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復活した13.3型モバイルノート「VAIO S13」。コスパ重視ながら10コアCPU搭載で高性能
2022年7月5日 09:00
VAIOの中ではコスパに優れたモバイルノートPC
VAIO株式会社が発表した新型ノートPCは、13.3型の「VAIO S13」。これまでVAIOのサイズは15.6型、14型、12.5型の3サイズ展開で(同じ画面サイズで複数機種あるが)、13.3型はその間に入る。「S13」は過去にも2018年までモデルチェンジしながら展開されており、およそ4年ぶりの復活となる。
画面サイズをずいぶん細かく刻んできた印象だが、ただサイズの隙間を埋めただけではない。同社によると、12.5型の「SX12」と14型の「SX14」はハイパフォーマンス、13.3型の「S13」と15.6型の「S15」はコストパフォーマンス優先というカテゴリ分けでの展開なのだという。
つまりS13は、VAIOの中ではコストパフォーマンスに優れたモバイルPC、という立ち位置になる。魅力を感じる人も多そうなコンセプトの製品だ。こちらの試用機をお借りしたので、性能や使い勝手を検証していく。
10コア/12スレッドの第12世代Coreを搭載
「VAIO S13」のスペックは下記の通り。こちらは量販店などで販売される個人向け標準仕様モデルで使われるスペックとなる。
今回お借りした試用機はカスタマイズ済みで、CPUがCore i7-1255U、メインメモリが16GB、OSがWindows 11 Proに変更されていた。
【表1】VAIO S13の主なスペック | |
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CPU | Core i5-1235U(Pコア×2+Eコア×8/12スレッド、Pコア4.4GHz+Eコア3.3GHz) |
GPU | Iris Xe Graphics(CPU内蔵GPU) |
メモリ | 8GB LPDDR4X |
SSD | 256GB(NVMe) |
光学ドライブ | なし |
ディスプレイ | 13.3型非光沢液晶(1,920×1,080ドット) |
OS | Windows 11 Home |
汎用ポート | Thunderbolt 4×2、USB 3.0×2 |
カードスロット | なし |
映像出力 | HDMI、Thunderbolt 4×2 |
無線機能 | Wi-Fi 6、Blunetooth 5.1 |
有線LAN | Gigabit Ethernet |
その他 | 前面207万画素カメラ、ステレオマイク、ヘッドセット端子 |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 305.8×215.1×14.4~18.4mm |
重量 | 約1.049kg |
価格 | オープンプライス(実売予想価格20万4,800円) |
CPUは10コア/12スレッドのCore i5-1235Uを採用。メインメモリは8GB、SSDは256GBで、モバイル用途としてはコストパフォーマンスのよさそうな取り合わせだ。
端子類を見ると、Thunderbolt 4を2ポート搭載し、充電もThunderbolt 4にUSB Type-Cアダプタを接続する。ACアダプタの最大出力は65Wで、ほかのUSB Type-C機器の充電にも使用できるとしている。HDMIのバージョンは明記されていないが、最大解像度は4K/60Hzとされている。また、通信周りはWi-Fi 6に加えて有線LANポートも搭載する。
個人向けカスタマイズモデルも用意される。CPUはほかにCore i7-1255U、Core i3-1215U、Celeron 7305。メインメモリは8GB、16GB、32GB(CPUにより制限あり)。SSDは128GBから2TBまでで、PCIe 3.0または4.0の違いによる速度の違いを含め7モデル。LTEや指紋認証の有無も選べる。
コンパクトでも使い勝手のいいハードウェア構成
続いて実機を見ていく。本体色はブラックとシルバーの展開で、試用機はブラック。角の丸みが少なくフラットな筐体と、天面に大きく描かれた銀色のロゴは、VAIOファンには見慣れた定番のデザインだ。落ち着いたブラックにシルバーのワンポイントを入れたカラーリングは高級感を漂わせるが、コンパクトな13.3型になると、ちょっと可愛げもある。
畳んだ状態で手に持ってみると、薄さが際立って感じられる。本体後方に18.4mmの最厚部があるのだが(ここも十分に薄い)、最後方は斜めに切り欠きを入れた形状で、持った時はぐっと薄く感じられる。
天面は押すと容易にへこみ、ディスプレイ部分のねじりにも若干たわむ。ボディは強固でディスプレイを畳んだ状態でたわみは感じないが、ディスプレイ部分への圧迫は少々不安がある。ただVAIOによると、米国防総省制定MIL規格(MIL-STD-810H)に準拠した品質試験をクリアし、落下試験でもMIL規格基準の122cmを上回る127cmをクリアしたとしており、実際には故障しづらい機構になっているのだろう。
ディスプレイはフルHDの非光沢液晶。パネル種別は非公開ながら、上下左右どの角度から見ても色相反転は起きない。視野角は正面以外の時の光量の落ち方がやや大きく感じるが、見え方は自然で破綻はない。モバイルノートPCなので、意図的な調整かもしれない。映像自体は色味もよく、コントラストも高い。
ディスプレイ部はほぼ180度開く。ディスプレイ部の後方が少し立ち上がるチルトアップヒンジも採用。本体後部の薄型化に貢献するとともに、底面が空くことで冷却面でも好影響がありそうだ。
キーボードはアイソレーションタイプで、テンキーは非搭載。キーピッチは約19mmと広く確保されており、13.3型筐体ながらスペースには余裕がある。キータッチはオン/オフにメリハリのあるカクカクした手ごたえで、1.5mmの浅いキーストロークの割にはしっかりした打鍵感がある。
キー配列はオーソドックスながら、最下段がほかに比べて少し縦に長くなっている。これにより、縦方向に半分のサイズに潰れてしまうカーソルキーが、僅かながら縦に伸びて押しやすくなっている。スペースキーも幅広で押しやすい。
タッチパッドは左右ボタンが独立したタイプ。ボタンを隠してタッチパッドを一枚板にした方が見た目にはスマートだが、VAIOは操作性を重視して独立ボタンにしているようだ。こちらもキーボードと同様、しっかりしたクリック感がある。タッチパッドのサイズも広めで使いやすい。
電源ボタンはキーボードの右上の方に独立している。ここには指紋センサーも内蔵されており、スムーズな指紋認証が可能。また本機にはWindows Hello顔認証対応のカメラも搭載しており、好みに応じて認証機能を使い分けられる。
端子類はThunderbolt 4を2ポート搭載。充電もThunderbolt 4を使うため、実質的には1ポートとなる場合が多いと思うが、ディスプレイに接続しながら充電したり、USB Type-Cドックに接続したりと応用が利く。USB Type-Aも2ポートある上、Gigabit Ethernetも備えているので、モバイルノートながら拡張性や接続性は良好だ。
スピーカーは底面手前側の左右に内蔵されている。モバイルノートPCなので音質にはまったく期待しないで聞いたのだが、音の1つ1つがクリアで高音から中音までメリハリが効いている。さすがに低音は弱いものの、ステレオ感もあり、サイズの割にはバランスの取れた音が出ている。特に人の声は通りがよく、Web会議などでも快適に使えそうだ。
エアフローは特殊で、後方吸気、左方排気という流れのようだ。アイドル時はほぼ無音だが、高負荷になるとホワイトノイズ系のファンノイズが聞こえてくる。音量はそれほど大きくはなく、オフィスで重い処理をかけても周囲に遠慮するほどではない。
高負荷の状態を続けると、キートップの中央付近から温かさが出てくる。ただホームポジションに指を置いている限り、ほんのり温かいかなという程度まで。リストレスト部は冷えたままなので、実用上はほぼ気にならないだろう。
ACアダプタは最大65WのUSB Type-C接続のものが付属する。USB PDという表記は見当たらないが、出力パターンを見るにUSB PDの規格に沿っているようだ。試しに筆者所有の27W出力のUSB PDアダプタを接続してみたところ、特に何の警告もなく充電状態になった。出張の際、スマートフォン用の充電器を兼ねるなどして荷物を減らせそうだ。
予想外に多機能なソフト「VAIOの設定」
本機のおもしろいところをもう1つ紹介したい。本機の設定ソフト、その名も「VAIOの設定」では、電源や入力デバイス、カメラ、サウンドなど、さまざまな項目をカスタマイズできる。
電源では「いたわり充電」機能があり、最大充電容量を80%または50%に制限できる。50%というと極端に減らし過ぎな気もするが、先のテスト結果から見るにオフィスユースで5時間程度は持ちそうなので、普段は充電しっぱなしという人ならこれでもいいかもしれない。
カメラの項目では、背景ぼかしや逆光補正といった画像処理が可能。Web会議ツール側でも処理できる項目だが、複数のWeb会議ツールを使い分ける人には、本体側で最初からやってくれる方が便利だ。またサウンドの設定ではマイク入力とスピーカー出力でAIノイズキャンセリングが使用可能。Web会議に万全の体制だ。
ほかにも内蔵の人感センサーで離席を把握しスタンバイ状態に移行したり、着席時にスリープやスクリーンセーバーの動作を抑制する設定もある。セキュリティと使い勝手の両面でよく考えられた機能だ。
「VAIOの設定」以外に目立った独自アプリは用意されていない。ソフトウェア的にシンプルなPCが欲しいという人にもおすすめできる。
モバイルノートとして十分な性能を発揮
続いて実機の性能をチェックする。ベンチマークテストに利用したのは以下の通り。
- PCMark 10 v2.1.2556
- 3DMark v2.22.7359
- VRMark v1.3.2020
- PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator
- ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク
- FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク
- Cinebench R23
- CrystalDiskMark 8.0.4
【表2】ベンチマークスコア(PCMark 10 v2.1.2556) | |
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PCMark 10 | 5,131 |
Essentials | 10,102 |
Apps Start-up Score | 13,742 |
Video Conferencing Score | 8,138 |
Web Browsing Score | 9,220 |
Productivity | 6,140 |
Spreadsheets Score | 6,026 |
Writing Score | 6,819 |
Digital Content Creation | 5,663 |
Photo Editing Score | 9,504 |
Rendering and Visualization Score | 3,368 |
Video Editing Score | 5,675 |
Idle Battery Life | 15時間29分 |
Modern Office Battery Life | 10時間43分 |
Gaming Battery Life | 1時間58分 |
【表3】ベンチマークスコア(3DMark v2.22.7359) | |
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Time Spy | |
Score | 1,705 |
Graphics Score | 1,544 |
CPU Score | 4,196 |
Fire Strike | |
Score | 4,394 |
Graphics Score | 5,183 |
Physics Score | 14,424 |
Combined Score | 1,380 |
Wild Life | |
Score | 13,625 |
Night Raid | |
Score | 13,564 |
Graphics Score | 18,000 |
CPU Score | 5,640 |
CPU Profile | |
Max threads | 3,434 |
16-threads | 3,415 |
8-threads | 2,769 |
4-threads | 1,849 |
2-threads | 1,449 |
1-thread | 879 |
【表4】ベンチマークスコア(VRMark v1.3.2020) | |
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Orange Room | |
Score | 2,352 |
Average frame rate | 51.28FPS |
Cyan Room | |
Score | 1,406 |
Average frame rate | 30.65FPS |
Blue Room | |
Score | 394 |
Average frame rate | 8.59FPS |
【表5】ベンチマークスコア(各種ゲーム系) | |
---|---|
PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator(簡易設定6) | |
1,920×1,080ドット | 522 |
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク(最高品質) | |
1,920×1,080ドット | 1,311 |
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(高品質) | |
1,920×1,080ドット | 3,246 |
【表6】ベンチマークスコア(Cinebench R23) | |
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CPU(Multi Core) | 5,961pts |
CPU(Single Core) | 1,625pts |
2+8コアで12スレッドという、今までにない変則的構成の第12世代Coreだが、シングルスレッドが高速なのは当然として、マルチスレッドもモバイルノートPCとしてはかなり良好だ。
Cinebench R23のMP Ratioは3.67と、12スレッドあるにしては伸びないようにも見える。しかしベースとなるシングルスレッドが特筆して高く、冷却の難しいモバイルノートでのマルチスレッド処理はスコアが伸びなくて当然。それでも全コア動作時のCPUクロックが3GHz前後で下げ止まっており、冷却もなかなかがんばっている。
ゲーム系のベンチマークテストは、ゲーミングPCで実施しているものと比較できるよう、全て最高画質で実行している。そのため、どのテストも動作に難ありの評価で、「PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator」では、画質を最低にしてもなお評価が変わらなかった。
ただ動作中のフレームレートを見る限り、カクカクで見るに堪えないということはなく、それなりに遊べる程度には動作していた。またゲーム系を含む全てのベンチマークテストは完走できており、動作には何ら問題ない。出先でちょっとオンラインゲームを覗く程度なら十分活用できるだろう。
バッテリ駆動時間は、アイドル時で約15時間半、オフィスユースで11時間弱となった。カタログスペックでは約24.2時間、動画連続再生で約13.8時間とあり、実機はそれより短い結果にはなったが、それでも十分な長時間駆動だ。
SSDはSamsung製の「MZVLQ256HBJD-00B07」が使われていた。PCIe 3.0接続の製品なので、本機のカスタマイズの中では低速なスタンダードSSDのようだ。それでもシーケンシャルリードで3GB/sを超えており、実用上で不満を覚えることはないだろう。
VAIOのモバイルノートの良さがちゃんとある
筆者は過去に何台かのVAIOノートPCを所有したことがあるが、いつの時代もほかにないデザイン性や、何かしら尖った性能で、唯一無二の魅力を放っていると感じる。
本機は性能で見ると、モバイルノートとしてそこそこのサイズと重さ、性能で、特筆すべき秀でた部分があるというわけでもない。あえて言うなら最初に述べた通り、VAIOの中ではコストパフォーマンスに優れている点が特徴となるだろう。
そう言うと「もっと安いのや軽いのがあるじゃん」という声も出るに違いない。だが本機は別に究極の安さを求めたわけでも、究極の性能を求めたわけでもない。
本機の魅力は、VAIOブランドに立つバランス感覚だ。ほどよい性能にVAIOの伝統的デザインを採用すれば、それで唯一無二の魅力が生まれてしまうのがVAIOのブランド力。ほどよいと言っても、「SX」シリーズのような高性能製品と比べればという話だ。
実際に使ってみた印象としては、不満を述べたい部分がない、というのが最も強い。コストパフォーマンス優先としながら、性能にも使い勝手にも、さらには外見にも、特に文句を言いたいところが見当たらない。外見まで納得できるPCは意外と少ないが、外見が気に入らないと所有欲は満たされないものだ。
VAIOのモバイルノートと言うと、筆者は「いつかまたPを」と言いたくなる現役VAIO Pユーザーなのだが、本機を触ってしまうと「これでもいいかな」という気がしてくる。諦めの境地に半分ほど入ってはいるが(笑)、本機は「やっぱりVAIOはいいよね」という満足感をくれる製品には違いない。