Hothotレビュー
着実な進化を見せる第12世代CPUの「VAIO SX12 ALL BLACK EDITION」。14コアでさらなる生産性向上へ
2022年6月14日 09:00
12.5型ディスプレイの軽量/コンパクトな筐体に、フラグシップに近い性能を詰め込んだモバイルPC「VAIO SX12」が、第12世代Core搭載機として登場した。半年ほど前の2022年10月に発売された先代と外観はほぼ同一にしながら、さらに高いCPU性能に加え、5GやWi-Fi 6Eといった高速なネットワーク機能を備えた個人向けモデルだ。
発売は2022年7月以降を予定し、想定価格はALL BLACK EDITIONの場合で29万6,500円から。どれほどの実力を秘めているのか、第11世代Intel CPU搭載の先代モデルとも比較しながら紹介したい。
より深いブラック仕上げ。5GとWi-Fi 6E対応の将来性高いネットワーク機能
新しいVAIO SX12は、CPUに第12世代Coreシリーズ(Alder Lake)を搭載するWindows 11 Proプリインストールのモバイルノート。今回レビューするのは同モデルの中でもハイエンドの機能を盛り込んだ「ALL BLACK EDITION」だ。
12.5型のフルHD(1,920×1,080ドット)ディスプレイを備える、A4サイズよりひと回り小さな287.8×205×15mm(幅×奥行き×高さ、最薄部)のボディ。このサイズは先代と変わらないが、重量については最軽量モデルで約899gと、30gほど軽量化した。外観デザインも同じように見えるものの、新型は天板に繊維のテクスチャがないシンプルなマットブラックとなっている。
ディスプレイを開いたときのパームレストを含むキーボード面のデザインもほぼ同じ。しかしキートップの文字のプリントはさらに薄く(黒く)なり、全体的にブラック感が増した。
ただ、キートップの文字は平常時の視認性がかなり低くなっていることから、シックな見た目に魅力を感じる人もいれば、使い勝手が損なわれていると感じる人もいるかもしれない(夜間などではキー押下時にイルミネーションが点灯するようにはなっている)。
CPUは14コア(Pコア×6、Eコア×8)/20スレッドのCore i7-1280P(最大4.8GHz、PBP 28W)で、これはPシリーズの最上位となる。メニーコアと言っても差し支えないほどのコア数をモバイルノートでも活用できるのはワクワクするところだ。
GPUは第11世代と同様CPU内蔵のIris Xe Graphicsとなっているが、フィルレートやメモリバンド幅などGPUの内部的なスペックは若干向上しているようだ。試用したモデルの本体メモリはLPDDR4Xで32GB容量(最大)。約500GBのPCIe 4.0 NVMe SSDをメインストレージとしている。
本体両側面にあるインターフェイス類は先代と新型で変わりはない。最大データ転送速度40GbpsでType-C形状のThunderbolt 4(USB 3.1としては10Gbps)と、5GbpsのUSB 3.0が2つずつ設けられ、Gigabit EthernetとHDMI出力端子、ヘッドセット用の3.5mmオーディオ端子を備える。配置についてもまったく同じなので、このあたりの周辺機器を含めた使い勝手は同等と考えてよいだろう。
CPU性能が前世代からどれほど向上したのか気になるところだが、それは後ほどベンチマークでチェックするとして、新型の注目点の1つはネットワーク周りの進化だ。無線LANはWi-Fi 6に対応するだけでなく、2022年後半に日本での利用解禁が見込まれる次世代のWi-Fi 6Eにも準拠する。なお現時点でWi-Fi 6Eは無効になっており、将来的なソフトウェアアップデートで有効にするとしている。
Wi-Fi 6Eでは、より干渉が少なく帯域幅の広い6GHz帯を利用でき、対応ルーターとの通信においては通信速度の底上げが期待できる。オフィスのように多くのデバイスが同時に無線LANに接続するような状況で有利なのはもちろんのこと、混雑するようになってきた5GHz帯の利用が少なくなることで、相対的に既存のWi-Fi 5対応デバイスにもよい影響がある。自身だけでなくオフィス全体のパフォーマンス向上にも貢献するというわけだ。
薄型のボディながら、先述の通りGigabit Ethernetも引き続き装備しているので、Web会議など安定性重視の場面でも不安なし。また、ALL BLACK EDITIONでは5G/LTE対応のWAN付きモデルも選択でき、最新世代の高速なモバイルネットワークの利用が可能だ。オフィスや自宅だけでなく、外出先でも同様に生産性高く仕事をこなせるだろう。
なお、バッテリ駆動時間はスペックシート上ではやや短くなっている。先代が約28~30時間だったところ、新型は約24.8~26時間。それでも1日以上使い続けられるスタミナは維持しており、実用上はわずかな差になりそうだが、世代が変わったCPUの消費電力の違いがこのあたりに表れているのかもしれない。
背景ぼかし、逆光補正など、画質カスタマイズが可能なWebカメラ
新型VAIO SX12のもう1つの注目点と言えるのが、内蔵Webカメラの画質などを細かく調整できる機能。Web会議で確実に役に立つカスタマイズ要素が追加されている。
「VAIOの設定」アプリから利用できるこのカメラのカスタマイズ機能では、見せたくない室内の背景だけをぼかす「背景ぼかし」や、顔の位置を認識して常に映像の中心部に捉える「自動フレーミング」のほか、逆光などでも顔を明るく見せるように補正する設定項目がある。ここで画質補正した映像は、ほかのWeb会議ツールの映像に反映され、理想的なカメラ画質でWeb会議できるわけだ。
従来、こうしたWebカメラの画質を変更する機能はサードパーティ製のツールを使うか、Web会議ツールが独自に備える機能を利用するしかなかったが、より手軽かつ汎用的に利用できるという意味で価値は高い。
試しに「背景ぼかし」を利用してみると、人物の輪郭部分で多少の“隙間”ができるところもあるが、比較的きれいにくり抜かれ、身体を早く動かしても追従する。また、「顔優先AE」や「逆光補正」を適用することで、背景の明るさに引っ張られて手前の顔が暗くなってしまうような状況でも、しっかり顔を映し出せた。
ちなみに「背景ぼかし」のオンでCPU使用率は10%前後上昇したが、14コアあるうちの2コアの負荷が高まるだけなので、ほかのアプリケーションへの影響を感じることはまずないだろう。また、「自動フレーミング」ではCPU使用率が2~3%アップする程度で、「逆光補正」などについてはCPU使用率に変化はなかった。
複数の項目を組み合わせても負荷は気にしなくてもよいだろう。ここもコア数の多い第12世代Core i7の面目躍如といったところだ。
Web会議中の自分の映像の見え方をあまり意識しない人もいるかもしれないが、ほかの人にとっては反応が見えないため気になってしまうもの。コミュニケーションにおいては会話しているときの相手の表情も大事な要素で、それが見えるのと見えないのとでは相互理解の進み方にも影響する。こういった簡単に画質調整できる機能が標準で用意されるのは、やはりうれしいところだ。
なお、先代にもあったマイク音声やスピーカー出力のサウンドに対する「AIノイズキャンセリング」機能も引き続き搭載している。特にマイク音声のノイズキャンセルは、Web会議においては有用。自分の声以外の周囲のノイズなどを低減するうえ、「標準」と「プライベート」の2つのモードを使い分けられるのがユニークな点だ。
「標準」は全方向からのノイズのみを低減するもので、複数人が集まった部屋で1台のPCを使って会議するときに適したモード。「プライベート」は正面方向以外の声も低減する、自分1人で使うときに適したモードだ。内蔵マイクだけでなく外部マイクにもノイズキャンセリング効果を適用できる、汎用性の高い機能になっているのもポイントが高い。映像と音声の両面から最適化できるようになったことで、Web会議の快適さは間違いなくアップする。
セキュリティについても、先代同様、電源ボタン一体型の指紋認証機能と、Webカメラによる顔認証機能の2つを用意している。どちらもWindows Helloに対応しているため、Windowsのセキュアなログオンに用いて安全なPC利用につなげられる。
しかも本体には人感センサーもあり、これらの認証機能と連動する「VAIO User Sensing」によって、例えば離席したときに自動で画面をロックし、戻ってきて再びPC正面に着席したときに自動でWindowsにログオンする、といったようなスマートな認証も実現できる。共有のコワーキングスペースだと離席時に画面を覗き見される危険性もあるが、VAIO User Sensingがあれば安心というわけだ。
ベンチマークテスト、第12世代Coreの実力を発揮できるか
では、いよいよベンチマークテストで第12世代CPUとなったVAIO SX12の実力を検証してみよう。各ベンチマークテストを実行するにあたっては、「VAIOの設定」アプリの「電源・バッテリー」の項目内で「パフォーマンス優先」(VAIO True Performanceオン状態)に設定。念のためWindows 11の電源設定も「高パフォーマンス」に設定した。結果は以下の通りだ。
残念ながら全体的な性能は伸び悩む形になってしまった。Cinebenchを見ると、特にマルチコアで40%ものスコアアップを果たしており、確かにCPU性能は大きく向上していることが分かる。内蔵NVMe SSDの速度が順当に高速化していることもCrystalDiskMarkの結果から明らかだ。
しかし、3DMarkやファイナルファンタジーXIV、RAW現像や動画エンコードなど、特にGPU性能(グラフィックス処理)が求められる部分では、反対に性能を落としているところが見受けられる。
原因ははっきりしないが、今回試用した機体が製品化前のものであること、あるいはベンチマークテスト実行中のGPUの動作周波数が低く抑えられていることが一因とも考えられる。3DMarkを実行しているときの挙動を見ると、先代はピーク時に1,400MHz前後まで引き上げられている。それに対して新型は序盤こそ1,300MHz付近で動作するものの、その後は徐々に低下し1,000MHzあたりを行き来している。温度や消費電力の上がり方から、抑え気味に動作させざるを得ないのかもしれない。
ただ、第12世代Coreの特徴は、性能重視のPコアと、効率重視のEコアという2タイプのコアが用意され、コア数/スレッド数が大幅に増加しているところにもある。マルチタスク処理やバックグラウンドの処理をより高速/高効率で実行できる可能性があるのだ。そこで、複数のアプリケーションの処理(ベンチマークテスト)を同時に実行して性能に変化があるかどうかも検証してみることにした。
バックグラウンドではDavinci Resolveを使い、先ほどのテストと同じようにエンコード(CPUおよびGPUでの処理)しつつ、フォアグラウンドではDxO PhotoLabを使ってRAW画像10枚の現像処理(GPU処理がバッティングするためCPUのみの処理)を行なうようにした。
結果としては、GPU処理がある動画エンコードは先ほどと変わらず新型の方が時間がかかっているものの、フォアグラウンドのRAW現像は新型が圧倒的に高速に処理できていることが分かる。
もう少し一般的なシチュエーションで考えると、例えば裏で動画エンコードをしながら別のソフトで表計算や画像編集をする、というようなケースはあり得るわけで、そんな風にマルチタスクで作業することが多いユーザーだと、新型VAIO SX12の高性能さをより一層活かせるに違いない。今回のケースではPコア/Eコア云々よりコア数の多さが影響した可能性もあるが、いずれにしてもVAIO SX12は同時並行で処理を走らせることの多い仕事に向いている、と言えるだろう。
CPU性能と新機能は魅力だが、総合的な性能は……
第12世代Core i7になったことによって、CPUパワーが求められる部分についてはその性能の高さをしっかり証明してくれた新型VAIO SX12。5GやWi-Fi 6E対応といったネットワーク機能、内蔵Webカメラの画質カスタマイズなど、仕事の生産性に直結する昨今重視されがちな機能も充実している。ビジネス用のモバイルノートとしては着実に進化していると言えるだろう。ベンチマークテストで確認できたように、マルチタスク作業においては格段にスピード/効率アップを図れる場合もある。
しかしながら、グラフィックス絡みのマルチメディア処理は基本的に不得意で、先代に後れをとる結果になってしまった。GPUを活用するアプリケーションがゲームに限らず増えている中、CPU性能だけが突出していても総合的な性能は必ずしも上がらないことに改めて気付かされる。Thunderbolt 4があるため、負荷の高いGPU処理が必要なときは外付けのeGPUを利用するという手もとれなくはないが、ハードルは高い。
それでも、内蔵GPUのスペックは先代より高いことから、新しい設計のプロセッサに関する熱対策や性能の引き出し方がこなれていくことで、今後GPU部分の性能が伸びていく可能性もある。第12世代CPUの本当の実力をモバイルノートのカテゴリで見られるのは、もう少し先のことだろうか。