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高解像度と性能を両立できるAMDの技術「FSR」をRadeonとGeForceで試してみた
2021年7月9日 06:45
6月22日、AMDは新たな超解像技術「FidelityFX Super Resolution」を発表した。
今回は、超解像によって高精細と高フレームレートを両立することで、よりよいゲーム体験を実現するというFidelityFX Super Resolutionの効果がどれほどのものなのか、対応ゲームを使って画質とパフォーマンスを確認してみた。
多くのGPUに対応する超解像技術「AMD FidelityFX Super Resolution(FSR)」
AMDのFidelityFX Super Resolution(以下、FSR)は、AMDがオープンソースで提供している画質ツールキット「FidelityFX」に追加される超解像技術で、ディスプレイへの出力解像度より低解像度でレンダリングした画像を、独自の補完処理でアップスケールして出力する。これにより、低解像度レンダリングによる画質の低下を抑えつつ、GPU負荷の軽減によりフレームレートを向上させることができるという技術だ。
FSRの機能は、NVIDIAのDLSS(Deep Learning Super Sampling)に類似したものだが、DLSSがTensorコアを搭載したGeForce RTXシリーズでなければ利用できない一方、FSRはRadeon RX 460以降のGPU製品やRyzen APUのほか、GeForce GTX 10シリーズ(Pascal)以降のGPUでも利用できる。いずれにせよゲーム側の対応が必要ではあるものの、DLSSより多くのGPUで利用できるのがFSRの特徴となっている。
なお、「Super Resolution」と名の付く技術としては、AMDのVirtual Super Resolution(VSR)や、NVIDIAのDynamic Super Resolution(DSR)があるが、これらは、ディスプレイへの出力解像度より高解像度でレンダリングした画像をダウンスケールして表示することで映像品質を高めるという高画質化技術であり、FSRとは全く異なるものである。
Radeon RX 6800とGeForce RTX 3070でFSRをテスト
今回、FSRの効果をテストするのに用意したのは、AMD最新GPUの1つである「Radeon RX 6800」と、NVIDIAの「GeForce RTX 3070」。どちらもFSR対応GPUとしてAMDのリストに記載されている。
両GPUをテストするメイン機材には、Ryzen 7 5800Xを搭載したAMD X570環境を用意した。グラフィックスドライバは、Radeon RX 6800が「Radeon Software Adrenalin 21.6.2 Optional」で、GeForce RTX 3070が「GeForce Game Ready Driver 471.11」をそれぞれ導入し、どちらのGPUでもResizable BARを有効化している。
そのほかの機材と、テスト時のGPU動作仕様については以下の通り。
【表1】テスト機材一覧 | ||
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GPU | Radeon RX 6800 | GeForce RTX 3070 |
CPU | Ryzen 7 5800X (8コア16スレッド) | |
CPUパワーリミット | PPT:142W、TDC:95A、EDC:140A | |
CPUクーラー | ASUS ROG RYUJIN 240 (ファンスピード=100%) | |
マザーボード | ASUS TUF GAMING X570-PLUS (WI-FI) [UEFI=4002] | |
メモリ | DDR4-3200 16GB×2 (2ch、22-22-22-52、1.20V) | |
システム用SSD | Samsung SSD 980 PRO (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4) | |
アプリケーション用SSD | CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4) | |
電源 | Thermaltake Toughpower Grand RGB 1050W Platinum (1050W/80PLUS Platinum) | |
グラフィックスドライバ | Radeon Software 21.6.2 (27.20.22001.16006) | GeForce Game Ready Driver 471.11 (30.0.14.7111) |
OS | Windows 10 Pro 64bit (Ver 21H1 / build 19043.1081) | |
電源プラン | バランス | |
Resizable BAR | 有効 | |
室温 | 約24℃ |
【表2】各ビデオカードの動作仕様 | ||
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GPU | Radeon RX 6800 | GeForce RTX 3070 |
ビデオカードベンダー | AMD | NVIDIA |
製品型番 | リファレンス | Founders Edition |
ベースクロック | 1,815MHz | 1,500MHz |
ブーストクロック | 2,105MHz | 1,725MHz |
メモリ容量 | 16GB (GDDR6) | 8GB (GDDR6) |
メモリスピード | 16.0Gbps | 14.0Gbps |
メモリインターフェイス | 256bit | 256bit |
メモリ帯域幅 | 512GB/s | 448GB/s |
パワーリミット | 203W (GPU PPT) | 220W (Power Limit) |
FSR利用時の表示品質をチェック
まずは、FSR利用時の表示品質からチェックしてみよう。
FSRには、表示品質の高い順に「Ultra Quality」「Quality」「Balanced」「Performance」という4種類のプリセットが用意されており、選択したプリセットによってレンダリング解像度が変化する。AMDの資料によれば、4K出力時とWQHD出力時における各プリセットのレンダリング解像度と、見込まれるパフォーマンス向上率は以下の通り。
FSR利用時の表示品質を確認する方法としては、ビデオカードとディスプレイの間にHDMIキャプチャを接続し、ネイティブ解像度での出力時と、FSR各プリセットで出力したゲーム画面をHDMIキャプチャのスクリーンショット機能で撮影。取得した画像を比較することで表示品質の変化を確認する。
今回は、ディスプレイのネイティブ解像度とFSR各プリセットのほかに、フルHD解像度でレンダリングした際の表示品質も比較する。
なお、画像の取得に利用するGPUはRadeon RX 6800。GeForce RTX 3070でも画質の確認を行なったが、Radeon RX 6800で取得した画像と特に差がみられなかったため、GPU間での画質比較については省略する。
4K出力時の表示品質
FSR対応ゲーム「ANNO 1800」で、4K出力時に取得したスクリーンショットが以下の画像だ。なお、ゲームの描画品質は「最高」で、グラフィックスAPIはDirectX 12を利用している。
細部を確認すると、FSR利用時のレンダリング解像度が低くなっていくにつれて、斜線のジャギーが目立つようになり、ディティールも損なわれていくのが確認できる。これは、建物入口の看板と文字(BEER BREWERY)に注目するとわかりやすい。
ただ、FSR利用時の画質は、単にフルHD解像度でレンダリングしたものと比べると、レンダリング解像度が同じPerformanceプリセットであっても、明らかにシャープで精細感のあるものとなっており、FSRの超解像が効果を発揮していることがわかる。
WQHD出力時の表示品質
4K出力同様、ANNO 1800を使ってWQHD出力時のゲーム画面を比較する。
WQHD出力でFSRを利用した場合のレンダリング解像度は、最高品質設定であるUltra Quality以外はフルHD未満となっており、Performanceプリセットでは1,280×720ドットまで低下する。超解像によってシャープさは保たれているものの、Balanced以下になると看板の文字(BEER BREWERY)は判読が困難になるなど、本来のディティールが損なわれている。
Balanced以下ではジャギーもかなり目立つようになるため、表示品質に期待するのであれば、WQHD出力ではQuality以上のプリセットでFSRを利用したい。
FSRによるパフォーマンスの向上具合を対応ゲームでチェック
続いて、FSRを利用することで、ゲームのパフォーマンスがどの程度向上するのかを確認する。
テストしたゲームは、表示品質の確認に用いた「ANNO 1800」のほか、「Godfall」、「The Riftbreaker」、「Terminator: Resistance」、「Kingshunt」の計5タイトル。
ANNO 1800
ANNO 1800では、描画品質を「最高」に設定して、DirectX 12版のベンチマークモードを実行。平均フレームレートを計測した。
4K出力時の結果をGPU毎にみていくと、Radeon RX 6800はネイティブ解像度を基準とした場合、Ultra Qualityで約39%、Qualityで約66%、Balancedで約91%、Performanceで約122%、フレームレートが向上している。レンダリング解像度が同じPerformanceプリセットとフルHDの比較では、フルHDの方が約16%高いフレームレートを記録しており、FSRがそれなりにGPUの負担になっていることが伺える。
一方、GeForce RTX 3070の場合、Ultra Qualityで約41%、Qualityで約71%、Balancedで約94%、Performanceで約127%、それぞれネイティブ解像度よりも高いフレームレートを記録している。
WQHD出力時のRadeon RX 6800は、Ultra Qualityで約30%、Qualityで約49%、Balancedで約64%、Performanceで約82%、それぞれネイティブ解像度より高いフレームレートを記録した。レンダリング解像度の近いUltra QualityとフルHDの比較では、約10%の差でフルHDがUltra Qualityを上回った。
GeForce RTX 3070でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約30%、Qualityで約49%、Balancedで約64%、Performanceで約84%と、Radeon RX 6800とほぼ同様の結果だった。
Godfall
Godfallでは、描画品質「最高」をベースにレイトレーシングを有効化した高画質設定でベンチマークモードを実行し、平均フレームレートを計測した。
4K出力時にRadeon RX 6800でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約50%、Qualityで約83%、Balancedで約117%、Performanceで約151%。フルHDはPerformanceより約9%高いフレームレートを記録した。
一方、GeForce RTX 3070でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約106%、Qualityで約241%、Balancedで約319%、Performanceで約367%で、Radeon RX 6800よりも顕著にフレームレートが向上している。
GeForce RTX 3070がFSRの利用で顕著にフレームレートが上昇した原因は、基準となる4Kネイティブ解像度で、VRAM容量不足による著しいフレームレート低下が生じていることにある。FSRによってレンダリング解像度を引き下げた結果、VRAM使用量が減ってGPUが本来の実力を発揮できるようになったという訳だ。これは、FSRにはVRAM使用量を節約する効果があるとも言える結果だ。
WQHD出力時にRadeon RX 6800でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約33%、Qualityで約51%、Balancedで約61%、Performanceで約65%。フルHDはUltra Qualityより約10%高いフレームレートを記録した。
GeForce RTX 3070でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約26%、Qualityで約38%、Balancedで約56%、Performanceで約67%。WQHD出力ではVRAM容量が不足しないため、FSRの効果はRadeon RX 6800と大差ないものとなっている。
The Riftbreaker
The Riftbreakerでは、レイトレーシング関連の項目を可能な限り高品質に設定した状態で、ベンチマークモードの「GPU Benchmark」を実行した。
4K出力時にRadeon RX 6800でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約46%、Qualityで約81%、Balancedで約115%、Performanceで約164%。フルHDはPerformanceより約16%高いフレームレートを記録した。
GeForce RTX 3070でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約41%、Qualityで約74%、Balancedで約105%、Performanceで約147%。
WQHD出力時にRadeon RX 6800でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約38%、Qualityで約66%、Balancedで約91%、Performanceで約124%。フルHDはUltra Qualityより約11%高いフレームレートを記録した。
GeForce RTX 3070でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約36%、Qualityで約60%、Balancedで約81%、Performanceで約107%。
Terminator: Resistance
Terminator: Resistanceでは、描画品質を最高の「エピック」に設定した状態で、フレームレートを計測した。
4K出力時にRadeon RX 6800でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約50%、Qualityで約83%、Balancedで約121%、Performanceで約175%。フルHDはPerformanceより約13%高いフレームレートを記録した。
GeForce RTX 3070でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約48%、Qualityで約81%、Balancedで約117%、Performanceで約167%。
WQHD出力時にRadeon RX 6800でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約38%、Qualityで約60%、Balancedで約82%、Performanceで約112%。フルHDはUltra Qualityより約11%高いフレームレートを記録した。
GeForce RTX 3070でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約38%、Qualityで約64%、Balancedで約88%、Performanceで約114%。
Kingshunt
Kingshuntでは、描画品質を「ウルトラ」に設定した状態で、フレームレートを計測した。なお、本タイトルではWQHD出力でのFSRが正常に動作しなかったため、4K出力時の結果だけを比較する。
4K出力時にRadeon RX 6800でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約39%、Qualityで約65%、Balancedで約88%、Performanceで約115%。フルHDはPerformanceより約8%高いフレームレートを記録した。
GeForce RTX 3070でFSRを利用した場合のフレームレート向上率は、Ultra Qualityで約37%、Qualityで約59%、Balancedで約80%、Performanceで約105%。
超ハイエンドGPU以外でも高精細ゲーミングディスプレイの表示性能を活用できるFSR
超解像技術であるFSRは、確かにゲーム画面の精細感を保ちつつ、ネイティブ解像度よりも高いフレームレートを実現できたほか、VRAM容量を節約することもできた。
これまで、高精細と高速駆動を両立する「4K/120Hz」や「WQHD/165Hz」対応ゲーミングディスプレイの表示性能を引き出せるのは、一部のウルトラハイエンドGPUに限られていたが、多くのGPUで利用できるFSRの登場によって、より多くのGPUが高精細と高速駆動の恩恵を得られるようになることが期待できる。
もっとも、FSRはDLSSより多くのGPUをサポートしているものの、利用にはゲーム側の対応が必要だ。既に20近いタイトルがFSR対応を予定しているが、既に55以上のタイトルで利用できるDLSSと比べると、利用できるゲームは限定的だ。今後より多くの人気タイトルがFSRに対応することを期待したい。