Hothotレビュー
いつまでも少年の心を忘れない大人たちに向けた宇宙仕様のノートPC。ASUS「Zenbook 14X OLED Space Edition」の本気度を見る
2022年8月4日 11:00
ASUS JAPANは4日、14型有機ELノートPCの「Zenbook 14X OLED Space Edition UX5401ZAS」(以下、Space Edition)を発表した。製品名に含まれている「Space」とは何かというと「宇宙」のこと。つまり、Space Editionとは宇宙モデルなのだ。世界初ではないかと思われるノートPCの宇宙モデル、その驚きの内容を見ていこう。
パワーがすべてを解決すると言いたげな脳筋系スペック
まずスペックを見てみよう。基本スペックは下の表の通りだ。このSpace Editionは、Space Editionであるということを前面に出している製品であり、ASUSは性能の高さについてあまりアピールしていない。ところが、その中身は実はかなりすごい。14型サイズのノートPCということを考えると異常なほどハイスペックなのだ。
【表1】Zenbook 14X OLED Space Edition UX5401ZASの主なスペック | |
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製品名 | Zenbook 14X OLED Space Edition UX5401ZAS |
CPU | Core i9-12900H(P-core×6+E-core×8、20スレッド、最高5GHz) |
メモリ | LPDDR5-4800 32GB |
ストレージ | SSD 1TB(M.2、NVMe、PCI Express 4.0 x4) |
グラフィックス | Iris Xe Graphics(CPU内蔵) |
ディスプレイ | 14型有機EL(2,880×1,800ドット、光沢、タッチパネル搭載) |
主なインターフェイス | Thunderbolt 4×2(USB PD対応)、USB 3.1、HDMI、Gigabit Ethernet(付属のUSBアダプタを使用)、microSDカードスロット、ヘッドフォン/マイクコンボジャック |
通信機能 | Wi-Fi 6、Bluetooth 5.1 |
Webカメラ | 92万画素 |
バッテリ駆動時間 | 約7.4時間(JEITA2.0) |
OS | Windows 11 Home |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 311.22×221.18×15.9~17.6mm |
重量 | 約1.47kg |
主な付属ソフト | WPS Office 2 Standard Edition |
価格 | 26万9,800円 |
少し細かく見ていくと、CPUにはP-core(Performanceコア)を6コアとE-core(Efficientコア)を8コア搭載した、計14コアの第12世代Core i9-12900Hを搭載している。このCPUは、IntelのCPUラインナップの中ではモバイルワークステーション向けのHXシリーズに次ぐ、ゲーミングノートPCおよびクリエイターノートPC向けのCPUラインである。
Turbo Boost時の最高クロックはなんと5GHzもあり、TDP(PL1)こそ45Wに抑えられているものの、ピーク時のターボパワー(PL2)は115Wもある。さすがは本来ゲーミングノートPCで使われるCPUだ。普通はこのCPUを14型のコンパクトノートPCには搭載しない。
メモリはLPDDR5-4800メモリを32GB搭載している。Core i9-12900Hの対応メモリはLPDDR5-5200までなので、LPDDR5-4800というのはCPUのわりには少し控え目なスペックと言える。最高スペックのLPDDR5-5200を選択しなかった理由は、CPUにすごいものを搭載したためにコストパフォーマンスの悪化を気にしたためだろうか。またはコストの上昇ほどにはメモリスピードの差は性能にあまり影響がないということなのかもしれない。
ただ、容量が32GBもあるのでハイスペックなことに変わりはない。ゲーミングノートPCでもクリエイター向けノートPCでもないのに32GBというのは、このノートPCはどういう人を想定した製品なのか。もちろんメモリ容量が多くて困ることはないので大変よろしいスペックではある。
ストレージには、PCI Express 4.0 x4で接続した1TBのNVMe SSDを搭載している。こちらもメモリと同様で、14型クラスなら多くても512GBくらいじゃないかと思わないでもないが、32GBのメモリとのバランスを考えると順当な選択と言えるだろう。
搭載しているディスプレイは液晶ではなく、ASUSが最近積極的に押している有機ELだ。画面サイズは14型で、解像度は縦に少し長いアスペクト比16:10の2,880×1,800ドットである。ディスプレイの最大開度は150度だ。タッチパネルを搭載していて、4,096段階の筆圧検知に対応した「ASUS Pen 2.0」というスタイラスペンが付属している。
DCI-P3 100%の広色域への対応のほか、正確な色表示を保証するPANTONE認証を取得しており、色の再現性が必要な用途にも使用できる。HDR規格のDisplayHDR 600 True Blackの認証も取得しているので、HDRコンテンツにも対応可能だ。ブルーライトを70%低減できるモードも備え、安全性を保証するTÜV Rheinlandの認証も取得している。最近のASUSは本当にディスプレイにこだわっている。
ディスプレイに関しては、天板にも256×64ドット表示の3.5型モノクロ有機ELディスプレイを搭載しており、そちらにはプリセットされたアニメーションや自分で入力したテキストを表示できる。
本体サイズは311.22×221.18×15.9~17.6mm(幅×奥行き×高さ)と結構小さい。14型サイズなのでモバイルノートに見えるが、ASUSでは特にモバイルノートとは言っておらず、実際に重さは約1.47kgもあり、このサイズのノートPCとしてはちょっと重い。バッテリ駆動時間も約7.4時間となっており、こちらもやはり少し短い。これは、軽さとバッテリ駆動時間よりも処理性能を取ったということだろう。
事実、ASUSには同じ14型で重さが約870gしかなく、バッテリ駆動時間が約16時間というExpertBook B9という製品がある。同じ画面サイズでもっと軽いノートPCがあるということは、Space Editionは本当に性能に全振りしたノートPCなのだということが分かる。
宇宙モデルとは何なのか?
そもそもなぜ宇宙モデルなのか。それは、1997年にASUSが初めて発売したノートPCが、その翌年の1998年にロシアのミール宇宙ステーションの船内活動用ノートPCに採用されたことが発端となっている。このSpace Editionは、その「P6300」というノートPCが宇宙に旅立ってから25周年を記念したノートPCなのだ。
記念モデルということ以上の深い意味はほぼなく、ASUSが宇宙旅行用に開発したノートPCなんてことももちろんない。でも、こういうノートPCを大真面目に作って発売できるASUSはすごいし、活気があってよいメーカーだと思う。また、製品とは関係ないこととは言え、今のこの時期にロシアのミール宇宙ステーションに関連したノートPCを出してくるというのもおもしろい。これは日本のメーカーには真似のできないことだろう。
宇宙モデルの特徴その1。デザインが宇宙仕様
Space Editionには宇宙モデルならではの特徴がいくつかある。それを順番に見ていこう。
まずはデザインだ。Space Editionは記念モデルでもあるということで、ロシアのミール宇宙ステーションをモチーフにデザインされている。本体カラーの「Zero-G チタニウム」も、確かにミール宇宙ステーションの外板に太陽光が反射したときと雰囲気が似ているように見える。天板に描かれている図形は宇宙カプセルをイメージしたものだ。
図形の一部が「-・・ ・-」のようにモールス信号に見えるが、これは本当にモールス信号になっていて、「困難を乗り越えて星々へ」という意味の「Ad Astra Per Aspera」というラテン語が書かれている。
ディスプレイを開くとパームレスト部分にも図形が描かれており、こちらはコックピットを表しているそうだ。左のほうに描かれた「*」のような図形はミール宇宙ステーションを図形化したもの。そして、このパームレストの図形にもモールス信号で「Ad Astra Per Aspera」の文章が隠されている。また、キーボードのスペースキーの右端にはプラネットマークが描かれていて、スペースキーの色と合わせてデザイン上のワンポイントとなっている。
そのほか、底面には「Ad Astra Per Aspera」がアルファベットで入れられており、「Space Station MIR」や「SPACE EDITION」という文字もさり気なく書かれている。
これらのデザインについて、なんだかゴテゴテいろいろ描かれている騒がしいデザインのノートPCのように感じるかもしれないが、実際にはこれらの要素がうまくデザインされていて、なかなかカッコいい。隠されたモールス信号とか、「Ad Astra Per Aspera」とか、良く分からない図形とか、最初は変なノートPCだななんて思っていたのだが、しばらく使っているうちに不思議と愛着が湧いてくるデザインである。Ad Astra Per Asperaというのも、どんどんカッコよく思えてきてしまうのだ。図形も文字もないシンプルなデザインのノートPCだったらこんな気持ちにはならないと思う。まあとにかく、ジワジワ味が出てくる魅力的なデザインと言えるだろう。
そう言えば1点だけ残念な部分があった。パームレストのミール宇宙ステーションの図形部分にIntel関係のシールが2枚とPANTONE認証のシールが1枚、ASUSの日本向け保証サービスのシールが1枚貼られていた。IntelとPANTONE認証のシールはまだ剥がしやすかったが、ASUSのシールはそれが難しく、パームレストに糊がべっとりと残ってしまい、これを綺麗にするのがまあ大変だった。製品自体の出来がよいだけに本当に残念に感じた。ぜひ改善してほしい。
宇宙モデルの特徴その2。付属品が宇宙仕様
Space Editionは記念モデルであり特別モデルであり宇宙モデルなので、本体が入っている箱からして特別感にあふれている。付属品も特別で、こんなに豪華な内容物は今まで一度も見たことがない。付属品は文章で説明するよりも実際に見てもらったほうが早いと思うので、写真とともに紹介していこう。
宇宙モデルの特徴その3。堅牢性が宇宙仕様
宇宙モデルならではの特徴の3つ目は堅牢性だ。Space Editionは、いわゆるタフ仕様のノートPCが謳う、軍用規格のMIL-STD-810Gの基準をクリアしている。そのため、一般的なノートPCよりも振動や衝撃、高温や低温、ホコリなどに強く、結構ラフに扱っても大丈夫という安心感がある。だが、それだけでは今までのノートPCと変わらない。Space Editionは宇宙モデルなのだ。
そういうわけで、Space Editionはなんと宇宙用のハードウェア調達規格であるSMC-S-016Aの基準もクリアしてしまった。たとえば、61℃の高温環境での使用や、-24℃という低温環境での使用、20Hzの低周波振動や20kHzの高周波振動に耐えられる耐振性能など、より極端に過酷な環境に耐えることができる。
宇宙用のノートPCとは言っていないが、宇宙用のハードウェア調達規格をクリアしているわけなので、使おうと思えば当然宇宙でも使用できるのだろう。デザインや付属品を宇宙っぽくしただけの宇宙テイストのノートPCかと思いきや、実は本物の宇宙モデルらしい特徴も備えているのである。
宇宙モデルの特徴その4。天板のミニ有機ELディスプレイが宇宙仕様
ここまでチラッとしか触れてこなかったが、Space Editionの最大の特徴と言えば、本体を見てすぐに分かる天板のミニ有機ELディスプレイだろう。256×64ドット表示の3.5型モノクロ有機ELディスプレイで、名前は「ZenVision」という。
ZenVisionで何ができるのかというと、本体に保存されている6つのアニメーションから1つを選んで表示できる。自分で用意したJPGなどの画像と専用の4つのアニメーションを組み合わせて表示することも可能だ。また、テキストを入力して表示することもできる。表示できる文字数は使用するフォントや文字の幅によって変わるが、全角で38文字前後くらいだ。
ほかには個人情報を表示できる。自分の名前、メールアドレス、QRコードの3つだ。そして、ZenVisionは天板に付いているので当たり前なのだが、これらの表示内容を使用中に自分で見ることはできない。また、天板を閉じて本体をスリープ状態に移行させると、ZenVisionに約10秒の間、日付と曜日と時刻とバッテリ残量が表示される。
このZenVisionは便利な機能とかではなくて、ただの飾りなのだ。だが、それがいい。暗い部屋で使っていると、本体の後ろの机の上がZenVisionの光で明るくなったり暗くなったりして、しっかりと動いていることが分かる。天板を閉じると、今が何時でバッテリの残りはこれくらい! と知らせつつスーっと表示が消えていく。なんかかわいいなこれ、という気持ちになってくる。
席を離れるときに本体を半開きにして置いて行くと、帰って来たときに宇宙船のコンピュータに表示されていそうなアニメーションが表示されていて、おいおいカッコいいじゃないか、なんて思ってしまう。意外と悪くない、むしろこの機能のためにSpace Editionを買ってもいいんじゃないかというくらい個性的で楽しい機能なのだ。
また、テキスト表示モードを使用すれば、「現在取り込み中」とか「今日は体調が悪いです」とか「アストロシティミニ最高! 週末もやろう!」なんて表示することもできる。不特定多数の人に自分のつぶやきを見せ付ける、Twitter的な使い方ができるのだ。1人のときにこの機能を使うとちょっと寂しい気持ちになるが、「今日もくじけず頑張ろう!」なんて表示しておけば少し元気になれる。というわけで、ZenVisionは最高だ。
さて、何事も良いことばかりではない。残念な部分があったので書いておく。ZenVisionの設定は「MyASUS」という統合管理ソフトで行なうのだが、ZenVisionの設定画面を開くときは「ASUSユーザーだけの特典」というタブを押して開く。さすがにこれがZenVisionの設定画面の名前だとは思わず、随分と探してしまった。結構なお値段がする日本法人があるメーカーの製品なので、もう少しなんとかしてほしいと思う。
液晶ディスプレイとの差は歴然、やっぱり有機ELディスプレイは綺麗
Space Editionを使っていてこれはすごいなと感じたのは、有機ELディスプレイの映りのよさだ。Windows画面だけではあまり分からないが、普段見慣れている動画や写真などを見ると一発で液晶ディスプレイとの違いが分かるほど、液晶ディスプレイとは別物である。
具体的には表示内容が引き締まって見える。黒色がより黒く見えて、明暗の差が綺麗にハッキリと出る。色も濃くて、特に赤色や黄色などがより明るく鮮やかに表示される。
文章を書いたりPDFを見たりWebサイトを見たりといった事務作業にはあまり関係がなさそうだが、動画を見たり写真を扱ったりといった用途なら断然有機ELディスプレイのほうがよい。これを使ってしまうと、液晶ディスプレイを搭載したノートPCではちょっと物足りなく感じてしまう。それくらい結構強烈に映りが違う。
すばらしく見える有機ELディスプレイだが、気になるのは焼き付きだ。スペック表にも「有機ELディスプレイは、長時間、同じ画像を表示すると残像(焼き付き)が見える場合があります。これらは有機ELディスプレイの特性によるもので故障ではありません。」と書かれており、焼き付いてしまったらもうどうしようもなさそうである。
ただ、これに関してはいろいろと対策がされていて問題ないレベルにはなっているようだ。主なところでは、まずピクセルシフト機能というものが搭載されている。これは、使っている人に気付かれない程度に画面の表示内容を微妙に動かす機能だ。結構長時間使っていても筆者はまったく気付かなかったが、実は表示が微妙に動いているらしい。
また、Windowsのテーマが出荷時からダークモードに設定されている。これは、同じ場所に明るい表示をし続けていると焼き付きが起こりやすいためだ。ほかに、Windowsのスクリーンセーバーとは別に、一定時間操作がないと自動で起動する有機EL専用のスクリーンセーバーも搭載している。
焼き付いてしまったときのために、焼き付いた素子に対して自動で校正を行ない、その素子への電流量を増やすことで表示内容に影響を出さないようにする機能もある。これだけ対策されていれば、絶対とは言えないまでもまあ大丈夫かなという気はする。
キーボードとタッチパッドは14型クラスではトップレベルに使いやすい
キーボードはキーピッチが19.05mmのフルサイズだ。ファンクションキーや「¥」キーなどは縮小されているが、主要なキーは縮小もなければ変な配列にもなっておらず、違和感なく使える。キーストロークは標準的な1.35mmでキータッチは軽く、軽快に入力できる。
キーボードにはいろいろと気を使っているようで、たとえばキートップの中央を約0.2mmへこませることで指の収まりがよくなるようにしているらしい。らしいというのは、0.2mm程度なので見てもよく分からないのと、確かにキーの上に指を置きやすい気がするが、それがへこみのおかげなのかがちょっと分かりにくいためだ。ただ、そんな細かい部分にも手を加えているということがすばらしいと思うし、実際に使いやすいので効果は出ているのだと思う。
また、ディスプレイを開くとディスプレイのヒンジ部分が下にせり出して、本体を手前に約3度傾ける仕組みを搭載している。これによってキーボードも手前に傾くのでタイピングがしやすくなる。これも、実際に傾きを感じて打ちやすい気はするのだが、3度くらいだとよく分からない。
ただ、Space Editionのキーボードは本当によくできていることは確かで、今年触ったノートPCのキーボードの中では一番使いやすい。これは、それぞれ気付かないレベルのへこみや傾きといったものが、すべて組み合わさることで効果を出しているのだろう。
電源ボタンには指紋認証センサーを搭載しているため、ノートPCを起動する際に電源オンとともにシームレスに指紋認証まで行なえる。パスワードを入力する必要はないし、電源ボタンを1回押すだけで認証まで終わってログインできるので大変使いやすい。
タッチパッドには実測で130×74mm(幅×奥行き)の、14型クラスではかなり大きめのタッチパッドを搭載している。ボタンはタッチパッドと一体になっているタイプだ。通常、一体型のボタンは右クリックがすごく押しにくいのだが、このタッチパッドはボタンのストロークが浅く、押すときの感触も軽いので使いやすい。
ちなみに、左のボタンは押したときの感触が少し重く、右のほうは軽い。クリック音も左右で違うので、左右のボタンで明確に差別化を行なっているようだ。これは一体型ボタンでは初めて見るタイプで、押しやすくてすばらしい。
タッチパッドにはテンキー機能も搭載していて、タッチパッドの右上にあるテンキーアイコンを長押しするとタッチパッドの表面にテンキーが浮かび上がって数字入力をできるようになる。テンキーモードのときはタッチでのクリック機能が使えなくなるが、マウスカーソルの移動は通常通り行なえる。テンキーの配列が独特なのと数字を押したときの感触がないので慣れは必要ではあるが、あって困る機能ではないし数字だけを入力する際などは便利である。
インターフェイスは必要最低限だがLANポートを搭載
インターフェイスは、左側面にThunderbolt 4を2ポートとHDMIを1ポート搭載している。Thunderbolt 4は充電ポートを兼ねているので、バッテリで動作させるとき以外は実質1ポートということになる。Thunderbolt 4の画面出力機能は最大7,680×4,320ドットまでで、HDMIのほうはスペックには記載がないがHDMIバージョンは2.0、最大解像度は非公開だがCore i9-12900Hから出力しているはずなので4,096×2,304ドットまでだと思われる。
右側面にはUSB 3.1を1ポートとmicroSDカードスロットに、ヘッドフォンとマイクのコンボジャックを搭載している。
ほかに、USB 3.1ポートに挿して使用する1000BASE-T対応のLANアダプタが付属しているので有線LAN接続が可能だ。当然だがLANアダプタの使用時にはUSBポートの残りポート数がゼロになる。インターフェイスの搭載が少なめなのは、本体内部を冷却するための排気スリットを左右の側面に備えているためだ。左右ともに排気スリットが大きな面積を占めている。
スペースがないので仕方ないのだが、せめてUSBポートはもう1ポート欲しかった。とは言え、据え置きで使うのならUSBハブを使えばいいし、外出先で使うのならこの構成でもなんとかなるだろう。
Webカメラの電子シールドが最高に楽しいし便利
Webカメラはディスプレイの上部に92万画素対応のものを搭載している。このWebカメラは大変めずらしく、なんと電子シールドを搭載している。キーボードのF10キーに割り当てられているWebカメラのオン/オフ機能を使用すると、物理的にレンズ部分がシールドで塞がれるのだ。これが最高にカッコいい。F10キーを押すとWebカメラから「チャッ」と音がしてレンズの前にシールドが出てくる。もう一度押すとまた「チャッ」と音がしてシールドが引っ込む。意味もなく「チャッ」「チャッ」とやってしまうくらいに何とも気持ちがいいしカッコいい。
このSpace Edition、天板のモノクロ有機ELディスプレイといい、タッチパッドに浮かび上がるテンキーといい、あらゆる面が未来的でカッコいいのだ。Webカメラのシールドなんて手動のスライド式でいいはずなので、電子式にしたのは絶対に遊び心なのだと思う。Space Editionのこういうところが本当に楽しい。
Webカメラと言えばWeb会議ということで、マイク機能も見てみよう。マイクにはAIノイズキャンセリング機能を搭載していて、通常のマイク入力へのノイズキャンセルのほか、ノートPCの正面に居る人以外の声をキャンセルするモードと、周囲に居る人の声は残しながら、それらの声の音量を一定のレベルに調節するというモードを選択できる。つまり、通常モード、1人で話す用モード、複数人で話す用のモードがあるということだ。使用してみると少し声がこもるような感じはあるが、環境ノイズは綺麗に消えて聞きとりやすい音声入力を行なえる。
また、スピーカー出力に対してもAIノイズキャンセリング機能を適用することができ、Web会議などで相手から送られてくる音声をクリアにすることも可能だ。この機能はマイク入力に対するものほど強力ではないようで、少し環境ノイズが減ったかなという程度の効果である。でも、適用前よりは音声が聞き取りやすくなるのであると便利だろう。
サウンド出力周りは意外と低音も出ていて、14型ノートPCにしてはかなりよい音を鳴らす。ただし、1Wスピーカー×2ということもありあまり大きな音は出せず、音楽を大音量で流したり映画を見たりするときは最大音量にしても物足りなさを感じる。また、音量を大きくすると内部で音が共鳴しているのか、低音がボワボワと耳障りな音になってしまって気になる。基本的にはよい音だが、サウンド面にはあまり期待をしないほうがよいだろう。サウンド規格としてはバーチャルサラウンドのDolby Atmosに対応している。
14型ノートPCとは思えないゲームも遊べるほどの性能
ここからはベンチマークテストの結果でSpace Editionの性能を見てみよう。比較対象として、同じ14型のノートPCでCPUやメモリやSSDの性能が近い「VAIO SX14 | ALL BLACK EDITION」のテスト結果を並べた。それぞれの基本スペックは以下の通りだ。
【表2】ベンチマークテストで使用したPCのスペック | ||
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製品名 | Zenbook 14X OLED Space Edition | VAIO SX14 | ALL BLACK EDITION |
CPU | Core i9-12900H(P-core×6+E-core×8、20スレッド、最高5GHz) | Core i7-1280P(P-core×6+E-core×8、20スレッド、最高4.8GHz) |
メモリ | LPDDR5-4800 32GB | LPDDR4x-4267 32GB |
ストレージ | SSD 1TB(M.2、NVMe、PCI Express 4.0 x4) | SSD 512GB(M.2、NVMe、PCI Express 4.0 x4) |
グラフィックス | Iris Xe Graphics(CPU内蔵) | Iris Xe Graphics(CPU内蔵) |
まずは、文書作成や表計算や写真加工など、ノートPCの一般的な用途をほぼ網羅したテストを行なえる「PCMark 10 v2.1.2556.0」の結果から見てみよう。グラフの通り、Space Editionは14型のノートPCとしてはトップクラスの結果を出しており、さすがゲーミングノートPC用のCPUを搭載しているノートPCである。比較対象のCPUとはクロックが200MHz異なるだけなので各テストの結果も順当な差と言える。
ソフトの起動スピードを計測するApp Start-up Scoreの差が比較的大きいのはメモリスピードの差が出ているのだろう。また、画像加工を行なうPhoto Editing Scoreの差が大きいのはCPUのTurbo Boostの維持時間に差があるのだと思われる。
次はCPUのレンダリング性能を計測する「Cinebench R23.200」の結果だ。こちらも順当な結果である。比較対象とはコア数の構成も対応スレッド数も同じなので、ここは200MHzのクロックの差だけが出る結果になりそうなものだが、Space EditionのMulti Coreの結果がそれ以上に伸びているのが興味深い。
続いては動画編集ソフトの「DemoCreator 5.8.1.4」を使用した動画エンコードのテスト。約10分間のMOV形式の動画をMP4形式の動画に変換して、それにかかった時間を計測した。かかった時間なので、このグラフでは棒が短いほど速いということになる。結果はSpace Editionがかなり速く、思っていたよりも大きな差が出た。このテストもCinebenchと同様に高負荷の状態が長時間続くテストなので、Space Editionの冷却性能が高い結果、性能が出やすいのではないかと思われる。
次はストレージの速度を計測する「CrystalDiskMark 8.0.4」のテストだ。結果は見ての通りでとんでもなく速い。搭載しているPM9A1(MZVL21T0HCLR-00B00)の公式スペックには最大読み出し速度が7GB/sと書かれていたが、本当に7GB/sを超えてきた。シングルキューでの書き込みが少し落ち込んでいるように見えるが、読み出しに対して書き込みが遅いのは一般的なことなので、これはどちらかというと比較対象の値が異常に速い。それにしても、これだけストレージが速い14型ノートPCはそうそうない。大変優秀だ。
Space EditionはCPUに内蔵したGPUのみを搭載したノートPCだが、ゲーム系のベンチマークテストも一応やってみた。使用したソフトは定番の「3DMark Professional Edition v2.22.7359.0」と、実際にゲームで使用しているゲームエンジンを使った「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ」、そして人気FPSゲームの「エーペックスレジェンズ」だ。エーペックスレジェンズはSteamでダウンロードしたものをプレイし、「Fraps」というソフトでフレームレートを計測した。
結果はなかなか驚きで、ゲームもそこそこプレイできてしまうということが分かった。比較対象とは内蔵GPUのクロックが同じなのでそれ程差は出ないと思っていたが、CPUコアのクロック差と冷却性能の差が結果に出たのだと思われる。
エーペックスレジェンズは実際にゲームをプレイしたわけだが、特に問題なくプレイできてしまった。さすがにフレームレートが落ち込む場面はあるが、すごく真面目に勝ち負けにこだわるというのでなければ、プレイに支障がないレベルである。これならときどきゲームで遊ぶくらいの使い方なら、ゲーミングノートPCがなくてもSpace Editionでゲームを楽しめてしまう。いろいろと驚きの14型ノートPCである。
ちなみにSpace Editionの冷却機能は、CPUに8mm径と6mm径のヒートパイプを1本ずつ接続し、8mmのほうを本体の左の排気スリット部分にあるファン付き放熱フィンに回し、6mmを右のスリット部分にあるファン付き放熱フィンに回している。排気は左右の2カ所のみで、吸気は底面の吸気スリットとディスプレイの下にある吸気スリットから行なう仕組みになっている。見た感じではほかのノートPCよりも吸気部分の面積が多いように見える。
また、底面のスリットを覗くと、CPUの取り付け部分とヒートパイプの取り回しがうっすらと見えるので、吸い込まれた空気は直接CPUとヒートパイプに当たっているようだ。確かにこれは冷えそうに見える。
高負荷時の各部の温度は、室温28.8℃の環境でCinebenchのMulti Coreテストを連続して実行した場合に、底面が53℃、キーボードの奥のほうで45.6℃、パームレスト部分で33.7℃だった。いずれも最も熱かった部分のピンポイントの温度なので、たとえばこの状態でキーボードでキー入力をしても過度に熱いと感じるようなことはなかった。
内部温度に関しては、CPUの温度が74℃から95℃の間を上下していた。動作音は通常時はファンが止まっているようで無音、高負荷時はシューと鳴るが、それほど大きな音ではなく比較的静かだ。Cinebenchの実行を止めるとあっという間に温度が下がるので、やはり冷却機能は優秀なのだと思う。
最後に、PCMark 10を使用してバッテリ駆動時間の計測を行なった。結果はほぼ公式スペック通りの約7時間14分だ。Space Editionをモバイルノートとして見るとちょっと短いかなと思うが、14型のハイパワーノートPCとして見るのならこんなものかなという駆動時間である。まあこれだけ動けば短過ぎて困るということはないだろう。また、Thunderbolt 4ポートがUSB Power Deliveryに対応しているので、Power Delivery対応のモバイルバッテリを持ち歩けばもしものときはそちらから充電を行なうこともできる。
完成度が高くて遊び心にもあふれた個性的な1台
Space Editionは本当に完成度が高いノートPCだ。気になる部分も結構書いてしまったが、それは全体の完成度が高いあまりに細かい部分が気になってしまったというのが大きい。その証拠に、筆者はこのSpace Editionが欲しいと思ってしまっている。
性能はよいしデザインもよいし、高級感はあるし画面は綺麗だし、ミニ有機ELディスプレイは楽しくて魅力的だし、キーボードやタッチパッドも使いやすい。Webカメラの電子シールドも最高だ。コストがかかっていそうなパッケージや豪華な付属品を削って、もう少し安くしていただけないだろうかと思うが、その辺りを削ってしまうと記念モデルの意味が薄れてしまう。難しいところだ。でも欲しい。
しばらく使っていると、このズッシリとした重さも魅力的に感じてきてしまう。Space Editionは不思議な魅力がある本当におもしろいノートPCだ。ASUSが以前発表した竹でできているノートPCに惹かれた人とか、特に大きな意味はないけどカッコいいギミックを搭載したガジェット類が欲しくなってしまうという人なら多分同じ感想を持ってくれると思う。所有していること自体が幸せ、そして触っているだけで楽しい。Space EditionはそんなノートPCだ。