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第12世代Coreの「VAIO S15」、4K HDRやWi-Fi 6Eにも対応する“全部盛り”の実力は?

第12世代Coreを搭載した「VAIO S15」をレビュー

 4月に発表されたVAIOの15.6型ノート「VAIO S15」の新モデルは、CPUに最新の第12世代Coreを搭載するなど、2019年発売の先代から大幅にグレードアップした製品となる。主に据え置き用途の15.6型ディスプレイのこのモデル、3世代分の進化がどれほどのものなのか、チェックしてみたい。

 VAIOストアでは7月31日までキャンペーンが開催されており、VAIO S15の通常モデルが18万7,300円から、上位のALL BLACK EDITIONが27万4,800円からとなっている。今回のレビューでは、ベンチマークテストに上位モデルのALL BLACK EDITIONを用いている点、ご了承いただきたい。

外観の変化は少ないが、ディスプレイは4K HDRとフルHDの2択

「VAIO S15」

 第9世代Coreを搭載していた2019年発売の前モデルから3年、長らくメジャーアップデートが行なわれてこなかったVAIO S15だが、最新の装備を盛り込み、満を持しての登場となった。この間、Coreでは内蔵GPUの性能が大幅に引き上げられ、CPUコア設計も一新されるなどさまざまな進化があったことから期待が高まるところ。OSは最初からWindows 11 HomeまたはProの64ビット版が標準インストールされる。

 まずは筐体の外観から見ていくと、基本的なデザインや見た目上の装備は前モデルと大きくは変わらないようだ。361.4×254.3×22~26mm(幅×奥行き×高さ)、約2.25kgというサイズ・重量は変わらない。

 さらに、通常モデルのブラック/シルバー/ホワイトとALL BLACK EDITIONというカラーバリエーション、モデル構成も同じ。ディスプレイを開いたときにキーボード奥が自然と持ち上がり、キータイプを補助するとともに排熱を促進するチルトアップヒンジ構造も引き続き採用している。

真っ白な天板を持つホワイトモデル
開くと後部が自然に持ち上がるチルトアップヒンジ構造
こちらはハイスペックモデルとなるALL BLACK EDITION

 機器構成として変わったところを挙げるとすると、ディスプレイがフルHD(1,920×1,080ドット)のHDR非対応と、4K(3,840×2,160ドット)HDR対応の2パターンに絞られた、という点。どちらも非光沢タイプだ。内蔵光学ドライブは、BDXL対応のBlu-rayディスクドライブもしくはDVDスーパーマルチドライブで、構成としては変わらないがUltra HD Blu-rayの対応は削られている。

 これは、第11世代Core以降、セキュリティ保護に使われるIntel SGXが省かれたことが影響していると考えられる。せっかくの4K HDRディスプレイを光学メディアで楽しめないのは残念だが、NetflixやHuluなどのネット上の動画配信サービス、もしくは写真・動画編集などで生かしたい。

BDXL対応のBlu-rayディスクドライブ、またはDVDスーパーマルチドライブが内蔵
立体感すら感じられそうな4K HDR対応ディスプレイ(ALL BLACK EDITION)

 今回メーカーよりお借りしたホワイト筐体のモデルは、天板が手触りの良いマットなホワイト、底面がブラックで、開いたときのキーボード面がシルバーという3色構成となっている。タッチパッドが人工大理石のような質感を思わせる素材で、デザイン面での満足度はかなり高い。テンキー付きのフルキーボードでキーピッチに余裕があり、ストロークの感触は柔らかめで静か。Web会議中にキータイプしてもノイズは入り込みにくいだろう。

キーボード面はシルバー
タッチパッドや左右ボタンは人工大理石のような質感がある

メモリ、ストレージは順当に進化、Wi-Fi 6Eにも対応

 側面のインターフェイス類の構成も含め、外観上の違いは前モデルと比較してほとんど見当たらないものの、その「中身」は大きく変わっている。

 繰り返してしまうがCPUは第12世代Coreで、通常モデルの最上位はCore i7-12700H(2.30~4.70GHz、14コア20スレッド)、ALL BLACK EDITIONはCore i9-12900HK(2.50~5.00GHz、14コア20スレッド)となる。いずれもProcessor Base Power 45Wの高パフォーマンスを誇るSKUだ。

 当然ながら内蔵GPUはIntel Iris Xe グラフィックス。ただし、独自のパフォーマンスチューニングで高いCPU性能を維持する技術「VAIO TruePerformance」は今回非搭載となっている。第12世代Coreの発熱の大きさなどが影響しているのかもしれない。

 とは言え、メモリはDDR4からDDR5にグレードアップし、最大容量は64GBに倍増。メインストレージのNVMe SSDもPCI Express 4.0接続となり、最大容量2TBで、帯域幅・容量ともにこちらも前モデル比2倍だ。

 無線LANはWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に対応し、今後日本国内でも利用可能になると見込まれるWi-Fi 6Eまでサポートする。Wi-Fiルーター側の対応も必要になるが、将来的なパフォーマンスアップの余地が残されているのはうれしいところ。ギガビット対応の有線LANポートも備えるため、安定性重視の運用もOKだ。

 Type-C形状のThunderboltは3から4へ。USB 4を兼ねた最大40Gbpsのデータ転送速度を実現するポートとなっており、DisplayPort Alternate Mode、USB PDにも対応する。充電用にACアダプタが付属するが、別途USB PD対応充電器と組み合わせることでType-Cポート経由での充電も可能だ。

左側面にはThunderbolt 4(USB 4)ポートのほか、ギガビットLAN、VGA、HDMI、USB 3.0 Type-A、ヘッドセット端子が並ぶ
右側面には光学ドライブとUSB 3.0 Type-Aポート×2

 ほかにはType-AのUSB 3.0ポートが両側面に計3つ、HDMIとVGA(D-SUB 15ピン)の映像出力、3.5mmヘッドセット端子、前面にSDカードスロットがある。このあたりは前モデルと同様だが、引き継いだ数々の機能と底上げされた性能・装備を見ると、まさに“全部盛り”という感じ。

 バッテリ駆動時間は4K HDRディスプレイ搭載モデルが約5.3時間、フルHDモデルが約7.4時間ということで、前モデルと同等程度となる。動作時間は短めではあるが、据え置き中心で使うモデルであることを考えると割り切るべきところだろう。

一見分かりにくいが、前面側にSDカードスロットを備える

Webカメラの背景ぼかし、マイク音声のノイズキャンセルが可能に

ディスプレイ上部に内蔵するWebカメラとマイク

 標準でプリインストールされる独自ソフトウェアは多くはないが、活用しがいのありそうなユーティリティとして「VAIOの設定」アプリがある。その中で注目が、新たに追加された「カメラ」の設定だ。最近のVAIOの各シリーズ共通で搭載されているものと同様、このカメラ設定では内蔵Webカメラの映像に「背景ぼかし」や「自動フレーミング」、各種明るさ補正といった特殊効果を加えることができるようになっている。

「VAIOの設定」アプリの「カメラ」設定画面

 人物以外の背景をぼかしたり、明るさを自動補正するような機能は、Web会議ツールが独自に実装していたりする。が、精度がそれほど高くなかったり、サービスの契約プランによっては利用できなかったりする。特定のディスクリートGPU専用ツールとして配布されているものもあるとは言え、CPU内蔵GPUしかないノートPCとは無縁の存在だった。

 しかし「VAIOの設定」のカメラ映像の加工機能は汎用的なもので、ここで設定した内容はほかのWeb会議ツールの映像にそのまま反映される。部屋の様子を見せたくないとき、室内が暗いとき、あるいは背後に窓や照明があって逆光で見えにくいときなんかでも、自動でぼかしたり明るくしたりして、相手にポジティブな印象を与えられるわけだ。

薄暗い部屋で、補正なしの状態(Google Meetを使い、リモート側のPCでキャプチャした映像)
「顔優先AE」をオンにすると明るく、見やすくなる
「背景ぼかし」をオンにすると人物以外をぼかしてくれる
「自動フレーミング」オフのとき。PCの正面にいないため、映像の端に映っている状態
「自動フレーミング」をオンにするとカメラ映像が人物の顔に追従してくれる

 また、映像面だけでなく音声面でもWeb会議に便利な機能が用意されている。マイク入力した音声のノイズを効果的に取り除く「AI ノイズキャンセリング」機能だ。周囲の雑音を低減してユーザーの声を際立たせるもので、ノートPCの周囲全方向のノイズを低減する「標準モード」と、正面方向のノイズを低減する「プライベートモード」が選択でき、会議室に置いて複数人でしゃべるときは前者が、自席やテレワークで自分1人だけしゃべるときは後者が役に立つ。

マイクから入力した音声のノイズを取り除いてくれる「AI ノイズキャンセリング」機能

 こうした汎用的なノイズキャンセリング機能は他メーカーのノートPC製品でも搭載される例が増えてきているが、その多くは内蔵マイクのみの対応。対してVAIOの場合は、内蔵マイクだけでなく外部マイクに対しても「標準モード」のノイズキャンセリングが使えるという点でアドバンテージがある。相手に声がくっきり伝わるよう外部マイクを使いたいユーザーにとってはありがたい機能のはずだ。

 ちなみにWebカメラはWindows Helloの顔認証機能に対応し、キーボード面に設けられた同じくWindows Hello対応の指紋認証機能も利用できる。さらに、顔認証と内蔵人感センサーを活用することで、離席時に自動で画面ロック(スタンバイ状態に)し、着席時には自動でロック解除する、といったことが可能なスマートなセキュリティ機能も用意されている。

 コワーキングスペースなどでテレワークする人もいると思うが、他人に画面を覗き見される恐れもあり、そうしたリスクを低減できるセキュリティ機能があるのは今の時代ならではと言える。

キーボード右下にはWindows Hello対応の指紋認証センサー

CPU 3世代分の進化はダテじゃない。ベンチマークで2倍以上のスコアが続出

 ベンチマークテストで新型VAIO S15(ALL BLACK EDITION)のパフォーマンスを見てみよう。今回、一部のテストについては前モデルの結果と比較する形にした。OSやアプリのバージョン、条件設定などに違いがあるのであくまでも参考として見ていただきたいが、3世代分の進化を推し量ることはできるはずだ。

 補足すると、各テストはOSの電源設定で「高パフォーマンス」とし、「VAIOの設定」アプリにおける「電源・バッテリ」設定でも「パフォーマンス優先」として計測した。「PCMark 10」の「Modern Office Battery Test」の実行時は画面輝度を50%にしている。

「PCMark 10」の結果
「PCMark 10 Applications」の結果
「3DMark」の結果

 グラフを見ると分かる通り、「PCMark 10」では2倍近いスコアを叩き出した。中でもGPU性能が影響しやすい「Digital Content Creation」は前モデルの2倍、「Gaming」は同4倍の値になっており、GPUをメインにCPUの処理性能の向上も合わさって、段違いのパフォーマンスが得られている。「3DMark」になると違いはさらに顕著で、スコアにして3~4倍という結果に。バッテリ持ちは若干改善しているようだが、実使用上は大差ないと見ていいだろう。

「Cinebench R23」の結果

 CPUの演算性能が分かる「Cinebench」は、マルチコア・シングルコアともに3割近く高速化。文字通り3世代分の性能アップになっている印象だ。

「CrystalDiskMark」の結果

「CrystalDiskMark」を見るとメインストレージの読み書き速度も軒並み2倍速となっていて、ここはPCIe 3.0接続から4.0接続となったのがやはり大きい。

「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」の結果

 「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(2019年モデルは「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」)は、4K解像度ではまださすがに厳しいものの、フルHD解像度でスコアは3倍近くにアップ。ゲーミングノートクラス……とまでは言えないにしても、内蔵GPUで十分快適に遊べる時代になった。

「DxO PhotoLab 5」の結果

 「DxO PhotoLab 5」は、50枚のRAW画像をJPEGに現像する際の処理時間を計測したもの。GPUを用いるノイズ低減処理を加えているため、GPU性能の差が如実に現れるテストとなるが、新型は前モデルのわずか6分の1の時間で片付けた。こういったマルチメディア処理も得意になったことで、幅広い用途で効率アップの実感が得られるに違いない。

 ところで1つ付け加えると、VAIO S15では処理負荷が高くなったときの冷却ファンの音が大きめ。仕事しながら音楽を再生してもまともに聞き取れないほどで、「Cinebench」実行中にノイズ計測してみたところ51.0dBAとなった。

 数値としては極端に高いわけではないが、どちらかというと高周波で不快に感じやすい。発熱が多いとされる第12世代Coreが原因なのかもしれないが、できればノイズはもう少し抑えてほしかったな、という気持ちだ。ちなみに熱は大部分が左側面から排出され、キーボード面の左3分の1ほどと底面の一部がやや熱を持つものの、使用中に気になることはなさそうだ。

ファンノイズをチェック。筐体端から30cm離れたところから計測した。OSの電源設定は「VAIO推奨設定」、「VAIO 設定アプリ」の「電源・バッテリ」設定は「標準」としている
排熱は主に筐体左側面から。使用中に熱風が手に当たることはないので気にはならない

パフォーマンスは文句なしだが、時代に合ったインターフェイスが欲しい

 PCとしてのパフォーマンスは明らかに上がっており、少なくともALL BLACK EDITIONは、ヘビーなゲームを高画質でプレイしたい、というようなシチュエーションでない限りスペック不足に悩まされることは当面なさそう。カメラ映像の背景ぼかしや自動明るさ調整、マイク音声のノイズキャンセルなど、Web会議向けの画質・音質改善の機能も大いに活用したくなる。

 ただ、冷却ファンのノイズの大きさもそうだが、インターフェイス類の構成がまったく変わり映えしなかったところも気になった。据え置き向けとしては周辺機器にUSB Type-Aのものを使うことが多いと想定しているのかもしれないが、Type-Cポートが1つしかないのは時代遅れ感もある。複数のType-C機器を使うにはドッキングステーションなどを別途用意するしかない。

 SDカードスロットもUHS-Iまでの対応で、下記スクリーンショットにあるようにシーケンシャルリードはせいぜい80MB/sあまりとなる。写真や動画の大容量化は常に進んでおり、UHS-IIなどのより高速な規格への対応も必要に感じる。筐体が大きく余裕のありそうな15型クラスだけに、素の状態でも拡張性高く使いたいし、3年がかりのこのタイミングで発売するならできるだけ新しい規格に対応してほしかったな、と個人的には思うのだが、いかがだろうか。

SDカードスロットの読み書き速度。UHS-II規格(リード300MB/s)のSDカードを使ったがそのポテンシャルは発揮できず