の多いCPUであり、そうしたノートPCと比較したときの目安となる。ただそれぞれベンチマークテストを行なった時期が異なるため、厳密な性能比較ではなく、あくまで参考として考えてほしい。

Ryzen 9 5900HXを搭載するMINISFORUMの「EliteMini HX90」
Core i5-1240Pを搭載するIntelの「NUC 12 Pro キット NUC12WSHi5」

 PCを利用した一般的な作業を行なう上での使用感を、Scoreで分かりやすく示す「PCMark 10」では、Scoreが大きいほうが性能が高い。テスト全体の総合値を示す「PCMark 10 Extended」のScoreがもっとも高かったのは、SER6 Pro 7735HS。正直、ビデオカードなしで6,000を超えるScoreを叩き出すPCはほとんど見たことがないこともあって、ちょっと驚いた。

PCMark 10

 個別の結果を見ると、Windowsの基本的な操作感を反映しやすいEssentialsは、3モデルともそれほど大きな違いはなかった。一方で、クリエイティブ業務に関するテストが多く、CPUコア数やスレッド数に影響されやすいProductivity、Digital Contents CreationではAMDのAPUを搭載するSER6 Pro 7735HSとEliteMini HX90が強かった。

 Core i5-1240Pは性能重視の「高性能コア」4基と、電力効率に優れる「高効率コア」8基を同じCPU内にパッケージしている。AMD製APUは、この分類で言うと高性能コアのみで構成されていることもあり、この地力の違いがScoreに反映されているのだろう。

 SER6 Pro 7735HSが大きくほかを引き離したのはGamingのScoreで、内蔵GPUの性能の高さを示している。こうした傾向がさらにはっきりと示されたのが、3Dグラフィックスの描画性能をScoreで計測できる「3DMark」の結果だ。同じくScoreが高いほうが性能が高い。

3DMarkの結果

 DirectX 12ベースのテストである「Time Spy」や、同じくDirectX 11ベースのテストである「Fire Strike」では、EliteMini HX90やNUC12WSHi5と比べるとおおむね倍増というScoreであり、飛躍的に強化されていることが分かる。

 さらにCPUコア部分の性能を中心に比較するため、TMPGEnc Video Mastering Works 7によるエンコード時間も比較してみた。これは約3分間の動画をH.264/AVC形式とH.265/HEVC形式に変換する処理時間を計測するものであり、CPUコアの処理性能が高いほど、短い時間で処理が終わる。

TMPGEnc Video Mastering Works 7

 このテストでは、H.264/AVC形式でのエンコードではEliteMini HX90とSER6 Pro 7735HSがほぼ同じ結果でトップ、H.265/HEVCではEliteMini HX90がトップでSER6 Pro 7735HSが続く形になった。

 両者が搭載するAPUでは、CPU部分の世代やコア数、スレッド数の対応が同じであり、最大の動作クロックもほぼ同じであることを考えると、妥当な結果と言える。NUC12WSHi5が後塵を拝した理由は、先ほど解説したCPUコア部分の地力の差が影響したと考えてよいだろう。

設定しだいでは最新ゲームもプレイ可能、静音性も素晴らしい

 ということでとくに3Dグラフィックス性能の高さが際立つ本機であり、実際のPCゲームでの使用感も気になるところだろう。実際にいくつかのPCゲームをインストールしてベンチマークテストを行なってみた。ゲーム中のフレームレート(FPS)を計測するテストでは、数値が大きければ大きいほど描画性能が高く、スムーズに描画できていることを示す。

 まずはスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマーク」を実行した。「標準品質(デスクトップPC)」設定のScoreは8632で「快適」判定。平均FPSは約61、最低FPSは34だが、カクつく場面はほぼなくスムーズなプレイが可能だった。

 同じく「高品質(デスクトップPC)」のScoreは5682で「普通」判定。ただこちらでは平均FPSは約40、最低FPSは19にまで落ち込む場面があるため、テスト中の描画はあまりスムーズとはいえない。

「標準品質(デスクトップPC)」の結果
「高品質(デスクトップPC)」の結果

 次にテストしたのはUBIソフトの「レインボーシックス シージ」だ。現在よくプレイされている一人称シューティングゲームの中では描画負荷が低めなタイトルの1つだ。解像度はフルHD、描画クオリティは一番高い[最高]に設定したところ、平均FPSは110、最低FPSも87と非常に快適。このタイトルは、ビデオカードを挿さない環境でも比較的快適にプレイできることが多いので、順当な結果ではある。

 さらに同じくUBIソフトの「ファークライ6」をプレイしてみた。こちらは比較的負荷が高めのタイトルで、快適にプレイするには原則的にビデオカードを利用する必要がある。実際、描画クオリティを一番高い[最高]に設定すると、平均FPSは30で最低FPSは27と、テスト中の描画は頻繁にカクつき、快適にプレイできるとは言い難い状況だ。

 描画クオリティを2つ下げて[中]に設定しても平均FPSは43とプレイ感覚は大きく変わらなかったが、この設定でさらに「FidelityFX Super Resolution」(FSR)を[バランス]に設定すると、平均FSPは65、最低FSPも57になり、カクつく場面は劇的に減少する。

レインボーシックス シージでは、グラフィックスの設定を一番高く設定しても、問題なくプレイできる
ファークライ6ではFSRを有効にすることで、FPSは大幅に改善する

 こんな小さなPCで最新ゲームをきちんとプレイできることも驚きなのだが、それに加えて驚異的なのはその動作音だ。何も作業していないアイドル時はもちろん、Webブラウザでの情報収集や書類作成といった軽作業時は、電源が入っていないのかと思うくらい静かだった。

 こうした負荷の低い状況で静かなPCはめずらしくないが、SER6 Pro 7735HSではPCゲームをプレイしていてもこうした静かさを保つ。CINEBENCH R23や、動画エンコードテストでTMPGEnc Video Mastering Works 7を実行しているときなど、CPUの性能をフルに引き出す必要がある状況では「サー」っと軽い風邪切り音が発生するが、テストが終われば5秒前後でもとの状態に戻る。

 CPU温度はアイドル時や軽作業時は42~50℃で、今回テスト用にプレイしたPCゲームの実行中は60℃から70℃といったところだった。大きなCPUクーラーやケースファンを搭載できる一般的なデスクトップPCに比べればCPU温度は高めだが、不安になるような温度ではない。

 またアイドル時や軽作業時の消費電力は7~12W、PCゲーム時の最高消費電力は60~80Wと、デスクトップPCとしてはかなり省エネなことにも注目したい。

M.2対応SSDやメモリも換装できる

 最後に拡張性をチェックしてみた。底面にある4カ所のネジを外すと、金属製のプレートが外れて内部にアクセスできる。2.5インチSSDを1基挿せるシャドーベイを用意しており、自作PCパーツショップで販売されているSSDを利用してファイルの保存容量を拡張できる。

底面の4カ所のネジを外す
このように2.5インチシャドーベイが見える。小さなファンもあるが、位置的にこれはストレージ用ファンのようだ

 また2.5インチSSDを挿すコネクタの固定具と、基板を覆うプラスチックのパネルを外すと、メモリスロットやM.2スロットにもアクセスできる。プラスチックのパネルを外す際、コネクタと基板をつなぐリボンケーブルを破損しないように慎重に作業しよう。

さらに基板を覆うプラスチックのパネルを外すと、メモリスロットやM.2スロットにアクセスできる

 M.2スロットは、PCI Express 4.0対応のM.2対応SSDが利用できる。メモリスロットはDDR5のSO-DIMMメモリに対応する。発熱が比較的大きい傾向のあるPCI Express 4.0対応SSD向けに、熱伝導シートと金属製のヒートシンク、そして小さいが冷却ファンも装備しており、安心して利用できそうだ。

 今まで見てきたようにコンパクトな筐体と高い性能、そして静音性を高いレベルと兼ね備える本機は、今までレビューしてきたさまざまな小型PCの中でもトップレベルの製品だ。小さいので置き場所に困らず、主張の少ないデザインなのでリビングに置いても違和感はない。ホテルなど、ある程度出先でもスペースを確保できる場所なら、モバイルディスプレイとこうした小型PCで作業するのも便利だろう。

 インターフェイスの数など、もちろん弱点もないわけではない。しかしここまで完成度が高ければ、筆者が今使っているミドルタワーの自作PCからのリプレースも十分想定できる。こうした小型PCをレビューするたびに思うことだが、デスクトップPCの流れは確実に変わってきている。