イベントレポート

AMD、Zen 4になったモバイルRyzen 7000。RDNA 3 GPUとNPUも内蔵

モバイルRyzen 7000シリーズの7040シリーズ。Phoenixのコードネームを採用したZen 4アーキテクチャ初のSoC

 AMDは、1月5日(米国時間)に開幕するCESの前日基調講演に、同社CEOのリサ・スー氏が登壇し、今年投入する新しいCPU/GPUに関する発表を行なった。この中でAMDは、ノートPC向けの「Ryzen 7000シリーズ・モバイル・プロセッサ」(モバイルRyzen 7000)を発表した。

 モバイルRyzen 7000は、7045、7040、7035、7030、7020という5つのシリーズが用意されている。

 このうち、7045はデスクトップPC向けのRyzen 7000シリーズをノートPC向けにした製品、7040は新設計のモノリシックのダイ(開発コードネーム:Phoenix)となっている。PhoenixはZen 4 CPU、RDNA 3 GPU、NPUを内蔵した強力なSoCとなっている。7035と7030は従来製品のリフレッシュ製品となる。

新しい数字のシリーズに別けられたモバイルRyzen 7000、上位の2つがZen 4ベースに

チップレットの仕組みはDT版と共通しているモバイルRyzen 7000の7045シリーズ

 今回AMDが発表したモバイルRyzen 7000は、7045、7040、7035、7030、7020という5つのシリーズが用意されており、以下のような立ち位置になっている。

  • 7045:デスクトップリプレースメント(HXがモデルナンバーの末尾に付く、以下同)
  • 7040:モバイルゲーミングノート(HS/U)
  • 7035:プレミアムモバイルノート(HS/U)
  • 7030:モバイルノート(U)
  • 7020:バリュー向け

 HX(TDP 55W以上)はIntelのCore HX対抗、HS(TDP 35~45W)はCore H対抗、U(TDP 15~28W)はCore P/U対抗と考えると理解しやすいだろう。

モバイルRyzen 7000シリーズのシリーズ構成
7045、7040、7035、7030、7020という5つのシリーズ
Uシリーズ、HSシリーズ、HXシリーズ
【表1】Ryzen 7000シリーズ・モバイル・プロセッサーの4つのシリーズ(AMDの資料などより筆者作成)
シリーズ名モデルナンバーアルファベット開発コードネームCPU世代チップ構造CPUコア/スレッド(最大構成)最大キャッシュ(L2+L3)製造プロセスノードGPU(Cu数)メモリUSB4AI EngineTDP
Ryzen 7045HXDragon RangeZen 4チップレット16コア/32スレッド80MB5nm(IODは6nm)RDNA 2(2)DDR5外付で対応55W+
Ryzen 7040HS/UPhoenixZen 4モノリシック8コア/16スレッド20MB4nmRDNA 3(12)DDR5/LPDDR5内蔵35-45W(HS)、15~28W(U)
Ryzen 7035HS/URembrandt-RZen 3+モノリシック8コア/16スレッド20MB6nmRDNA 2(12)DDR5/LPDDR5内蔵35W(HS)、15~28W(U)
Ryzen 7030UBarcelo-RZen 3モノリシック8コア/16スレッド20MB7nmVega(8)DDR4/LPDDR415W
Ryzen 7020未公表MendocinoZen 2モノリシック4コア/8スレッド6MB6nmVega(2)LPDDR5未公表

 今回ノートPC向けのCPUとして新アーキテクチャで投入されるのは、Ryzen 7045シリーズのDragon Range(開発コードネーム)と、Ryzen 7040シリーズのPhoenix(開発コードネーム)になる。

7045シリーズ

 7045シリーズに採用されているDragon Rangeは、AMDがデスクトップ版Ryzen 7000としてすでに市場に投入している「Raphael」(開発コードネーム)のノートPC版で、ノートPC向けのパッケージと、TDPの枠が55Wに納まるように熱設計の仕様が定義されている製品となる。

 デスクトップPC版のRaphaelと同じく、2つのCCDと1つのIOD(2CuのGPUを内蔵している)から構成されたチップレットになっており、1つのCCDあたり8コアで、2つのCCDで16コアを1パッケージで実現している。

Dragon Range

 ちなみにRyzen 7035シリーズの一部製品は、昨年(2022年)モバイルRyzen 6000シリーズに使われていたRembrandt(開発コードネーム)のリフレッシュ版となるRembrandt-R、Ryzen 7030シリーズは一昨年(2021年)にモバイルRyzen 5000シリーズに使われていたBarcelo(開発コードネーム)のリフレッシュ版となるBarcelo-Rだ。

 さらにその下のRyzen 7020シリーズは、開発コードネームMendocinoで知られる製品で、CPUコアにZen 2(4コア/8スレッド)、GPUはVega(2CU)というスペックになっており、CPU単体の価格で100ドル以下のバリュー向け市場をカバーする。こちらの製品はすでに9月に発表されており、今回追加の発表はない。

新設計のPhoenixにはRyzen AIというNPUとRDNA 3 GPUを内蔵

7040シリーズのPhoenixの機能

 新発表された製品のうち、7040シリーズに採用されているPhoenixは、完全に新設計となっているモノリシックのSoCで、1チップにCPU(最大8コア)とGPU、そしてI/O(USB4など)、この世代から新たに搭載される新機能としてNPUが1チップに統合されている。

 PhoenixのCPUは、Zen 4世代のCPUが8コア/16スレッドになっており、GPUは先日デスクトップPC向けに単体GPUとして投入されたばかりのRadeon RX 7900シリーズなどで採用されているRDNA 3アーキテクチャに基づいている。

 Radeon RX 7900シリーズの最上位SKUとなるRadeon RX 7900 XTXでは、CU(Compute Unit、演算器のこと)が96個ある形になっているが、このPhoenixに内蔵されているRDNA 3のGPUはCUが12個搭載されている。AMDのGPUアーキテクチャは伸縮が可能なように設計されているので、Radeon RX 7900 XTXの8分の1の演算器を備えたGPUが、Phoenixに内蔵されていると考えることができる。

NPUを内蔵

 また、新しい機能として「Ryzen AI」と呼ばれるAI推論のアクセラレータ、いわゆるNPU(Neural Processing Unit)が内蔵されており、CPUやGPUでAI推論を行なうよりも低消費電力でより高い処理能力を実現できる。

 AMDによれば、このNPUは、AMDが買収したXilinxのFPGAがベースになっており、そのFPGAのロジックがPhoenixのダイに含まれており、プログラマブルになっているのも大きな特徴だ。

 Windows 11 2022 Update(22H2)においてMicrosoftは、Windows Studio EffectsというAI推論を利用した機能を実装しており、今後さらに機能を追加していくという方針を明らかにしている。

 QualcommのWindows向けSoCがこの機能をすでに内蔵。Intelは第13世代Coreにおいて外付けチップで対応し、次世代製品(Meteor Lake)ではCPUに内蔵することを明らかにしている。AMDもRyzen AIをPhoenixに内蔵させたことで、3社のAI推論ソリューションが出揃ったことになる。

 現状はWindows Studio Effectsのみで利用でき、AMDはRyzen AIを使うためのソフトウェア開発キットなどは提供していないと説明している。

 なお、このPhoenixは4nmのプロセスノードで製造される。Raphael/Dragon Rangeは5nmになっていたので、AMD CPUとしては初めての4nm製品となる。もっとも4nmは5nmのバリエーションなので、その意味では5nmの改良版と理解しておけば良いだろう。

 今回発表されたモバイルRyzen 7000は、以下のようなSKUが用意されている。なお、Ryzen 7040シリーズにはHSだけでなく、PhoenixベースのUがあることになっているが、今回発表されたSKUの中にはなかったので今後発表される可能性がある。

【表2】Ryzen 7045シリーズのSKU
モデルナンバーコア/スレッドターボ時周波数ベース周波数キャッシュ(L2+L3)TDP
Ryzen 9 7945HX16コア/32スレッド5.4GHz2.5GHz80MB55~75W+
Ryzen 9 7845HX12コア/24スレッド5.2GHz3GHz76MB45~75W+
Ryzen 7 7745HX8コア/16スレッド5.1GHz3.6GHz40MB45~75W+
Ryzen 5 7645HX6コア/12スレッド5GHz4GHz38MB45~75W+
【表3】Ryzen 7040 HSシリーズのSKU
モデルナンバーコア/スレッドターボ時周波数ベース周波数キャッシュ(L2+L3)TDP
Ryzen 9 7940HS8コア/16スレッド5.2GHz4GHz40MB35~45W
Ryzen 7 7840HS8コア/16スレッド5.1GHz3.8GHz40MB35~45W
Ryzen 5 7640HS6コア/12スレッド5GHz4.3GHz38MB35~45W
【表4】Ryzen 7035シリーズのSKU
モデルナンバーコア/スレッドターボ時周波数ベース周波数キャッシュ(L2+L3)TDP
Ryzen 7 7735HS8コア/16スレッド4.75GHz3.2GHz20MB35W
Ryzen 5 7535HS6コア/12スレッド4.55GHz3.3GHz19MB35W
Ryzen 7 7735U8コア/16スレッド4.75GHz2.7GHz20MB15~28W
Ryzen 5 7535U6コア/12スレッド4.55GHz2.9GHz19MB15~28W
Ryzen 3 7335U4コア/8スレッド4.3GHz3GHz10MB15~28W
【表5】Ryzen 7030シリーズのSKU
モデルナンバーコア/スレッドターボ時周波数ベース周波数キャッシュ(L2+L3)TDP
Ryzen 7 7730U8コア/16スレッド4.5GHz2GHz20MB15W
Ryzen 5 7530U6コア/12スレッド4.5GHz2GHz19MB15W
Ryzen 3 7330U6コア/12スレッド4.3GHz2.3GHz10MB15W
【表6】Ryzen PRO 7030シリーズのSKU
モデルナンバーコア/スレッドターボ時周波数ベース周波数キャッシュ(L2+L3)TDP
Ryzen 7 PRO 7730U8コア/16スレッド4.5GHz2GHz20MB15W
Ryzen 5 PRO 7530U8コア/16スレッド4.5GHz2GHz19MB15W
Ryzen 3 PRO 7330U8コア/16スレッド4.3GHz2.3GHz10MB15W

 AMDによれば、Ryzen 7045シリーズは2月から、Ryzen 7040シリーズは3月から、搭載ノートPCが市場に登場する見通しだ。それ以外のシリーズの投入時期に関しては特に明らかにされていない。

7045シリーズは2月から搭載システムの出荷が開始
7040シリーズは3月から搭載システムの出荷が開始